総天然色大型長編漫画映画【少年猿飛佐助】(1959年〔東映動画〕制作・〔東映〕配給)。信濃国で暮らす猿飛佐助の奮闘を描く。原作・檀一雄。脚本・村松道平。演出は藪下泰司と大工原章。日本のフルカラー長編アニメーション映画の2作目にあたる。
(■日本を舞台にした日本初の長編フルカラーアニメーション映画は猿飛佐助)
日本初のフルカラー長編アニメーション映画は、のちに著名となるアニメーション作家達を育む起点となりました。以後、ほぼ同様の制作陣でシリーズ化され、そのうち日本を舞台にした作品では猿飛佐助、スサノオが主人公となりました。両主人公は、不思議な力を伴って刀剣を振るいます。
日本初のフルカラー長編アニメーション映画は、青年と美女(白蛇)との異類恋愛を描いた【白蛇伝】(1958年〔東映動画〕制作・〔東映〕配給)です。当時、フルカラー長編アニメーション映画は「総天然色長編漫画映画」と呼ばれていました。
原作は中国の四大民間説話です。香港の製作会社と日本の映画会社が合作した同じ題材の実写映画【白夫人の妖恋】(1956年〔東宝〕配給)が、香港で人気となったことから、漫画映画化の企画が日本に持ち込まれました。
漫画映画化はやがて日本単独の企画となり、教育映画として文部省選定(少年・家庭向)映画として制作されます。脚本・演出は、文部省・社会教育局出身の藪下泰司(やぶしたたいじ)です。
制作会社は「東洋のディズニー」を謳い、動画には東映動画第1期生の大塚康生(おおつかやすお)、中村和子(なかむらかずこ:のち虫プロダクション)、楠部大吉郎(くすべだいきちろう:のちシンエイ動画創立)などや、NHK連続テレビ小説【なつぞら】の主人公のモデルとなった奥山玲子(おくやまれいこ)が参加しています。
映画公開の時期には漫画映画の可能性に惹かれていた高畑勲(たかはたいさお:のちスタジオジブリ)と白蛇伝に衝撃を受けた小田部羊一(こたべよういち)が入社(共に1959年)。少し遅れて漫画家志望を諦めて白蛇伝などから漫画映画に可能性を感じた宮崎駿(みやざきはやお:のちスタジオジブリ)も入社(1963年)するなど、白蛇伝は戦後の日本アニメーションの発展の起爆剤となりました。
同映画は、国内では第13回芸術祭・映画部門・芸術祭奨励賞、第9回ブルーリボン賞・特別賞、第13回毎日映画コンクール・特別賞、海外では第11回ベネチア国際児童映画祭・特別賞、第9回ベルリン市民文化賞、メキシコ政府名誉賞を、それぞれ受賞しています。
Blu-ray BOX【白蛇伝】
日本のフルカラー長編アニメーション映画の2作目は、総天然色大型長編漫画映画【少年猿飛佐助】(1959年〔東映動画〕制作・〔東映〕配給)です。国産初のシネスコープ(*横長スクリーンによる立体音響方式)でもありました。
演出は白蛇伝と同じ藪下泰司と、共同で大工原章(だいくはらあきら)が務めました。脚本は村松道平(むらまつどうへい)です。
文部省選定として公開され、第12回ベネチア国際児童映画祭でグランプリにあたるサンマルコ獅子賞を受けています(1960年)。
原作は檀一雄(だんかずお:第24回直木三十五賞受賞者)の読売新聞の連載小説です。大正時代に創作され、大人気を博した書き講談(*講談風に書かれた読み物)が原典です。
漫画映画版の前年には、同じ原作で【少年猿飛佐助】、【少年猿飛佐助 牢獄の姫君】、【少年猿飛佐助 天空の白馬】(すべて1958年〔東映〕配給)が実写化されており、漫画映画化は当時、時代劇に力を入れていた配給会社の取り組みと並行していました。
漫画映画化にあたって、実写版の出演者であった里見浩太郎(さとみこうたろう:実写版では真田幸村役)と丘さとみ(実写版では猿飛佐助の姉役)の動きを撮影して取り込んでいます(ライブアクション)。
DVD【少年猿飛佐助】
物語の主人公・猿飛佐助(宮崎照男:みやざきてるお)は、信濃国(現在の長野県・岐阜県の一部)の山中で姉と2人で暮らしています。友達は子鹿、子熊、子猿、子兎などの動物達です。
ある日、沼に山椒魚として封じ込められていたものの蘇った妖術使い・夜叉姫(赤木春恵:あかぎはるえ)に、友達の子鹿の母鹿が食べられてしまいます。猿飛佐助は日本刀を手に敵を討とうと水中で奮闘するも敗北。そこで忍術で対抗すべく、戸隠山の甲賀流の忍者・戸沢白雲斎(薄田研二:すすきだけんじ)のもとで修業を積むことを決意します。
