1980年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

山口貴由
 - 刀剣ワールド

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「第六景 鎌鼬」【シグルイ】より
「第六景 鎌鼬」【シグルイ】より
山口貴由の代表作の主人公・藤木源之助。虎眼流の開祖・岩本虎眼から継承した秘剣・流れ星の剣技を用います。その特徴は図解されます。
(山口貴由の刀剣キャラ④ 虎眼流の開祖・岩本虎眼より)
【シグルイ】で知られる山口貴由(やまぐちたかゆき)。同作では、同門の2人の剣士の争いを描いた南條範夫の時代小説を原作に大いに膨らませ、独自の世界観を作り出しました。江戸幕府に逆らう人々を描いた【衛府の七忍】でも山田風太郎や隆慶一郎などの時代小説のアイデアをもとに独自の世界観を生み出しています。そこには変身ヒーローと時代小説との混合があります。

山口貴由の刀剣キャラ① 父の剣の道を受け継ぐ葉隠覚悟

山口貴由(やまぐちたかゆき)は永井豪の漫画を模写する子供時代を過ごしました。

劇画原作者・小池一夫(代表作:【子連れ狼】、【修羅雪姫】など)が主宰する劇画村塾の第5期生を経て、小池一夫が関連する月刊青年漫画雑誌と、さいとう・たかを(代表作:【ゴルゴ13】、【影狩り】など)が関連する月刊青年漫画雑誌で発表を続けます(【変化御用 はらら】、【サイバー桃太郎】、【平成武装正義団】など)。

商業漫画雑誌デビュー作となった【サイバー桃太郎】(1990年〔月刊コミック ジャックポット〕連載)と【新サイバー桃太郎】(1991年〔月刊コミック ジャックポット〕連載)では、サイボーグとなった桃太郎の物語を描いています。

山口貴由は【覚悟のススメ】(1994~1996年〔週刊少年チャンピオン〕連載)で、少年漫画雑誌に初連載します。

荒廃した東京を舞台に、主人公の男子高校生・葉隠覚悟(はがくれかくご)と、人の心を失い現人鬼(あらひとおに)となった性別不明の兄・葉隠散(はがくれはらら)との人類存亡を巡る争いが描かれます。

兄弟は第2次世界大戦時に曽祖父が開発した鎧・強化外骨格をまとって戦います。兄は曽祖父の「零式をあやつる者は天に選ばれし者」という考えを受け継ぎ、対して弟の葉隠覚悟は父・葉隠朧(はがくれおぼろ)の剣の道を受け継ぎました。

葉隠覚悟は、共に変身した兄弟の争いのなかで父の教えを語ります。

「零式防衛術は己のための剣にあらず」、「牙を持たぬ人の剣なり」、「ゆえに剣を抜くのは決して己ではなく」、「牙を持たぬ人の祈りなり」

  • 「第十話 因果」【覚悟のススメ】より

    「第十話 因果」【覚悟のススメ】より

  • 「第十話 因果」【覚悟のススメ】より

    「第十話 因果」【覚悟のススメ】より

石森(石ノ森)章太郎【人造人間キカイダー】【キカイダー01】や永井豪【デビルマン】の系譜にある覚悟のススメは連載が終了した年、販売やレンタルを主としたオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)化され、山口貴由の最初の代表作となりました。

山口貴由の刀剣キャラ② 虎眼流創始者の養子・藤木源之助

山口貴由はその後、青年漫画雑誌に移行します。

由井正雪の乱(慶安の変)を独創的に現代劇化した【蛮勇引力】(2001~2002年〔ヤングアニマル〕連載)を経て、南條範夫の時代小説【駿河城御前試合】を原作とした【シグルイ】(2003~2010年〔チャンピオンRED〕連載)を発表します。

タイトルは、武士の心得を記した江戸時代中期の書物【葉隠】の一節、「死狂い」から採られました。題字は平田弘史(代表作【首代引受人】など)が手がけています。同作は連載5年目にテレビアニメ化され、山口貴由の2作目の代表作となりました。

物語は江戸時代初期、駿河大納言・徳川忠長(江戸幕府第3代将軍・徳川家光の弟)の命で行われた真剣によるご前試合から始まります。

主人公は、虎眼流(こがんりゅう)の師範を務めた隻腕の藤木源之助(ふじきげんのすけ)です。百姓の家に生まれた藤木源之助は、虎眼流創始者の養子となったことで武士となり、虎眼流の継承者にふさわしい剣客に成長します。

けれどもライバルの出現によって継承者の座は奪われ、虎眼流は消滅へ。ライバルとの争いによって藤木源之助は左腕も失います。ご前試合はその2度目の敵討ちの場でもありました。

