戦前生まれの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

小島剛夕
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小島剛夕 小島剛夕
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「鎌鬼」【孤剣の狼】より
「鎌鬼」【孤剣の狼】より
「鎌鬼」【孤剣の狼】より
「鎌鬼」【孤剣の狼】より
小島剛夕が生み出したキャラクターのひとりムサシ。抜け忍の師匠のもとを離れた抜け忍の抜け忍です。師から学んだ伊吹剣流の売り込みを目標のひとつに独自の剣技を披露し続けます。

(■小島剛夕の刀剣キャラ⑥ 抜け忍の抜け忍の剣客・ムサシより)

白土三平【カムイ伝】、小池一夫原作【子連れ狼】の作画でも知られる小島剛夕(こじまごうせき)。抜け忍を描いた自作【土忍記】とその連作【孤剣の狼】を、青年漫画雑誌の創刊ラッシュの中で描きます。その後、柴田錬三郎の時代小説の漫画化や原作付きで数多くの作画を手がけていく小島剛夕は、青年漫画の興隆と共に時代劇漫画を大きく発展させます。

小島剛夕の初期刀剣漫画

小島剛夕は、映画館の看板描きの仕事に従事する中で、手塚治虫【新宝島】に感銘を受け、漫画家を目指します。紙芝居画家を経て、貸本漫画で単行本デビュー。時代劇を描いた「長編大ロマン」と謳ったシリーズを発表します。

その後、その画力から白土三平に要請され、漫画雑誌を創刊することになる白土三平の赤目プロダクションに参加します。白土三平の【カムイ伝】の第1部(1964~1971年〔月刊漫画ガロ〕連載)や、【サスケ】の第2部(1965~1966年〔少年〕連載)の作画を行い、忍者や百姓といった題材を描いていきます。カムイ伝で登場する「抜け忍」という言葉は小島剛夕が考え出したと述べています。

「土忍」を発明

小島剛夕は、青年劇画雑誌の誕生時期、その第1号ともされる雑誌の創刊の翌年から【土忍記(どにんき)】(1967~1969年〔コミックmagazine〕連載)を描きます。

主人公は、柳生忍群を抜けた3人の「抜け忍」、多羅尾平八・草薙小平次、卯月六平太です。

小島剛夕は、柳生忍群を、柳生十兵衞三厳(やぎゅうじゅうべえみつよし)を総帥とし、服部半蔵を頭領とする伊賀と甲賀の忍者の公儀隠密の集団で、剣の柳生家に対して「陰ノ流れ」と呼ばれていると設定しました。また、土忍という言葉も考え出したと述べています。

同作は連載終了の翌年、【土忍記 風の天狗】のタイトルで映画化もなされました。

小島剛夕の刀剣キャラ① 竜尾の剣の使い手・多羅尾平八

多羅尾平八は、甲賀の多羅尾の育ちの抜け忍です。とある外様大名を取りつぶす理由を見つける隠密活動の中、妻と子を柳生の者に殺されたことで柳生忍群を抜けました。以来、剣よりも鍬を選び、農民として過ごせる安住の地を探しています。

しかし組織の掟によって柳生の者から命を狙われ続け、落ち着くことはできません。そんな多羅尾平八は、秘太刀・竜尾の剣、柳生秘抄などの剣技を用います。竜尾の剣は背後に刀身を隠し、敵に刀の動きを悟られない剣技です。

「剣と鍬」【土忍記】より

「剣と鍬」
【土忍記】

「剣と鍬」【土忍記】

「剣と鍬」
【土忍記】

小島剛夕の刀剣キャラ② 伊吹剣流の使い手・草薙小平次

草薙小平次は、江州伊吹出身の百姓育ちの抜け忍です。戦に巻き込まれたことで両親を亡くした草薙小平次は、村人を巻き込んだ戦術を許せず、柳生忍群を抜けました。百姓として暮らす中で、伊吹剣流陰流シ、伊吹剣流裏風車、柳生流流れ風心などを使わざるを得ない状況が度々やってきます。