3年後、猿飛佐助は修業を終えます。山を降り姉と再会したのも束の間、夜叉姫に従う山賊達に姉はさらわれます。そこで、猿飛佐助は上田城の若き城主・真田幸村(中村賀津雄=のち中村嘉葎雄:なかむらかつお)の力を借りて姉を取り戻しました。
そして、猿飛佐助は夜叉姫との2度目の対決を迎えます。このとき、忍術と刀との合わせ技で挑みます。
【少年猿飛佐助】
「忍術によって火に耐え日本刀を投げる猿飛佐助の場面」
嵐を呼んだ夜叉姫。妖術で猿飛佐助の首を絞める。猿飛佐助は忍術でその妖術を払いのけた。逃げる夜叉姫、忍術で空を飛んで追いかける猿飛佐助。
今度は水責めを行う夜叉姫。猿飛佐助、印を結び忍術で耐えた。
猿飛佐助の攻め開始。
指先から火を放ち、夜叉姫の立つ岩場を破壊。宙を舞う夜叉姫、指先から火を放ち対抗するも猿飛佐助はその火をかわす。夜叉姫、今度は口から火を放つも、猿飛佐助は再び忍術で持ちこたえた。
徐々に追い込まれていく夜叉姫。意を決し猿飛佐助に向かって行く。すると猿飛佐助、手にした刀で夜叉姫を一刀した。
弱り果て逃げる夜叉姫、精気を失い遂には骨だけの姿に。
逃げ続ける骨だけの姿となった夜叉姫。空を飛び追う猿飛佐助。夜叉姫、最後の力を振り絞り、口から火を放つ。猿飛佐助、忍術で耐えると刀を夜叉姫に投げた。刀は夜叉姫の額に突き刺さる。勝負は付いた。アニメ映画【少年猿飛佐助】
日本のフルカラー長編アニメーション映画ではその後、非西洋の異国物と日本物とが交互に制作されます。非西洋であるアジアを題材にした理由は、ディズニー映画との差別化からだったと言います(東映動画・白川大作インタビューより)。
日本のフルカラー長編アニメーション映画の3作目は、中国を舞台にした総天然色大型長編漫画映画【西遊記】(1960年〔東映動画〕制作・〔東映〕配給)です。演出は藪下泰司(やぶしたたいじ)・手塚治虫(てづかおさむ)・白川大作(しらかわだいさく)の3名。手塚治虫は、少年漫画【ぼくのそんごくう】を描いていたことからアニメ映画作りに招かれ、原案・脚本から担当しました。
DVD【西遊記】
日本のフルカラー長編アニメーション映画の4作目は、姉と弟との悲劇を描いた色彩大型長編漫画映画【安寿と厨子王丸】(あんじゅとずしおうまる)(1961年〔東映動画〕制作・〔東映〕配給)です。
演出は藪下泰司と芹川有吾(せりかわゆうご)の2名が手がけました。同映画は、リミニ国際映画祭で監督賞とグランプリにあたるジギスムント金賞を受けています(1961年)。
東映創立10周年記念作品ともなった同映画は、配給会社が主導する時代劇映画人気のなかで企画され、多くの時代劇スターが声優を務めました。佐久間良子(さくまよしこ)、北大路欣也(きたおうじきんや)、東野英治郎(とうのえいじろう)、平幹二朗(ひら みきじろう)などです。
平安時代を舞台にしたこの物語は、日本の中世の説話に基づく森鴎外(もりおうがい)【山椒大夫】(さんしょうだゆう)を脚色したものです。脚本を担当した田中澄江(たなかすみえ)は、主人公の厨子王丸が都で関白のもとで武芸を身に付けたのち、帝の寝所に現われて悩ませていた巨大蜘蛛を一刀する場面などを創作しています。田中澄江による、よみうり少年少女新聞の連載が映画化に先行していました。
西遊記と安寿と厨子王丸、どちらのアニメ映画も、文部省選定映画として公開されています。
DVD【安寿と厨子王丸】
非西洋の異国物、そして日本物はその後も繰り返されます。
日本のフルカラー長編アニメーション映画の5作目、総天然色長編漫画映画【アラビアンナイト シンドバッドの冒険】(1962年〔東映動画〕制作・〔東映〕配給)は、中近東が舞台です。8世紀にアラビア語に訳されたイスラム世界の説話集【千夜一夜物語】に、18世紀にフランス語版が出版された際、フランス人によって付け加えられた「船乗りシンドバードの物語」が原典です。
同映画でも漫画的手法が意識され、脚本を北杜夫(きたもりお:第43回芥川龍之介賞受賞者)と共に手塚治虫が手がけます。演出は藪下泰司と黒田昌郎(くろだよしお)、音楽は富田勲(とみたいさお)、演出助手を高畑勲が務めています。
DVD
【アラビアンナイト シンドバッドの冒険】
続くフルカラー長編アニメーション映画の6作目は、色彩長編漫画映画【わんぱく王子の大蛇退治】(1963年〔東映動画〕制作・〔東映〕配給)です。古事記・日本書紀が原典です。
Blu-ray BOX
【わんぱく王子の大蛇退治】
