1980年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

楠桂

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【八神くんの家庭の事情】で知られる楠桂(くすのきけい)。楠はデビュー期以来、ホラーを前提とした刀剣漫画を数多く描いています。その多くの刀剣漫画では、人間の中に潜む邪悪な心(鬼)が刀剣・日本刀によって斬られます。

楠桂の初期刀剣漫画

楠桂は、高校生だった15歳の時、第14回りぼん新人漫画賞を受賞します。そして、読み切り【何かが彼女にとりついた?】(1982年〔りぼんオリジナル〕掲載)でデビューしました。

続いて【ぼくの学校は戦場だった】(1983年〔りぼんオリジナル〕掲載)と【禁じられた校則】(1984年〔りぼんオリジナル〕掲載)の読み切り2作を発表します。シリーズだった両作では、平和を愛する高校生・豊臣平和(ひらかず)を主人公に、軍国主義教育が行なわれていた転校先の関ヶ原高校での、授業に熱心な女性のクラスメート・織田戦(いくさ)との騒動が描かれました。

楠はその後、多数の伝奇ホラー漫画を発表していきます(【獄炎堂】【妖魔】【鬼魔】【古祭】【人狼草紙】など)。幼馴染の2人の忍びが人間と妖怪として対立する妖魔(1985~1986年〔りぼんオリジナル〕連載)は、連載終了の3年後にはオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)も制作されています。

安土桃山時代を中心に描いた人狼草紙(1991~1998年〔月刊ウィングス〕不定期連載)では、その血肉を食らえば不老不死になれる半人半獣・人狼が描かれます。織田信長の妹・お市を含む怨霊達に殺された生粋の人狼・狼牙王(ろうがおう)の生まれ変わりとなった太一は、怨霊達に殺された双子の妹を蘇らすべく人狼の力を取り戻すため、最も人狼の血肉を食らったお市の怨霊・翡翠(ひすい)を倒すことを目指します。

少女漫画だけでなく少年漫画も手がけていく楠は、その最初期作となったラブコメ【八神くんの家庭の事情】(1986~1990年〔週刊少年サンデー増刊号〕連載)が連載終了の年にオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)化。その4年後にはテレビドラマ化もされ、代表作となりました。楠の双子の姉・大橋薫も漫画家として活躍し、姉妹で共作漫画(【戦国月夜】など)や共演CDも発表しています。

楠の刀剣キャラ① 愛刀は鬼切丸・名を持たない少年

楠はその後、少年漫画【鬼切丸】(1992~2001年〔少年サンデー超増刊号〕連載)を発表します。連載3年目にはオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)化。9年に及ぶ長期連載となり、楠のもうひとつの代表作となりました。

鬼切丸の主人公は、名を持たない学生服を着た少年で、鬼切丸の少年と呼ばれます。平安時代中期の武将・渡辺綱が京の羅生門で鬼の片腕を斬り落としたとされる名刀・髭切(別称・鬼切丸)に由来します。少年は手にする鬼切丸で、鬼の宿主となった人間を斬っていきます。同作では、鬼は人間の屍から生まれてくるとされ、主に女性に宿ります。

名を持たない少年が手にする鬼切丸は、鬼気(きき)を察知する能力を有しています。「ブウウーン」の音で描写されるその能力に基づいて少年は鬼を探します。

「鬼遊戯の章」【鬼切丸】より

「鬼遊戯の章」
【鬼切丸】より

名を持たない少年について、作中ではこう語られます。

「人にあって人にあらず。同族殺しを目的に生まれてきた純血の鬼だよ。」、「頭部にはえない角のかわりに鬼の角から削りだした刀をもっているのさ…」。「鬼は人間のしかばねから生まれ、鬼切丸は鬼のしかばねから生まれた。」、「人にあって人にあらず 鬼の天敵として生をうけた彼は年老いることもなく鬼を殺しつづける… すべての鬼を斬り殺せば人間になると信じて―――」、「いつか人間になりたくて鬼を斬り続ける鬼切丸。けれど人間のしかばねから鬼はどんどん生まれてくるばかり…」。

