広井王子が生んだ主人公のひとり・王立院雲丸。公家出身の財閥グループの嫡男です。刃に火を吐く龍が彫られた草薙の剣の争奪に偶然出くわします。第2次世界大戦を背景とする戦前昭和を舞台に、不思議な力を持つ草薙の剣を守っていくことになります。(■広井王子の刀剣キャラ① 草薙の剣を守る王立院雲丸より)
家庭用ゲーム【サクラ大戦】シリーズの原作で知られる広井王子(ひろいおうじ)。広井王子は漫画原作も手がけ、その刀剣漫画では、日本刀が不思議な力が宿るアイテムとして用いられています。
広井王子は、テレビアニメ【魔神英雄伝ワタル】(1988~1989年)の原作で作家デビューします。少年が異世界の伝説の勇者として西洋剣を手に活躍するアニメでした。
同アニメが話題になる中で、CD‐ROM家庭用ゲームの最初期作となる【天外魔境】シリーズ(1989~2011年)の企画・原案を担当します。美図垣笑顔(みずがきえがお)に始まる江戸時代後期の戯作【児雷也豪傑譚】を元に、架空の国・ジパングを舞台に始まった同ゲームシリーズは大ヒットし、広井王子の名が広く知られていきます。
その後、テレビアニメ原作、家庭用ゲーム原作、そして漫画原作と多彩に手がけていく中で、原作・総合プロデューサーを務めた家庭用ゲーム【サクラ大戦】シリーズ(1996年~)も大ヒットします。同作はCESA大賞 ’96(現・日本ゲーム大賞の第1回にあたる)の作品賞と3つの部門賞を獲得し、広井王子の代表作となりました。
大正時代の日本を模したこのゲームでは、大和和紀【はいからさんが通る】に着想を得た長い黒髪を赤いリボンで結んだ袴姿の女性主人公が、父の形見の日本刀「霊剣荒鷹(れいけんあらたか)」を手に敵に立ち向かいます。主人公はロボットにも搭乗し、「霊子甲冑(りょうしかっちゅう)」と称されるそのロボットは鎧武者が模されています。同ゲームは、広井王子の叔母が団員だったSKD(松竹歌劇団)の拠点・浅草の国際劇場に出入りしていた原体験に基づいていると明かされています。
他に司馬遼太郎の時代小説【燃えよ剣】をなぞらえた、新撰組をモチーフに妖怪退治を描いた家庭用ゲーム【機動新撰組 萌えよ剣】(2002年)の原作・総監督も務めます。キャラクターデザインには、高橋留美子を迎えています。同ゲームは、制作の翌年にオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)化、その2年後にはテレビアニメ化されました。
ゲーム原作と同時に広井王子は、週刊少年漫画雑誌で漫画原作を手がけます。
その最初期作が【王立院雲丸(おうりついんくもまる)の生涯】(1991~1992年〔週刊少年サンデー〕連載)です。物語は昭和初年の浅草から始まり、日本・フランス・スイス・イギリス・中国・アメリカを巡られます。池上遼一が作画を担当しました。
同作では、欧州統一を夢見てナチスを裏で操る神秘学者のヤン博士と、西洋諸国の植民地化を避けるためアジア統一を夢見る東部参謀長の神島友衛少将とが密かに手を組みます。神秘の力を信じるヤン博士は夢の実現のため、日本の三種の神器のひとつ・草薙の剣を神島少将に要求します。
主人公の王立院雲丸は、公家出身の財閥・王立院グループの嫡男です。中条流の浮雲の小太刀の技も使える武芸の達人でもあります。
王立院雲丸は、浅草での神島少将とのいざこざに対する軍部からの批判を避け、父親の大切にしている日本刀・一文字長船を手に外国へ旅立ちます。けれども、行く先々で神島少将と因縁の争いは続いていきます。第6回パリ万国博覧会の会場で王立院雲丸は、草薙の剣の争奪に偶然出くわし、以後、手にした草薙の剣を守っていくことになります。
草薙の剣の刃には、火を吐く龍が描かれます。一刀の前には天からの不思議な光を帯びます。その神秘性は、戦車砲を一刀するなどで表現されました。
第四話「烈」
【王立院雲丸の生涯】
第四話「烈」
【王立院雲丸の生涯】
王立院雲丸の生涯の作画者・池上遼一は、小島剛夕(こじまごうせき)と同様に看板描きの仕事から貸し本漫画家となります。水木しげるのアシスタントを経て、白土三平が主宰した漫画雑誌〔ガロ〕を当初活躍の場とします。その後は、漫画原作者と組んでいきます。
