火事装束
江戸時代
らしゃじかじずきん 羅紗地火事頭巾/ホームメイト

「羅紗地火事頭巾」は、黒・白・朱・黄・蓬、五色の羅紗(らしゃ:織目が見えないように仕上げた羊毛織物)による鮮やかな色彩で雲と雨、波濤(はとう)を絵画のように表現した、女性用の火事頭巾です。波濤の部分には革を張り、金泥(きんでい:純金を粉末状にして膠で溶かした物)を塗っています。
「火事とケンカは江戸の華」と言われますが、当時の江戸は冬から春先にかけて暖房のため火を使用する上、乾燥した空気と強い季節風の気候であり、さらに現代の東京と同様に過密都市であったなど、火災発生の悪条件が揃っていました。
江戸で起きた3つの大火(明暦、明和、文化)はいずれも冬から春先に起きたものです。そのような江戸に、幕府の命により諸国大名は屋敷を設け妻子を住まわせており、火事が近づき大名屋敷が延焼しそうになると、大名の妻子は本作のような火事装束で避難しました。
大名家の女性用火事装束は、年齢に応じて赤・白・黒などの羅紗が用いられ、刺繍や切付(きりつけ:切り抜いた図柄を嵌め込む手法。アップリケ)を金銀糸で華やかに縫い付け、多くは験担ぎに水関連の図柄(波千鳥、滝鯉、雨雲など)が施されています。
頭巾は錣(しころ)の付いた烏帽子型で、さらに胸当(むねあて:前垂のような物)、宛帯(あておび)、羽織を付け、緞子(どんす)や錦(にしき)の馬乗袴(うまのりばかま)を穿き、薙刀を携えて逃げたと伝わります。当時の嫁入り道具には欠かせない物でした。