戦前生まれの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

梶原一騎

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【巨人の星】、【あしたのジョー】、【タイガーマスク】などで知られる漫画原作者・梶原一騎(かじわらいっき)。梶原は後発の劇画原作者・小池一夫が台頭してきた時期、小池の主戦場の時代劇漫画に挑戦しました。虚実混交を得意とする梶原は、青年向けでは宮本武蔵を取り上げた【斬殺者】を、少年向けでは男谷信友と榊原健吉を取り上げた【剣は道なり】を発表します。

梶原一騎の初期刀剣漫画

梶原一騎は、文芸編集者の父のもとで育ち、格闘技に熱中した青年時代を過ごします。空手のインストラクターと小説家として活動する中で、少年漫画雑誌で、プロレスや柔道の絵物語など、スポーツ読み物のライターも務めました。

その中には、【巨人軍一刀斎】もあります。剣豪・伊藤一刀斎の末裔が読売巨人軍の選手になる、現実とフィクションを混在させた五味康祐(代表作【柳生武芸帳】など)の【スポーツマン一刀斎】を絵物語にしました。以後、現実とフィクションの混在は、梶原の得意な手法になっていきます。

力道山に弟子入りする少年を描いたプロレス漫画【チャンピオン太(ふとし)】(吉田竜夫作画)が、力道山本人も登場するテレビドラマ化がなされ、梶原の最初のヒット作に。続く、お菓子メーカーとのタイアップで始まった柔道漫画【ハリス無段(むだん)】(吉田竜夫作画)も好評となり、梶原は漫画原作者を主な職業にします。時代は、週刊少年漫画雑誌が3誌発行され、漫画の量産化へと向かっていました。

梶原は、吉川英治【宮本武蔵】の師弟愛、子母澤寛【父子鷹】の親子愛、ウィリアム・シェイクスピア【ロミオとジュリエット】の純愛、と3つの愛を編集部から提示されます。そこから、宮本武蔵の漫画版を考えます。

「吉川武蔵をめざす青春教養マンガにせよ、いまさら剣豪モノでもないから、もっともポピュラーな野球に材を採ることにきめた」として、同時代の野球選手も実名で登場する野球漫画【巨人の星】(1966-1971年〔週刊少年マガジン〕連載)を創作しました。

作画は、新人の川崎のぼるが担当します。川崎は、「劇画」を掲げるさいとう・たかを(同時期【無用ノ介】発表)のアシスタント経験者で、梶原と劇画が結び付きました。巨人の星で梶原と川崎は、第8回講談社児童まんが賞も受賞します。

梶原の刀剣キャラ① 二刀流の使い手・無門鬼千代

梶原はその後、宮本武蔵を題材に自身初の時代劇漫画となる【斬殺者】(1971-1972年〔週刊漫画ゴラク〕連載)を発表します(小島剛夕作画)。佐々木小次郎との巌流島での決闘以後を描きました。

主人公は、無門鬼千代(むもんおにちよ)です。鬼千代は京都の吉岡道場の門下生時代、目の前で親友の吉岡又七郎が宮本武蔵に敗れ、武蔵の命を狙い続けます。

武蔵の兵法から、「剣の本質はそもそも外道につきる!」、「剣術とはいかに己れが斬られぬ工夫をしつつ他人を巧妙に斬り殺すのかの術!」という考えを持ち、武蔵以上の外道・畜生を目指すことに。鬼千代は自らの剣を、外道剣と名乗りました。

そんな鬼千代は、武蔵に何度迫っても勝てないことから、西洋の剣の心得のあるスペイン船の司令官・ヴィスカイノから南蛮剣法を学びます。鬼千代は以後、右手に刀剣・日本刀を、左手に西洋の刺突剣を持つ二刀流を用いていきます。

