1980年代以降プロデビューの刀剣漫画家
高瀬理恵
1980年代以降プロデビューの刀剣漫画家
高瀬理恵

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【首斬り門人帳】で知られる高瀬理恵(たかせりえ)。同作では日本刀(刀剣)にまつわる史実を元に、江戸時代後期に刀剣鑑定と公儀御様御用を務めた6代目山田朝右衛門・吉昌の活躍が描かれます。その後描いた【公家侍秘録】では京都の少禄の公家に仕える刀守りを描きます。

高瀬理恵の初期刀剣漫画

高瀬理恵は、小学館新人コミック大賞・1993年度前期一般部門受賞作【上意】(1993年〔ビッグコミック〕掲載)でデビューしました。

その後は、義太夫三味線方・鶴沢道八(初代)の芸談集【道八芸談】を参考にした読み切り【あわ雪】や、【妖笛】、【恋文】などの読み切りを続けて発表しました(1994年〔ビッグコミック〕掲載)。

その後、【秘聞香】(1995 年〔プチフラワー〕掲載)、【竹の海】(1996 年〔プチフラワー〕掲載)、【癖馬】(1996 年〔プチフラワー〕掲載)、【明治撃剣伝】(1996 年〔コミックトム〕掲載)、【夜汽車】(1997 年〔プチフラワー〕掲載)などの読み切りを、主に少女漫画雑誌などに発表しました。

高瀬の刀剣キャラ① 井上真改と刀剣鑑定師・山田朝右衛門吉昌

第1話「正邪の剣」【首斬り門人帳】より

第1話「正邪の剣」
【首斬り門人帳】より

初の長期シリーズとなった【首斬り門人帳】(1995~1998年、2002年〔ビッグコミック増刊号〕断続連載)が高瀬の最初の代表作になりました。同作は、江戸時代後期に実在した6代目山田朝右衛門(やまだあさえもん)・吉昌(よしまさ)とその架空の弟子・神崎又平が主人公です。

山田浅(朝)右衛門は代々、幕府の命を受けて試し斬り(公儀御様御用)を行ない、刀剣鑑定を生業としました。試し斬りでは罪人を斬ることから「首切り浅(朝)右衛門」とも呼ばれます。5代目朝右衛門の吉睦は、最上大業物・大業物・良業物と刀の切れ味を記した書物【懐宝剣尺】やその改定版【古今鍛冶備考】を残しました。

浅(朝)右衛門を描いた漫画には3代目浅右衛門・吉継を描いた小池一夫原作【首斬り朝】(小島剛夕作画)が首斬り門人帳に先行しています。

首斬り門人帳は、吉昌が又平の兄が購入した井上真改(大坂新刀を代表する刀工)が鍛えたとされる刀の真贋を確かめる話から始まります。一目見て偽物と見抜いた吉昌は、かつての弟子がその原因と知ったとき、「…剣とは夫(そ)れ、神聖にして邪を祓うもの…!」、「刀匠が怨神を退け心神天に満つの気概もて精進潔斎して鍛えるもの!!」とその刀剣観を述べました。

高瀬の刀剣キャラ② 楠木正成の佩刀と刀剣鑑定師・本阿弥光鑑

首斬り門人帳では、楠木正成の佩刀(小竜景光)も題材にされます。

正成の佩刀は、江戸時代後期に河内の農家から発見されるも刀剣鑑定師の家系・本阿弥家が鑑定を拒んだ史実があります。

その後、代官・中村覚太夫、毛利家、6代目朝右衛門・吉昌、井伊直弼、7代目朝右衛門・吉利の手を経て明治天皇の佩刀(はいとう)になりました。現在は国宝に指定されています。

首斬り門人帳では、本阿弥宗家18代当主・光鑑(こうかん)の跡継ぎ問題と正成の佩刀の真贋を巡る話が描かれます。

光鑑は、「刀の極めは、この本阿弥宗家と分家十一家とが合議して下す慣わしにござるが、」、「この「楠木公の佩刀」は賛否両論殊の外激しく、幾たりも合議を重ねた末、」、「終に…折紙は与うべからずと決し申した。」と述べます。

高瀬は正成の佩刀を取り上げるにあたり、光鑑の本阿弥家と吉昌の山田家との違いも描写しました。押型(おしがた)目利と武利(ぶり)目利です。「“押型目利”とは(中略)刀の品格を重んずるもの。」、「“武利目利”とは(中略)斬れ味を重んずるもの。」と光鑑に語らせました。

  • 第5話「折紙無用」【首斬り門人帳】より

    第5話「折紙無用」
    【首斬り門人帳】より

  • 第5話「折紙無用」【首斬り門人帳】より

    第5話「折紙無用」
    【首斬り門人帳】より

高瀬の刀剣キャラ③ 粟田口久国の刀守り・天野守武

首斬り門人帳では、鎌倉時代の京の刀工・粟田口久国の鍛えた刀も題材になります。

久国は後鳥羽天皇が設けたご番鍛冶の中でも、天皇の師徳鍛冶を務めた鍛冶師とされています。三種の神器のひとつで壇ノ浦の戦いの際に海に沈んだ宝剣を所持しないまま即位していた後鳥羽天皇は、鎌倉幕府に対抗すべくご番鍛冶として刀工を集めたとされます。

