【あらすじ】時は幕末。復活した羅刹魔将を2度退けた主人公・タケルと千歳丸だが、この時代で決着を付けねばならない。新選組の近藤勇に招かれて修業を積むが、果たしてタケルは真の力を得た羅刹魔将を消滅させ、この世の平和を守ることができるのか!
※本小説は、史実、及びゲームアプリ「武神刀剣ワールド」をもとにしたフィクション作品です。
「刀剣三十六遣使」で描かれる出来事について紹介
タケル
現代の日本の若者で、名古屋刀剣博物館「名古屋刀剣ワールド」にたまたま立ち寄った際に、「神刀・千歳丸」に使い手としての素質を見抜かれ、「闇の者」を退治する戦いに巻き込まれた。過去の世界で災いを起こし歴史を改変しようとする「闇の者」の存在に初めは戸惑っていたが、千歳丸や遣使(けんし)達、偉人との出会いを通して、闇の者から歴史を守ることに使命感を持つようになった。今ではすっかり超人的な強さを身につけているが、素直で明るく、礼儀正しい少年。
千歳丸
戦国時代に生まれた刀鍛冶の兄弟のひとり。故郷の村を『闇の者』に滅ぼされ、兄が行方不明になってしまったことをきっかけに、武神と契約し、『闇の者』を斬ることのできる刀剣「神刀」(しんとう)として生まれ変わる。使い手の素質を持つタケルを見つけたことから、ともに旅をし、いくつもの時代で闇の者を倒してきた。勝ち気で喧嘩っ早いところがあるが、闇の者との戦いを通して、タケルとのコンビネーションに目覚めてきている。「しゃべる刀」なので、いろんな人に驚かれる。
――1864年「京都」。
タケルと神刀・千歳丸は、池田屋事件の10日前に飛翔した。目の前の光景からすると、東山にある高台のようだ。
時空を超える瞬間は、何度体験しても慣れそうにない。それにどの時代も、滞在時間は短くても、人との出会いと別れは格別の思いが残る。偉人であればなおさらだ。別れたあと、彼らがたどる運命を思えば寂寥の思いが拭えない。
「この時代で羅刹魔将を倒さないと、あとがないぞ」
鞘から神刀・千歳丸が声を掛けた。幾多の時代を共にした神刀は、タケルにとっていまや戦友であり、なによりも心強い相棒になっていた。
羅刹魔将は、異世界からこの世の支配を企む悪しき存在だ。タケルはこれまで2度戦ってきたが、いずれも退けられたのは、羅刹魔将がまだ真の力を発揮できなかったからに他ならない。彼がその本当の力を発揮するには、まだ多くの魂を必要としていた。
多くの魂を得るために羅刹魔将が企んでいること――それはこの世の人々が相争う大規模な合戦だった。それを実現すべく彼は配下の『闇の者』をあらゆる時代に送り込んでは、人々の心にある闇につけ込み、欲望を刺激しては大がかりな戦いに導いていた。
歴史に残る大きな合戦、「壇ノ浦の戦い」、「南北朝の争乱」、「長篠の戦い」、「関ヶ原の合戦」、「天草の乱」など名だたる戦いは、すべて羅刹魔将が影から操って起こしたものだ。
この世に生きる人間として、歴史の神に神刀・千歳丸を託された者として、タケルはこの世に仇なす存在を滅ぼさねばならない。
諸悪の根源である羅刹魔将を倒す。そのためにタケルはいくつもの時代で自らを鍛え、その時代に巣くう『闇の者』を滅ぼしてきた。千歳丸を使うタケルの剣技は、いまや常人の域を遙かに超え、時空の旅を始めた頃とは比べものにならない、強大で研ぎ澄まされたものとなっていた。
「タケル、いまやこの世にお前に勝てる者など存在しない」
再び千歳丸の声が聞こえた。
「遠慮は要らない。次に羅刹魔将が現れたときが奴の最後だ。俺とお前で叩き斬ってやろうぜ」
「……そうだね」
そうは答えるものの疑問は尽きない。本当に自分の技能は羅刹魔将を凌駕しているのだろうか。これまでの戦いでは、明らかに本気を出していなかった。良く言っても、様子を見られていたというところだ。羅刹魔将は今度こそ真の力を出し惜しみせず使ってくるだろう。