こうした同族殺しを描いた漫画は、石ノ森章太郎【サイボーグ009】【仮面ライダー】や石ノ森の弟子・永井豪【デビルマン】などが先行しています。

楠の刀剣キャラ② 愛刀は大通連・鈴鹿御前

ある時、名を持たない少年は、女子高校生の鈴鹿の元を訪れます。

鈴鹿は、「人間に宿り人間にまぎれて生きる鬼姫」の鈴鹿御前でした。古の時代の夫であった鬼・悪路王(あくろおう)が現代に現れ、完全復活のために「人間の女一千人に相当する」とされる鈴鹿の血を欲します。女子高校生の姿だった鈴鹿御前は、封印していたかつての記憶が蘇るなかで、愛刀・大通連(作中ではだいつうれん:だいとうれん)を手にします。大通連は、「鈴鹿最強の武器」と記されます。

「悪路王の章<後編>」【鬼切丸】より

「悪路王の章<後編>」
【鬼切丸】より

鈴鹿御前は、室町時代の御伽草子【鈴鹿の草子】【田村の草子】などに登場します。かつては鬼・悪路王の妻だった鈴鹿御前は、人間・坂上田村麻呂(征夷大将軍)との出会いによって夫婦となり、元夫や鬼達を斬ったと伝承されています。愛刀・大通連も小通連(しょうとうれん)・顕明連(けんみょうれん)の3振の剣として御伽草子のなかに登場しています。

こうした刀剣・日本刀を手にした女性の漫画キャラクターは、古くは小池一夫原作【修羅雪姫】に見出され、刀剣・日本刀を手にしたセーラー服の女子高校生の姿をした漫画キャラクターはCLAMP【X】などが先行しています。

日本刀ブームの高まり

その後、楠は、元・公儀隠密で今は人形師の恋愛に奥手な主人公の時代劇コメディ【大江戸てやんでい!!】(1998~1999年〔マーガレット〕連載)、戦国時代を舞台に主人公・猿田彦を描いた【神の名は 日の本神話異聞】(2000~2002年〔ふぁんデラ〕〔少女帝国〕〔ミステリーDX〕連載)、ゲーム好きの小学生五年生が新撰組の時代へタイムスリップする【幕末平成KID 新撰組妖奇譚】(2004年〔小学五年生〕連載)、戦国時代を生きる修行僧を主人公とした【八百万討神伝 神GAKARI】(2009~2011年〔月刊サンデーGX〕連載)などを発表します。

この間、八神くんの家庭の事情の系譜と言えるラブコメ【ガールズザウルス】【ガールズザウルスDX】(2001~2008年〔週刊少年サンデー超〕〔月刊サンデーGENE-X〕連載)も描きました。

その後、備前長船刀剣博物館岡山県)で刀剣・日本刀にまつわる展覧会が多数開かれます。

『戦国BASARA HERO武器・武具列伝』では、家庭用ゲーム【戦国BASARA】に登場する伊達政宗真田幸村石田三成ら戦国武将達ゆかりの品々が展示されました(2011年)。人気アニメ【新世紀エヴァンゲリオン】の新作映画の公開に併せて企画された『ヱヴァンゲリヲンと日本刀展』では、刀剣・日本刀とのコラボが行なわれました(2012年~)。その翌年には、林原美術館・備前長船刀剣博物館・瀬戸内市立美術館の岡山県にある3館の連動で『二次元VS日本刀展』も開かれます(2013年)。

この時、備前長船刀剣博物館では、小島剛夕、小池一夫、池上遼一、高橋留美子かまたきみこら27名の漫画家・漫画原作者・イラストレーターのデザインに基づく刀剣・日本刀が鍛えられ、展示されました。

さらにその翌年、戦国時代を取り上げた家庭用ゲーム【戦国無双】シリーズの発売10周年を記念して『戦国無双の刀剣展』も備前長船刀剣博物館を中心に開催されます。この時も真田信之・真田幸村(信繁)兄弟など作品ゆかりの品々の展示や新たに刀剣・日本刀が制作されています(2014年)。これらをきっかけに若者への刀剣・日本刀の関心が高まります。

楠はこの時期、さいとう・たかをのプロダクションから始まった出版社発行の漫画雑誌にて、今川義元を描いた読み切りホラー漫画【戦国怪異聞~桶狭間の変~】(2013年〔コミック乱ツインズ 戦国武将列伝〕掲載)を発表しています。同年には、鬼切丸も舞台化されました(2013年)。

楠の刀剣キャラ③ 酒呑童子の腹を食い破って現れた鬼切の少年

こうした時代背景のなかで、鬼切丸の舞台を平安時代や江戸時代などで展開する新シリーズ【鬼切丸伝】(2013~2018年〔コミック乱ツインズ 戦国武将列伝〕〔コミック乱ツインズ〕連載、2018年~〔pixivコミック〕配信中)が発表されます。連載5年目には舞台化もなされました。