物語は、遠州浜松藩藩士・柘植平助方理(つげへいすけまさよし)が手に入れた京の古刀・粟田口久国の試し斬りを吉昌に依頼するところから始まります。平助は、5代目朝右衛門・吉睦がかかわった【懐宝剣尺】と【古今鍛冶備考】を実際に記した人物です。

第6話「刀守り」【首斬り門人帳】より

第6話「刀守り」
【首斬り門人帳】より

吉昌が久国を預かった帰り、怪しい男が現れます。「その麹塵(きくじん)の色に唐花尾花鳥(からはなおばなどり)の文様、内裏の公家衆が勅許にて賜った布で作った刀袋なれば―――」、「中身はさぞや名のある御刀かと…」と語ります。男の正体は久国を守り続ける、京の小禄の公家・日野西家に仕える青侍(公家に仕える侍)の天野守武(あまのもりたけ)でした。

第6話「刀守り」【首斬り門人帳】より

第6話「刀守り」
【首斬り門人帳】より

刀剣鑑定師から刀守りの物語へ

首斬り門人帳と並行して高瀬は、【公家侍秘録】(1997~2009 年、2012 年〔ビッグコミック〕、〔ビッグコミック増刊号〕断続連載)を発表。首斬り門人帳で登場した刀守り・天野守武を主人公にしました。高瀬は室町時代に始まる公家に仕える物守りの家について、興福寺領地の桜を守る「花守り」、茶道具の名器の散逸を防ぐ「道具守り」、そして家宝の日本刀(刀剣)を密かに守る「刀守り」と記しました。

こうしたスピンオフは他に【表具屋夫婦事件帖】(2006~2009年〔ビッグコミックオリジナル増刊 ビッグコミック1〕断続連載)があります。公家侍秘録の第5話「古筆守り」で登場した貧乏公家の高丘家の妾腹の娘・千香と高丘家の古筆守りの斎之介の日々が描かれます。

高瀬の刀剣キャラ④ 京八流の刀守り・天野守武

公家侍秘録では江戸時代後期の京を舞台に、日野西家の姫・薫子と薫子に仕える守武との日々が描かれます。日野西家は室町時代まで遡れる近衛家の門流で、かつて天皇の側近として仕えた際、粟田口久国を賜ったとされます。けれども日野西家は今では貧乏公家となっています。

貧しさから久国を売れと薫子は言います。対して「「売れ」やなぞと云うたら口が曲がらはりますぞ!」と刀守りを務める守武は叱ります。

  • 「刀守り」【公家侍秘録】より

    「刀守り」
    【公家侍秘録】より

  • 「刀守り」【公家侍秘録】より

    「刀守り」
    【公家侍秘録】より

貧乏ゆえに侍としての働き以上に日々の雑務の方が多い守武は内職に明け暮れます。けれども日野西家に危険が及べば、京八流の剣の腕前で敵を斬ります。京八流は、平安時代末期に陰陽師の鬼一法眼(きいちほうげん)が京で始めたとされる流派です。

高瀬と歴史・時代小説

高瀬はその後、澤田ふじ子の歴史・時代小説【絵師の首 小説日本女流画人伝】と【花篝 小説日本女流画人伝】の中から4 作の短編を読み切り連載漫画化し、【花篝 江戸女流画人伝】として単行本化します(1999 年、集英社刊行)。以降、歴史・時代小説の漫画化も多数手がけていきます。

「時代歴史コミック」を掲げた不定期刊行の漫画雑誌で、読み切り【夢想の剣】(2005年〔ビッグコミックオリジナル増刊 ビッグコミック1〕掲載)では居合の創始者・林崎甚助を取り上げます。先行した白土三平【忍者武芸帳 影丸伝】や小池一夫原作【刀化粧】(神田たけ志作画)の時代劇漫画に続く甚助像を描きました。同掲載雑誌では、古川薫の歴史・時代小説【雪に舞う剣 維新小説集】に収録された小太刀の名手の3姉妹を描いた短編「春雪の門」を読み切り漫画化。掲載漫画雑誌の最終号を飾りました(2009年〔ビッグコミックオリジナル増刊 ビッグコミック1〕掲載)。

近年では高瀬は、川田弥一郎の時代推理小説【江戸の検屍官】を漫画化しました(2010~2018年〔ビッグコミック〕断続連載)。江戸北町奉行所の同心で優れた検死技術を持つ北沢彦太郎と医者・玄海、女性絵師・お月らが活躍する物語です。時代考証家の山田順子の協力を仰ぎ、正確な描写にこだわりました。同作連載中には、池波正太郎の元・渡世人を描いた短編「雨の杖つき坂」も掲載漫画雑誌の「池波正太郎」特集に合わせて読み切り漫画化しています(2016年〔コミック乱ツインズ 増刊〕掲載)。

小池一夫(代表作:【子連れ狼】、【首斬り朝】、【刀化粧】など)が切り開いた本格的時代劇漫画の系譜に立つ高瀬は、歴史・時代小説の漫画化が増えるにつれ、さらにその描写が精密になっていきます。

著者名:三宅顕人

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岩明均

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沙村広明

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上田倫子

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岸本斉史

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