国宝「短刀 銘 筑州住行弘 観応元年八月日」は、土浦藩(現在の茨城県土浦地方)藩主の土屋家に伝来した1振です。土屋家2代目藩主「土屋政直」(つちやまさなお)の正室「幾宇子」の父親「松平若狭守康信」が、土屋政直に贈った物と伝えられています。
土屋政直は、江戸幕府5代将軍「徳川綱吉」、6代将軍「徳川家宣」、7代将軍「徳川家継」、8代将軍「徳川吉宗」の4代に仕え、約30年、老中という重職に就いた人物。一度、田中藩(現在の静岡県藤枝市)へ転封となりますが、再び土浦藩主となり、95,000石を領しました。土屋家には多くの刀剣が残されていますが、土屋政直が所有していたものがほとんどと伝えられています。
本短刀は、地鉄(じがね)は板目肌でやや流れ肌が交じり、 地沸が付き、刃文は湾れ(のたれ)に互の目(ぐのめ)交じり、匂口明るく冴えて小沸付き、金筋かかる逸品。
制作したのは、筑前国(現在の福岡県)で作刀した左文字派の刀工「行弘」です。行弘有銘の作は少なく、とても貴重な1振。1957年(昭和32年)2月に国宝に指定されました。