歌舞伎の名場面・見どころ
三人吉三廓初買
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三人吉三廓初買

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歌舞伎演目の中から、名刀をめぐる因果応報を描く「三人吉三廓初買」(さんにんきちさくるわのはつがい)の物語の概要と、悲劇の結末をご紹介します。

名刀庚申丸がもたらす因果で、3人の「吉三」が出会ってしまったがために起きる悲劇の連鎖

作者 河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
初演 1860年(安政7年)1月

「三人吉三廓初買」は、通称「三人吉三」(さんにんきちさ)と呼ばれ、世話物の中でも盗賊を主人公にした作品である「白浪物」(しらなみもの)の傑作のひとつです。「三人吉三巴白浪」(さんにんきちさともえのしらなみ)という本外題でも上演されます。

時代は幕末。タイトルが示す通り、同じ「吉三」の名を持つ3人の盗賊が、あることをきっかけに出会い、義兄弟の契りを結びます。しかしこの出会いこそ、過去の因果が引き寄せた新たな悲劇の始まり。そして、それぞれが目的を果たして差し違え死んでいくという最後。そこには名刀「庚申丸」(こうしんまる)が深くかかわり、運命に操られるがごとく悲劇の連鎖が起こっていくのです。

女装のお嬢、浪人のお坊、そして兄貴分の和尚、3人の名は同じ「吉三郎」

三人吉三は、武家生まれだが途中でグレてしまった「お坊吉三」(おぼうきちさ:お坊はお坊ちゃんの意)、女装の旅役者姿で盗みを働く「お嬢吉三」(おじょうきちさ:実は男)、そして出家したものの、盗賊として身を立てる「和尚吉三」(おしょうきちさ)が主人公。

3人が出会うのは、現在単独上演されることも多い序幕の「大川端庚申塚(おおかわばたこうしんづか)の場」。まず、「こいつぁ春から縁起がいいわえ」で終わる、お嬢吉三のうたうような七五調の名セリフに大注目です。

このセリフには、早春の江戸の情景が詰まっており、セリフのあとに繰り広げられる3人のやりとりもまた見どころたっぷり。加えて、彼ら以外の登場人物にも注目です。実は三人吉三は、登場人物それぞれが物語の後半で起こる悲劇の連鎖の重要な伏線となっています。

大川端庚申塚の場

お嬢吉三・和尚吉三・お坊吉三

お嬢吉三・和尚吉三・お坊吉三

では、簡単に大川端庚申塚の場のあらすじを、注目したい登場人物とともにご紹介しましょう。

場面は、夜更けの大川端(隅田川の湖畔)。夜鷹の「おとせ」が、客の「十三郎」(じゅうざぶろう)が落とした金100両を届けるため歩いていると、道を尋ねるふりをして近付いて来た振袖姿のお嬢様に襲われ、100両を奪われます。そう、このお嬢様こそお嬢吉三。

さらにお嬢吉三は、その金を取ろうとした通りかかりの男の日本刀(実は名刀庚申丸)をも奪います。その様子を、駕籠(かご)の中から見ていたひとりの浪人姿の男。盗賊のお坊吉三です。

場を立ち去ろうとするお嬢吉三を呼び止め、「濡れ手で粟のその100両を渡してくだせぇ」と言うお坊吉三。言い争う中で互いに名乗り、どちらも名の知れた盗賊だと分かると、日本刀(刀剣)を抜いての争いへ。

そこへ止めに入ったのが、こちらも名高い盗賊の和尚吉三。一枚上手の親分肌で、威風ある和尚吉三の口利きに納得するお嬢吉三とお坊吉三。3人は、同じ名を持つ縁を感じ、血の杯を交わして義兄弟の契りを結ぶのです。

名刀庚申丸にかかわる100両が動きに動き…

さて、先ほどの100両はどうなったのでしょう?

お嬢吉三とお坊吉三から「おさめてくだせぇ」と言われ、結局和尚吉三が持ち帰ります。実はこの100両、その昔に盗賊の手で盗まれ、回り回って道具屋「木屋文蔵」の手に渡っていた名刀庚申丸の販売代金で、十三郎は道具屋の手代としてそれを受け取り持ち帰るところだったのです。名刀庚申丸にかかわるこの金がその後もいろいろと渡り歩き、物語は動きます。

お嬢吉三に川に落とされたおとせの父「土左衛門伝吉」(どざえもんでんきち)は、娘が帰って来ないのを心配していました。そこへ、商人の「八百屋久兵衛」(やおやきゅうべえ)が訪ねてきます。その傍らにはおとせが。溺れかけていたところを運よく久兵衛に助けられたのです。

一方、その久兵衛の息子が、100両を落とした十三郎。久兵衛の口から、奉公している店の金を持ったまま行方知れずの息子を案じる話が出ると、その本人が現れます。金を失い川へ身を投げようとするところを、こちらは伝吉に助けられていたのです。

さらに、こんな事実も明らかになります。100両を手にした和尚吉三もまた伝吉の息子でした。ワルではあるものの親思いの一面を持っており、手に入れた100両を伝吉に渡そうと久しぶりに我が家を訪ねてきます。

しかし、伝吉は汚れた金だろうと受け取らず、門口へと放り投げます。それをたまたまやって来ていた「釜屋武兵衛」(かまやぶへえ)が拾い持ち逃げするも、あることから武兵衛のあとを付けていたお坊吉三がその金を奪います。

