「百人一首」とは、飛鳥時代から鎌倉時代初期までの代表的な100名の歌人が詠んだ和歌を、1首ずつ選出した秀歌撰(しゅうかせん:優れた歌を集めた歌集のこと)です。一般的には、「藤原定家」(平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した公家・宮廷歌人)が選んだと言われる「小倉百人一首」のことを指します。100首はいずれも「古今和歌集」や「新古今和歌集」に掲載されている短歌。古い歌人から順に「歌番号(和歌番号)」が振られており、歌の内容は恋愛に関するものが43首と最多です。
「万葉集」の編纂にかかわったと言われる「大伴家持」(おおとものやかもち)、優れた歌人を意味する「歌聖」(かせい)と称された「柿本人麻呂」(かきのもとのひとまろ)、平安時代に活躍した女性文学作家「清少納言」や「紫式部」など、歴史的にも有名な歌人達の歌は、現代でも「かるた」として多くの人々に親しまれています。
ここでは、広木弘邦刀匠が鏨(たがね:鉄鋼製の手工具)を巧みに使い、小刀に和歌を刻んだ百人一首をご紹介します。

小刀 百人一首 小野小町
小刀 百人一首 小野小町

和歌が刻まれた小刀

無鑑査刀匠・広木弘邦の経歴(受賞歴)や制作した隕鉄剣(流星刀)をご紹介します。

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  • 1番歌

    天智天皇

  • 2番歌

    持統天皇

  • 3番歌

    柿本人麻呂

  • 4番歌

    山部赤人

  • 5番歌

    猿丸大夫

  • 6番歌

    中納言家持

  • 7番歌

    安倍仲麿
    (阿部仲麻呂)

  • 8番歌

    喜撰法師

  • 9番歌

    小野小町

  • 10番歌

    蝉 丸

  • 11番歌

    参議篁

  • 12番歌

    僧正遍照
    (遍昭)

  • 13番歌

    陽成院

  • 14番歌

    河原左大臣

  • 15番歌

    光孝天皇

  • 16番歌

    中納言行平

  • 17番歌

    在原業平朝臣

  • 18番歌

    藤原敏行朝臣

  • 19番歌

    伊 勢

  • 20番歌

    元良親王

  • 21番歌

    素性法師

  • 22番歌

    文屋康秀

  • 23番歌

    大江千里

  • 24番歌

    菅 家

  • 25番歌

    三条右大臣

  • 26番歌

    貞信公

  • 27番歌

    中納言兼輔

  • 28番歌

    源宗于朝臣

  • 29番歌

    凡河内躬恒

  • 30番歌

    壬生忠岑

  • 31番歌

    坂上是則

  • 32番歌

    春道列樹

  • 33番歌

    紀友則

  • 34番歌

    藤原興風

  • 35番歌

    紀貫之

  • 36番歌

    清原深養父

  • 37番歌

    文屋朝康

  • 38番歌

    右 近

  • 39番歌

    参議等

  • 40番歌

    平兼盛

  • 41番歌

    壬生忠見

  • 42番歌

    清原元輔

  • 43番歌

    権中納言敦忠

  • 44番歌

    中納言朝忠

  • 45番歌

    謙徳公

  • 46番歌

    曾禰好忠

  • 47番歌

    恵慶法師

  • 48番歌

    源重之

  • 49番歌

    大中臣能宣朝臣

  • 50番歌

    藤原義孝

  • 51番歌

    藤原実方朝臣

  • 52番歌

    藤原道信朝臣

  • 53番歌

    右大将道綱母

  • 54番歌

    儀同三司母

  • 55番歌

    大納言公任

  • 56番歌

    和泉式部

  • 57番歌

    紫式部

  • 58番歌

    大弐三位

  • 59番歌

    赤染衛門

  • 60番歌

    小式部内侍

  • 61番歌

    伊勢大輔

  • 62番歌

    清少納言

  • 63番歌

    左京大夫道雅

  • 64番歌

    権中納言定頼

  • 65番歌

    相 模

  • 66番歌

    前大僧正行尊

  • 67番歌

    周防内侍

  • 68番歌

    三条院

  • 69番歌

    能因法師

  • 70番歌

    良暹法師

  • 71番歌

    大納言経信

  • 72番歌

    祐子内親王家
    紀伊

  • 73番歌

    権中納言匡房

  • 74番歌

    源俊頼朝臣

  • 75番歌

    藤原基俊

  • 76番歌

    法性寺入道前
    関白太政大臣

  • 77番歌

    崇徳院

  • 78番歌

    源兼昌

  • 79番歌

    左京大夫顕輔

  • 80番歌

    待賢門院堀河

  • 81番歌

    後徳大寺左大臣

  • 82番歌

    道因法師

  • 83番歌

    皇太后宮
    大夫俊成

  • 84番歌

    藤原清輔朝臣

  • 85番歌

    俊恵法師

  • 86番歌

    西行法師

  • 87番歌

    寂蓮法師

  • 88番歌

    皇嘉門院別当

  • 89番歌

    式子内親王

  • 90番歌

    殷富門院大輔

  • 91番歌

    後京極摂政前
    太政大臣

  • 92番歌

    二条院讃岐

  • 93番歌

    鎌倉右大臣

  • 94番歌

    参議雅経

  • 95番歌

    前大僧正慈円

  • 96番歌

    入道前太政大臣

  • 97番歌

    権中納言定家

  • 98番歌

    従二位家隆

  • 99番歌

    後鳥羽院

  • 100番歌

    順徳院

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  • 1番歌 天智天皇(てんじてんのう)

    原文

    秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ
    わが衣手は 露にぬれつつ

    (あきのたの かりほのいほの とまをあらみ
    わがころもでは つゆにぬれつつ)

    現代語訳

    秋の田のほとりに立てられた仮の小屋にいると、屋根を葺いた苫(とま:スゲやカヤで編んだ物)の網の目が粗いので、私の袖は夜露に濡れ続けています。

  • 2番歌 持統天皇(じとうてんのう)

    原文

    春すぎて 夏来にけらし 白妙の
    衣ほすてふ 天の香具山

    (はるすぎて なつきにけらし しろたへの
    ころもほすてふ あまのかぐやま)

    現代語訳

    春が過ぎて夏が来たようです。天の香具山に真っ白い衣が干されていることからすると。

  • 3番歌 柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)

    原文

    あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の
    ながながし夜を ひとりかも寝む

    (あしびきの やまどりのおの しだりおの
    ながながしよるを ひとりかもねむ)

