歌舞伎演目の中から、日本刀が物語を彩る重要なアイテムとなる「金閣寺」(きんかくじ)―本外題「祇園祭礼信仰記」(ぎおんさいれいしんこうき)の物語の概要と、立廻りの見どころをご紹介します。
作者 | 中邑阿契(なかむらあけい)・豊竹応律(とよたけおうりつ)・黒蔵主(こくぞうす)・三津飲子(みついんし)、浅田一鳥(あさだいっちょう)による合作 |
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初演 | 1757年(宝暦7年) |
満開の桜が咲き誇る京都・金閣寺で悠々と碁を打つ松永大膳(まつながたいぜん)。足利将軍家に謀反を起こし、将軍・足利義輝の母・慶寿院(けいじゅいん)を人質に金閣寺に立てこもっているのです。悪人の中でも抜きんでてスケールの大きな国崩しという役柄です。
歌舞伎で悪役とい言えば「赤っ面」ですが、大膳は白塗りに、王子と呼ばれるざんばら髪。さらに高貴な人が着る金襴の「小忌衣」(おみごろも)姿です。
実は、金閣寺にはもう1人囚われの身となってしまった人物がいます。絵師・狩野雪村(かのうせっそん)の娘・雪姫です。
大膳は雪姫に惚れており、金閣寺の天井に墨絵の龍の絵を描くか、自分の意のままになるか、どちらかを迫ります。どちらにも応えたくない雪姫が、龍を描くには手本がなく無理だと言うと、ならばその手本にと大膳が抜き放った日本刀の力で、庭の滝に龍の姿が現れます。
不思議な力を持つその日本刀こそ、父が何者かに殺されて奪われた家伝の秘宝、倶利伽羅丸だと気付く雪姫。仇討ちをすべく日本刀で斬りかかるものの失敗し、捕らえられて桜の木に縛り付けられてしまいます。そして雪姫の夫・直信は処刑されることに。
雪姫
雪姫は、室町時代の高名な水墨画家として知られる「雪舟」の孫。
雪舟は幼少期、禅僧になるために修行をしていた寺で絵ばかりを描いていたことから、柱に縛り付けられます。それでも床に落ちた自分の涙を足の指に付けてネズミの絵を描いたところ、あまりの見事さからそれを見た住職が本物のネズミと勘違いし、雪舟が噛まれないように追い払おうとした、という逸話が残る人物。
雪姫は、祖父・雪舟の奇跡の再現を念じ、桜の木に縛られたまま舞い散る桜の花びらを足で集め、爪先でねずみを描きます。涙を桜に変えて雪姫がねずみを描くシーンは、「倒錯美」とも称される非常に美しいシーン。
そして、奇跡が起こります。描いたねずみが動き、姫の縄を食いちぎり、開放された雪姫は夫のもとへと向かうのです。
一方、大膳に仕官を願う此下東吉(このしたとうきち)は、慶寿院救出のために大膳のもとに派遣された真柴久吉(ましばひさよし)。大膳が東吉の知恵を試そうと井戸に碁石を入れる器を投げ、手を濡らさず取るように命じると、樋(とい)を使って滝の水を井戸に入れ、器を浮かばせて取り上げました。その知恵に感心した大膳はすぐさま東吉を採用します。
実は東吉は、モデルが豊臣秀吉です。信長の草履を暖めたことから信長の家臣となった逸話同様、知恵をきかして大膳のもとに入り込んだのです。
この東吉が、雪姫を追う大膳の追っ手を斬って助け、家宝の宝剣倶利伽羅丸も大膳から奪い返して雪姫に渡し、夫・直信のもとへと向かわせます。そして、いよいよ慶寿院の大救出作戦を決行。
東吉が慶寿院を救出するために金閣寺の最上階へ向かう場面で、豪華絢爛な金閣寺の建物がせり上がったりせり下がったりする「大セリ」が行なわれます。大セリは歌舞伎ならではの舞台演出。じっくりと堪能しましょう。