演出は芹川有吾、演出助手は高畑勲と矢吹公郎(やぶききみお)、脚本は池田一郎(いけだいちろう:のち時代小説家・隆慶一郎:りゅうけいちろう)と飯島敬(いいじまたかし)、音楽は伊福部昭(いふくべあきら)が担当しました。
このとき演出を、実写映画で助監督経験のあった新人が手がけることになりました。そして、当時は合議制だったアニメーション映画に実写映画的な監督の立場が持ち込まれます(*当時表記は演出)。
作画の統一を図る立場として作画監督も初めて創設され、森康二(もりやすじ)が務めます(*当時表記は原画監督)。また、日本画の伝統に基づいた背景にもこだわったことから美術監督の立場も誕生し、小山礼司(こやまれいじ)が担当します(*当時の表記は美術)。このように、わんぱく王子の大蛇退治は日本のアニメーション映画の転換期ともなりました(大塚康生【作画汗まみれ】、叶精二【日本のアニメーションを築いた人々】)。
同映画は国内では第18回毎日映画コンクール・大藤信郎(おおふじのぶろう)賞を、海外では第15回ベネチア国際児童映画祭・児童向き娯楽映画部門・青銅大賞を、それぞれ受賞しています(1963年)。
わんぱく王子の大蛇退治では、古事記・日本書紀をふまえたうえで、独自の物語が創作されます。
主人公のわんぱく王子ことスサノオ(住田知仁:すみたともひと=のち風間杜夫:かざまもりお)は、命が尽きた母親イザナミ(友部光子:ともべみつこ)を追い求め、黄泉の国を目指して船で旅立ちます。道中、兄のツクヨミ(木下秀雄:きのしたひでお)、姉のアマテラス(新道乃里子:しんどうのりこ)との交流を経て、出雲の国(現在の島根県東部)で八叉の大蛇に苦しめられているクシナダ姫(岡田由起子:おかだゆきこ)のために、大蛇退治に挑むことになります。
スサノオは、海の中では怪魚との、火の国では火の神との争いで剣を振るいます。火の神の争いは古事記・日本書紀には存在しない映画オリジナルの場面となっており、兄ツクヨミから得る剣への特別な力が見せ場となっています。
【わんぱく王子の大蛇退治】
「氷の力が剣に宿る場面」
巨大な火の神との争いに苦戦するスサノオ。火の神は二神、四神、八神と分裂し増え続け、スサノオを攻め立てる。
追い込まれるスサノオを見ていたお伴の兎、ツクヨミから賜った氷の玉のことを思い出す。スサノオの剣に氷の玉をふれさせると剣が氷の力を得た。スサノオ、火の神が次々と放つ火を氷の力を得た剣で溶かして消滅させる。
そして、氷の玉を火の神に投げた。玉の軌道に氷のカーテンが作り出され、火の神を封じ込めた。アニメ映画【わんぱく王子の大蛇退治】
物語の山場は八叉の大蛇退治です。スサノオは、クシナダ姫が母イザナミに似ていることもあり協力を申し出ます。ここでも古事記・日本書紀には存在しない映画オリジナルの場面が作られました。
スサノオが母イザナミからもらっていた勾玉が短剣に生まれ変わります。
【わんぱく王子の大蛇退治】
「勾玉が短剣に生まれ変わった場面」
夜。八叉の大蛇が現れる。スサノオが仕かけた酒樽に釣られ、酒を飲み始める大蛇達。
けれども物音で大蛇達はスサノオの存在に気付いてしまう。意を決したスサノオ、天馬(その正体はアマテラスの使い)に乗り、銅剣を手に大蛇達に立ち向かう。
空中戦が始まる。
上空高くから一気に下降したスサノオ、銅剣を大蛇の目に突き投げ、一頭目を倒した。
二頭目との争い。お伴から投げられた銅剣を再び手にしたスサノオ、銅剣を投げ、大蛇の口を貫いた。
三頭目との争いは剣を手にした闘いに。苦戦するなか、スサノオのお伴が弓で放った銅剣が大蛇を射止めた。
地上では、クシナダ姫が大蛇に見つかってしまう。クシナダ姫に迫る四頭目、スサノオは手にした剣で斬り倒した。
空中戦は続く。
五頭目をスサノオ、逃げ回りながら誘導。岩肌に頭をぶつけさせ、倒した。
そしてスサノオ、仲間同士でいがみ合っていた六頭目と七頭目の首を連続して切り落とした。
残るは八頭目。
さすがに手強く、手にした剣が折られてしまう。危機一髪のスサノオ。すると、首にぶら下げていた母親から贈られていた勾玉が光り、短剣に変化する。勢い付いたスサノオ、天馬から八頭目に飛び移り、その短剣を突き刺した。
こうして八叉の大蛇は退治された。アニメ映画【わんぱく王子の大蛇退治】
戦後の日本の長編フルカラーアニメーション映画では、ディズニー映画との差別化からアジア・イスラム世界が題材に選ばれ、非西洋の異国物と日本物とが交互に制作されました。そんな作品のなかで、日本を舞台にしたものでは刀剣が登場し、不思議な力を伴って刀剣が振るわれます。