    現代語訳

    山鳥の長く垂れ下がった尾のような秋の長々しい夜を、恋しい人とも逢えず、ひとり寂しく寝ることになるのであろうか。

  • 4番歌 山部赤人(やまべのあかひと)

    原文

    田子の浦に うち出でてみれば 白妙の
    富士の高嶺に 雪は降りつつ

    (たごのうらに うちいでてみれば しろたへの
    ふじのたかねに ゆきはふりつつ)

    現代語訳

    田子の浦に出て風景を眺めると、真っ白な富士の高嶺に雪が降り続いていることよ。

  • 5番歌 猿丸大夫(さるまるだゆう)

    原文

    奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の
    声聞くときぞ 秋は悲しき

    (おくやまに もみぢふみわけ なくしかの
    こえきくときぞ あきはかなしき)

    現代語訳

    奥深い山に紅葉(もみじ)を踏み分けて進み、鹿の鳴き声を聞くとき、秋の悲しさが身に染みて感じられます。

  • 6番歌 中納言家持(ちゅうなごんやかもち)

    原文

    鵲の 渡せる橋に 置く霜の
    白きを見れば 夜ぞふけにける

    (かささぎの わたせるはしに おくしもの
    しろきをみれば よぞふけにける)

    現代語訳

    鵲(かささぎ)が翼を連ねて架けたと言われる橋、つまり天の川の星たちが、霜が降りたかのように白々と冴え渡っている様子を見ると、夜はすっかり更けてしまったようです。

  • 7番歌 安倍仲麿(阿部仲麻呂)(あべのなかまろ)

    原文

    天の原 ふりさけ見れば 春日なる
    三笠の山に 出でし月かも

    (あまのはら ふりさけみれば かすがなる
    みかさのやまに いでしつきかも)

    現代語訳

    振り向いて広々とした大空を眺めると月が昇っている。あの月は我がふるさと、春日にある三笠の山に出た月と同じなのだなあ。

  • 8番歌 喜撰法師(きせんほうし)

    原文

    わが庵は 都のたつみ しかぞすむ
    世をうぢ山と 人はいふなり

    (わがいほは みやこのたつみ しかぞすむ
    よをうぢやまと ひとはいふなり)

    現代語訳

    私の仮住まいは都の東南にあり、心静かに暮らしている。しかし、世間の人は、私がこの世をつらいと思って宇治山に住んでいるのだと言っているらしい。

  • 9番歌 小野小町(おののこまち)

    原文

    花の色は 移りにけりな いたづらに
    わが身世にふる ながめせしまに

    (はなのいろは うつりにけりな いたづらに
    わがみよにふる ながめせしまに)

    現代語訳

    桜の花の色もすっかり褪せてしまったなあ、春の長雨が降り続いている間に。そして花の色のように私の美しさも衰えてしまったなあ、むなしくこの世で日々の暮らしを過ごし、ぼんやりと物思いにふけっている間に。

  • 10番歌 蝉丸(せみまる)

    原文

    これやこの 行くも帰るも 別れては
    知るも知らぬも あふ坂の関

    (これやこの ゆくもかへるも わかれては
    しるもしらぬも あふさかのせき)

    現代語訳

    ここがあの、都を出て東国へ行く人も、反対に都へ帰る人も、そしてお互いに知っている人も知らない人も、別れてはまた逢うという逢坂の関なのですね。

  • 11番歌 参議篁(さんぎたかむら)

    原文

    わたの原 八十島かけて 漕き出でぬと
    人には告げよ あまのつりぶね

    (わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと
    ひとにはつげよ あまのつりぶね)

    現代語訳

    広い海原に、多くの島々を目指して舟を漕ぎ出して行ったと、あの人には告げておくれ、漁師の釣舟よ。

  • 12番歌 僧正遍照(遍昭)(そうじょうへんじょう)

    原文

    天つ風 雲のかよひ路 吹きとぢよ
    乙女の姿 しばしとどめむ

    (あまつかぜ くものかよひぢ ふきとぢよ
    をとめのすがた しばしとどめむ)

    現代語訳

    空を吹く風よ、雲間の道を吹き閉ざしておくれ。舞が終わって天に帰って行く美しい天女たちの姿を、もうしばらく留めておきたいから。

  • 13番歌 陽成院(ようぜいいん)

    原文

    筑波嶺の みねより落つる みなの川
    恋ぞつもりて 淵となりぬる

    (つくばねの みねよりおつる みなのがは
    こひぞつもりて ふちとなりぬる)

    現代語訳

    筑波山の峰から流れ落ちる「みなの川」が、初めのうちはせせらぎのような細い流れであったとしても、次第にその水が積もり積もって深い淵になるように、私の恋心も、今では淵のように深い思いになっています。

  • 14番歌 河原左大臣(かわらのさだいじん)

    原文

    陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに
    乱れそめにし 我ならなくに

    (みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに
    みだれそめにし われならなくに)

    現代語訳

    陸奥の信夫(しのぶ:現在の福島県福島市)で織られる「しのぶもじ摺り」の乱れ模様のように、私の心が乱れ始めたのは、いったい誰のせいなのでしょうか。それは、私のせいではなく、他ならぬあなたのせいなのです。

  • 15番歌 光孝天皇(こうこうてんのう)

    原文

    君がため 春の野にいでて 若菜摘む
    わが衣手に 雪は降りつつ

    (きみがため はるののにいでて わかなつむ
    わがころもでに ゆきはふりつつ)

    現代語訳

    あなたのために、春の野原に出かけて若菜を摘んでいる私の袖に、次から次へと雪が降りかかっています。

  • 16番歌 中納言行平(ちゅうなごんゆきひら)

    原文

    立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる
    まつとし聞かば 今帰り来む

    (たちわかれ いなばのやまの みねにおふる
    まつとしきかば いまかへりこむ)

    現代語訳

    あなたと別れて、因幡国(いなばのくに:現在の鳥取県東半部)へ私が行っても、稲葉山の峰に生えている松の木の名のように、あなたが私を待っていて下さると聞いたなら、すぐにでも私は帰って来ましょう。

  • 17番歌 在原業平朝臣(ありわらのなりひらあそん)

    原文

    ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
    からくれなゐに 水くくるとは

    (ちはやぶる かみよもきかず たつたがは
    からくれなゐに みづくくるとは)