虎眼流の構えは横の流れを得意とします。山口貴由は「異形と化すまでに鍛え込まれた背中」と記し、その構えを着物姿と着物の下の肉体美とを交差させて描きました。

「第一景 駿河城御前試合」【シグルイ】より

「第一景 駿河城御前試合」
【シグルイ】より

「第二景 他流試合心得」【シグルイ】より

「第二景 他流試合心得」
【シグルイ】より

山口貴由の刀剣キャラ③ 無明流の開祖・伊良子清玄

藤木源之助のライバルは、美剣士・伊良子清玄(いらこせいげん)です。

夜鷹(下級の私娼)の母のもとで育ち、出世を夢見て、その剣の腕前で虎眼流への道場破りを経て入門しました。

藤木源之助の「士の家に生まれたる者のなすべきは」、「お家を守る」、「これに尽き申す」の一言でライバル心があおられ、その剣の才能で虎眼流の継承者までになります。けれども師の妾に手を出したことで師から仕置きを受けて盲目となります。

その後、師を殺めた伊良子清玄は藤木源之助からの1度目の敵討ちの際、兄弟子との争いによって右足も不自由となりました。

虎眼流から追放された伊良子清玄は、無明流(むみょうりゅう)を興し、無明逆流れを編み出します。それは横の流れを得意とした虎眼流に対し、下から上への切り上げを得意とする剣技です。

山口貴由は「万力の如く刀身を締めつける跛足の指先」と記し、強靭な足先の肉体美を強調して描きました。

「第一景 駿河城御前試合」【シグルイ】より

「第一景 駿河城御前試合」
【シグルイ】より

「第二景 他流試合心得」【シグルイ】より

「第二景 他流試合心得」
【シグルイ】より

山口貴由の刀剣キャラ④ 虎眼流の開祖・岩本虎眼

「第三十景 流れ星」【シグルイ】より

「第三十景 流れ星」
【シグルイ】より

藤木源之助と伊良子清玄の師匠は、濃尾無双と謳われた虎眼流の開祖・岩本虎眼(いわもとこがん)です。柳生宗矩(徳川将軍家兵法指南役)を立ち合いで打ち負かす実力の持ち主です。

けれどもその柳生宗矩の策略で士官の道を断たれた過去を持っています。こうした策略家としての柳生宗矩像は、梶原一騎原作【斬殺者】(小島剛夕作画)が先行しています。

岩本虎眼は、秘剣・流れ星の剣技を用います。左手で剣先を持ち、「何人もこの魔技から逃げることはできない」と記されます。

「第三十景 流れ星」【シグルイ】より

「第三十景 流れ星」
【シグルイ】より

この流れ星は、藤木源之助が受け継ぎました。

山口貴由は原作小説のわずかな一文「対手の首を狙って、流星の走る如く横に薙ぎ払う一刀必殺の魔剣」を独創的に拡げ、図解して説明します。

「源之助の右手は」、「鍔元の縁から」、「柄尻の頭まで」、「横滑りしていたのである」、「切先は予想以上に伸びていた」と記し、藤木源之助の着物の下の肉体美を通して見せました。

「第六景 鎌鼬」【シグルイ】より

「第六景 鎌鼬」
【シグルイ】より

虎殺七丁念仏と備前長船光忠の一

山口貴由は原作小説にはない刀剣・日本刀の特徴を加えています。

藤木源之助はご前試合の前、備前産の虎殺七丁念仏(とらころしななちょうねんぶつ)の刀を手に入れます。それは手に入れた者には災いをもたらすとされる妖刀です。

斬られた者は七丁先で初めて気づくというほどの切れ味に由来するこの刀は、もともとは七丁念仏だった刀名に虎眼流の岩本家の没落によって虎殺の名が付け加えられました。

伊良子清玄もご前試合を前に刀を入手します。備前長船光忠の鍛えた一(いちのじ)です。こちらは7分反り3尺3寸ほぼ直刀の野太刀です。

南條範夫と残酷時代劇

シグルイは、その描写から残酷無惨時代劇漫画と称されます。

【日本残酷物語】(谷川健一企画編集、宮本常一・山本周五郎ら監修)刊行以降(1959~1960年)、残酷描写が流行します。

劇画漫画家・平田弘史は、南條範夫原案とも言える【復讐つんではくずし】(1961年)、南條範夫原作【駿府凄絶大仕合】(1966年)などを劇画にしました。

映画でもこの時期、小林正樹監督【切腹】(滝口康彦【異聞浪人記】原作、1962年公開)、今井正監督【武士道残酷物語】(南條範夫【被虐の系譜】原作、1963年公開)などが制作されています。

