歌舞伎の名場面・見どころ
土蜘
歌舞伎の名場面・見どころ
土蜘

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歌舞伎演目の中から、「土蜘」(つちぐも)の物語の概要と、人間に変化した土蜘の精との豪快な立廻りの見どころをご紹介します。

病気平癒の祈祷に訪れたのは、人間の姿をした土蜘の精

作者 河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
初演 1881年(明治14年)6月

演目「土蜘」(つちぐも)は、土蜘が人間に変身した妖怪変化の歌舞伎舞踊です。

病気療養中の源頼光(みなもとのらいこう)のもとへ、比叡山の「智籌」(ちちゅう)という怪しげな僧が現れ、病気平癒(へいゆ)の祈りをしますが、その障子に映った影はなんと…。

病気療養中の源頼光に秋の風物の踊りを見せる胡蝶

源頼光

源頼光

源頼光は、ふとひいた風邪がもとで重病の床に伏していましたが、何とか小康を得て、秋の夕べの庭前の菊を見に縁側まで出てきています。

そんな主君の病気を気遣う平井保昌(ひらいやすまさ)。

そこへ侍女の胡蝶(こちょう)が、典薬の頭(朝廷または幕府で医薬を司るところ)から下された薬を届けに来ます。胡蝶は頼光の求めに応じ、京の紅葉の名所の様子を舞い踊ります。頼光は、その秋の風物に耳を傾けます。

夜も更け、いつの間にか現れたひとりの僧

やがて夜も更け、シーンと静まり返った中、にわかに苦しみを覚える頼光。暗闇に目を凝らすと、ひとりの男が佇んでいます。彼は比叡山の僧智籌だと名乗り、頼光の病気平癒の祈祷をしに来たと述べます。

頼光の望みに応え、出家した身の上話に始まり、諸国をあてどなく巡った話、風雪に耐え厳しい難行苦行の日々だったことなどの物語を語り始める智籌。

そして智籌は、祈祷のために頼光の枕辺に近付きます。頼光の小姓がふと障子を見やると、そこに映った影は何と土蜘の姿。小姓の助言で、土蜘の精であることに気付いた頼光。

一方の智籌は、頼光の病は、自分が術をかけたためだと語り、頼光に蜘蛛の糸を投げかけ、襲いかかるのです。名剣「膝丸」(ひざまる)で智籌に応戦する頼光。その日本刀(刀剣)が僧侶智籌を見事に斬り伏せます。

土蜘の精が頼光のもとに現れた訳

土蜘の精「智籌」

土蜘の精「智籌」

物音に驚いて駆け付けた平井保昌は、血汐のあとを頼りに逃げていった土蜘の精智籌を探す中、東寺の藪陰の古塚を発見。この古墳の中から、隈取りをした土蜘の精が現れます。

保昌は、頼光の四天王、坂田公時(さかたきんとき)、占部季武(うらべのすえたけ)、渡辺綱(わたなべのつな)、碓井貞光(うすいさだみつ)らとともに土蜘を退治します。

しかし土蜘の精は、なぜ頼光のもとへ現れたのでしょうか。それは、日本を魔界に堕とさんがために、まず王城の警護の責任者である頼光を狙ったのです。

この演目・土蜘は、長唄の歌舞伎舞踊劇ですが、侍女の鮮やかな舞にコミカルな合狂言も入り、変化に富んだ構成で飽きさせません。白糸を投げかけての派手な立廻りや、最後は能の仏倒しの演出で、土蜘が死を迎えるところは見事です。

妖怪の松羽目物舞踊の傑作

土蜘は、歌舞伎の大道具のひとつ「松羽目」(まつばめ)と呼ばれる能舞台を模して、正面に老松、左右に袖の竹を描いた舞台で演じられる歌舞伎舞踊の傑作のひとつです。

土蜘とは

この歌舞伎舞踊土蜘は、能の「土蜘蛛」をもとにした作品です。

土蜘は、土の中に巣を張る蜘蛛(くも)で、古代に大和朝廷にしたがわなかったために滅ぼされた民族を指す言葉でもありました。この古代の逸話と中世の源頼光の武勇の伝説が結び付き、頼光が土蜘を退治する物語が生まれたと言われています。そこから能の土蜘蛛が成立。

一方、能とは別に江戸時代中期に入り、土蜘が人の姿になり、頼光を襲うという舞踊が作られました。これは悪霊が主人公の、立役の舞踊です。

明治に入ると、歌舞伎舞踊を格調高い物にしようという風潮が生まれ、能の土蜘蛛をもとにした歌舞伎舞踊土蜘が誕生したのです。

花道からスーッと現れる土蜘の精 智籌

比叡山の僧に化けた土蜘の精智籌の登場シーンに注目です。智籌はいつのまにかスーッと花道に立っています。

人間に化けていても、どことなく不気味な感じがプンプンする凄みが見どころです。

数珠を口に当てた有名な見得

小姓の注進で、頼光が智籌の正体を見破り、名刀膝丸で斬りかかると、智籌は数珠を口に当てた有名な見得を行ないます。これは裂けた口の形を形容する物です。

蜘蛛の精が出す千筋の糸の秘密と仏倒し

後半に、古墳の中から隈取をした土蜘の精が現れ、頼光の四天王達との派手な立ち廻りが行なわれますが、ここで「千筋の糸」と呼ばれる蜘蛛の精が出す糸に注目!

これは実は、出色の小道具。この糸は薄い和紙製で、10数mする物もあり、太さは役者の好みで変わりますが、2~5mmです。代々、専任で糸を作る人もいるほど重要な小道具です。さらには、後見が素早く巻き取って片付けられるよう、舞台に散乱しない工夫もされています。

そして、最後を飾るのは、能の「仏倒し」(ほとけだおし)。仏倒しとは、仏像が倒れるように直立の姿勢のままで倒れることで、この演出で土蜘は最期を迎えるのです。

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