主な刀剣学者

渡邉妙子
/ホームメイト

渡邉妙子 渡邉妙子
文字サイズ

「渡邉妙子」氏は、充実した日本刀コレクションで知られる佐野美術館の理事長であり、女性日本刀研究者の先駆けです。佐野美術館の開館準備から学芸員として携わり、展示やイベント、講演を通して、日本刀の魅力とその背景にある歴史・文化を発信してきました。執筆した専門書やエッセイは、日本刀にまつわる膨大な情報を、分かりやすく美しい文体でひもとき、刀剣ファンに支持されています。渡邉妙子氏の経歴とともに、渡邉妙子氏が著した書籍についてご紹介しましょう。

渡邉妙子とは

渡邉妙子の経歴

渡邊妙子

渡邉妙子

渡邉妙子は、1937年(昭和12年)に東京府(現在の東京都)で生まれました。

生家には伊万里焼や有田焼の皿や蒔絵の椀があり、祝いごとの日には食卓に並んだと言います。こうした暮らしの中で器への関心が芽ばえ、美術を専門的に学びたいと考えるようになりました。

高校を卒業後、銀行勤めをしながら慶應義塾大学の通信教育課程で学び、学芸員資格を得て卒業します。

そのあと、大学の恩師のすすめで静岡県三島市に開館準備中だった佐野美術館の求人に応募し、採用されました。佐野美術館は地元出身の実業家「佐野隆一」が、自身のコレクションを寄付して1966年(昭和41年)に設立した美術館です。

コレクションは陶磁器、絵画、彫刻など多彩ですが、佐野隆一はとりわけ日本刀に親しみ、国宝をはじめ多くの名刀を同館に寄付しました。日本刀が目玉になるはずの佐野美術館で、渡邉妙子は着任早々、刀剣界のけわしさを知ることになります。

日本刀は武士の魂とされ、女性が触れることは許されず、高名な研師(とぎし)から「女が触れてはいかん。日本刀が錆びる」と言われてしまったのです。

当時、佐野美術館の学芸員は渡邉妙子ひとりしかおらず、それでは所蔵品の管理や展示ができません。途方にくれた渡邉妙子は、同館の常務理事に就任していた刀剣研究者の「本間順治」(ほんまじゅんじ)を訪ねました。

刀剣界の大家の薫陶を受ける

本間薫山

本間薫山

本間順治は「本間薫山」(ほんまくんざん)の号でも知られる、古刀研究の権威であり日本刀鑑定の第一人者です。

渡邉妙子の訴えを聞いた本間順治は、すぐに電話をして「渡邉妙子と言う女性を向かわせるので、日本刀の手入れを教えるように」と連絡します。その相手こそ「女が触れると日本刀が錆びる」と禁じた研師、本阿彌日洲(ほんあみにっしゅう)でした。

本阿彌日洲は、室町時代から刀剣の鑑定や研磨を生業にしてきた本阿弥家の17代目当主で、のちに刀剣研磨の重要無形文化財保持者(人間国宝)になった人物です。

本間順治の紹介で訪ねてきた渡邉妙子を、夫人も入ったことがないと言う仕事場に案内し、本阿弥家伝来の手入れの仕方をすべて教えたのです。そのあと、渡邉妙子は本間順治が東京で主催する勉強会に三島市から月2回、10年間通います。

本間順治は毎回、貴重な日本刀を披露し、作刀された時代や手がけた刀工を推量させました。はじめは見当がつかなかったものの、学ぶうちに分かるようになり、次第に魅せられていったと言います。本間順治の確かな鑑識眼と、日本刀の質感や、鍛えた刀工の心情まで感じ取れるような豊かな表現に導かれ、その面白さや価値に目覚めていきました。

また、武術「力信流」(りきしんりゅう)の師範「美和靖之」の道場にも通い、実際に日本刀を手にして稽古を重ねます。初めて日本刀を手にした渡邉妙子に、美和靖之は2人の弟子に新聞紙の両端を持たせて広げた物を切るように言いましたが、まったく切れません。