    現代語訳

    神代(神々が治めていた時代)にも聞いたことがありません。竜田川に紅葉が散りばめられ、その水を真っ赤な紅色で「くくり染め」にするなどということは。

  • 18番歌 藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん)

    原文

    住の江の 岸に寄る波 よるさへや
    夢のかよひ路 人目よくらむ

    (すみのえの きしによるなみ よるさへや
    ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ)

    現代語訳

    住の江(現在の大阪市住吉区にある海岸)の岸に打ち寄せる波の「寄る」ではありませんが、どうしてあなたは昼ばかりか夜に見る夢の中までも、私のもとへ通う道で人目を避け、逢ってはくれないのでしょうか。

  • 19番歌 伊勢(いせ)

    原文

    難波潟 みじかき蘆の 節の間も
    逢はでこの世を 過ぐしてよとや

    (なにはがた みじかきあしの ふしのまも
    あはでこのよを すぐしてよとや)

    現代語訳

    難波潟(現在の大阪湾の入り江部分)に生えている芦の、節と節との間のようなほんの短い時間でさえも、あなたに逢うことはなく、このまま一生を過ごせとおっしゃるのですか。

  • 20番歌 元良親王(もとよししんのう)

    原文

    わびぬれば 今はた同じ 難波なる
    身をつくしても 逢はむとぞ思ふ

    (わびぬれば いまはたおなじ なにはなる
    みをつくしても あはむとぞおもふ)

    現代語訳

    あなたと逢えず思い悩んでいたのに、噂が立ってしまった今は、もう身を滅ぼしたも同然。それならいっそのこと、難波潟(現在の大阪湾の入り江部分)にある「澪標」(みおつくし:舟が行き来する航路の目印となる杭)のように、身を滅ぼしてでもあなたに逢いたいのです。

  • 21番歌 素性法師(そせいほうし)

    原文

    今来むと いひしばかりに 長月の
    有明の月を 待ち出でつるかな

    (いまこむと いひしばかりに ながつきの
    ありあけのつきを まちいでつるかな)

    現代語訳

    「今すぐに行くよ」とあなたがおっしゃったばかりに、9月の秋の夜長を信じてお待ちしているうちに、有明の月が出るまで待ち明かしてしまいました。

  • 22番歌 文屋康秀(ふんやのやすひで)

    原文

    吹くからに 秋の草木の しをるれば
    むべ山風を あらしといふらむ

    (ふくからに あきのくさきの しをるれば
    むべやまかぜを あらしといふらむ)

    現代語訳

    風が吹くとすぐに秋の草木がしおれてしまうので、なるほど、それで山から吹き降ろす風のことを「嵐(荒し)」と言うのですね。

  • 23番歌 大江千里(おおえのちさと)

    原文

    月見れば ちぢにものこそ 悲しけれ
    わが身ひとつの 秋にはあらねど

    (つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ
    わがみひとつの あきにはあらねど)

    現代語訳

    秋の月を見ていると、なんだかいろいろと物悲しくなります。私ひとりのために来た秋ではないのに。

  • 24番歌 菅家(かんけ)

    原文

    このたびは 幣もとりあへず 手向山
    紅葉の錦 神のまにまに

    (このたびは ぬさもとりあへず たむけやま
    もみぢのにしき かみのまにまに)

    現代語訳

    今度の旅は急なことだったので、前もって幣(ぬさ:細く切った布や紙などで作られた、旅の途中で道祖神などに祈るための捧げ物)の準備もできませんでした。錦のように美しい手向山の紅葉を幣の代わりに捧げますので、神様、どうぞ御心のままにお受け取り下さい。

  • 25番歌 三条右大臣(さんじょうのうだいじん)

    原文

    名にし負はば 逢坂山の さねかづら
    人に知られで くるよしもがな

    (なにしおはば あふさかやまの さねかづら
    ひとにしられで くるよしもがな)

    現代語訳

    「逢坂山のさねかずら」がその名前の通り、「逢って一緒に寝られる」という意味を持つのであれば、「さねかずら」(つる性の常緑低木)が、そのつるを手繰り寄せればこちらに来るように、誰にも知られることなく、あなたのもとに逢いに行く(来る)方法があれば良いのになあ。

  • 26番歌 貞信公(ていしんこう)

    原文

    小倉山 峰の紅葉葉 心あらば
    今ひとたびの みゆき待たなむ

    (をぐらやま みねのもみぢば こころあらば
    いまひとたびの みゆきまたなむ)

    現代語訳

    小倉山の峰の紅葉よ、もしお前に心があるならば、もう一度天皇の行幸(ぎょうこう:天皇が外出されること)があるまで、散らないで待っていて欲しい。

  • 27番歌 中納言兼輔(ちゅうなごんかねすけ)

    原文

    みかの原 わきて流るる いづみ川
    いつ見きとてか 恋しかるらむ

    (みかのはら わきてながるる いづみがは
    いつみきとてか こひしかるらむ)

    現代語訳

    みかの原を2つに分けるように湧いて流れる「泉川」(いづみがは)ではないが、その名前のように、あの人をいつ見たというのだろうか、こんなにも恋しいだなんて(本当は、まだお逢いしたこともないのに)。

  • 28番歌 源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん)

    原文

    山里は 冬ぞさびしさ まさりける
    人目も草も かれぬと思へば

    (やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける
    ひとめもくさも かれぬとおもへば)

    現代語訳

    山里では都と違って、冬はこと寂しく感じられます。人も訪ねて来なくなり、草木も枯れてしまうことを思うと。

  • 29番歌 凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)

    原文

    心あてに 折らばや折らむ 初霜の
    置きまどはせる 白菊の花

    (こころあてに をらばやをらむ はつしもの
    おきまどはせる しらぎくのはな)

    現代語訳

    もし折れるならば、当てずっぽうに折ってみようか。真っ白な初霜が降りた中に紛れて、見分けが付かなくなっている白菊の花を。

  • 30番歌 壬生忠岑(みぶのただみね)

    原文

    有明の つれなく見えし 別れより
    暁ばかり 憂きものはなし

    (ありあけの つれなくみえし わかれより
    あかつきばかり うきものはなし)

    現代語訳

    夜明けになっても素知らぬ顔で空に残っていた月のように、あの別れの朝、あなたはつれなく見えた。それからと言うもの、私にとって暁ほど辛く悲しい時間はないようになった。

  • 31番歌 坂上是則(さかのうえのこれのり)

