刀装具とは、日本刀を収める外装である「拵」(こしらえ)に附属する部品のこと。もともとは日本刀を保護するための実用的な外装として扱われていましたが、時代が下るにつれ、日本刀を美しく装うためのアクセサリーとして発展していきました。そのため、日本の伝統工芸の高度な技術が結集して制作された刀装具は、現在、単体でも価値のある美術品、工芸品として見なされているのです。そんな刀装具の購入、販売方法と購入時に注目するべきポイントを紹介します。
刀装具とは、日本刀の外装である「拵」に付いている部品のすべてを指す言葉です。
代表的な物に「鍔」(つば)や「目貫」(めぬき)などがあり、本来は実用重視で制作されていましたが、室町時代中期以降は日本刀を華やかに装飾するお洒落なアクセサリーとしても扱われるようになります。
江戸時代にはさらに装飾品としての価値が高まり、金工技術が発展。多くの名工により繊細な技術をもって制作されたことから、現在でも、刀装具はそれ単体で美術品としての人気を誇っているのです。
刀装具を購入することができるのは、日本刀の専門店である刀剣商はもちろん、骨董屋や古美術商、インターネットオークションなどでも購入することができます。また、刀装具を専門的に扱う店舗も存在するので、気になる方はチェックしてみましょう。
日本刀の購入は、日本刀の専門知識を有する刀剣商で行うのがおすすめ。刀装具も日本刀と同様に真贋が存在するため、刀装具を購入するときは、購入する店舗や人物が刀装具に詳しい人物であることを確かめる必要があります。可能なら、実物を自分の目で観てから決めましょう。
一方、手元にある刀装具を手放したいときは、刀装具に特化したお店に見積もりを頼み、買い取ってもらうのがおすすめ。ネットオークションで販売したい際にも、一度見積もりを頼んで、その商品の相場価格を把握しておくと安心です。また、鑑定書がある場合は必ず持参しましょう。
刀装具は、制作年代や流派、状態、鑑定ランクなどによって値段が上下します。なお、刀装具はひとつひとつに様々な種類が存在。それを理解し、好みの意匠を選ぶことも大切なポイントと言えます。
透鍔(正阿弥鍔)
鍔とは、「柄」(つか)と刀身の間にあり、手の保護と、日本刀の重心を調整するための刀装具のことです。
鍔は大きく分けて太刀に付ける「太刀鍔」と、打刀に付ける「打刀鍔」があります。
形状によってさらに細かく分類され、円形の「丸形鍔」、多角形の「角形鍔」、上部より下部のほうが若干幅の広い台形となった「障泥形鍔」(あおりがたつば)、円形の周辺をへこませた形状「木瓜形鍔」(もっこうがたつば)、椀のように受け皿状となった「椀形鍔」(わんがたつば)などが存在。
また、素材や製法によっても分類され、練革(ねりかわ)でできた「練鍔」(ねりつば)、地が透かし抜かれた「透鍔」(すかしつば)などがあります。
刀装具のなかでも特に目立ち、単体で鑑賞されることが最も多いことから、金象嵌(きんぞうがん)が施されたり、繊細な彫刻が入れられたりした様々な意匠の鍔が誕生しました。
刀剣ワールド所蔵の鍔
目貫
目貫とは、柄の表裏に装着される刀装具のこと。はじめ、柄と茎(なかご:柄に収める刀身の手持ち部分)を固定する「目釘」(めくぎ)の頭に付けられていましたが、のちに目貫と目釘は分離。目貫は専ら柄を華やかに彩る装飾のために用いられるようになり、デザイン性が高められていきました。
目貫の意匠として、戦国武将達に最も好まれたとされているのが、大黒天や鶴など、繁栄や幸福を意味する「吉祥文様」(きっしょうもんよう)の図柄。その他、獅子や龍、象、牡丹、杜若などの動植物や、弓矢図、俵藤太図などの武具や武将にちなんだ物など、様々あります。
刀剣ワールド所蔵の目貫
「小柄」と「笄」は、鞘の表裏にある櫃(ひつ:くぼみ、入れ物のこと)に取り付けられる刀装具のこと。小柄とは細工用の小刀で、笄とは、髷(まげ)を整えるなど、身だしなみのための道具を指します。