もちろんタケルも自分の技量には自信がある。それでも、過去の苦戦の経験と上乗せされる敵戦力の予想は、タケルを怖気付かせるものがあった。
「おいおい、どうしたんだ?いまさら自信がないなんて言うんじゃないだろうな」
タケルの心を見透かしたようにそんなことを言う。
「お前の気持ちは分からんでもない。これまでだって苦戦してきたからな。でも、お前だって強くなってるんだよ。大丈夫だ。俺が保証する」
千歳丸が断言した。日本刀である千歳丸は、自らの力で敵と斬り結ぶことができない。ゆえにタケルを頼りにするしかないが、その信頼は当初から揺らぐことがなかったように思える。自分だけではなく、千歳丸のためにもまずは心を強く持たねばならない。
そうでなければ、どうして羅刹魔将を討てようか。ともすれば怖気付きそうになる心に気合いを入れ、タケルは決意を新たにした。
羅刹魔将に挑むまでには、若干の猶予があるはずだ。これまでの経験からタケルはそう推測した。それまでに、この時代の遣使(けんし)と偉人に会い、寝泊まりする場所を確保しなければならない。最悪、雨露をしのげなくても、技を鍛錬する場所さえあれば、問題はなかった。そう思い、高台を降りかけたところで、タケルは逆に高台を登ってくる女性に声を掛けられた。
「もし、そこの方」
「はい。なんでしょう」
「失礼ですが、タケル殿ではありませんか」
「そうですが、あなたは?」
「良かった!間違えたらどうしようかと思いました。私はこの時代の遣使(けんし)を務める、戸塚小春子と申します」
女性は自ら名乗ると小さく頭を下げた。見たところ20代中盤くらいだろうか、幕末という動乱の時代には似つかわしくない華やかな小袖を着て、髪には大輪の花の付いた簪をさしている。
「よろしくな、お嬢さん、俺が神刀だ。千歳丸と呼んでくれていいぜ」
手にした千歳丸から声がする。
「まあ、本当に日本刀から声がするんですね。聞いてはいましたが、実際に耳にするまでは信じられませんでした」
戸塚は驚いた顔で目を丸くした。
「……分かっていたことだがよ。何で俺の声を聞くと皆、同じ反応をするんだ?」
戸塚小春子の案内で高台を下りる。登り口まで来ると、今度はダンダラ模様の羽織を着た大柄な男と鉢合わせした。
「あら近藤さん、市中の見回りをされているはずではなかったのですか?」
男を見た戸塚小春子は不思議そうに小首を傾げた。この時代、新撰組の羽織を着た近藤と言えば、タケルにはひとりしか思い付かない。
「いや、話に聞く神刀とその使い手とやらが、どんな奴らか興味が湧いてな。見回りは土方に任せて抜け出してきた」
男はそう言ってニヤリと笑うと、値踏みするような目でタケルの全身を見回した。見終わったところで唐突に大口を開けて笑い出す。
「わっはっは!これは参った。一見ではただの優男にしか見えないが、なかなかどうして。たたずまいに隙はないし、細身ながらも全身が鍛えられている。それに発する気も尋常ではない」
「失礼ですよ、近藤さん。彼らは歴史の神に選ばれた方々なんですから、ただの人であるはずがありません」
「いえ、僕はただの人なんですが……」
慌ててタケルが口を挟む。これまで戦ってこられたのは、千歳丸が使えたからであり、そうでなければ自分はごく普通の人間だ。少なくともタケルはそう自覚していたが、遣使(けんし)や偉人はそう思わないようだ。
「何をおっしゃいます!時代の節目に現れて『闇の者』を退治する。歴史を守る戦いを続けてこられた方が、ただの人であるはずがありません!」
