1980年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

上田倫子

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【リョウ】で知られる上田倫子(うえだりんこ)。同作では女子高校生が源義経の生きる平安時代にタイムスリップします。その後描いた【さくら十勇士】では女子高校生が真田幸村の生きる戦国時代にタイムスリップします。2作のあいだで上田が描く女性主人公は、守られたい存在から守る存在へと変化していきます。

上田倫子とタイムスリップ刀剣漫画

上田倫子は、読み切り【花の日にあいたい】(1986年〔週刊マーガレット〕掲載)で高校1年生のときにデビュー。多数の現代劇を描いたのち(【同じ夢をかぞえて】、【プリズムが恋人】、【キッスは瞳にして】、【新学園天国】など)、女子高校生が武蔵坊弁慶の生きる平安時代へタイムスリップする時代劇【リョウ】(1995~1999年〔マーガレット〕連載)を発表しました。

同作について上田は、桂枝雀(2代目)による弁慶が右肩のこぶとなって突如現れる演目「こぶ弁慶」を聞いたことで着想したこと、読者層の少女達が大人になってからも楽しむことができる内容を目指したと明かしています。

少女漫画において、現代から過去へのタイムスリップ物としては、16歳のアメリカ人少女が現代と古代のエジプトとを往復する細川智栄子あんど芙~みん【王家の紋章】を金字塔に、女子高校生が戦国時代の織田信長の結婚相手になる田村由美の読み切り【神話になった午後】。中学3年生の少女が、古代中国が模された世界へタイムスリップする渡瀬悠宇【ふしぎ遊戯】などが続き、リョウの連載ほぼ直前には篠原千絵が王家の紋章へのオマージュ作【天は赤い河のほとり】を発表しています。高橋留美子が、女子高校生が戦国時代へタイムスリップする物語【犬夜叉】を発表したのはリョウ発表直後でした。

少年・青年漫画においてはリョウ発表時期には、三浦健太郎作画【王狼】【王狼伝】(武論尊原作)、本宮ひろ志【夢幻の如く】、山原義人【龍狼伝】など現代から過去の中国大陸へタイムスリップする漫画が先行しています。

こうした少女・少年・青年漫画には、戦国時代へタイムスリップするSF小説の祖とされる半村良の【戦国自衛隊】が先行しています。

上田の刀剣キャラ① 女子高生・遠山りょう=源義経

【リョウ】より

【リョウ】より

リョウの主人公は、女子高校生の遠山りょうです。りょうは修学旅行先の京都の五条大橋で武蔵坊弁慶に襲われます。弁慶はその後、元・警視総監のりょうの祖父が営む剣道場にまで現れます。そのとき剣道経験のないはずのりょうは剣技で弁慶を打ち倒します。

実はりょうは、青木ケ原の樹海で保護された平安時代の装いをした牛若丸と名乗る女の子でした。交通事故で7歳のときに亡くなった遠山家の女の子の身代わりとして記憶を与えられ、育てられていました。弁慶との手合わせのときには、牛若丸(源義経)の記憶が蘇っていたのです。

上田の刀剣キャラ② 薙刀でりょう=義経を守る武蔵坊弁慶

【リョウ】より

【リョウ】より

リョウで描かれる武蔵坊弁慶は、我が世の春を謳歌する平家の横暴を憎み源氏の再興を願っています。平家追討の誓いを立て五条大橋で千本の刀剣を集める中で、千本目の相手となったのが牛若丸でした。

争いの中で牛若丸は、2度と現世に戻ることができないと京の人々のあいだで恐れられていた鞍馬山の神かくしの谷に逃げ込みます。弁慶はそのあとを追い、青木ケ原の樹海の地割れから現代へとやってきました。

弁慶は現代の世界で祇園の芸妓の世話になるなどして暮らす中で、3年目に五条大橋で千本目の相手とそっくりの、りょうを見つけました。

弁慶はりょうと過ごす中で牛若丸が清和源氏の御曹司と知り、家来を望みます。「家来たる者一時もご主人様のお側を離れる訳にはいきませぬ」と宣言し、愛刀の薙刀でりょう=義経を守っていくことになります。

上田の刀剣キャラ③ りょうを亡き者にするべく弁慶を斬る源義経

【リョウ】より

【リョウ】より

りょうと弁慶の距離が近付いていく中で、りょうとの生活を壊されたくない遠山家は、弁慶を逮捕するなど追い込みます。

その結果、りょうは弁慶と青木ケ原の樹海の地割れから平安の時代へと逃げ出しました。

平安時代を生きるりょうに、男の子として育てられていた牛若丸=源義経の記憶が蘇ります。義経はりょうを押しやり、男として生きるために「お前がいると」、「再びりょうが目を覚ますかもしれぬ」と弁慶を斬ります。

上田の刀剣キャラ④ りょう=義経に斬られたい平維盛

【リョウ】より

【リョウ】より

りょう=義経と弁慶のあいだにはライバルも登場します。

平清盛の孫で美男子と謳われた平維盛(たいらのこれもり)です。リョウでは、義経は女の子として生まれたものの清盛による平家との政略結婚を避けるため、男の子として鞍馬寺に預けられたとされます。けれども清盛は義経が女の子と気づいており、いずれ維盛の妻にさせるつもりでした。

維盛はあることをきっかけにりょう=義経が女性だと見破り、見初めます。りょう=義経も懸命な維盛のことを嫌いになれません。けれども源氏征伐を命じられている維盛は、恋と出世との板ばさみになります。そして戦の直前にひとり抜け出し(富士川の戦い)、その苦しさからりょう=義経に「これで私を斬れ」と願い出ました。