阿月田伸也(あづきだしんや)=雁屋哲(【ひとりぼっちのリン】【男組】【男大空】)、小池一夫(【I・餓男(アイウエオボーイ)】【傷追い人】【殺愛】【クライングフリーマン】【赤い鳩(アピル)】【OFFERED】【修羅雪姫 外伝】)、本宮ひろ志の助手からそのキャリアを始めた武論尊=史村翔(【サンクチュアリ】【オデッセイ】【strain】【HEAT -灼熱-】【覇-LORD-】【SOUL 覇 第2章】【六文銭ロック】【BEGIN】)と多くの漫画を発表しています。
池上遼一は作画を手がけた多くの漫画で、男の生き様を描き、それは王立院雲丸の生涯でも変わりません。そんな池上遼一の影響は、高橋留美子が漫画家になるきっかけだったと語るほどです。
広井王子の代表作となったゲーム、サクラ大戦は漫画化もされます。
藤島康介キャラクター原案/政一九作画による【サクラ大戦漫画版】(2002~2021年〔月刊マガジンZ〕〔マガジンイーノ〕〔月刊少年マガジン+〕単行本描き下ろし)です。
女性主人公・新宮寺さくらは、剣の達人。
霊子甲冑の光武に乗り込んでも「破邪剣征・桜花放神(はじゃけんせいおうかほうしん)を披露します。それは振り下ろした刀の衝撃刃で敵を倒す剣技です。
第一話「大神 帝都来たる」【サクラ大戦漫画版】
第六話「帝国華撃団、出撃せよ」
【サクラ大戦漫画版】
第六話「帝国華撃団、出撃せよ」
【サクラ大戦漫画版】
帝国華撃団の隊長は大神一郎(いぬがみいちろう)です。ゲームではプレイヤーの分身となっている物語の男性主人公です。
士官学校を卒業し、二刀流を得意とする大神一郎は、霊力を持ちます。降魔(*敵役の魔物)に対して、その不思議な力によって二刀流で斬りつけることができました。
第四話「邪悪なるもの」
【サクラ大戦漫画版】
第四話「邪悪なるもの」
【サクラ大戦漫画版】
霊力は霊子甲冑の光武に必須要素となっています。大神一郎は霊子甲冑の光武に乗り込んでも二刀流を使いこなします。
第六話「帝国華撃団、出撃せよ」
【サクラ大戦漫画版】
広井王子はその後も多数の漫画原作を手がけるなかで、湖住ふじこ作画【戦国ブラッド~薔薇の契約~】(2011~2013年〔ARIA〕連載)を発表します。月刊少女漫画雑誌で描かれた同作は、担当編集者からの「イケメン揃い・戦国・悪魔の登場」というキーワードを受けて物語が創り出されました。
主人公は、織田信長の双子の妹・花梨(かりん)です。双子が忌み嫌われていた時代、里子に出されていた花梨は、刺客に殺された兄・織田信長に替わって男装して生きることを決意します。兄の夢だった天下布武を叶えるため、また織田家を守りたい家臣の依頼のためでした。こうした着想は、田村由美【BASARA】や佐藤賢一の時代小説【女信長】などが先行しています。
クリスチャンだった花梨は、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの戯曲【ファウスト】を想起させる、悪魔との契約を結びます。兄のような強さを願う花梨は、この国を血に染めたい悪魔と交換条件を交わしました。
悪魔が宿ると花梨の血は騒ぎ、力がみなぎり、武人のように手にした日本刀を振るうことが可能になります。
「#6」
【戦国ブラッド~薔薇の契約~】
広井王子は戦国ブラッド~薔薇の契約~で、「誰も殺さない信長」に取り組みます。
花梨は兄のような強さを当初願っていたものの、やがて人を斬ることに苦悩し、平和を夢見ることになります。そして、兄・織田信長を殺した刺客を送り込んだ今川義元を許し、桶狭間の戦いで今川義元を生かします。その今川義元のスパイとして登場する豊臣秀吉(作中では猿の秀吉)も、裏切りとみなされる行為が起こる浅井長政(新九郎)も、兄妹ともに幼き頃に世話になった斎藤道三を殺害したその息子・斎藤義龍も、皆を許し、花梨は仲間に加えます。
なかでも、今川義元の家臣だった明智光秀が重要な役所を果たします。広井王子は、毛利輝元の征伐へ向ったと見せた明智光秀が起こした謀反・本能寺の変を、明智光秀の知略によって悪魔との契約から花梨を解き放つ場として創作しました。
悪魔は「お前が使えないからこの男に乗り換えた」と花梨に告げ、明智光秀は花梨のために悪魔を自らの身体に引き受けます。
「#19」
【戦国ブラッド~薔薇の契約~】
広井王子の代表作である家庭用ゲーム【サクラ大戦】シリーズは、最新作【新サクラ大戦】として再開されます(2019年)。同作では、久保帯人がメインキャラクターデザインを手がけます。
テレビアニメ、家庭用ゲームからそのキャリアを始め、当初から刀剣を採り入れてきた広井王子。その刀剣漫画では、日本刀が不思議な力が宿るアイテムとしてもちいられています。