戦後生まれの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

高橋留美子

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【うる星やつら】で知られる高橋留美子(たかはしるみこ)。高橋は剣道青年や刀剣を手にする女性の登場人物を幾度も登場させています。【らんま1/2】もその1作です。男女の性を固定しない人物も多数描く高橋は、戦国時代を舞台に兄弟間の妖刀争奪を描いた【犬夜叉】では、刀剣そのものに斬れるとき/斬れないときの両義性を持たせました。

高橋留美子の初期刀剣漫画

高橋留美子は、兄の影響を受けて少年漫画雑誌を読み、中学生の頃から漫画の投稿を始めます。筒井康隆や平井和正らのSF小説にも親しみ、同人誌での表現活動を行なう中で、劇画原作者・小池一夫(代表作【子連れ狼】など)が主宰する劇画村塾の1期生として学びました。

第2回小学館新人コミック大賞・少年部門の佳作受賞作でデビュー後、すぐに描いたSF漫画【うる星やつら】(1978~1987年〔週刊少年サンデー〕連載)が大人気となります。

浮気者の主人公の男子高校生と一途な異星人の女の子とのドタバタを描いた1話完結型の同作は、少年漫画に「ラブコメ」ブームを巻き起こしました。同作は第26回小学館漫画賞・少年少女部門も受賞し、連載4年目にはテレビアニメ化もされ、高橋の代表作となりました。

うる星やつらには、主人公のクラスメイトでヒロインに恋する面堂終太郎(めんどうしゅうたろう)が登場します。

財閥の跡取り息子で秀才・スポーツ万能・容姿端麗でありながら、女性好きで暗所閉所恐怖症という2枚目と3枚目を併せ持ったキャラクターです。武家の家系でもある終太郎は度々刀剣を手にします。転校して来て以来、ずっとひとりだけ違う色の学生服を着ており、テレビアニメ版では白い男子学生服(白ラン)姿として描かれました。

刀剣・木刀に白ラン姿は、和田慎二の短編【白い学生服】、雁屋哲原作【男組】(池上遼一作画)などが先行しています。

高橋の刀剣キャラ① 木刀と花束で迫る剣道部主将・九能帯刀

高橋は、うる星やつらと並行して、青年漫画雑誌の創刊号から連載を開始した、アパート管理人の若き未亡人と年下の浪人生との恋愛模様を描いた【めぞん一刻】や、第20回星雲賞・コミック部門を受賞した少年漫画の読み切り【人魚の森】などを描きます。
そして、うる星やつら連載終了後、格闘技を軸にした1話完結型のドタバタ漫画【らんま1/2】(1987~1996年〔週刊少年サンデー〕連載)を発表します。

らんま1/2には、主人公の通う高校の校長の息子で剣道部主将・九能帯刀(くのうたてわき)が登場します。妹は小太刀(こだち)と名付けられています。

帯刀は金持ちの2枚目ながら、ヒロインと主人公(普段は男の子だが、水に濡れると女の子になる特異体質の持ち主)とに二股をかけようとする3枚目の性格も併せ持ちます。帯刀はヒロインに寄りつく男どもには木刀で迫り、愛の表現をするときは薔薇の花束で迫ります。

「断じて認めん」【らんま1/2】より

「断じて認めん」
【らんま1/2】より

「断じて認めん」【らんま1/2】より

「断じて認めん」
【らんま1/2】より

「木の上のヤカンの女へ」【らんま1/2】より

「木の上のヤカンの女へ」
【らんま1/2】より

「木の上のヤカンの女へ」【らんま1/2】より

「木の上のヤカンの女へ」
【らんま1/2】より

高橋の刀剣キャラ② 巨大なお好み焼きのヘラで迫る久遠寺右京

らんま1/2の主人公には親同士が決めた許嫁のヒロインの他に、もうひとり、親同士が関西で決めた許嫁、久遠寺右京(くおんじうきょう)がいます。関西から転校してきた右京は、関西弁を駆使し、父の始めたお好み焼き屋を受け継いでいます。
右京は子供の頃に逃亡した主人公への復讐心から男装で登場しますが、「好」の文字が書かれた仕事着は一転して女の子らしい姿です。右京は、背中にかついだ巨大なお好み焼きのヘラを武器とし、主人公と闘います。

「お好み焼きの右京」【らんま1/2】より

「お好み焼きの右京」【らんま1/2】より

「お好み焼きの右京」【らんま1/2】より

「お好み焼きの右京」【らんま1/2】より

高橋の刀剣キャラ③ 介錯刀で迫る早乙女のどか

主人公の母親・早乙女のどかは常に日本刀を携帯しています。

主人公の父は息子を男の中の男に育てる、という言葉を残して息子と修行の旅に出ました。

のどかはその言葉を信じ、もしも男の子らしく育っていなかったときのためにいつでも介錯し、そのあとを追う覚悟でした。

「男の誓い」【らんま1/2】より

「男の誓い」
【らんま1/2】より

永井豪から高橋留美子へ

らんま1/2の発案は、当時人気を博していたジャッキー・チェンのカンフー・アクション映画がきっかけでした。けれども、らんま1/2の中国拳法使いの主人公は、水に濡れると女性に変身してしまう特異体質を持ちます。