伊吹剣流は、100年も前に途絶えた神秘的な流派として語られていると小島剛夕は設定しました。その流派の技のひとつ・伊吹剣流陰流シは、灯りをともした暗闇の中でできる影の残像効果を利用し、影を斬りに行った敵をその一瞬の隙で斬る剣技です。

「秘剣陰流し」【土忍記】より

「秘剣陰流し」【土忍記】

「秘剣陰流し」【土忍記】より

「秘剣陰流し」【土忍記】

小島剛夕の刀剣キャラ③ 伊吹剣流の使い手・卯月六平太

卯月六平太は、伊賀の百姓育ちで、幼い頃から侍として隠密活動を行っていた抜け忍です。頭領から婚約を許されたものの、抜け忍を期限までに始末できず、婚約者を殺されたことで抜け忍となりました。

そんな卯月六平太は、気の弱い侍を演じて生きる中でトラブルに巻き込まれ、伊吹剣流わくら葉、飛刀草薙などの剣技を用います。伊吹剣流わくら葉は向かってきた敵を片手逆立ちでかわし、刀を投げて倒す剣技です。

「秘剣の果て」【土忍記】

「秘剣の果て」
【土忍記】

「秘剣の果て」 【土忍記】

「秘剣の果て」
【土忍記】

明智光秀の歴史改変物語

小島剛夕は赤目プロ離脱時期、土忍記発表直後、青年劇画雑誌の創刊号に【おぼろ十忍帖】(1967年〔週刊漫画アクション〕連載)を発表します。伊賀のくノ一を描きました。

続けて、高山右近明智光秀の子として描いた【戦国風忍伝】(1967~1968年〔週刊漫画アクション〕連載)を発表します。

同作では、若き明智光秀と高山マリアをモデルとする娘・明姫との恋、その2人の間の子とした高山右近、そして時を経て高山右近と明智光秀の娘との恋を創作します。また、明智光秀に仕える架空の伊賀の名忍の暗躍も描きます。

小島剛夕の刀剣キャラ④ 甲賀の抜け忍に育てられた忍び・千太郎

小島剛夕はそうしたロマンスの裏側に主眼を置きます。

明智光秀と明姫の子は双子でした。この物語の実質の主人公の千太郎です。

産まれてすぐに甲賀の抜け忍の集まる飛騨のかげろう一族にさらわれた千太郎は、伊賀・甲賀など全国すべての忍びを束ねる忍室和尚(にんしつおしょう)の考えに従って行きます。

忍室和尚(薩摩藩島津氏菩提寺・福昌寺第15代座主)はフランシスコ・ザビエル(来日したイエズス会宣教師)との対話で、その名を史実に残します。小島剛夕は、その人物を大胆に脚色しました。

忍室和尚は、織田信長、彼に仕える明智光秀の武士、そして仏教集団とキリシタンを一気に滅ぼす野望を持っていました。千太郎はそんな師の教えに基づき、自分の父親と知らずに明智光秀の命を狙い続けます。

「第二部 第四話」【戦国風忍伝】より

「第二部 第四話」【戦国風忍伝】

小島剛夕の刀剣キャラ⑤ 伊吹十忍の生き残り・青ヶ谷風心

千太郎には別の元・忍びも支援します。忍室和尚がかつて所属していた伊吹十忍の生き残り、青ヶ谷風心です。

現在はフランシスコ・ザビエルの弟子となり、ロレンソと名乗っています。キリスト教の布教を生きがいにしています。

実在したロレンソ了斎がモデルです。琵琶法師として生きる中でフランシスコ・ザビエルの洗礼を受けてキリスト教の宣教師となった人物です。のちに戦国時代の貴重な資料【日本史】を記すルイス・フロイス(来日したイエズス会宣教師)とも行動を共にしています。