そして、武兵衛を追ってきた伝吉をお坊吉三が殺してしまうという展開に。知らなかったこととはいえ、大切な義兄弟の和尚吉三の父を殺してしまったことを悔いるお坊吉三。和尚の妹・おとせの金を奪ったのがそもそもの発端と知り嘆くお嬢吉三。

さらに和尚吉三は、身内にこれから起こるやもしれぬ忌まわしい出来事を食い止めるために、泣く泣くある行動に出るのです。

名刀庚申丸と100両が物語を動かす

「親の因果が子に報う」ということわざがありますが、三人吉三廓初買は、まさに親の世代に起こった出来事が、子の世代で悲劇を生んでしまう物語です。

そもそもの発端は、名刀庚申丸が盗まれた事件。そこから10年の時を経て、今度はその名刀庚申丸の代金100両をめぐる新たな事件が起こります。奇しくも、名刀盗難事件にかかわった人物の子ども達の手によって。

庚申という年まわり

この演目には、いくつもの伏線が物語の中に散りばめられています。物語の核にある名刀庚申丸の「庚申」もそのひとつ。三人吉三廓初買が初演された1860年(安政7年)は、申(さる)年。これを十干十二支(じっかんじゅうにし)で見ると、60年に1度の庚申(かのえさる、こうしん)の年まわりです。

古くから庚申の宵に誕生した子は盗癖があるという言い伝えがあり、幕末から明治にかけて活躍した狂言作者(歌舞伎の脚本家)河竹黙阿弥は、この言い伝えをもとにお嬢吉三、お坊吉三、和尚吉三の3人の盗賊を生み出し、さらにその名も庚申丸と名付けた名刀を絡ませて、因果の綾を描いたのです。

因果の発端

因果の綾とは、この3人は同じ名前という縁以上に、実は本人達もつゆ知らぬ深く悲しい因縁で結ばれています。原作は全7幕13場という長編ですが、現在では3人が出会う序幕の大川端庚申塚の場を中心に上演されることが多く、その因果を知ることができる場面は上演されません。そこで、より面白く観劇できる一助となるよう、彼らの因果をご紹介しましょう。

10年前、目利きで有名な安森源次兵衛(やすもりげんじべえ)という武士が、将軍から名刀庚申丸を預かりますが、盗賊に盗まれてしまいます。源次兵衛は、名刀庚申丸が盗まれた責で切腹し、安森家はお家断絶。その息子・吉三郎は浪人となり、その後盗賊に。これがお坊吉三です。

一方、安森家の屋敷から名刀庚申丸を盗んだ人物は、何と和尚吉三の父である土左衛門伝吉。劇中では人情厚い老人として登場する伝吉ですが、盗賊だった過去があり、ある密命を受けて盗んだのが名刀庚申丸でした。その後改心し、川岸に流れ着く水死体を引き上げ供養する善行を積んだことから、「土左衛門」の異名が付きます。

伝吉には和尚吉三の下に男女の双子の子どもがおりましたが、当時双子は縁起が悪いとされ、女の子のおとせは残し、男の子は誕生してすぐに寺の門前に捨てられます。この捨て子を拾い育てたのが商人の八百屋久兵衛で、彼のもとで成長した捨て子が、名刀庚申丸の代金100両をうっかり落とし、三人吉三が出会うきっかけを作った十三郎です。つまり、おとせと十三郎は実は双子の兄妹なのですが、互いにそれを知らぬまま、夜鷹と客として出会い、のちに恋仲となります。

さらに、もうひとりの「吉三」のお嬢吉三は、これまたなんと九兵衛の実子。5歳のときに誘拐され、旅役者の一座に売られて女形として成長。結局、その姿で盗みを働く盗賊となっていたのです。

何ともややこしい人間関係ですが、この複雑に絡み合った因果が、3人の吉三を追い込んでいきます。

見えない糸で引き寄せられた三人吉三の悲劇の最後

本郷火之見櫓の場

本郷火之見櫓の場

おとせと十三郎から、父・伝吉を殺したのがお坊吉三であることを聞かされる和尚吉三。一方、伝吉が和尚吉三の父であることを知ったお坊吉三とお嬢吉三は、殺めた事実(お坊吉三)と、おとせの金を奪いそもそもその発端をつくったこと(お嬢吉三)を心から悔やみ、2人して死を決意します。

しかし、その昔父・伝吉が名刀庚申丸を盗んだがために、お坊吉三の父を切腹に追い込んだ事実を知った和尚吉三は、因縁の深さが引き起こす悲劇の連鎖を断ち切る行動に出ます。義兄弟の2人を逃がすために、おとせと十三郎をその身代わりとして殺し、お上に差し出す決意をするのです。

これには、もうひとつの理由がありました。兄妹で恋仲となってしまったおとせと十三郎を思い、この忌まわしい事実を明かさぬまま2人を死なせてやろうという和尚吉三なりの兄としての温情です。

しかし、この企ては上手くはいかず、最後の7幕「本郷火之見櫓(ひのみやぐら)の場」において、雪が降る中、捕り手達に囲まれる大立廻りのラストシーンを迎えます。

駆け付けた八百屋九兵衛に、100両と名刀庚申丸を託す3人。それは安森家の再興を願ってのこと。この世に思い残すことのない三人吉三は、三つ巴になり差し違えるのです。

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