    原文

    朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに
    吉野の里に 降れる白雪

    (あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに
    よしののさとに ふれるしらゆき)

    現代語訳

    夜がほのかに明け始める頃、まだ空に残っている月の光が降り注いでいるのかと思うほど、吉野の里に降り積もる雪の白いことよ。

  • 32番歌 春道列樹(はるみちのつらき)

    原文

    山川に 風のかけたる しがらみは
    流れもあへぬ 紅葉なりけり

    (やまがはに かぜのかけたる しがらみは
    ながれもあへぬ もみぢなりけり)

    現代語訳

    山の中を流れる谷川に、風が架けた柵(しがらみ:川の流れをせき止めるために杭を打ち、編んだ竹をその横に張って仕掛けた物)だと思っていた物は、流れきらずに溜まっている紅葉だったのだなあ。

  • 33番歌 紀友則(きのとものり)

    原文

    久方の 光のどけき 春の日に
    しづ心なく 花の散るらむ

    (ひさかたの ひかりのどけき はるのひに
    しづこころなく はなのちるらむ)

    現代語訳

    日の光がのどかに降り注ぐ春の日に、なぜ桜の花は、静かな落ち着いた心もなく、慌ただしく散るのでしょうか。

  • 34番歌 藤原興風(ふじわらのおきかぜ)

    原文

    誰をかも 知る人にせむ 高砂の
    松も昔の 友ならなくに

    (たれをかも しるひとにせむ たかさごの
    まつもむかしの ともならなくに)

    現代語訳

    いったい誰を昔からの親しい友としたら良いのだろうか。あの長寿である高砂(現在の兵庫県高砂市。松の名所として知られる)の松でさえも、昔からの友ではないと言うのに。

  • 35番歌 紀貫之(きのつらゆき)

    原文

    人はいさ 心も知らず ふるさとは
    花ぞ昔の 香ににほひける

    (ひとはいさ こころもしらず ふるさとは
    はなぞむかしの かににほひける)

    現代語訳

    あなたの心は、さあどうでしょうか。今の本当の気持ちは分かりません。しかし、昔から馴染み深いこの里では、梅の花が昔のままの懐かしい香りで匂っています。

  • 36番歌 清原深養父(きよはらのふかやぶ)

    原文

    夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを
    雲のいづこに 月宿るらむ

    (なつのよは まだよひながら あけぬるを
    くものいづこに つきやどるらむ)

    現代語訳

    夏の夜は短いので、まだ宵のうちと思っている間にそのまま明けてしまった。いったい月は、雲のどのあたりに隠れているのだろうか。

  • 37番歌 文屋朝康(ふんやのあさやす)

    原文

    白露に 風の吹きしく 秋の野は
    つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける

    (しらつゆに かぜのふきしく あきののは
    つらぬきとめぬ たまぞちりける)

    現代語訳

    草の上に結ばれた白露に、風がしきりに秋の野の様子は、まるで糸に通して留めていない玉が散り乱れるようだ。

  • 38番歌 右近(うこん)

    原文

    忘らるる 身をば思はず 誓ひてし
    人の命の 惜しくもあるかな

    (わすらるる みをばおもはず ちかひてし
    ひとのいのちの をしくもあるかな)

    現代語訳

    あなたに忘れられる我が身の辛さは何とも思いません。ただ、愛を神に誓ったあなたの命が、神罰を受けて失われるのではと惜しまれるのです。

  • 39番歌 参議等(さんぎひとし)

    原文

    浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど
    あまりてなどか 人の恋しき

    (あさぢふの をののしのはら しのぶれど
    あまりてなどか ひとのこひしき)

    現代語訳

    浅茅が生えている小野の篠原。その「しの」のようにあなたへの思いを忍びに忍んできたけれど、今はもう耐えきれない。どうしてあなたがこんなにも恋しいのだろう。

  • 40番歌 平兼盛(たいらのかねもり)

    原文

    忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は
    物や思ふと 人の問ふまで

    (しのぶれど いろにいでにけり わがこひは
    ものやおもふと ひとのとふまで)

    現代語訳

    人に気付かれないように耐え忍んで隠していたけれど、わたしの恋心は、ついに顔色に出てしまったようです。何か恋の物思いしているのですかと人に問われるほどに。

  • 41番歌 壬生忠見(みぶのただみ)

    原文

    恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり
    人知れずこそ 思ひそめしか

    (こひすてふ わがなはまだき たちにけり
    ひとしれずこそ おもひそめしか)

    現代語訳

    恋をしているという私の噂が、もう世間に広まってしまいました。人に知られないように、心のうちだけで思い始めたばかりなのに。

  • 42番歌 清原元輔(きよはらのもとすけ)

    原文

    契りきな かたみに袖を しぼりつつ
    末の松山 波こさじとは

    (ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ
    すゑのまつやま なみこさじとは)

    現代語訳

    約束しましたよね、涙に濡れた袖をお互いに何度も絞りながら。あの末の松山を、決して波が越えることがないように、2人の愛も変わらないと。それなのにあなたは。

  • 43番歌 権中納言敦忠(ごんちゅうなごんあつただ)

    原文

    逢ひ見ての 後の心に くらぶれば
    昔は物を 思はざりけり

    (あひみての のちのこころに くらぶれば
    むかしはものを おもはざりけり)

    現代語訳

    あなたに逢って、契りを結んだあとの切ない恋心に比べれば、逢う前に沈んでいた物思いなど、何でもないことと同じでしたよ。

  • 44番歌 中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)

    原文

    逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに
    人をも身をも 恨みざらまし

    (あふことの たえてしなくは なかなかに
    ひとをもみをも うらみざらまし)

    現代語訳

    もし逢うことが全くないのであれば、かえって相手の冷たさや我が身の辛さを、恨んだりすることもないだろうに。

  • 45番歌 謙徳公(けんとくこう)

    原文

    哀れとも いふべき人は 思ほえで
    身のいたづらに なりぬべきかな

    (あはれとも いふべきひとは おもほえで
    みのいたづらに なりぬべきかな)

    現代語訳

    私のことをかわいそうだと言ってくれる人は、誰も思い浮かばないので、私はあなたに恋焦がれたまま、むなしく死んでしまうことでしょう。

  • 46番歌 曾禰好忠(そねのよしただ)

    原文

    由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え
    ゆくへも知らぬ 恋の道かな

    (ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ
    ゆくへもしらぬ こひのみちかな)