【斬殺者】より

【斬殺者】より

梶原の刀剣キャラ② 南蛮剣法の使い手・ヴィスカイノ

スペインの船の司令官・ヴィスカイノは江戸幕府と貿易にやってきました。徳川家康の時代に日本を訪れた実在のスペイン人探検家セバスティアン・ビスカイノから着想が得られています。斬殺者では元・海賊であり剣の心得のあるヴィスカイノは、徳川家康の前で小野忠明(徳川将軍家兵法指南役)と立ち合いを披露し、名声を高めます。

【斬殺者】より

【斬殺者】より

その後ヴィスカイノは、鬼千代にそそのかされ、柳生宗矩(徳川将軍家兵法指南役)とも勝負します。勝敗は宗矩の金を使った政治的手腕で引き分けとなるも、力では勝利しました。

【斬殺者】より

【斬殺者】より

梶原の刀剣キャラ③ 大外道・宮本武蔵

斬殺者のもうひとりの主人公・宮本武蔵は、かつて名を上げようと塚原卜伝に迫っていた自身の姿に鬼千代を重ね、若さゆえの虚しさを鬼千代に説きます。武蔵が見た山に籠っていた晩年の卜伝は、「無力の悟りの恐怖ゆえの遁走」をしていた一介の無力な老人だったためでした。

【斬殺者】より

【斬殺者】より

梶原は、武蔵を変節の人として描きました。色欲や出世欲などすべての欲を封じ込め、人を斬ることを何とも思わない剣にだけ生きるという「大外道」から、武蔵を慕い続けるスペイン人の父親を持つキリシタンの女性・ロザリアお吟との出会いや、柳生宗矩が不当に武蔵を貶めたことなどを経て、やがて欲に目覚めていくようになります。武蔵は、「小賢しい棒振り手品使い」、「エセ剣理」の宗矩を撲殺するために自ら刀剣・日本刀も鍛えました。

【斬殺者】より

【斬殺者】より

梶原と小池一夫

「いまさら剣豪モノでもない」と述べていた梶原の初の時代劇漫画となった斬殺者の誕生は、小池一雄(夫)の影響があります。梶原と同じ漫画原作者の小池は、幼子連れの刺客を描いた【子連れ狼】(小島剛夕作画)などで台頭し始めていました。

梶原は巨人の星のヒット以後も、高森朝雄のペンネームも使い、テレビアニメ化もされる少年漫画の原作を多数手がけていきます(【夕やけ番長】、【柔道一直線】、【あしたのジョー】、【タイガーマスク】、【キックの鬼】、【赤き血のイレブン】、【空手バカ一代】、【侍ジャイアンツ】など)。

東京オリンピック開催を背景に急速に普及したテレビはモノクロからカラーの時代へと向かい、少年漫画雑誌で育った読者は年齢とともに漫画を卒業していく時期でした。

そんな中、ボクシング漫画あしたのジョー(1968-1973 年〔週刊少年マガジン〕連載)は広い世代に人気を博し、掲載誌が「右手にジャーナル、左手にマガジン」と新聞社の週刊誌と並び称され、梶原の名もさらに広がりました。

劇画を通して少年漫画の青年化が進む真っ只中、青年劇画・漫画雑誌で小池が台頭し、2人は比較されるようになります。小池の漫画を梶原は、山本周五郎、五味康祐、池波正太郎らの劇画版ととらえたと述べています。

梶原は初の時代劇漫画を手がけるにあたり、作画を小池の子連れ狼と同じ小島剛夕が担当することになり、斬殺者で子連れ狼に挑みました。

梶原の刀剣キャラ④ 直心影流男谷派剣術の使い手・榊原健吉

斬殺者と同時期に梶原は、少年漫画雑誌でも時代劇に挑みます。幕末を生きた実在の剣客・榊原健吉の生涯を描いた【剣は道なり】(1972 年〔週刊少年チャンピオン〕連載)です(荘司としお作画)。

梶原は、健吉の師匠で直心影流男谷派(じきしんかげりゅうおたには)の創始者・男谷精一郎、精一郎の弟子・島田虎之助、精一郎と虎之助と並び称された幕末の剣客・大石進、健吉の弟子・山田次郎吉など実在の人物を登場させ、独自の物語に仕上げました。