「謙遜せずとも見る者には分かる。さぞ厳しい戦いを繰り返してきたのだろう。貴殿の発する気配とたたずまいが、戦いの激しさを語っておる」
近藤はそう言って再び笑うと、すぐに表情を改めた。
「改めて名乗らせてもらう。俺が新選組局長、近藤勇である。タケル殿、だったな。いきなりぶしつけな真似をしてすまなかった」
「いえいえ、とんでもないです。僕はタケル、そしてこれが――」
「神刀・千歳丸だ。頼むから話ができるからって驚かないでくれよ」
「驚いたほうが良ければ驚くが、いまさら大して不思議ではない。俺もこう見えて、この世の怪異はこれまでに嫌というほど味わっているからな。話せる日本刀など可愛いものだ」
「そうなんですか?」
「ここがどこだと思っている。日の本の魑魅魍魎が集結する京の都だぞ。それに戸塚殿からも『闇の者』の存在は聞き及んでいる。というより、すでに奴らと幾度となく刃を交えているからな。貴殿ほどではないにせよ、奴らの強さは承知しているつもりだ」
基本、『闇の者』はどんな名剣や妖刀を持ってしても倒せない。別次元の存在だけに、この世の武器では倒せないのだ。神刀以外に『闇の者』を倒す手段として、前の時代では呼吸法が使われていたが、この時代には伝わっていないのだろうか。
「戸塚さん、この時代に呼吸法は伝わっていないのですか?」
「名前だけは伝わっているのですが、実際に使用できる人間がおらず、いったいどんな技なのか分からないのです」
「マジか!? なんてこった……」
絶句する千歳丸。タケルも同じ思いだ。呼吸法は南北朝時代に、ある熟練の遣使(けんし)が編み出したものだ。それまで散々苦労しながらも『闇の者』を追い返すしかなかった遣使(けんし)が初めて手にした画期的な技ではあったが、伝わっていないのなら廃れるのもやむを得なかった。それだけ『闇の者』が出現しない平穏な時代が続いたのだろうが、かつて共に戦った呼吸法を使う遣使(けんし)達を思い返すと、タケルの心にやるせない思いが滲んできた。
「ところで、『闇の者』はどういった感じで出現するんだ?」
場の空気が重くなりそうなところで、千歳丸が聞いた。
「そうだな、もっぱら我々佐幕派の要人を襲う、市中を無秩序に混乱させるといった感じだろうか」
近藤がざっくりと答える。近藤が偉人に選ばれたということで、佐幕派が狙われるのは予測が付いた。おそらく『闇の者』の狙いは佐幕派の混乱にあるのだろう。だが幕末の混沌とした情勢では、羅刹魔将がいかに世の中を混乱させるつもりなのか皆目見当がつかなかった。
「俺としては、むしろ近藤に『闇の者』を取り憑かせたほうが話が早いと思うんだがな」
千歳丸がタケルだけに聞こえる声でそんなことを言う。
「私達遣使(けんし)の情報網で分かっているのは、長州藩を中心とした藩士の間に『闇の者』が紛れ込んでいることくらいです。具体的に誰に取り憑いたとか、確定した情報までは用意できなくて……」
戸塚小春子が申し訳なさそうな顔で肩をすくめる。
「たが、おかげで長州藩が朝廷を乗っ取らんとする計画もつかむことができた。我ら新撰組は尊皇派が集結する現場が分かり次第、突入して奴らを押さえるつもりだ」
歴史に残る池田屋事件は、確かそのように始まったはずだ。またしても歴史的な事件の現場に居合わせそうな事態に、タケルは自分が高揚するのを感じた。だが、近藤勇はどこか不安そうな顔をしている。
「どうしたんです。何か不安でも?」
思わず聞いたタケルに、近藤は答えた。
「実はだな、遺憾にも会津藩はおろか、新撰組内部にも『闇の者』の影響を受けた者がいるようでな。大義と正義に身を捧げた者ばかりのはずが、情けない限りだ」