    現代語訳

    由良川の瀬戸(せと:舟の進む水路となる、水流を寄せ引く河口)を漕いで渡る舟人が櫂(かい)を失い、行方も分からず漂流してしまうように、この先どうなって行くのか分からない、私の恋の道よ。

  • 47番歌 恵慶法師(えぎょうほうし)

    原文

    八重むぐら しげれる宿の さびしきに
    人こそ見えね 秋は来にけり

    (やへむぐら しげれるやどの さびしきに
    ひとこそみえね あきはきにけり)

    現代語訳

    むぐら(葎:広範囲に及んで生い茂る、つる性の雑草)が幾重にも生えるこの寂しい宿に、人は誰も訪ねて来ないが、秋だけはやって来たなあ。

  • 48番歌 源重之(みなもとのしげゆき)

    原文

    風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ
    くだけて物を 思ふころかな

    (かぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ
    くだけてものを おもふころかな)

    現代語訳

    風が激しいので、岩に打ち当たる波だけが自分で砕け散るように、つれないあなたのせいで、私だけが心を砕いて思い悩んでいるこの頃なのです。

  • 49番歌 大中臣能宣朝臣(おおなかとみのよしのぶあそん)

    原文

    御垣守 衛士の焚く火の 夜は燃え
    昼は消えつつ 物をこそ思へ

    (みかきもり ゑじのたくひの よるはもえ
    ひるはきえつつ ものをこそおもへ)

    現代語訳

    宮中の門を守る衛士(えじ)の焚くかがり火が、夜には燃えて昼には消えることを繰り返しているように、私の恋心も夜には燃え上がり、昼には消え入りそうになるほどに、毎日のように物思いに沈んでいます。

  • 50番歌 藤原義孝(ふじわらのよしたか)

    原文

    君がため 惜しからざりし 命さへ
    長くもがなと 思ひけるかな

    (きみがため をしからざりし いのちさへ
    ながくもがなと おもひけるかな)

    現代語訳

    あなたに逢えるのであれば。死んでも惜しくはないと思った命でしたが、逢えた今では、末永く生きてあなと一緒にいたいと思うようになりました。

  • 51番歌 藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)

    原文

    かくとだに えやはいぶきの さしも草
    さしも知らじな 燃ゆる思ひを

    (かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ
    さしもしらじな もゆるおもひを)

    現代語訳

    これほどまでに、あなたのことを思い焦がれているのに言うことができないのですから、伊吹山のさしも草(ヨモギのこと。伊吹山の名物)のように、激しく燃える私の思いを、あなたは知らないでしょう。

  • 52番歌 藤原道信朝臣(ふじわらのみちのぶあそん)

    原文

    明けぬれば 暮るるものとは 知りながら
    なほ恨めしき 朝ぼらけかな

    (あけぬれば くるるものとは しりながら
    なほうらめしき あさぼらけかな)

    現代語訳

    夜が明ければ、やがてまたが日暮れて、あなたにお逢いできることは分かっていながら、それでも別れなければいけない夜明けが恨めしいのです。

  • 53番歌 右大将道綱母(うだいしょうみちつなのはは)

    原文

    嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は
    いかに久しき ものとかは知る

    (なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは
    いかにひさしき ものとかはしる)

    現代語訳

    あなたが来ないことを嘆きながら、ひとりで孤独に寝る夜の明けるまでの時間がどんなに長いものか、あなたはご存じでしょうか。ご存じないでしょうね。

  • 54番歌 儀同三司母(ぎどうさんしのはは)

    原文

    忘れじの 行末までは かたければ
    今日を限りの 命ともがな

    (わすれじの ゆくすゑまでは かたければ
    けふをかぎりの いのちともがな)

    現代語訳

    「いつまでも忘れない」と言うあなたの言葉が、遠い将来まで続くかどうかは難しいので、そうおっしゃって下さった今日を限りに、私の命が終わって欲しいのです。

  • 55番歌 大納言公任(だいなごんきんとう)

    原文

    滝の音は 絶えて久しく なりぬれど
    名こそ流れて なほ聞えけれ

    (たきのおとは たえてひさしく なりぬれど
    なこそながれて なほきこえけれ)

    現代語訳

    美しかった滝の流れ落ちる水音が途絶えてから、ずいぶん長い時間が経ってしまいましたが、その評判は今もなお流れ伝わり、聞こえて来るのです。

  • 56番歌 和泉式部(いずみしきぶ)

    原文

    あらざらむ この世のほかの 思ひ出に
    いまひとたびの 逢ふこともがな

    (あらざらむ このよのほかの おもひでに
    いまひとたびの あふこともがな)

    現代語訳

    私はまもなく死んでこの世を去ると思いますが、あの世への思い出として、せめてもう一度、あなたにお逢いしたいのです。

  • 57番歌 紫式部(むらさきしきぶ)

    原文

    めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に
    雲隠れにし 夜半の月かな

    (めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに
    くもがくれにし よはのつきかな)

    現代語訳

    久しぶりにお逢いしたのに、今見たのがあなたかどうか見分けもつかない間に帰られたのですね。まるで夜中の月が、雲に隠れて見えなくなってしまうように。

  • 58番歌 大弐三位(だいにのさんみ)

    原文

    有馬山 猪名の笹原 風吹けば
    いでそよ人を 忘れやはする

    (ありまやま ゐなのささはら かぜふけば
    いでそよひとを わすれやはする)

    現代語訳

    有馬山(現在の兵庫県神戸市にある山)にほど近い猪名の笹原(兵庫県の猪名川沿いに広がる笹の生えた原野)に風が吹くと、そよそよと葉の音がします。そうですよ、どうしてあなたのことを忘れることがあるのでしょうか。私は決して忘れたりはしませんよ。

  • 59番歌 赤染衛門(あかぞめえもん)

    原文

    やすらはで 寝なましものを 小夜更けて
    かたぶくまでの 月を見しかな

    (やすらはで ねなましものを さよふけて
    かたぶくまでの つきをみしかな)

    現代語訳

    あなたに来て頂けないことが分かっていたのなら、ためらわず寝てしまっていたのに。あなたの言葉を信じて待っている間に夜が更けて、とうとう月が西に傾くまで見てしまったのですよ。

  • 60番歌 小式部内侍(こしきぶのないし)

    原文

    大江山 いく野の道の 遠ければ
    まだふみも見ず 天の橋立

    (おほえやま いくののみちの とほければ
    まだふみもみず あまのはしだて)