史実をもとに小島剛夕が大胆に創作した青ヶ谷風心(ロレンソ)は、フランシスコ・ザビエルを助けるべく仏教を信じる武家の命を狙います。そこでは巧妙な忍びの術が使われます。

「第一部 第一話」【戦国風忍伝】より

「第一部 第一話」【戦国風忍伝】

そんな青ヶ谷風心(ロレンソ)はやがて千太郎と共闘していくことになります。

千太郎が織田信長暗殺犯として命を狙われる中、高山右近が亡くなると、双子であるその遺体を使って千太郎の命を救います。同じキリシタンである高山右近よりも千太郎を選びました。

「千太郎……そんな方は知りませんな 高山右近さまに生き映しだが……」と青ヶ谷風心(ロレンソ)は語ります。小島剛夕は千太郎や青ヶ谷風心(=ロレンソ)など、戦国武将よりも歴史の裏側を生きる抜け忍に感情移入しています。

「第二部 第十三話」【戦国風忍伝】より

「第二部 第十三話」【戦国風忍伝】

小島剛夕の刀剣キャラ⑥ 抜け忍の抜け忍の剣客・ムサシ

続いて【孤剣の狼】(1968年、1970年〔週刊漫画アクション〕連載)を描きます。

主人公は抜け忍で、愛馬のクロとさすらう素浪人・ムサシ(無三四)です。師匠から習った伊吹剣流を売り込むことをひとつの目標に、至るところで剣技を披露します。

「鎌鬼」【孤剣の狼】より

「鎌鬼」
【孤剣の狼】

ムサシの師匠は、土忍記の草薙小平次です。土忍記と孤剣の狼は連作となっています。

老いた草薙小平次は、柳生忍群を統率する柳生十兵衛を倒すことを夢見て伊吹剣流の再興を考えます。けれどもムサシは、師・草薙小平次の要請を拒否したことで、伊賀の抜け忍だった妻・おぼろを殺され、赤子を人質に取られます。

ムサシは「生命は預ける坊主を大切にあつかえ!」と告げ、抜け忍からさらに抜け忍となり、あてどなく妻の影を求めて放浪の旅に出ていきます。

「血の山」【土忍記】

「血の山」
【土忍記】

その後の小島剛夕の刀剣漫画

小島剛夕はその後、【剣豪秘話】(1968年〔漫画ゴラク〕連載)、【剣鬼がゆく】(1969~1970年〔漫画ゴラク〕連載)など、剣豪を描いていきます。「剣豪」ブームをけん引した柴田錬三郎の【赤い影法師】(1968年〔週刊少年キング〕連載)の漫画化も行いました。そして漫画原作者・小池一夫との出会いによって【子連れ狼】(1970~1976年〔週刊漫画アクション〕連載)を発表し、代表作となりました。

以後、笹沢佐保(ささざわさほ)、滝沢解(たきざわかい)、梶原一騎(かじわらいっき)などの原作者を起用していきます。黒澤明映画の漫画化(【蜘蛛巣城】【椿三十郎】)も行っています。

小島剛夕の刀剣世界は、青年劇画雑誌の興隆期と共に拡がり、戦後の刀剣漫画を大きく発展させました。

著者名:三宅顕人

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梶原一騎

梶原一騎
【巨人の星】、【あしたのジョー】、【タイガーマスク】などで知られる漫画原作者・梶原一騎(かじわらいっき)。梶原一騎は後発の劇画原作者・小池一夫が台頭してきた時期、小池一夫の主戦場の時代劇漫画に挑戦しました。虚実混交を得意とする梶原一騎は、青年向けでは宮本武蔵を取り上げた【斬殺者】を、少年向けでは男谷信友と榊原健吉を取り上げた【剣は道なり】を発表します。

