主な刀剣学者

本間薫山

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「本間薫山」(ほんまくんざん)は、古刀研究の権威であり日本刀鑑定の第一人者として活躍した人物です。戦後に行われた「昭和の刀狩り」と呼ばれる、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による武器没収の際には、日本刀の救済を訴えて数多くの名刀を救いました。また、刀剣研究家として刀剣に関する膨大な研究資料を遺したことでも有名です。本間薫山の経歴と共に、本間薫山が著した書籍についてご紹介します。

本間薫山とは

本間薫山の経歴

本間薫山

本間薫山

「本間薫山」は、本名を「本間順治」(ほんまじゅんじ)と言い、新刀研究の第一人者である「佐藤寒山」と共に「両山」と称されました。「薫山」と言う号は、本間薫山が刀剣を鑑賞する際、納得したときに鼻を「くんくん」と鳴らす癖があったことに由来しています。

本間薫山は、1904年(明治37年)に山形県飽海郡(現在の山形県酒田市)で誕生。父や祖父が愛刀家であったため、刀剣は本間薫山にとって身近な存在でした。

しかし、生家にいた頃は誰かに刀剣を習った記憶はなく、本間薫山が刀剣について学びはじめたのは、国学院大学へ入学したあとだったと言います。入学後、祖父や親から「刀を本格的に勉強しなさい」と言われるようになり、恩師から紹介を受けたのが刀剣鑑定家の「神津伯」(かみつはく)です。そして、本間薫山は神津伯からだけではなく、「中央刀剣会」や「築地刀剣会」などへも積極的に参加して、着実に入札鑑定の知識や鑑識眼を身に付けました。

国学院大学を卒業したあとは、「国立博物館」(現在の[東京国立博物館])の調査課長をはじめ、「本間美術館」の初代館長、文部省(現在の文部科学省)の国宝調査員、公益財団法人「日本美術刀剣保存協会」の初代会長に就任するなど、多岐にわたって活躍。本間薫山が研究結果として著した書籍は現在でも、非常に参考になる資料として重宝されています。

GHQによる昭和の刀狩り

中島喜代一

中島喜代一

本間薫山の偉業として特に知られる出来事と言えば、戦後に行われたGHQによる刀剣を含む武器の接収、通称「昭和の刀狩り」です。

当時、本間薫山は実業家である「中島喜代一」(なかじまきよいち)から「日本人が所有している、刀剣を含む一切の武器をGHQへと引き渡さなければならない」と言う情報を聴きました。

本間薫山は、「日本刀は確かに武器として作られたが、愛刀家はそういった角度から刀剣を大事にしているのではない。その美しさを鑑賞し、あるいは先祖をしのぶと言う面から大切にしているのだ」と主張。

キャドウエル大佐

GHQから日本刀を守るために各地へ赴き、連合国憲兵司令部「キャドウエル大佐」などの要人に何度もかけあって、一度接収された日本刀を取り返した他、鑑賞を目的とした「美術刀剣」として保存することを許可されました。

しかし、美術刀剣にする刀の基準ははじめ、「国宝重要美術品、またはそれに準ずる刀と、記念に作刀された価値ある刀だけ」だったため、それでは現存するほとんどの刀剣が接収されてしまいます。そのため、本間薫山は「それでは困る。日本の愛刀家が鑑賞しているのは、そういったクラスの刀だけではない。重要美術品以下の刀も大切にしているのだから、基準を下げてほしい」と粘り強く、何度も交渉しました。

その結果、本間薫山の熱意に押されたGHQは「専門家が観て、いずれかの点に美術的価値が認められた刀を美術刀剣とする」と返答。このとき、本間薫山は「それであれば、ほとんどの刀を合格させることができる。これは非常によろしい。ベリーグッドだ」と大いに喜んだと言います。現在、博物館などでは当然のように名刀を観ることができますが、その背景には本間薫山をはじめとした先人達の並々ならぬ努力が存在するのです。

本間薫山の名著

刀華会講話 -名刀のみどころ極めどころ-

刀華会講話

刀華会講話

「刀華会講話 -名刀のみどころ極めどころ-」は、本間薫山を講述人として開催された講和を、「第1集」、「第2、3集」、「第4集」の全3冊に収録した刀剣解説書。

「第1集[山城国古刀編]」では、「来派」(らいは)や「長谷部派」(はせべは)、「粟田口派」(あわたぐちは)など、古刀期の山城国(現在の京都府南半部)を代表する刀工一派が作刀した刀剣をもとに、各刀工の特徴や見どころ、諸説に対する意見などが掲載されています。

「第2集[相模国古刀編]」では、「新藤五国光」(しんとうごくにみつ)、「行光」(ゆきみつ)、「正宗」(まさむね)、「貞宗」(さだむね)など、相州伝を代表する刀工をはじめ、相模国(現在の神奈川県)で活躍した刀工の解説を掲載。