おそらく近藤勇は純粋な心根の持ち主なのだろう。高い志を持つがゆえに、『闇の者』の誘惑に踊らされた隊士の存在が許せないに違いない。人の心にある闇を突くのは羅刹魔将の常套手段だ。弱い人間を籠絡し、悪の道に引きずり込む。己の野望を成就させようとする手段を選ばないやり方に、タケルは改めて深い憤りを覚えた。
だが同時に、人の歴史とは戦いの歴史でもあった。人にはそれぞれの正義があり、それを実現するために戦いを望む。自覚していたか分からないが、かつて出会った偉人達は、立場はもちろん、感情の上でも人々の上に立ち、己の決断によって間違いなく歴史をつくってきたのだ。
「情勢がどちらに転んでも大きな戦乱を生み出す」
ふと、そんな言葉が口を突いた。情勢がどう推移するかは分からない。だが佐幕派も攘夷派もお互いに戦いを望んでいるのが、今いる幕末という時代だ。
「なるほど、それが羅刹魔将の企みってわけか」
千歳丸がそのように呟くが、あえて修正する気にはなれなかった。人々が戦いを望む以上、戦乱は避けて通れないものだ。止めようのない戦いなら、タケルにできるのは一刻も早く羅刹魔将を討ち、今後の歴史を守ることだけだ。
「良かろう、この世ならざる者共に、日の本の行方を左右されるのは避けたいところだ。新撰組も可能な限り協力する。不審なことがあればすぐさま報告しよう」
近藤勇は重々しく頷くと、タケルへの協力を約束した。
市中見回りに戻る近藤勇を見送り、タケルは戸塚小春子の案内で新撰組の屯所へと向かう。
「近藤さんと同じ場所にいれば、情報も早く入りますからね。修行するにしても相手がたくさんいますし、土方さんの許可も得てますから宿泊も自由。たぶん、これ以上好条件の場所は他にありませんよ」
戸塚小春子は朱雀大路を横切って、二条城の南方にある壬生寺(みぶでら)に入った。新撰組の屯所は小高い丘の邸宅に設えられていた。もとは豪農の邸宅らしく、敷地には立派な家屋が建ち並んでいる。
「なかなか立派な家屋じゃないか。倉でも借りれば誰にも邪魔されず修行できるぜ」
「さあ、それはどうかな」
嬉しそうな千歳丸とは裏腹に、敷地に入ってからのタケルは気が重くなる一方だ。屯所とあって、門からは新撰組の隊士がひっきりなしに出入りしている。その誰の目からも奇異な視線を向けられては、いくらタケルの精神が図太くても、落ち着いての修行などできそうになかった。
できればひとり静かな場所で修練したいところだ。
「あの、できれば人目のつかない場所で修行したいんですが」
戸塚小春子に思いきって頼んでみる。だが戸塚小春子は年下の少年を諭すように、心配そうな声色で言った。
「だめですよ。郊外は昔から亡くなった人を風葬する土地ですから、魑魅魍魎がたくさん出るんです。いくらタケルさんが強くても、そんなのを相手に手いっぱいになって、修行どころじゃなくなりますよ」
本心からタケルを心配しているに違いない。
確かに京の郊外で修行に適した場所と言えば、いずれも死体置き場に近い状態で、屯所とは違った意味で落ち着かない心持ちになりそうだった。
タケルが屯所に来てから数日が経った。その間、土方歳三は隊の庶務を手掛けながらも、タケルの動向を一時も欠かさず観察していた。
幸いにもこの数日、京都市街は平和そのもので、『闇の者』はおろか町人同士の喧嘩も起きていない。攘夷派の動向が見えなくなったのは心配だが、土方歳三個人としても、神刀とその使い手という歴史の守護者がどのような鍛錬をするのか、観察する時間があったのは幸いだった。
「それにしても、あれは本当に修行なのか」
土方歳三はタケルを見ながら独りつぶやいた。ずっと座禅を組んだままだと思えば、次の日は居合いを繰り返す。剣筋を見たいと、数人の隊士をけしかけてみれば、ものの数分で倒してしまう。見れば確かに強さが分かる。その強さの源泉がどこにあるか分からなければ、土方歳三としてはどうにも落ち着かない。