シグルイの原作となった南條範夫【駿河城御前試合】(1956~1962年〔オール讀物〕断続連載)は、こうした流れにありました。

残酷描写ブームのなかで【南条範夫残酷全集】(1965年)、【南条範夫新残酷全集】(1965~1966年)も続けて刊行されています。

山口貴由の刀剣キャラ⑤ 盾と矛を備える強化外骨格をまとう葉隠覚悟

山口貴由はその後、過去に登場したキャラクターを自身の漫画のなかで関連付けていきます。永井豪が【バイオレンスジャック】で試みた手法です。

【エクゾスカル零】(2010~2015年〔チャンピオンRED〕連載)では、覚悟のススメの主人公の2人・葉隠覚悟と現人鬼散と同名の登場人物が活躍しました。葉隠覚悟が蘇った場面では、刀剣・日本刀がもろく崩れ去った描写で荒廃した近未来が表現されました。

こうした文明崩壊後の世界観もバイオレンスジャックと共通します。

「地獄編 第零歌 ACT2」 【エクゾスカル零】より

「地獄編 第零歌 ACT2」【エクゾスカル零】より

そして強化外骨格「零」について、「最強の「盾」と最強の「矛」を同時に併せ持つ」、「エクゾスカルと命名された鎧である」と書きました。

「地獄編 第零歌 ACT2」 【エクゾスカル零】より

「地獄編 第零歌 ACT2」 【エクゾスカル零】より

さらに、主人公は軍刀の斬魔挺身刀(ざんまていしんとう)を用いるも、敵の鎧にその刀はもろくも崩れ去ります。

「装甲電獅子のボディを走る高電流が盾となり」、「着装者に到達する前に弾丸や刀を蒸発させてしまうのだ」と記します。シグルイから続く武器としての身体を重んじる描写です。

  • 「地獄編 第一歌 ACT4」 【エクゾスカル零】より

    「地獄編 第一歌 ACT4」
    【エクゾスカル零】より

  • 「地獄編 第一歌 ACT4」 【エクゾスカル零】より

    「地獄編 第一歌 ACT4」
    【エクゾスカル零】より

山口貴由の刀剣キャラ⑥ 愛刀は大鉈・カクゴ

「第二話<零鬼編二> 神君威光封入済民兵」【衛府の七忍】より

「第二話<零鬼編二> 神君威光封入済民兵」
【衛府の七忍】より

「第三話<零鬼編二> 魔骸神変怨身忍法」【衛府の七忍】より

「第三話<零鬼編二> 魔骸神変怨身忍法」
【衛府の七忍】より

過去に描いた自作キャラクターを登場させる手法は【衛府の七忍】(2015~2021年〔チャンピオン RED〕連載)でも試みられます。

葉隠谷に住む青年主人公・カクゴの他、憐、六花、波裸羅、猛丸、隻腕の犬養幻之介などエクゾスカル零、シグルイゆかりの面々を登場させています。

その際、覇府=幕府に対する衛府の面々は、化外の民、亡八、アイヌ、両性具有、琉球人、キリシタン、朝鮮人の「まつろわぬ民」、権力に従わない人々として描きました。

衛府の七忍は、徳川家康大坂夏の陣で滅ぼされた豊臣方の真田家家臣の娘・伊織が残党狩りから信濃国の葉隠谷へ逃げ込んできた場面から始まります。谷に生き、獣を食べる化外の民・葉隠衆のカクゴは徳川方の追手から伊織を助けます。その手には葉隠谷の秘蔵の大鉈がありました。

「第二話<零鬼編二> 神君威光封入済民兵」【衛府の七忍】より

「第二話<零鬼編二> 神君威光封入済民兵」
【衛府の七忍】より

けれどもカクゴは伊織を守り、命を落としてしまいます。その無残に敗れた心残りは、彼を死の淵から蘇らせ、特殊な鎧に身を包んだ怨身忍者の零鬼(れいき)へと生まれ変わらせます。

「第三話<零鬼編二> 魔骸神変怨身忍法」【衛府の七忍】より

「第三話<零鬼編二> 魔骸神変怨身忍法」
【衛府の七忍】より

衛府の七忍には、物語においては山田風太郎の【忍法帖】シリーズや隆慶一郎が【吉原御免状】以来描き続けた道々の輩などの時代小説が、キャラクター造形においては石森(石ノ森)章太郎の【変身忍者嵐】が根底に流れています。

山口貴由の刀剣伝記漫画

山口貴由はエクゾスカル零連載中、さいとう・たかをが関連する隔月青年漫画雑誌で巻頭カラー企画【魔剣豪画劇】(2013~2014年〔コミック乱ツインズ 戦国武将列伝〕連載)を発表しています。

宮本武蔵、沖田総司、伊東一刀斎、塚原卜伝高幹、桃太郎、柳生但馬守宗矩を順に、独自の筋肉美を強調したカラーイラストで描いています。

筋肉美を強調した残酷描写が目を引く山口貴由の刀剣漫画。そこには時代小説の名作と特撮変身ヒーロー物とを結び付けた独自の着眼があります。

著者名:三宅顕人

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