目貫
江戸時代 後期
かざりうまず(むめい・きょうきんこう) めぬき 飾馬図(無銘・京金工) 目貫/ホームメイト

本目貫の意匠として配されている「飾馬」(かざりうま)とは、いろいろな馬具で美しく飾り立てられた馬のこと。飾馬は、嫁入りなど特別な祝儀の際や、盛儀(せいぎ:立派で華やかな儀式)行列での乗用などに使われていました。
馬は人気運を上昇させ、商売繁盛などの幸福をもたらす縁起物の図柄とされ、吉祥文様の代表格のひとつです。
また、頭が馬になっている、あるいは馬の頭飾りを被る「馬頭観音」(ばとうかんのん)が仏教の信仰対象であるように、古来馬は、神聖な動物として考えられていました。
さらには、寺社にて願掛けを行なう際、馬を奉納するしきたりもありましたが、後世には、馬を絵に描いた物を奉納する略式の方法が採られるようになり、その風習は、現在の「絵馬」に受け継がれて存続しています。
本目貫全体に施されているのは、「容彫」(かたぼり/かたちぼり)と称される彫刻技法。これは、図柄の主題を表現するため、背景などを彫り加えずに、主題そのものの輪郭をそのまま作品の形状とする方法で、本目貫においては、素材の金地を厚く作り込み、量感溢れる容彫になっています。
一方で細部に用いられている彫刻技法は、細い線状で表現する「毛彫」(けぼり)。金工作品の彫刻の中では最も基礎的であり、弥生時代頃にはすでに見られていたと考えられている技法です。
本目貫は無銘ですが、京金工の「傍後藤」(わきごとう:同音で「脇後藤」とも表記する)一門の名人による作であると見極められています。「傍後藤」は、室町幕府8代将軍「足利義政」(あしかがよしまさ)に仕えた「後藤祐乗」(ごとうゆうじょう)を祖とする武家金工の一門「後藤宗家」の分家です。
京金工には、「埋忠明寿」(うめただみょうじゅ)派や「大月光興」(おおつきみつおき)派など様々な流派があり、その多くが気品漂う作品を作っています。意匠に省略を効かせた本目貫も他の流派と同様に、品位が感じられる出来栄えの作品です。