こうした両性設定は、うる星やつらで登場していた藤波竜之介(ふじなみりゅうのすけ)や、永井豪【あばしり一家】の悪馬尻菊の助(あばしりきくのすけ)に見出せます。

高橋は、ギャグとストーリーの両立性と女性を描いた線のなめらかさについて、永井漫画から感銘を受けたと述べています。

高橋の刀剣キャラ④ 愛刀は鉄砕牙・犬夜叉

らんま1/2連載終了後、シリアスな冒険活劇として【犬夜叉】(1996~2008年〔週刊少年サンデー〕連載)を発表します。第47回小学館漫画賞・少年部門を受賞した同作は、連載は13年にも及び、高橋初の大長編となりました。

犬夜叉は、戦国時代の「半妖」犬夜叉とそのもと恋人の生まれ変わりという現代の女子中学生との時空を超えた恋愛物語です。

半妖とは人間と妖怪とのあいだに生まれた子供のことです。妖怪力を身につけられる力を持つ四魂の玉のかけらを巡って物語は進み、仲間も増えていきます。物語の根底には、【西遊記】や曲亭(滝沢)馬琴【南総里見八犬伝】が流れています。

主人公の犬夜叉は、妖怪の父の牙で造られた鉄砕牙(てっさいが)を託されます。これは妖怪の鍛冶師・刀々斎(とうとうさい)によって鍛えられた闘いの妖刀です。普段は錆びていますが、戦いの中で人間を慈しむ心を発動すると鉄砕牙は不思議な威力を発揮し、刀身が太い牙のように変化します。

「形見」【犬夜叉】より

「形見」
【犬夜叉】より

「形見」【犬夜叉】より

「形見」
【犬夜叉】より

「形見」【犬夜叉】より

「形見」
【犬夜叉】より

「形見」【犬夜叉】より

「形見」
【犬夜叉】より

さらに鉄砕牙はコントロールできるようになると100匹の妖怪を1振りでなぎ倒すことができ、相手の妖気を自身の攻撃と合わせて撃ち返せるなどの特別な剣技も使えるようになります(風の傷、爆流破)。

そのうえ、妖気を吸い込みその能力を奪い取ることができ、形状もたくましく変化します(金剛槍破、竜鱗の鉄砕牙など)。

「金剛槍破」【犬夜叉】より

「金剛槍破」
【犬夜叉】より

また鉄砕牙は、人間の心を忘れた妖怪の状態になってしまわぬよう犬夜叉を封じ込める力を持つ妖刀でもあります。ヒロインへの愛が、悪魔の心に完全に浸食されない様を描いた永井豪【デビルマン】からの系譜でもあります。

高橋の刀剣キャラ⑤ 愛刀は天生牙・殺生丸

犬夜叉には異母兄の「完全妖怪」殺生丸(せっしょうまる)がいます。殺生丸は、同じく父の牙から造られた天生牙(てんせいが)を託されました。

それは1振で100人の命を救うとされ、弱き者の命をつなぐ癒しの妖刀です。あの世の物は斬れるもこの世の物は斬れません。そんな天生牙を手にした殺生丸は、弟に与えられた闘いの妖刀・鉄砕牙をうらやんで狙い続けます。
けれども殺生丸は、だんだんと天生牙の持つ力に気づいていきます。それはひとりの少女との出会いがきっかけでした。思いやりという人間の心にふれ、命を落とした少女にまとわりつく妖怪達を天生牙で斬り、少女の命を蘇らせました。

「少女の命」【犬夜叉】より

「少女の命」
【犬夜叉】より

「少女の命」【犬夜叉】より

「少女の命」
【犬夜叉】より

「少女の命」【犬夜叉】より

「少女の命」
【犬夜叉】より

「少女の命」【犬夜叉】より

「少女の命」
【犬夜叉】より

天生牙もコントロールできるようになると独自の剣技を生み出せます(冥道残月破)。1振で冥界への道を開いて敵をあの世へと追いやる剣技で、その習得力によって冥界を斬り開く大きさが三日月型からきれいな円形へとなります。

「冥道残月破」【犬夜叉】より

「冥道残月破」
【犬夜叉】より

「共鳴」【犬夜叉】より

「共鳴」
【犬夜叉】より

「冥道残月破」【犬夜叉】より

「冥道残月破」
【犬夜叉】より

「共鳴」【犬夜叉】より

「共鳴」
【犬夜叉】より

殺生丸は、犬夜叉に鉄砕牙で左腕を斬り落とされた隻腕でもあります。のちにこの失われた左手が殺生丸独自の妖刀を生み出していくことになります(爆砕牙)。隻腕で刀剣を追い求めるその存在は、林不忘【丹下左膳】の主人公からの系譜です。

その後の高橋の刀剣漫画

犬夜叉では他にも多数の刀剣使いや鍛冶師が登場します(逆髪の結羅、闘鬼神を鍛えた灰刃坊、蛇骨、蛮骨、奪鬼を鍛えた刀秋、夢幻の白夜など)。

その後も高橋はギャグ漫画【境界のRINNE】(2009~2018年〔週刊少年サンデー〕連載)でも、人間と死神との間に生まれた子孫の主人公に死神のカマを持たせています。このカマは悪霊を浄化させる力があります。

デビュー当時から刀剣を登場させてきた高橋は、男性・女性、妖怪・人間など性別・種別の変化も常に描いてきました。刀剣争奪を描いた犬夜叉では、刀剣そのものを斬れるとき・斬れないときと変化させ、さらに刀剣そのものの成長を加えた作品にしました。

著者名:三宅顕人

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