歌舞伎の名場面・見どころ
天竺徳兵衛韓噺
歌舞伎の名場面・見どころ
天竺徳兵衛韓噺

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歌舞伎演目の中から、「天竺徳兵衛韓噺」(てんじくとくべえいこくばなし)の物語の概要、さらにケレン(外連:早替り・宙乗り・仕掛け物)と巨大な蝦蟇(がま)の立廻りの見どころをご紹介します。

日本国を乗っ取ろうとすると親子の奇想天外ストーリー

作者 四世・鶴屋南北(つるやなんぼく)
初演 1804年(文化1年)7月

「天竺徳兵衛韓噺」(てんじくとくべえいこくばなし)は、通称「天竺徳兵衛」(てんじくとくべえ)、あるいは「天徳」(てんとく)と呼ばれ、異国帰りの天竺徳兵衛が異国話を語る面白さと、大蝦蟇(がま)の妖術を使って日本国を乗っ取ろうとする奇想天外さが魅力の演目です。

本当の水を使った水中の「早替り」(はやがわり)や、舞台の建物を崩したり倒したりして観客の度肝を抜く、「屋台崩し」(やたいくずし)などの豪快な演出も見どころたっぷり。

さて、徳兵衛の妖術を使った日本国乗っ取りの行く末やいかに。

御朱印船で天竺に渡った実在の人物がモデル

主人公の天竺徳兵衛には、実在したモデルがいます。

播州高砂(兵庫県高砂市)出身の江戸初期の商人で、江戸幕府が鎖国をする前の寛永年間に御朱印船(ごしゅいんせん:16末~17世紀初頭の一時期に行なわれた官許の貿易船)で2度、シャム(タイ)と天竺(インド)に渡った人物。

彼が晩年、長崎奉行所に提出した若き日の渡航の見聞録が、「天竺徳兵衛韓噺」の異国話のもとになっています。

父の遺志を継ぎ、足利幕府転覆を狙う主人公

この天竺徳兵衛、歌舞伎や人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)では、その人物像が大胆に脚色されています。

異国を漂流して歩いた難破船の船頭が、実は吉岡宗観(よしおかそうかん)という朝鮮国の臣・木曽官(もくそかん)の息子だったという設定で、謀反の罪で切腹した父の遺志を継ぎ、父から授けられた蝦蟇の妖術を使い足利幕府転覆を狙う、スケールの大きな謀反人として登場します。

では、あらすじを簡単にご紹介しましょう。

吉岡宗観邸の場

時は将軍・足利義政(あしかがよしまさ)の時代。豊後(大分県)の佐々木家の若殿・桂之助(かつらのすけ)が、浪をも切る日本刀(刀剣)ということから名付けられた宝剣「浪切丸」を紛失した罪で、家老の吉岡宗観の京都屋敷に押し込められています。

そんな吉岡邸に、嵐で異国の天竺に流され唐天竺(からてんじく:中国・インド)を巡って日本に戻ってきたことから、天竺徳兵衛と呼ばれている船頭の徳兵衛が呼ばれ、異国での珍しい体験を面白おかしく語ります。

徳兵衛の話に聞き入ったあと、実は徳兵衛は自分の実子「大日丸」(だいにちまる)であると打ち明ける吉岡宗観。しかも、自分は実は日本に侵略された恨みを晴らすために密かに来日し、足利幕府転覆を狙う朝鮮国の臣下・木曽官(もくそかん)という人物だと語るのです。

そして自身が持つ蝦蟇の妖術を徳兵衛に授けたのち、謀反の罪で切腹。捕り手に囲まれた徳兵衛は、伝授された妖術を使い、大蝦蟇に乗って大屋根の上に現れ、屋敷を押しつぶし逃げます。ここが、屋台崩しという豪快な演出による見せ場です。

梅津掃部邸の場

歌を披露する徳市(徳兵衛)

歌を披露する徳市(徳兵衛)

京都の梅津掃部邸(うめづかもんのやしき)で、南蛮渡来の楽器・木琴を弾きながら歌を披露する越後(新潟県)の座頭・徳市(とくいち)。日本国を滅ぼそうとする徳兵衛が変装した姿です。

その正体を将軍の上使(じょうし:朝廷・主家などから上意伝達のため派遣される使者)細川政元(ほそかわまさもと)に見破られると、徳兵衛は庭前の泉水に飛び込んで姿をくらまします。

そこへ、もうひとりの上使斯波左衛門義照(しばさえもんよしてる)が現れます。実は、この斯波左衛門義照は、またまた徳兵衛が変装した姿。しかし、今度は梅津掃部の奥方・葛城(かつらぎ)の色仕掛けで正体を見破られます。

葛城は巳の年・巳の月・巳の日生まれ。蛙の天敵である蛇の年月日の揃った葛城の生き血を浴びた徳兵衛は、蝦蟇の妖術をも破られてしまいます。宝刀浪切丸を取り戻した佐々木家は再興。徳兵衛は、再び必ず姿を見せると誓い、幕となります。

ケレンの魅力満載の天竺徳兵衛韓噺

天竺徳兵衛韓噺は、日本国の乗っ取りを狙う天竺徳兵衛親子の奇想天外ストーリーですが、歌舞伎において、大掛かりな舞台装置の仕掛けや小道具を駆使した奇抜な演出を指す「ケレン」の醍醐味を存分に味わえる演目としても知られています。

天竺徳兵衛韓噺では、このケレンが立廻り場面とともに演出されており、歌舞伎ならではの日本刀(刀剣)を使った立廻りの様式美とともに堪能できます。

大蝦蟇に乗った徳兵衛による屋台崩し

大蝦蟇に乗った徳兵衛の屋台崩し

大蝦蟇に乗った徳兵衛の屋台崩し

最初の見どころは、吉岡宗観邸の場での屋台崩し。

屋台崩しとは、舞台に建てた屋台を崩して見せることです。これを見事に演出しているのが、大蝦蟇に乗った徳兵衛が妖術を使うシーン。

屋根上に徳兵衛を乗せた大蝦蟇が現れ、捕り手との立廻りが行なわれる中で、屋根の下に仕組まれた柱が割れ、屋根全体が崩れていくのです。

かつては、「へぎ」と呼ばれる薄い板を貼り付けて、崩れていく「バリバリ」という音も演出したそうです。

四天との花道での立廻り

さらに、「裏手水門の場」では、徳兵衛の父・吉岡宗観の首を咥えた大蝦蟇が現れ、大勢の四天(よてん:歌舞伎独特の衣装用語。広い袖と短い裾、さらに裾の脇が左右に割れているのが特徴)姿の捕り手との立廻りを演じます。

この蝦蟇の正体は徳兵衛で、蝦蟇から引き抜かれた徳兵衛が、菊百日(きくびゃくにち)の鬘(かつら)と四天姿で花道に引っ込むところも見ごたえたっぷりです。「百日」の髪は百日間にわたり髪を伸ばしたという意味で、それを菊の形に固めていることから菊百日と呼ばれます。

本物の水を使った水中の早替り

梅津掃部邸の場で徳兵衛が見せるのが、本物の水を使った水中の早替りです。

早替りとは、素早く役柄を替わる演出のことで、歌舞伎では、ひとりの俳優が同じ場面で2つ以上の役を演じることが多々あり、短時間で年齢や善悪、さらには性別までも替えて登場する場合があります。

この梅津掃部邸の場では、徳兵衛は座頭姿から実悪風の上使に鮮やかに早替りし、観客に息を継がせぬ面白さを見せてくれます。

天竺徳兵衛韓噺

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