名刀であっても、技がなければ本来の切れ味を出せないのだと痛感した出来事でした。美和靖之は「刀の扱いを知らずに、日本刀について人前でしゃべってはならない」と考え、渡邉妙子はその意思を汲みとり、稽古に励んだのです。

渡邉妙子は2000年に佐野美術館館長に就任し、同館理事長として日本刀文化の普及に尽力しました。ゲームや漫画、アニメをきっかけに日本刀に関心を持つ人が増えたことを歓迎し、「日本刀を観て、きれい、かっこいいと感じたら、それが作り出された背景にある情報に興味を広げてほしい」と願っていたのです。

渡邉妙子の名著

名刀と日本人 刀がつなぐ日本史

img_名刀と日本人-―刀がつなぐ日本史

名刀と日本人
刀がつなぐ日本史

渡邊妙子の著書「名刀と日本人 刀がつなぐ日本史」は、武士道をキーワードに日本刀が紡いだ歴史を読み解きます。

武士にとって日本刀は不義、不忠、不正をただす尊い武器であり、それゆえに誕生や元服の祝い、武功の恩賞として贈り、ときには戦利品としてわが物にしました。

こうして、様々な名刀がたどった足跡を「祝う」、「褒美」、「分捕る」などと章立てて追跡します。

祝うの章では、「鎌倉幕府」の開祖、「源頼朝」(みなもとよりとも)に長男「源頼家」(みなもとよりいえ)が誕生したのを祝い、御家人達がお守り刀を献上した逸話を紹介。

貴族から実権を奪った棟梁・源頼朝を誇り、その二世誕生に沸く御家人達の喜びに思いを馳せます。

分捕るの章では、「武田信玄」の異母弟「武田信実」(たけだのぶざね)が「長篠の戦い」で奇襲に遭い、無念の死を遂げた際、腰にあった「助次の太刀」(すけつぐのたち)を紹介。

これを目玉に開催した展覧会で起きた怪奇現象のエピソードは、日本刀が持つ特異な霊力を物語ります。他にも「守る」、「絆」、「恩に報いる」などの各章で、名刀にまつわる人と時代のドラマを解き明かし、読み応えのある1冊です。

日本刀の教科書

img_日本刀の教科書

日本刀の教科書

「日本刀の教科書」は渡邉妙子と佐野美術館学芸員の「住麻紀」(すみまき)の共著。「従来の専門書は用語が難しく、とっつきにくい」と言う声に応えた入門書です。

第1章の各項「日本刀の定義」、「日本刀の作り方」、「代表的な刀剣の産地」などで基礎知識を養い、読み進むうちに日本刀への理解が深まり、楽しめるように導きます。

第2章の「名工の話」の項では、「備前友成」(びぜんともなり)や「長船長光」(おさふねながみつ)など、有名な刀匠の来歴や作品の特長を解説。

また「日本刀を愛した人々」の項では、戦国武将ばかりでなく平安時代の武官「坂上田村麻呂」(さかのうえのたむらまろ)や、みずからも鍛刀した「後鳥羽上皇」(ごとばじょうこう)と愛刀のエピソードが語られています。

第3章では「日本刀を見に行こう」、「日本刀の手入れ方法・保管方法」、「日本刀を発見した場合」などの実践的な情報を収録。「教科書」と言うタイトル通り、この1冊で日本刀の製法や歴史的変遷、手入れや鑑賞のコツまで、まるごと分かります。

渡邉妙子の代表書籍一覧

書籍 日本名刀物語 名刀と日本人 刀がつなぐ日本史
出版社 東京堂出版

名刀と日本人

書籍 日本刀の教科書(共著)
出版社 東京堂出版

日本刀の教科書

書籍 日本刀は素敵
出版社 ワック
日本刀は素敵

日本刀は素敵

書籍 名刀大全
出版社 小学館

名刀大全

書籍 三百年生きる木造美術館づくり
佐野美術館の挑戦(共著)
出版社 静岡新聞社
三百年生きる木造美術館づくり

三百年生きる木造美術館づくり

スペーサー画像

渡邉妙子をSNSでシェアする

キャラクターイラスト
キャラクターイラスト
キャラクターイラスト
注目ワード
注目ワード