    現代語訳

    大江山(現在の京都府北西部にある山。同音で「大枝山」とも)を越えて行き、生野(現在の京都府福知山市)を通って行く道が遠いので、母の「和泉式部」(いずみしきぶ)がいる天の橋立の地を踏んでみたこともありませんし、母からの手紙も見ておりません。

  • 61番歌 伊勢大輔(いせのたいふ)

    原文

    いにしへの 奈良の都の 八重桜
    けふ九重に にほひぬるかな

    (いにしへの ならのみやこの やへざくら
    けふここのへに にほひぬるかな)

    現代語訳

    かつて栄えた奈良の都で咲いた八重桜が、今日は新しい都である京都の宮中で、美しく咲き誇っていますよ。

  • 62番歌 清少納言(せいしょうなごん)

    原文

    夜をこめて 鳥の空音は はかるとも
    よに逢坂の 関はゆるさじ

    (よをこめて とりのそらねは はかるとも
    よにあふさかの せきはゆるさじ)

    現代語訳

    まだ夜の明けぬうちに、鶏の鳴き声をまねて朝が来たと人を騙して通ろうとしても、函谷関(かんこくかん:中国河南省北西部にあった関所)の故事であればともかく、逢坂の関(現在の京都府と滋賀県の境にあった関所)は決して通しませんよ。私はあなたとは逢うことはないのです。

  • 63番歌 左京大夫道雅(さきょうのだいぶみちまさ)

    原文

    今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを
    人づてならで いふよしもがな

    (いまはただ おもひたえなむ とばかりを
    ひとづてならで いふよしもがな)

    現代語訳

    今となってはもう、あなたのことは諦めますということだけでも、人づてではなく直接あなたにお会いして、伝える方法がないものでしょうか。

  • 64番歌 権中納言定頼(ごんちゅうなごんさだより)

    原文

    朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに
    あらはれわたる 瀬々の網代木

    (あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに
    あらはれわたる せぜのあじろぎ)

    現代語訳

    夜が白々と明ける頃、宇治川(現在の京都府南部を流れる川)に立ち込めた朝霧が途切れ途切れに晴れてきて、あちらこちらの川瀬から、網代木(あじろぎ:竹や木などで編んだ網を、川に立てるための杭)が現れてきました。

  • 65番歌 相模(さがみ)

    原文

    恨みわび ほさぬ袖だに あるものを
    恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ

    (うらみわび ほさぬそでだに あるものを
    こひにくちなむ なこそをしけれ)

    現代語訳

    あの人のつれなさを恨み続け、今となっては恨む気力もなくなって、涙に濡れて乾く暇もない袖さえ朽ちることが惜しいのに、恋の浮名に朽ちてしまうであろう、我が名がなおさら惜しいことよ。

  • 66番歌 前大僧正行尊(さきのだいそうじょうぎょうそん)

    原文

    もろともに あはれと思へ 山桜
    花よりほかに 知る人もなし

    (もろともに あはれとおもへ やまざくら
    はなよりほかに しるひともなし)

    現代語訳

    私がお前を懐かしく思うように、お前も私を懐かしいと思っておくれ、山桜よ。こんな山奥では、お前以外に私の孤独な心を知る人もいないのだから。

  • 67番歌 周防内侍(すおうのないし)

    原文

    春の夜の 夢ばかりなる 手枕に
    かひなく立たむ 名こそをしけれ

    (はるのよの ゆめばかりなる たまくらに
    かひなくたたむ なこそをしけれ)

    現代語訳

    春の夜に見る短い夢のように、ほんの束の間、あなたの手枕をお借りしたばかりに、つまらない浮名が流れてしまったら、本当に残念です。

  • 68番歌 三条院(さんじょういん)

    原文

    心にも あらでうき世に ながらへば
    恋しかるべき 夜半の月かな

    (こころにも あらでうきよに ながらへば
    こひしかるべき よはのつきかな)

    現代語訳

    不本意ではあるが、つらいことが多いこの世の中に生き長らえたとしたら、今夜の月のことを、きっと恋しく思い出すだろう。

  • 69番歌 能因法師(のういんほうし)

    原文

    嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は
    龍田の川の 錦なりけり

    (あらしふく みむろのやまの もみぢばは
    たつたのかはの にしきなりけり)

    現代語訳

    嵐が吹き散らす三室の山(現在の奈良県生駒郡、龍田川付近にある山)の紅葉は、龍田川の水面を彩り、錦の織物のように美しいことよ。

  • 70番歌 良暹法師(りょうぜんほうし)

    原文

    さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば
    いづこも同じ 秋の夕暮

    (さびしさに やどをたちいでて ながむれば
    いづこもおなじ あきのゆふぐれ)

    現代語訳

    あまりの寂しさに家を出て、辺りを眺めてみたところ、どこも同じように寂しい秋の夕暮れであった。

  • 71番歌 大納言経信(だいなごんつねのぶ)

    原文

    夕されば 門田の稲葉 おとづれて
    蘆のまろやに 秋風ぞ吹く

    (ゆふされば かどたのいなば おとづれて
    あしのまろやに あきかぜぞふく)

    現代語訳

    夕方になると、家の前の田んぼにある稲葉がそよそよと音を立てて、この芦葺きの田舎家に、秋風が吹いてくるよ。

  • 72番歌 祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)

    原文

    音に聞く 高師の浜の あだ波は
    かけじや袖の ぬれもこそすれ

    (おとにきく たかしのはまの あだなみは
    かけじやそでの ぬれもこそすれ)

    現代語訳

    評判の高い、高師の浜(現在の大阪府堺市にある海岸)のむなしく立つ波には、掛からないようにしましょう。袖が濡れると大変ですから。浮気者で有名なあなたのお言葉も、心に掛けることはしませんよ。涙で袖を濡らすと嫌ですから。

  • 73番歌 権中納言匡房(ごんちゅうなごんまさふさ)

    原文

    高砂の 尾上の桜 咲きにけり
    外山の霞 立たずもあらなむ

    (たかさごの をのへのさくら さきにけり
    とやまのかすみ たたずもあらなむ)

    現代語訳

    遠く離れた高い山の峰に桜が咲いたなあ。人里近い山の霞よ、美しい桜が見えなくなるので、どうか立たないでおくれ。

  • 74番歌 源俊頼朝臣(みなもとのとしよりあそん)

    原文

    憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ
    はげしかれとは 祈らぬものを

    (うかりける ひとをはつせの やまおろしよ
    はげしかれとは いのらぬものを)