梶原一騎

モンキー・パンチ

モンキー・パンチ
【ルパン三世】で知られるモンキー・パンチ。アメリカの映画と漫画に大きな影響を受けたモンキー・パンチは青年漫画雑誌を拠点に、西洋VS東洋の構図を描き続けます。ルパン三世では石川五右ェ門を通して描き、沖田総司を主人公とした【幕末ヤンキー】ではヤンキーとの対立構図を描きます。

モンキー・パンチ

小池一夫

小池一夫
【子連れ狼】(小島剛夕作画)で知られる劇画原作者・小池一夫(こいけかずお)。歴史・時代小説家の山手樹一郎の弟子となり、山本周五郎にも教えを乞いました。その後さいとう・たかをのもとで漫画原作者となり、歴史・時代小説の魅力を漫画の世界に本格的にもたらしました。その影響は、子連れ狼だけでなく【修羅雪姫】(上村一夫作画)など、海外の有名映画にまで及んでいます。

小池一夫

平田弘史

平田弘史
【薩摩義士伝】で知られる平田弘史(ひらたひろし)。劇画を普及させたさいとう・たかをと同時期に貸本漫画で活動を始め、【名刀流転】などを描きます。平田弘史は寡作になるほど時代考証や実証研究に徹底的にこだわります。【首代引受人】という独自の時代劇漫画も数行の歴史資料をもとに考え出します。

平田弘史

石ノ森章太郎

石ノ森章太郎
【サイボーグ009】や【仮面ライダー】シリーズなどで知られる石ノ森章太郎(いしのもりしょうたろう)。それら代表作と同時期、青年漫画雑誌創刊ラッシュの中で少年漫画版を描き直した時代劇漫画【佐武と市捕物控】、【仮面ライダー】の時代劇版が目指された【変身忍者嵐】を描いています。石ノ森章太郎の連載に先駆けては、忍者や勝新太郎主演の映画【座頭市】シリーズがブームとなっていました。

石ノ森章太郎

ジョージ秋山

ジョージ秋山
【銭ゲバ】、【アシュラ】など少年漫画で残酷描写の中に無情を描いた作風で知られるジョージ秋山。少年漫画を離れると青年漫画雑誌で連載44年に及んだ【浮浪雲】など、池波正太郎人気以降、時代劇漫画を数多く描いていきます。青年向けでは逆に残酷描写は抑えられるも無情さは変わらず描かれます。それは青年向けの時代劇漫画【女形気三郎】でも変わりません。

ジョージ秋山

白土三平

白土三平
【忍者武芸帳 影丸伝】、【カムイ伝】などで知られる白土三平(しらとさんぺい)。それら2作や【カムイ外伝】では忍者を軸に描きます。カムイ伝を描くために自費で青年漫画雑誌を創刊した白土三平は、当時の学生運動の気運と相まって、それまでの子供向けだった漫画的表現にリアリズムをもたらします。剣技の描写も変化しました。

白土三平

横山光輝

横山光輝
【鉄人28号】、【バビル2世】などで知られる横山光輝(よこやまみつてる)。白土三平、山田風太郎らの人気で生じた忍者ブームを【伊賀の影丸】、【仮面の忍者 赤影】などで上手に取り入れました。青年漫画雑誌興隆の中で時代劇漫画が盛り上がった時期には、【闇の土鬼】で史実を押さえた手法に歩み出し、青年漫画的な骨太の少年漫画を生み出します。その後、中国史物である【三国志】、歴史小説家「山岡荘八」原作の【徳川家康】を原作とする漫画を描き、人気を博しました。

横山光輝

さいとう・たかを

さいとう・たかを
【ゴルゴ13】で知られるさいとう・たかを。黒澤明の時代劇映画に夢中になる映画青年を経て漫画家に。手塚治虫に対抗して「劇画」という言葉を広めたさいとう・たかをは、【無用ノ介】で劇画の手法を少年漫画にもたらしました。続いて描いた週刊誌における日本初の劇画連載となった【影狩り】でさらに劇画を広めました。

さいとう・たかを

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