1980年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

田村由美

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【BASARA】で知られる田村由美(たむらゆみ)。男装することになった女性を主人公に近未来の日本を舞台に描かれる同作では、4本の宝刀集めを巡って物語は進行します。BASARAは外伝も描かれ、宝刀の始まりの物語が描かれます。

田村由美の初期刀剣漫画

田村由美は、第12回小学館新人コミック大賞少女・女性部門の佳作受賞作でデビューしました。

初の長期連載となった【巴がゆく!】(1987~1990年〔別冊少女コミック〕連載)は連載が終了した翌年、販売やレンタルを主としたオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)化がなされ、最初の人気作となります。もと暴力団組長の娘でスケバン女子高校生・王島巴(おうじまともえ)の活躍が描かれます。

連載当時は、和田慎二【スケバン刑事】や高口里純【花のあすか組!】がテレビドラマ化され、不良女子中高校生物として、ともに人気を博していました。

巴がゆく!は、【平家物語】に登場する平安時代末期に生きた女性武者・巴御前と源(木曽)義仲とのカップルをモチーフに描かれます。ローラースケートの名手で「首都高の巴御前」の異名を持つほど運動能力の高い巴は、とある財閥の後継者争いに巻き込まれ、命を狙われます。そんな中、義仲と名乗る謎の男と出会い、互いに身を守り合っていきます。

また、巴の姉でキャビンアテンダントの王島静(おうじましずか)も登場します。この名前は源義経の愛妾・静御前に由来します。静は対立した暴力団事務所に刀剣・日本刀1振で乗り込んで仲間を救い、木刀を使った剣術を巴に教えるほどの武術の達人です。

4本の宝刀を巡る近未来の物語

巴がゆく!に続いて田村は、【BASARA】(1990~1998年〔別冊少女コミック〕連載)を発表します。

タイトルの語源・婆娑羅(ばさら)について、「古い権威を否定し、因習・拘束を排し、思いのまま自由闊達に生きる精神を言う。」と田村は冒頭に記しました。

同作は第38回小学館漫画賞・少女部門を受賞し、連載終了の年には【LEGEND OF BASARA】のタイトルでテレビアニメ化され、田村の代表作となりました。

物語の舞台は、20世紀末から300年が経ち文明が崩壊した、戦国時代さながらの日本です。

国王・鬱金王(ウコンおう)が拠点とする京都を中心に4つの州に分かれています(近畿/東北/関東/中国・四国・九州)。長兄の黒の王は北の征服に取り組み、次兄の蒼の王は東を攻め落とし、3番目の白の王は戦を嫌い比叡山に籠り、末子の赤の王は西と南を支配しています。

そんな世界で山陽地方に住む主人公は、自身の他に宝刀を持つ、各州にいる仲間3人を探し出し、支配者に立ち向かっていきます。

4本の宝刀名は四神相応(青龍・朱雀・白虎・玄武)、州同士の拮抗は【三国志演義】、しるしをもとにした仲間探しは【水滸伝】に着想を得た曲亭(滝沢)馬琴【南総里見八犬伝】など、BASARAには中国文化の影響が根底に色濃く流れています。

田村の刀剣キャラ① 白虎の刀の継承者・更紗

BASARAの主人公は、山陽地方の白虎村に生まれ育った15歳の少女・更紗(さらさ)です。

砂漠に囲まれる白虎村は砂鉄が産出し、鍛冶の村でもあります。更紗には、人々に平和をもたらす「運命の少年」と呼ばれた双子の兄・タタラがいますが、村を襲ってきた赤の王に殺されてしまいます。

瓜二つの兄に成り代わる決意をした更紗は、「宝刀『白虎』」、「タタラがいただいてゆく!」と村の守護刀・白虎の刀を引き継ぎ、兄や村の敵討ちのために生きていくことを決意します。

実は更紗こそ、平和をもたらす運命の少年だったのです。

「緋の章2・タタラの影」【BASARA】より

「緋の章2・タタラの影」
【BASARA】より

田村の刀剣キャラ② 朱雀の刀の継承者・ハヤト

更紗は、祖父の遺言を信じ、宝刀を持つ残り3人の仲間を集める旅に出ます。そして、九州・桜島にあるという朱雀の村に向かい、弓の使い手の少年・ハヤトを仲間に加えます。

海底に沈んでいた、朱雀の村にあるとされていた宝刀は、知覧の町の地下に埋もれていました。宝刀は、赤の王の腹心をハヤトが射倒したとき、地上に現れます。更紗のピンチを救ったハヤトは、朱雀の刀の継承者でした。