    現代語訳

    つれないあの人が私に振り向いて下さるように、初瀬(現在の奈良県桜井市にある長谷寺のこと)の観音様にお祈りはしたはずです。初瀬の山おろしの風のように、あの人が私に、なおさらつらく当たるようにとお祈りはしていませんのに。

  • 75番歌 藤原基俊(ふじわらのもととし)

    原文

    契りおきし させもが露を 命にて
    あはれ今年の 秋もいぬめり

    (ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて
    あはれことしの あきもいぬめり)

    現代語訳

    約束して下さった、させも草(ヨモギのこと)に結ばれた恵みの露のように有難いお言葉を、命と思って頼りにしてきましたのに、ああ、今年の秋もむなしく過ぎ去ってしまいそうです。

  • 76番歌 法性寺入道前関白太政大臣(ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだいじょうだいじん)

    原文

    わたの原 漕ぎ出でて見れば ひさかたの
    雲居にまがふ 沖つ白波

    (わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの
    くもゐにまがふ おきつしらなみ)

    現代語訳

    大海原に舟を漕ぎ出して遠くを見渡すと、雲と見間違えるような沖の白波が立っていることよ。

  • 77番歌 崇徳院(すとくいん)

    原文

    瀬を早み 岩にせかるる 滝川の
    われても末に 逢はむとぞ思ふ

    (せをはやみ いはにせかるる たきがはの
    われてもすゑに あはむとぞおもふ)

    現代語訳

    川底が浅いところは流れが速いので、岩にせき止められた滝のような急流の水が二手に分かれたとしても、再びひとつになるように、今あなたと別れても、いつかきっと一緒になれると思っています。

  • 78番歌 源兼昌(みなもとのかねまさ)

    原文

    淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に
    幾夜寝覚めぬ 須磨の関守

    (あはぢしま かよふちどりの なくこゑに
    いくよねざめぬ すまのせきもり)

    現代語訳

    淡路島(瀬戸内海東部に位置する島)から飛んで来る千鳥の寂しげな鳴き声に、幾晩目を覚ましたことでしょうか、須磨(現在の兵庫県神戸市須磨区)の関所の番人は。

  • 79番歌 左京大夫顕輔(さきょうのだいぶあきすけ)

    原文

    秋風に たなびく雲の 絶え間より
    もれ出づる月の 影のさやけさ

    (あきかぜに たなびくくもの たえまより
    もれいづるつきの かげのさやけさ)

    現代語訳

    秋風が吹き、たなびいている雲の切れ間から、漏れ出る月の光の、何と明るく澄み切っていることでしょう。

  • 80番歌 待賢門院堀河(たいけんもんいんのほりかわ)

    原文

    長からむ 心も知らず 黒髪の
    乱れて今朝は 物をこそ思へ

    (ながからむ こころもしらず くろかみの
    みだれてけさは ものをこそおもへ)

    現代語訳

    私に対するあなたの心が、末永く変わらないかは分かりません。お別れした今朝は、この黒髪が乱れているように私の心が乱れ、物思いに沈んでいます。

  • 81番歌 後徳大寺左大臣(ごとくだいじのさだいじん)

    原文

    ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば
    ただ有明の 月ぞ残れる

    (ほととぎす なきつるかたを ながむれば
    ただありあけの つきぞのこれる)

    現代語訳

    ほととぎすの鳴き声が聞こえた方に目をやると、その姿はなく、ただ明け方の空に月が残っているだけでした。

  • 82番歌 道因法師(どういんほうし)

    原文

    思ひわび さても命は あるものを
    憂きに堪へぬは 涙なりけり

    (おもひわび さてもいのちは あるものを
    うきにたへぬは なみだなりけり)

    現代語訳

    つれない人を思って悩み続けても、それでも命は長らえているのに、つらさに耐え切れずに流れ落ちてくるのは涙なのです。

  • 83番歌 皇太后宮大夫俊成(こうたいごうぐうのだいぶとしなり)

    原文

    世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る
    山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる

    (よのなかよ みちこそなけれ おもひいる
    やまのおくにも しかぞなくなる)

    現代語訳

    世の中には逃れる道はないのですね。深く思い詰めて入ったこの山奥にも、鹿が悲しげに鳴いているのです。

  • 84番歌 藤原清輔朝臣(ふじわらのきよすけあそん)

    原文

    長らへば またこのごろや しのばれむ
    憂しと見し世ぞ 今は恋しき

    (ながらへば またこのごろや しのばれむ
    うしとみしよぞ いまはこひしき)

    現代語訳

    これからこの世に生き長らえるのならば、今のつらさが懐かしく思い出されるのだろうか。つらかった昔が、今では恋しく感じられるのだから。

  • 85番歌 俊恵法師(しゅんえほうし)

    原文

    夜もすがら 物思ふころは 明けやらで
    閨のひまさへ つれなかりけり

    (よもすがら ものおもふころは あけやらで
    ねやのひまさへ つれなかりけり)

    現代語訳

    一晩中、恋人のつれなさを恨み、物思いにふけるこの頃は、なかなか夜が明けてくれないので、いつまで経っても朝日の光が差し込まない寝室の戸の隙間さえも、無情に思われるのです。

  • 86番歌 西行法師(さいぎょうほうし)

    原文

    嘆けとて 月やは物を 思はする
    かこち顔なる わが涙かな

    (なげけとて つきやはものを おもはする
    かこちがほなる わがなみだかな)

    現代語訳

    「嘆け」と言って、月が私に物思いをさせているのであろうか。いや、そうではない。その本当の理由は恋の悩みのためであるのに、まるで月のせいであるかのように、流れ落ちる私の涙であることよ。

  • 87番歌 寂蓮法師(じゃくれんほうし)

    原文

    村雨の 露もまだひぬ 槇の葉に
    霧たちのぼる 秋の夕ぐれ

    (むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに
    きりたちのぼる あきのゆふぐれ)

    現代語訳

    にわか雨が通り過ぎ、その露がまだ乾いていない檜や杉などの葉に、霧が白く立ち上る秋の夕暮れである。

  • 88番歌 皇嘉門院別当(こうかもんいんのべっとう)

    原文

    難波江の 蘆のかりねの ひとよゆゑ
    みをつくしてや 恋ひわたるべき

    (なにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ
    みをつくしてや こひわたるべき)