「第3集[大和国古刀編]」では、「千手院派」(せんじゅいんは)や「当麻派」(たいまは)、「手搔派」(てがいは)、「保昌派」(ほうしょうは)、「尻懸派」(しっかけは)をはじめとした、「五箇伝」(日本刀の名工を輩出した5つの主生産地)のひとつ大和伝を代表する刀工の解説が掲載されています。

「第4集[備前国古刀編]」では、備前国(現在の岡山県東部)で活躍した「古備前派」(こびぜんは)をはじめ、「一文字派」(いちもんじは)や「長船派」(おさふねは)など、備前国を代表する刀工一派の解説を掲載。

「刀華会講話 -名刀のみどころ極めどころ-」は、全編を通して、基本的な刀剣用語が分かりやすく説明されているのが特徴。なお、「刀華会講話」の全4集に、「第5集[備中国古刀編]」と「第6集[美濃国古刀編]」を追加した刀剣解説書「名刀の見どころ、極めどころ」も発行されているため、古刀についてより深く知りたい刀剣ファンは「名刀の見どころ、極めどころ」も必読です。

薫山刀話

薫山刀話

薫山刀話

「薫山刀話」は、本間薫山が自身の最古参の門弟である「石井昌国」との対話をまとめた刀剣解説書。本文がはじまるまでの最初約50ページには、天下に名高い5振の名刀「天下五剣」をはじめ、「享保名物帳」に記載される数々の「名物」と呼ばれる刀の実物写真が掲載されている他、刀剣界では知らない人がいない著名な刀剣研究家や愛刀家、研師(とぎし)や刀工をはじめとした職人達の紹介が顔写真付きで掲載されています。

そして、本文は総ページ数が200ページを超える大ボリューム。第1話からはじまり、第6話まで、テーマ別にまとめられているのが特徴です。

「第1話 薫山と刀」と題された項目では、本間薫山の生い立ちや刀に関する経歴が紹介されています。対話形式で掲載されているため、本間薫山がどのような人柄であったのかが伝わってくるのが特色のひとつ。また、小項目「終戦秘話」では、昭和の刀狩りの経緯と日本美術刀剣保存協会が創設された当時の裏話が記載されており、本間薫山はこの項目で、当時を振り返って「私がやった刀の仕事のなかで、一番張り合いがある仕事だった」と語っています。

本間薫山が武器として作られた名刀を守るために、GHQを相手にどのようにして「美術刀剣」と認めさせたのか。昭和の刀狩りに関する話は、世に出回っている刀剣関連の書籍では詳しく語られることがほとんどありません。そのため、美術刀剣の審査委員長に任命された本間薫山が見聞きし、実行した当時の様子を詳しく知りたい刀剣ファンは、この項目を熟読することをおすすめします。

「第2話 皇室の名刀」では、「正倉院」が所有する刀剣に関する情報や、愛刀家で知られる「孝明天皇」と「明治天皇」に関連して、現存する御物(ぎょぶつ)の刀剣の伝来などを掲載。

「第3話 大名家の名刀」では、愛刀家で知られる戦国武将「上杉謙信」の家柄である「上杉家」が所蔵する名刀についての言及が掲載されています。上杉家には、重要美術品に指定される名刀が数多くありますが、一方で国宝に指定される刀剣は1振もありません。本間薫山は、これについて「国宝に指定されると、所有者には公開の義務や、毀損した場合は罰せられるなど、様々な責任を負う必要がある。そのため、上杉家の者は所蔵刀を国宝に指定されることを拒んだのです」と説明しています。

本項目ではこのほかにも、「庄内酒井家」や「伊達家」、「徳川家」が所有する名刀を実際に観た際の感想などを掲載。著名な大名家が所蔵する刀に関するエピソードが多く語られているため、戦国武将が好きな刀剣ファンは必見です。

杉山茂丸

「第4話 愛刀家列伝」では、本間薫山が交流していた愛刀家の人々に焦点を当てて、人柄や経歴、また刀剣に関する話以外のエピソードを掲載。

例えば、政治運動家で実業家の「杉山茂丸」(すぎやましげまる)は、大の「うなぎ」好きだったため、本間薫山は「私は、杉山先生より刀に詳しいが、うなぎに関しては先生の方が詳しかった」、「細いうなぎがおいしいと言うが、やっぱり大きいうなぎの方がおいしいのだ、と講釈を聞かされた」と言った具合に、愛刀家の人達との思い出話が盛りだくさん。「各愛刀家の名前は知っているけど、どんな人だったのかは知らない」と気になる人におすすめの項目です。