主人公の榊原健吉は、秀才の兄が恨みを買って斬られて亡くなったことから、「剣は刃物なり!」、「刃物は斬れるなり!」、「斬られりゃ死ぬからしてこっちが先に斬り殺すべし!」の考えを持ちます。けれども、「引き分け主義」、「剣は道なり」と語る男谷精一郎と出会い、やがて師匠の人を活かす活人剣に魅せられていきます。

【剣は道なり】より

【剣は道なり】より

斬殺者の鬼千代は最後まで武蔵が大外道であり続けると信じた存在として梶原は描きますが、剣は道なりの健吉も兄の敵討ちを選んだために男谷道場の名誉をかけた団体試合に参加できなくなります。自身の格闘技経験から感じた「正義は必ずしも勝たないからこそ正義は尊い」を描き続けた梶原の作劇です。

【剣は道なり】より

【剣は道なり】より

梶原はその後、小島が作画を手がけた【真説・柳生十兵衛】(1979年〔カスタムコミック〕掲載)を青年劇画雑誌の創刊号に巻頭読み切りで発表するも、刀剣漫画からは遠ざかります。数少ない梶原の刀剣漫画は、小池一夫とのライバル関係が生み出しました。

著者名:三宅顕人

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【ルパン三世】で知られるモンキー・パンチ。アメリカの映画と漫画に大きな影響を受けたモンキー・パンチは青年漫画雑誌を拠点に、西洋VS東洋の構図を描き続けます。ルパン三世では石川五右ェ門を通して描き、沖田総司を主人公とした【幕末ヤンキー】ではヤンキーとの対立構図を描きます。

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石ノ森章太郎

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【サイボーグ009】や【仮面ライダー】シリーズなどで知られる石ノ森章太郎(いしのもりしょうたろう)。それら代表作と同時期、青年漫画雑誌創刊ラッシュの中で少年漫画版を描き直した時代劇漫画【佐武と市捕物控】、【仮面ライダー】の時代劇版が目指された【変身忍者嵐】を描いています。石ノ森の連載に先駆けては、忍者や勝新太郎主演の映画【座頭市】シリーズがブームとなっていました。

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さいとう・たかを

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【ゴルゴ13】で知られるさいとう・たかを。黒澤明の時代劇映画に夢中になる映画青年を経て漫画家に。手塚治虫に対抗して「劇画」という言葉を広めたさいとうは、【無用ノ介】で劇画の手法を少年漫画にもたらしました。続いて描いた週刊誌における日本初の劇画連載となった【影狩り】でさらに劇画を広めました。

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白土三平

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【忍者武芸帳 影丸伝】、【カムイ伝】などで知られる白土三平(しらとさんぺい)。それら2作や【カムイ外伝】では忍者を軸に描きます。カムイ伝を描くために自費で青年漫画雑誌を創刊した白土は、当時の学生運動の気運と相まって、それまでの子供向けだった漫画的表現にリアリズムをもたらします。剣技の描写も変化しました。

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【鉄人28号】、【バビル2世】などで知られる横山光輝(よこやまみつてる)。白土三平、山田風太郎らの人気で生じた忍者ブームを【伊賀の影丸】、【仮面の忍者 赤影】などで上手に取り入れました。青年漫画雑誌興隆の中で時代劇漫画が盛り上がった時期には、【闇の土鬼】で史実を押さえた手法に歩み出し、青年漫画的な骨太の少年漫画を生み出します。

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白土三平【カムイ伝】、小池一夫原作【子連れ狼】の作画でも知られる小島剛夕(こじまごうせき)。抜け忍を描いた自作【土忍記】とその連作【孤剣の狼】を、青年漫画雑誌の創刊ラッシュの中で描きます。その後、柴田錬三郎の時代小説の漫画化や原作つきで数多くの作画を手がけていく小島は、青年漫画の興隆とともに時代劇漫画を大きく発展させます。

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