戦国時代に特化した漫画雑誌で連載が始まった鬼切丸伝では、江戸幕府第3代将軍・徳川家光に仕えた蒲生忠知(がもうただとも:伊予松山藩藩主)の伝承、織田信長の比叡山焼き討ち、豊臣秀吉による豊臣秀次切腹事件など、史実に基づく物語が主に描かれていきます。

鬼切丸伝の主人公は、鬼切の少年です。鬼切丸の主人公・名を持たない少年のかつての姿です。鬼切丸伝では、彼の誕生秘話が明かされました。

かつて人里を追いやられ鬼が住む大江山で暮らすことになった醜女尼僧がいました。尼僧が身重になると鬼の子と囁かれます。武将・源頼光が渡辺綱ら四天王と都を荒らす鬼の退治に大江山を訪れた際、この尼僧は酒呑童子に食べられてしまいます。この時、酒呑童子の腹を突き破り、鬼の肉を唯一断つ神器名剣を手に飛び出したのが鬼切の少年でした。

酒呑童子の腹から産まれるも母親は人間の鬼切の少年です。「なぜ我が母を守れなかった!? 卑しき人間め!! 心醜き人間どもめ!!」と叫んだ鬼力の少年は、誕生以来、鬼と完全に鬼に取り憑かれた人間の両方を斬り続けていくことになります。

  • 第四話「鬼切丸誕生秘話」【鬼切丸伝】より

    第四話「鬼切丸誕生秘話」
    【鬼切丸伝】より

  • 第四話「鬼切丸誕生秘話」【鬼切丸伝】より

    第四話「鬼切丸誕生秘話」
    【鬼切丸伝】より

楠の刀剣キャラ④ 鬼切の少年に会うために現れた鈴鹿御前

鬼切丸伝には、鈴鹿御前も登場します。立烏帽子(たてえぼし)とも記される鈴鹿御前の伝承に基づき、白拍子の姿で描かれます。

鈴鹿御前は「妾は人間のことを解ってほしくて会いに来たのじゃ…」と語り、鬼切の少年の前に現れました。そして坂上田村麻呂の子をもうけたことで、「娘を生涯見守り見送った…鬼と違い短命な強く儚い人間を愛した日々こそ… 生き甲斐だったのだ」と、鬼でありながら人間を擁護するその心の内を伝えました。

  • 第九話「鬼姫降臨の章」【鬼切丸伝】より

    第九話「鬼姫降臨の章」
    【鬼切丸伝】より

  • 第九話「鬼姫降臨の章」【鬼切丸伝】より

    第九話「鬼姫降臨の章」
    【鬼切丸伝】より

2人はその後、何度も同じ鬼退治の現場を共にします。山田風太郎【魔界転生】を連想させる回「鬼神転生」(第二十四話~第二十七話)では、この世に未練を残す織田信長が、その肉片から鬼となった織田四天王を生み出します。丹羽長秀(にわながひで)、豊臣秀吉、前田利家、蒲生氏郷(がもううじさと)が織田四天王とされ、江戸時代に蘇ります。この回では、共闘する鬼切の少年と鈴鹿御前とのあいだにロマンスも匂わされました。

楠へ続く鬼の物語

鬼にまつわる漫画では、古くは永井豪の読み切り【鬼 2889年の反乱】(1970年)に見出せます。永井のギャグ漫画からストーリー漫画への転換点となった同作では、近未来を舞台に人造人間(鬼)と人間との愛の不可能性を描き、善悪とは何かが問われます。鬼 2889年の反乱は単行本化の際には永井のSF傑作集~怪奇短編集などに収録され、SFとしても怪奇としてもみなされています。

山田風太郎の影響を公言している永井のこうした系譜はその後、伝奇SF小説ブームに引き継がれます(永井以前の半村良や平井和正以降の夢枕獏、菊地秀行、荒俣宏など)。

こうした伝奇SFの系譜にあると言える楠は、鬼について鬼切丸伝の中でこう記します。「人も、鬼も、神も、なんの変わりがあるものか!」、「人も人を殺す… 神も祀らなければただの鬼!!」。楠にとって鬼とは、神仏をも指し示しています。

著者名:三宅顕人

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