「第5話 研ぎ・鞘・写真術」では、研師の「平井千葉」(ひらいちば)、鞘師(さやし)の「鞘文」(さやふみ)、美術印刷業者の社長「大塚稔」(おおつかみのる)と刀剣写真の元祖「並木武雄」(なみきたけお)の4名についての話が詳しく紹介されています。

「第6話 これからの日本刀の研究課題」では、本間薫山が研究した結果得られた情報と、後世の人々に対する刀剣の研究課題を掲載。一度鑑定された刀も、後世に改めて鑑定をすれば別人の作である説が浮上することや、反対に誰の作であるかが判明することがあるなど、刀剣は日々の研究によって定説が覆ることがある分野です。本間薫山は、「後世の人々には、しっかりした知識と鑑識眼を持って1振1振を見極めてほしい。特に、その刀が正真であるか偽物であるかの鑑定は慎重になるべきだ」と言う言葉で本項目を締めくくっています。

日本刀

日本刀

日本刀

「日本刀」は、1939年(昭和14年)に発行された刀剣解説書。

刀剣の歴史や鍛錬、研磨(けんま)などの基本知識をはじめ、名刀に関する解説と逸話、要人が所有する刀の写真などが収録されています。また、「正宗抹殺論」や「村正は妖刀か」などのコラムも掲載されていますが、なかでも刊行された当時の背景を思わせるコラムが「軍刀の選び方」です。本書が刊行された当時、日本の軍人は軍刀を帯刀していました。そして、軍刀は階級や身分などによってその形状にも細かな決まりがあったため、本書はその良し悪しの指南書としての役割もあったのだと推測されます。

なお、本書は戦後76年の間、再販されることがなかったため「幻の日本刀研究の名著」と言われていました。しかし昨今の刀剣ブームの影響で、2019年(平成31年/令和元年)に再販が決定。また、それに伴って旧字体の漢字を新字体へ直した電子書籍版も発売されました。

じつは、刀剣ブームの火付け役となった「刀剣乱舞」が配信開始した2015年(平成27年)にも、本書を復刊する話が「岩波新書編集部」内で上がっていたと言います。しかし、編集部で「ゲームファンの人達は、こんな旧字体で書かれた昔の本を読まないだろう」と判断したため、復刊の話は立ち消えになりました。

それが一転して復刊した理由は、刀剣乱舞の影響が想像していた以上に大きかったためです。刀剣乱舞が配信開始されて以降、各地で刀剣に関連したイベントなどが開催。また、当時想定していた以上に「刀剣女子」が刀剣に関する様々な書籍を購入して刀剣の知識を深めていると知り、「旧字体の本でも、刀剣女子の人達なら楽しんでくれるだろう」と復刊することを決定したと言います。

本書は、「刀剣入門書として間違いがない」と言われる名著中の名著であるため、様々な刀剣ファンにおすすめしたい1冊です。

本間薫山の代表書籍一覧

書籍 日本刀
出版社 岩波書店

日本刀

書籍 日本古刀史
出版社 日本美術刀剣保存協会
改訂増補版

日本古刀史

書籍 薫山刀話
出版社 東京出版
薫山刀話

薫山刀話

書籍 日本刀の話
出版社 春陽堂文庫出版

日本刀の話

書籍 尾津喜之助翁遺愛品展
出版社 刀剣博物館
尾津喜之助翁遺愛品展

尾津喜之助翁遺愛品展

書籍 光徳の象嵌銘朱銘等と
彼の鑑識 附本阿弥家の銅印について
出版社 日本美術刀剣保存協会
光徳の象嵌銘朱銘等と彼の鑑識 附本阿弥家の銅印について

光徳の象嵌銘朱銘等と彼の鑑識
附本阿弥家の銅印について

書籍 肥前刀大鑑 忠吉篇
出版社 日本美術刀剣保存協会
肥前刀大鑑 忠吉篇

肥前刀大鑑 忠吉篇

書籍 名刀の見どころ極めどころ
出版社 刀剣春秋新聞社
名刀の見どころ極めどころ

名刀の見どころ極めどころ

書籍 名刀図譜
出版社 大塚巧芸社
名刀図譜

名刀図譜

書籍 国宝刀劒図譜
出版社 岩波書店
国宝刀劒図譜

国宝刀劒図譜

書籍 日本刀講座 第2巻
出版社 雄山閣出版 新版
日本刀講座 第2巻

日本刀講座 第2巻

書籍 日本刀講座 第7巻
出版社 雄山閣
日本刀講座 第7巻

日本刀講座 第7巻

書籍 日本刀講座 第14巻
出版社 雄山閣
日本刀講座 第14巻

日本刀講座 第14巻

書籍 刀華会講話〈第1~4集〉
出版社 刀剣春秋新聞社編集局編集、刀華会発行
刀華会講話

刀華会講話

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