上田の刀剣キャラ⑤ りょう=義経と一騎打ちをする源頼朝

【リョウ】より

【リョウ】より

りょう=義経と弁慶の間を妨げる者は、男として生きたい義経、維盛だけでなく、義経の実兄・源頼朝も加わります。

リョウでは、妻・北条政子を亡くし落ち込んだ頼朝をりょう=義経が懸命に慰めます。優しい弟に心惹かれた頼朝はりょう=義経を手に入れようとします。そのため、りょう=義経と弁慶は、頼朝を避けるために平泉に逃げ込むことになります。

平泉まで追いかけてきた頼朝に対し、りょう=義経は一騎打ちを提案します。このとき頼朝は、「殺したいほどわしが憎いか?」、「血を分けた」、「この兄を…!!」と引き受けます。

上田の忍者漫画

上田はその後、17世紀のスペインと日本を舞台にスペイン人の少女と伊達藩の日本人使節団の侍との恋を描いた【ホーム】(2000年〔マーガレット〕連載)を経て、読み切り【月の吐息 愛の傷】(2001年〔マーガレット〕連載)を発表します。戦国時代を生きる記憶をなくした少女・かぐや(じつは織田信長の娘・叉羅)と徳川家康の長男・信康に仕え岡崎城の警護にあたる服部半三正就との恋を描きました。

同作は、読み切り【月の吐息 夏の夢】(2002年〔マーガレット〕連載)と続き、こちらは、本家の服部半蔵が織田信長の娘・叉羅に惹かれるも、叉羅は分家の服部半三と恋しているという内容を描きました。

上田はすぐさま【月の吐息】では不憫な役どころとなった服部半蔵のために【月のしっぽ】(2002~2007年〔マーガレット〕連載)を続けて描きます。くノ一の百地うさぎが忍術が苦手なことから曾祖父・百地丹波に、伊賀一の男前・半蔵の嫁になれと命じられるところから始まる物語です。けれども半蔵は嫁をもらう気はありません。半蔵に一目ぼれしたうさぎは半蔵と結ばれるために努力を重ねます。半蔵の他、うさぎの恋のライバルの上忍の藤林ゆうり、うさぎの幼馴染かつ元許嫁で守り役の石川五右衛門、月の吐息から分家の半三と信長の娘・沙羅のカップルなどが登場します。戦国武将では、織田信長、森蘭丸、明智光秀、徳川家康も登場します。

上田の刀剣キャラ⑥ 光る刀で戦国時代にタイムスリップ・戸澤さくら

【さくら十勇士】より

【さくら十勇士】より

その後、上田は明治時代を描いた【裸足でバラを踏め】を経て、再び時代劇を描きます。【さくら十勇士】(2012~2013年〔マーガレット〕連載)です。

高校2年生の戸澤さくらは、剣道部に所属する少女です。真田十勇士の伝説が残る長野県上田市の酒蔵の娘でもあります。ある日、蔵で太刀を見つけたさくらは「剣をとれ」と言う声に導かれ、剣を鞘から抜いたことで謎の光に包まれます。そして太刀とともに戦国時代へとタイムスリップしました。

上田の刀剣キャラ⑦ さくらと刀で助け合う真田幸村

戦国時代にタイムスリップしたさくらは、野盗に襲われていたところを真田幸村に救われます。

そして、さくらが本能寺の変を予言したことで、幸村は真田家の神子(みこ)として迎えるよう父を説得しました。さくらも得意の剣道の腕前で幸村のピンチを救い、2人の距離は近付いていきます。

  • 【さくら十勇士】より

    【さくら十勇士】より

  • 【さくら十勇士】より

    【さくら十勇士】より

上田の刀剣キャラ⑧ さくらVS佐助

【さくら十勇士】より

【さくら十勇士】より

幸村はさくらを支える役を佐助に命じます。佐助は真田家家臣一の剣客です。

さくらは取り上げられていた現代へ戻るきっかけとなる太刀を取り戻すべく、佐助と剣を交えます。

上田の刀剣キャラ⑨ さくらVS才蔵

【さくら十勇士】より

【さくら十勇士】より

本能寺の変を予言して神子として扱われるさくらを手に入れようと、徳川家康は刺客を送り込みます。

それが伊賀忍者の才蔵です。さくらは才蔵とも剣を交えます。

その後の上田の刀剣漫画

上田はその後、【蘭と葵】(2016年~〔月刊YOU〕連載中)で女忍び・服部蘭と年下の竹千代(のち徳川家光)との恋を描いています。

同作は月のしっぽの続編にあたります。蘭は服部半蔵とうさぎの娘で、父が取り仕切る婚礼から逃げ出し、世のために働きたいという願いから、将軍として自信を持てない竹千代を支えていきます。距離の近付いていく2人のあいだに、かつての蘭の想い人・雲隠林蔵も現れ、家光の命を狙います。

上田は、リョウでは弁慶に守られる少女からやがて自分の手で運命を切り開く少女を、月のしっぽは服部半蔵の妻を目指す少女を、さくら十勇士では真田幸村のために命をかける少女を、蘭と葵では年下の竹千代のために命をかける少女を、順に描きました。上田の刀剣漫画は、少女像の強さの変遷を教えてくれます。

著者名:三宅顕人

上田倫子

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