江戸時代において、武士の象徴とされた「大小二本差し」の場合、脇差の笄櫃を省略することもありました。目貫と小柄、笄は、同一の意匠で同一の作者の手による物は「三所物」(みところもの)と称され、重宝されています。また、目貫と小柄のみが同一の意匠で同一の作者である場合を「二所物」(ふたところもの)と呼びます。
小柄
笄
「縁頭」とは、柄の両端に取り付けられる金具のこと。鍔側を「縁」(ふち)、末端側を「頭」(かしら)と呼びます。
縁頭は、セットで制作し用いられることが多く、「柄巻」(つかまき:柄に巻き付けられた組紐のこと)の端を隠したり、柄の強度を高めたりする目的で使われました。金属製、あるいは角製で、刀装具のなかでも凝った意匠の物が多数制作されています。
三所物と縁頭が同一の意匠、同一の作者の手による場合は「五所物」(いつところもの)と呼ばれ、珍重されました。
室町時代後期以降、刀装具の制作は分業化・専業化が進み、「金工師」、「白銀師」(しろがねし)、「鞘師」、「塗師」(ぬし)、「柄巻師」、「鍔師」が現れました。ここでは、主に金工師、鍔師の流派や銘について紹介します。
後藤祐乗
刀装具の制作者には、刀工と同様に流派が存在。特に技法が凝られている物は、流派によってその特徴が異なります。
特に著名な流派が「後藤家」。後藤家は、金工師の祖「後藤祐乗」(ごとうゆうじょう)を始祖とし、室町時代から江戸時代にかけて彫金を家職としました。
江戸時代の刀装具制作において最高位であったことから、後藤家が制作した刀装具を「家彫」(いえぼり)、その他の流派が制作した刀装具を「町彫」(まちぼり)と呼び分けています。
その他の流派に、室町時代末期頃に登場し、将軍家の庇護のもとで、特に鍔の技法で名を馳せた「正阿弥」(しょうあみ)や、江戸時代初期に誕生し、戦国武将「細川忠興」(ほそかわただおき)の庇護を得て活躍した「平田派」、「日光東照宮」(栃木県日光市)の造営などに塗師として加わった「奈良利輝」(ならとしてる)を始祖とする「奈良派」、日本刀作刀も行った「埋忠家」(うめただけ)などが存在します。
日本刀の作者銘
刀装具にも、日本刀と同様に作者の銘が刻まれていることがあります。しかし、銘が刻まれているからすべて本物というわけではありません。
刀装具の銘は日本刀の銘ほど明確に鑑定されているわけではなく、偽名や追銘(おいめい)も多く、真贋はあいまい。そのため、銘入りの高い価値を持つ刀装具を購入したいと思う場合は、自らの審美眼を鍛えるか、「鑑定書」が付いた物を選ぶのがおすすめです。
刀装具は、服装と同じように時代の流行や感性が如実に表れることから、制作された時代によってデザインが異なります。そのため、刀装具の時代を判別したいと考えるなら、その時代に流行したモチーフや装飾の仕方をチェックしておく必要があるのです。
なお、現存する刀装具は室町時代中期の作が最古とされており、古い物ほど歴史的価値が高く、貴重とされています。ここでは、刀装具の時代ごとの大まかな特徴を見ていきましょう。
応仁鍔
室町時代の刀装具は、はじめ「太刀拵」に用いられる物が主流で、鉄製で実戦向けの武骨な刀装具が制作されていました。
甲冑師や刀工が鍔の制作も手掛けており、甲冑師が作った物を「甲冑師鍔」、刀工が作った物を「刀匠鍔」と呼びます。
室町時代中期になると金工師の元祖とされる後藤祐乗により、華やかで装飾的な刀装具が誕生。金工技術が一気に向上し、室町時代後期には「平安城式真鍮象嵌鍔」(へいあんじょうしきしんちゅうぞうがんつば)や「応仁鍔」、「鎌倉鍔」などの、透かしや象嵌などで装飾された刀装具が次々に生まれました。
尾張透鍔
戦国時代以降の刀装具は、片手打ちができる「打刀拵」が主流となっていきます。
また、金工師やその流派が増えたことで技術が向上。戦国時代は「茶の湯」に代表される「侘び寂び」の文化が流行したことから、刀装具のデザインにも侘び寂びが取り入れられました。
