【KATANA】シリーズで知られるかまたきみこ。かまたは同シリーズで、華やかな剣士ではなく、刃物を研磨する研師(とぎし)を主人公としました。そこには、日本刀が持つ殺気を消してみようとする刀剣漫画を、という想いがあります。
かまたきみこは、読み切り【花束】(1993年〔眠れぬ夜の奇妙な話 Vol.11〕掲載)でデビューしました。以後、デビュー作が掲載された少女漫画雑誌を中心に、同掲載雑誌(のち〔ネムキ〕に変更)に掲げられたキャッチコピーにもある「奇妙仰天摩訶不思議」な漫画作品を発表していきます(【クレメンテ商会】【深海蒐集人】など)。
あるときホラー漫画雑誌から依頼され、読み切り【KATANA】(2004年〔月刊ホラーM〕掲載)を描きます。日本刀が実家にあったとことで身近な存在だったと言うかまたは、日本刀を描いたアイデアスケッチはすでにあったと言います。そして、怖いシーンではなく、同漫画を日本刀と外国の刀剣が深夜の博物館で決闘するシーンからまず着想したと明かしています。
KATANAの主人公は、千年以上伝統のある刀鍛冶師の跡取り息子・成川滉(なりかわあきら)です。家業を継ぐ気はないものの、研ぎの技術は教わっています。子供の頃から不思議な能力を持つ滉は、日本刀の魂魄(こんばく)が人の姿として見え、会話ができます。シリーズ第1話にあたる「鬼鑑(おにかがみ)」では、妖刀・鬼鑑の怒りを対話を通して鎮めました。
KATANAは連載化にあたり、第1話ではイギリス留学中の大学生だった滉が、進学校に通う高校生へ設定し直されます。そして成川家は鎌倉時代の名工・光院を祖とし、滉の祖父は人間国宝と創作されました。
滉が古びていた日本刀達と会話をしながら研ぐと、それまで荒んでいた人の姿をした魂魄も活き活きとした姿に蘇ります。
第2話「曲線の誘惑」
【KATANA】より
第2話「曲線の誘惑」
【KATANA】より
滉の同級生には、難しい数学を得意とする男子や元・華族の女子など多彩です。平安時代から続く由緒ある幸御家(さきみけ)の分家も同級生でした。
幸御家は、平安時代に天皇の私的な相談役を務めていたとされ、重要な役職に就く者達で代々受け継がれている宝刀・襲刀(かさねがたな)を有しています。
滉はある日、何かの力に導かれるようにして幸御家を訪れます。「見つけた」と滉を導いたのは、襲刀の魂魄・襲(かさね)でした。美しい少年の姿をした襲は滉に、「抜きたまえよ 興味あるだろ?」と話しかけました。
第4話「襲刀」
【KATANA】より
第4話「襲刀」
【KATANA】より
この導きをきっかけに滉は、幸御家の宝刀・襲刀の襲名披露の場を訪れ、襲刀を鞘から抜き、その継承者となります。以後、刀の魂魄の世界をよく知り、不思議な力を持つこの襲と多くの行動を共にしていくことになります。
かまたのデビュー作が掲載された眠れぬ夜の奇妙な話は、少女向けのホラー専門漫画雑誌の先駆けともされる〔月刊ハロウィン〕(1986年1月創刊)の増刊号として始まっています(1991年)。「ホラー・オカルト少女マンガ誌」を掲げた月刊ハロウィンは、創刊の年に第1回楳図かずお賞を創設します。審査員は、楳図の他、菊地秀行、稲川淳二らが務めました。
月刊ハロウィン創刊以後、ホラーを主題する漫画雑誌が多数創刊されます(〔月刊MACO(魔子)〕〔ソリティア〕〔ホラーハウス〕〔プロムナイト〕〔サスペリア〕〔ほんとにあった怖い話〕など)。その背景には当時の伝奇SF小説ブームがあり(夢枕獏、菊地秀行、荒俣宏など)、例えば【COBRA SPACE ADVENTURE】で人気を博していた寺沢武一も伝奇仕様の【鴉天狗カブト】を描いています。
かまたのKATANAシリーズが始まることになった月刊ホラーMは、眠れぬ夜の奇妙な話と同時期に創刊されました(1993年)。同シリーズはその後、月刊ホラーMの隔月化・休刊にあたり、〔ホラーアンソロジー トカゲ〕を経て、季刊誌〔怪(かい)〕(1997年創刊)の姉妹雑誌となる漫画雑誌〔コミック 怪(かい)〕(2007年創刊)へと掲載先が移行しています。怪は、水木しげる(初代会長)を筆頭に荒俣宏・京極夏彦が大きくかかわる世界妖怪協会公認の雑誌でした。