「翠の章1・英雄」【BASARA】より

「翠の章1・英雄」
【BASARA】より

「翠の章1・英雄」【BASARA】より

「翠の章1・英雄」
【BASARA】より

田村の刀剣キャラ③ 青龍の刀の継承者・雷蔵

次に更紗は青龍の刀があるという関東に向かいます。継承者は、黄色い髪に青い瞳、顔に傷を持つ雷蔵でした。雷蔵は関東を支配する蒼の王の側近だったものの、実は革命軍のリーダーでした。雷蔵は蒼の王に捕えられた更紗のピンチを救い、青龍の刀の存在を明らかにし、仲間になりました。

「瑠璃の章2・Joker」【BASARA】より

「瑠璃の章2・Joker」
【BASARA】より

「瑠璃の章2・Joker」【BASARA】より

「瑠璃の章2・Joker」
【BASARA】より

田村の刀剣キャラ④ 玄武の刀の継承者・多聞

「琥珀の章6・母」【BASARA】より

「琥珀の章6・母」
【BASARA】より

九州、関東で仲間を見つけた更紗は、次に東北を目指します。宿敵・赤の王との対決に備え、豪族と同盟を結ぶことが目的でした。

東北で更紗は、玄武の刀の継承者だった多聞と出会います。けれど多門は、「斬れない」、「これが玄武の刀だべ」、「これは」、「いましめのための1本」と語ります。本物の玄武の刀は地中深く封印されており、多聞は竹光を腰に差していました。
争いを好まずひょうひょうと生きる多聞は、我慢の大切さや、宝刀に振り回されない知恵を更紗にもたらすことになります。

国のために戦う男装の女性剣士

3人の仲間探しが行なわれるBASARAの主軸は、更紗と赤の王こと朱理(しゅり)との恋愛です。互いが敵同士と知らないまま、恋人となることが物語の大きな特徴です。その恋路に、更紗を反乱に利用しようとする朱理の異母兄弟とされる浅葱(あさぎ)、更紗を何度も助ける遊牧民の揚羽(アゲハ)が加わります。

国のために男装して戦う女性剣士は、中国の民話【木蘭】をもとにした京劇【花木蘭】や映画【木蘭従軍】がよく知られています。老いた父のために、娘が男装して自国の戦争で活躍する物語です。

漫画では手塚治虫【リボンの騎士】や池田理代子【ベルサイユのばら】、小説では栗本薫【グイン・サーガ】などで男装の女性剣士が登場し、BASARAに先行しています。

田村の刀剣キャラ⑤⑥⑦⑧ 玄象・羅生・天満屋鍋蔵・朝彦の4人のばさら者

BASARAは「KATANA」というタイトルの外伝が描かれます。【BASARA外伝5「KANATA・虹の話―銀杏―」】(1998年〔別冊少女コミック〕掲載)は、4宝刀の初代の持ち主、本編の登場人物の曾祖父達が主人公です。生まれつき髪が赤く差別された玄象(げんしょう)、弓が得意な羅生(らしょう)、坊主になり損ねた天満屋鍋蔵(てんまやなべぞう)、生き別れた妹を探す朝彦(あさひこ)の4人です。

琵琶湖西部の天狗山を拠点とする4人のばさら者は、京都を拠点とする獅子王(*朱理の曾祖父)の秘蔵の宝を盗みに入ったとき、東北の刀職人が鍛えた宝刀を入手します。玄象は白虎、羅生は朱雀、鍋蔵は青龍、朝彦は玄武を、それぞれ選びます。

「KATANA・虹の話」【BASARA外伝5】より

「KATANA・虹の話」
【BASARA外伝5】より

「KATANA・虹の話」【BASARA外伝5】より

「KATANA・虹の話」
【BASARA外伝5】より

ときは獅子王のご世。獅子王は国民総奴隷化計画を進めるため、京都北部に村人の処刑を行なう「獅子の村」と、目的別に村人を強制労働させる十二支にちなんだ12の村を設置していました。4人はそんな獅子王の国を壊そうと4刀を手に立ち向かって行きますが、その先に待っていたのは悲劇でした。結果4本の宝刀はばらばらになり、のちに更紗らに受け継がれることになります。

田村の刀剣漫画は現代や近未来を描きつつも、平家物語、南総里見八犬伝、木蘭、三国志演義、水滸伝など、日本や中国の古典の伝統が受け継がれています。

著者名:三宅顕人

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