「彼はなにをしているんだ?」
肩越しに近藤勇が話しかけてきた。この日もタケルは朝から座禅を組んだままだ。蚊が肌を刺そうが蟻が足を這い上ろうが、寸分たりとも動かない。集中力と平常心は目を見張るものだが、土方歳三としてはどう答えたものか見当もつかなかった。
「……さぁ」
かろうじてそう答える。するとタケルはやおらその場に立ち上がり、今度は延々と同じ型を繰り返した。
「一事が万事あんな感じだからな。何をしているかなんて答えられんよ」
「どうした、失望したか?」
「期待したものではなかったのは確かだ。もっと我ら相手に修行するものと思っていたからな。おかげで太刀筋やどんな技を使うか皆目見当がつかん」
「そうか。で、土方はタケル殿を弱いと考えるか?」
土方歳三は近藤勇の問いに首を横に振って答える。
「彼は間違いなく強い」
一般の隊士には、タケルの強さが分からないだろう。修行も何をしているか見当がつかないに違いない。だが立ちのぼる気の強さは舞い上がる龍のように見えるし、素振りひとつ取って見ても、目の前に何かしらあれば真っ二つにするに違いない。
「だが、彼の強さが果たして俺達が目指すものと同じなのだろうか。俺には違うような気がしてならない」
「まるで哲学か宗教のようだな。俺には高尚すぎて分からん」
近藤勇はそう言って苦笑いする。己の理解の及ばない事象はあえて考えない。それが近藤勇の流儀だ。単純明快で羨ましくはあったが、土方歳三は自分の気質では難しいと思う。
そうこうしているうちに、座禅するタケルにひとりの隊士が話しかけた。
「タケル殿。私に一手指南していただけませんか?」
沖田総司だ。一見、剣士にすら見えないほどの優男だが、その剣は新撰組の誰もが認めるところで、天然理心流の道場・試衛館では塾頭を務めるほどの腕前だ。
「僕と、ですか?」
タケルは呆けた顔で沖田総司を見上げる。
「ええ、タケル殿とです。ぜひお願いしたい」
そう言って沖田はタケルから離れると、手にした菊一文字を正眼に構えた。
「お前がけしかけたのか?」
土方歳三が、隣に並んだ近藤勇に問う。
「さてね。実は俺も興味津々なんだ」
タケルも手にした神刀を正眼に構える。瞬間、沖田総司が飛び出し、切先をタケルに向けて突きだした。
「受けてみよ!見事受けきれたら天然理心流の免許をやろう!」
沖田総司が本気を出したときに使う突き技だ。おそらくタケルには自分に無数の切先が向かってきているように感じるだろう。初見ではまず回避できない。土方歳三も初めて目にしたときは面食らったものだ。
「だが、良いのか?勝手にあんなことを言わせて」
「いいだろう。沖田の本気を受けきれるなら、それに見合う腕があるということだ」
鷹揚に笑う近藤勇だが、すぐにその顔が凍り付いた。タケルが沖田総司の切先をすべて神刀で受け止めている。そればかりか突き出す刃を絡め取り、沖田総司の手から菊一文字をはじき飛ばした。
「馬鹿な……」
「初見で沖田の突きを攻略した、だと?」
目の前で起きたことが信じられなかった。土方歳三も思わず唖然とする。沖田総司も自分の身に起きた事態が飲み込めず、目を丸くしたままその場にがっくりと膝を突く。
「……見事」
まさか、沖田総司の突きが初見で破れるとは思わなかった。土方歳三の背筋に冷たいものが流れる。神刀とその使い手とはそれほどの腕なのかと思えば、納得できると同時に空恐ろしくなる。彼らが新撰組の前に立ちはだかるとすれば、どう戦えば良いのだろう。
「タケル殿、次は俺が相手だ」
「……近藤?」
隣にいたはずの近藤勇が、いつの間にかタケルの前に立っている。頭に鉢金を巻き、隊の正装と言うべきダンダラ羽織を着た、見るからにやる気充分の姿だった。