    現代語訳

    難波(現在の大阪府大阪市)の入り江に生えている、芦の刈り根のわずかな一節のように短い、たった一夜の契りのために、我が身を尽くして、あなたに恋し続けなければならないのでしょうか。

  • 89番歌 式子内親王(しょくしないしんのう)

    原文

    玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば
    忍ぶることの 弱りもぞする

    (たまのをよ たえなばたえね ながらへば
    しのぶることの よわりもぞする)

    現代語訳

    わが命よ。絶えることならもう絶えてしまえ。このまま生き長らえていたら、胸のうちに秘めている恋心を忍ぶ気力が弱まってしまい、思いが外に現れてしまうかもしれないから。

  • 90番歌 殷富門院大輔(いんぷもんいんのたいふ)

    原文

    見せばやな 雄島のあまの 袖だにも
    濡れにぞ濡れし 色はかはらず

    (みせばやな をじまのあまの そでだにも
    ぬれにぞぬれし いろはかはらず)

    現代語訳

    血の涙に濡れて色が変わってしまった私の袖を、あなたにお見せしたいものです。あの松島の雄島(宮城県の松島にある島のひとつ)の漁師の袖でさえ、いくら濡れていても、色まで変わったりはしないのに。

  • 91番歌 後京極摂政前太政大臣(ごきょうごくせっしょうさきのだいじょうだいじん)

    原文

    きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに
    衣片敷き ひとりかも寝む

    (きりぎりす なくやしもよの さむしろに
    ころもかたしき ひとりかもねむ)

    現代語訳

    こおろぎが鳴き、霜が降りる寒々しい夜に、筵(むしろ:藁などで編んだ敷物)の上に衣の片袖を敷いて、私はひとり寂しく寝るのでしょうか。

  • 92番歌 二条院讃岐(にじょういんのさぬき)

    原文

    わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の
    人こそ知らね 乾く間もなし

    (わがそでは しほひにみえぬ おきのいしの
    ひとこそしらね かわくまもなし)

    現代語訳

    私の袖は、潮が引いたときでも海の中に隠れて見えない沖の石のように、人は知らないでしょうが、涙で濡れて乾く暇もありません。

  • 93番歌 鎌倉右大臣(かまくらのうだいじん)

    原文

    世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ
    あまの小舟の 綱手かなしも

    (よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ
    あまのをぶねの つなでかなしも)

    現代語訳

    この世の中は永遠に変わらないでほしいなあ。渚を漕いでいく漁師が小舟を引き網で引く光景に、心が動かされることよ。

  • 94番歌 参議雅経(さんぎまさつね)

    原文

    み吉野の 山の秋風 小夜ふけて
    ふるさと寒く 衣うつなり

    (みよしのの やまのあきかぜ さよふけて
    ふるさとさむく ころもうつなり)

    現代語訳

    吉野山(現在の奈良県南部にある山岳地帯)から秋風が吹き渡る夜更け頃になると、古都である吉野の里では、衣を打つ砧(きぬた:布を木槌で打ち、やわらかくしたり艶を出したりするのに用いられる道具)の音が、寒々と聞こえてきます。

  • 95番歌 前大僧正慈円(さきのだいそうじょうじえん)

    原文

    おほけなく うき世の民に おほふかな
    わがたつ杣に 墨染の袖

    (おほけなく うきよのたみに おほふかな
    わがたつそまに すみぞめのそで)

    現代語訳

    身のほど知らずながら、このつらい世に生きる人々に覆いかけよう。比叡山(ひえいざん:現在の京都市北東部と滋賀県大津市西部にまたがる山)に住みはじめた私の、墨染めにした僧衣の袖を。

  • 96番歌 入道前太政大臣(にゅうどうさきのだいじょうだいじん)

    原文

    花さそふ 嵐の庭の 雪ならで
    ふりゆくものは わが身なりけり

    (はなさそふ あらしのにはの ゆきならで
    ふりゆくものは わがみなりけり)

    現代語訳

    桜の花を誘って吹き散らす嵐の庭。そこに降りゆくのは桜吹雪ではなく、本当に「古りゆく」(ふりゆく)、つまり年老いていくのは、我が身だったのですね。

  • 97番歌 権中納言定家(ごんちゅうなごんさだいえ)

    原文

    来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに
    焼くや藻塩の 身もこがれつつ

    (こぬひとを まつほのうらの ゆふなぎに
    やくやもしほの みもこがれつつ)

    現代語訳

    いつまでも来ない人を待つ私は、夕凪(夕方の海岸地帯で、海風と陸風が入れ替わるときに起こる無風状態)の頃に松帆の浦(現在の兵庫県・淡路島北端にある海岸)で焼かれる藻塩(もしお:海藻から作られる塩)のように、ずっとこの身を焦がしています。

  • 98番歌 従二位家隆(じゅうにいいえたか)

    原文

    風そよぐ ならの小川の 夕暮は
    みそぎぞ夏の しるしなりける

    (かぜそよぐ ならのをがはの ゆふぐれは
    みそぎぞなつの しるしなりける)

    現代語訳

    そよそよと吹く風が、楢(なら)の葉に吹いています。楢の小川(京都にある上賀茂神社の境内を流れる御手洗川[みたらしがわ])の夕暮れは、もう秋かと思うほどの涼しさですが、その川岸で「六月祓」(みなづきばらえ:旧暦の6月末に行なわれていた、上半期に身に付いた穢れ[けがれ]を祓う行事)の禊(みそぎ)を見ると、まだ夏である証しなのです。

  • 99番歌 後鳥羽院(ごとばいん)

    原文

    人もをし 人もうらめし あぢきなく
    世を思ふゆゑに 物思ふ身は

    (ひともをし ひともうらめし あぢきなく
    よをおもふゆゑに ものおもふみは)

    現代語訳

    人が愛おしくも、また恨めしくも思われる。世の中をつまらなく思ってしまうために、様々な物思いをしてるこの私には。

  • 100番歌 順徳院(じゅんとくいん)

    原文

    百敷や 古き軒端の しのぶにも
    なほあまりある 昔なりけり

    (ももしきや ふるきのきばの しのぶにも
    なほあまりある むかしなりけり)

    現代語訳

    宮中の古びた軒端に生えている忍草(しのぶぐさ:シダ植物の一種)を見ると、いくら偲んでも偲び尽くせない、恋しい昔の御代(みよ:天皇の御治世。ここでは醍醐天皇、村上天皇の時代を指す)であることよ。

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