その他、甲冑(鎧兜)と同様に、刀装具のデザインには勝利や信仰など、何かしらに意味を持たせた物が多いのが特徴。動植物や海産物、架空の生き物や神事、道具などがモチーフの主流で、力強くデフォルメされた表現が多用されました。
しかし、「豊臣秀吉」による「刀狩り」が行われたことで、農民や僧兵の所持していた刀装具のほとんどはなくなり、後世に残されたのは商人や武士階級が所有した高品質な物ばかり。
すなわち、安土桃山時代以前の現存する刀装具は極めて高い技術とデザイン性を持った物が多く、刀装具の価値が古い物ほど高く評価されることにつながります。
この時代、鉄鍔では「尾張鍔」や「金山鍔」など、尾張国(現在の愛知県西部)を中心にその土地特有のデザインが流行した他、金工師の祖を輩出した後藤家の上三代・後藤祐乗、「後藤宗乗」(ごとうそうじょう)、「後藤乗真」(ごとうじょうしん)が活躍しました。
江戸時代の刀装具は、平和な時代となったことで一層華やかとなり、様々な色金、彫金技法を駆使して装飾的な刀装具が数多く制作されるようになります。
江戸初期から江戸中期にかけては、武士の刀装具に細かい規定が設けられたことで、刀装具の制作に効率が求められるようになり、規格に則った品が大量に制作されました。
デザインは写実的、絵画的な表現が多くみられるようになり、モチーフも変化。人物や風景、情景などが選ばれるようになりました。
江戸時代を代表する町彫の金工師に、「横谷宗珉」(よこやそうみん)や「柳川派」(やながわは)、「石黒派」、「大森派」などが存在します。
幕末から明治時代にかけての刀装具は、江戸時代を通して醸成された優れた技巧を駆使して制作された物が数多く現存しています。
開国により海外の影響も受けた華やかな作品が制作され、技術的にも大成。実用としての刀装具の制作は一時下火となりましたが、「帝室技芸員」として技術者が国に保護されたことで再興し、美術品としての価値を取り戻しました。
「加納夏雄」(かのうなつお)や「正阿弥勝義」(しょうあみかつよし)、「後藤一乗」(ごとういちじょう)などが高名な金工師として挙げられます。
刀装具は、その状態からも価値を判断することができます。当然、新しい物ほど保存状態が良く見た目にも美しいままの物が多くありますが、その他の骨董品と同様に、刀装具に関しても美しいままの物ほど価値が高いというわけではありません。
刀装具は、技巧的な評価に加え、塗装がはがれていても優雅な風合いを見せる物があり、これこそ刀装具愛好家達の間で高く評価される物。
例えば、真鍮象嵌(しんちゅうぞうがん)が多少抜けた物が経年の味わいとして評価されたり、全体的に鍍金(ときん)が薄くなり、かすんだ風合いになった物が好まれたりするのです。
刀装具を飾る色である金を施す技法には、「金消鍍金」(きんけしめっき)、「ウットリ」、「袋着」(ふくろきせ)、「金着」(きんきせ)、「金象嵌」、「金布目象嵌」(きんぬのめぞうがん)、「哺金」(ふくみきん)などがあり、これらの「金色絵」は時代ごとに使われる頻度が異なるのも、刀装具を見極める指標となります。
刀装具の鑑定ランクには、国が分類する「国宝」、「重要美術品」の他に、「日本美術刀剣保存協会」(通称・日刀保)が分類する「特別重要刀装具」、「重要刀装具」、「特別保存刀装具」、「保存刀装具」が最も信用される鑑定として知られています。
日刀保が審査し、発行する鑑定書のなかでは特別重要刀装具が最もランクが高く、したがって値段も高く設定されるのが一般的。
特別重要刀装具のみならず、鑑定書が付いている刀装具はその価値が信頼されるため、特に刀装具を販売したいと考えている人は鑑定書の有無を確認しておくといいでしょう。
鑑定書がない場合でも、随時日刀保により刀装具の審査が行われているため、鑑定を依頼するのもおすすめです。その場合、日刀保のホームページから専用サイトにアクセスし、申請を行うことができます。