KATANAシリーズではコミック 怪での掲載分の単行本化以降、「刀の匠たち」の紹介が単行本で行なわれます(2012年~)。その最初には、刀匠・晶平、研師・森井鐡太郎、刀匠・三上貞直(第7代全日本刀匠会会長)の3名が登場しています。
この時期、備前長船刀剣博物館(岡山県)で日本刀にまつわる展覧会が開かれます。『戦国BASARA HERO武器・武具列伝』(2011年)と『ヱヴァンゲリヲンと日本刀展』(2012年~)です。『戦国BASARA HERO武器・武具列伝』では、家庭用ゲーム【戦国BASARA】に登場する伊達政宗・真田幸村・石田三成ら戦国武将達ゆかりの品々が展示されました。
人気アニメ【新世紀エヴァンゲリオン】の新作映画公開に併せて企画された『ヱヴァンゲリヲンと日本刀展』では、日本刀とのコラボ展覧会が行なわれました。かまたも訪れた同展では、同アニメゆかりの武器が鍛えられました。刀匠・三上貞直はこの時ロンギヌスの槍を手がけています。これらをきっかけに若者の刀剣への関心が高まります。
かまたも同人サークル・鍛冶屋ふぁみりーによる同人雑誌〔鐵の命(てつのいのち)〕に参加します(2011年~)。鍛冶屋ふぁみりーのサカタ・テツヤは全日本刀匠会の公式サイトで、すぐは・しのぎ・きたえの三姉妹が活躍する【鍛冶屋☆シスターズ】の連載を開始します(2012~2016年)。
同サークルをきっかけに、お刀女子倶楽部も生まれています(2014年~)。かまたは、自身のお守り刀も制作しました(2015年)。
KATANAシリーズの連載が長期化するなかで、かまたは日本刀作りに携わる職人達との交流が深まります。併せて作風が写実的なものへとなっていきます。
「長船三姉妹」の回では、備前長船刀剣博物館も登場しました。刀鍛冶師の家に生まれた一文字家の三姉妹の切実な跡継ぎ問題を描きます。かまたは三姉妹を、長女・すぐは、次女・しのぎ、三女・きたえ、と名づけています。
「長船三姉妹」
【KATANA】より
KATANAシリーズは、掲載漫画雑誌が再び変更されます(2013年~〔月刊ASUKA〕〔月刊Asuka〕連載中)。
同年、林原美術館・備前長船刀剣博物館・瀬戸内市立美術館の岡山県にある3館の連動で『二次元VS日本刀展』が開かれます(2013年)。この時、備前長船刀剣博物館では、小島剛夕、小池一夫、池上遼一、高橋留美子、かまたら27名の漫画家・漫画原作者・イラストレーターのデザインに基づく日本刀が鍛えられ、展示されました。
同展の企画としてかまたは、「お刀女子会」を備前長船刀剣博物館で開催します。男性中心だった日本刀の世界を女性にも親しんでもらおうという想いでした。以後、かまたは同会を全国で開いています。
そして、【鐵火 KATANAメイキング】(2016年~〔小説推理〕隔月連載中)を始めます。PC版ブラウザ&スマートフォン版ゲーム【刀剣乱舞】(2015年~)が大きな話題となるなかで、掲載雑誌で特集「刀」が組まれます。併せて連載が始まりました。かまたは同連載で、木炭、玉鋼、技術研修会、日本刀コンクールなど、取材で得た現場の実情を漫画で描いています。
「お刀女子会」の回では、「軽さ…というか軽やかさ…が 私は日本刀の世界にあってもいいんじゃないかと思うのですよ」と自身を描いた主人公に語らせています。
第6回【鐵火 KATANAメイキング】より
かまたはKATANAシリーズについてこう記しています。
「錆びている汚れているがゆえに殺気立つ刀は きれいに研がれれば殺気が消える」、「……ということは」、「描けば描くほど殺気が消えるっていうことじゃーん」。
それが、主人公を研師とした理由でした。
ホラー漫画ブームから日本刀ブームが起こるなかで、実直な取材に基づいた写実的な世界も組み込まれていくKATANAシリーズ。シリーズ連載は現在15年以上に及んでいます。