輸出編

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アーカイブ ※この記事は2021年5月15日に発行されたものです。

ワクチン接種が始まり、コロナ禍にもようやく出口が見えてきた昨今ではあるが、刀剣の流通は依然として停滞しており、海外の愛好家との交流には欠かせない刀剣の輸出入は、以前より不便である。ここでは筆者の経験を踏まえ、これまでの流れを振り返りながら、今後の対策を皆さんと共有していきたい。

最も身近な日本郵便のEMS

十年以上前は日本郵便のEMSをはじめ、外資系で言えばFedEx(以下F社)、DHL(以下D社)、UPS(以下U社)など、さまざまな運送会社による刀剣の輸出が可能であった。しかし、イスラム国等のテロ集団の脅威により各社の態勢は大きく変わり、規制の一歩を踏み出した。われわれの業界においては、美術品としての要素が主な刀剣だが、世間一般的にはまだまだ武器としての要素の方が大きいようで、この事件以降、刀剣の輸出にはさまざまな不都合が生じた。

それまでは送料重視ならEMS、EMSで送れない地域、もしくは顧客からの要望があれば少々値は張るがF社を利用するというのが通例であった。
EMSは一番早く届く航空便サービスであるが、独自の飛行機便を持たず、世界各国の航空会社と提携して旅客機の空いた手荷物スペースを利用している。刀剣を輸出する場合、古美術品輸出鑑査証明書を取得し、インボイス(送り状)に“Antique Japanese Sword over 100 years old(一部の現代刀を除く)”と記載することが一般的だ。

EMSで刀剣を輸出する場合は三つの条件をクリアしなければいけない。

一つ目は、輸出しようとするその時に、EMSがその国への航空便と提携をしているかどうか、つまりEMSで荷物が飛ぶ国であるかどうかである。
EMSはウインターシーズン、サマーシーズンと年二回、各社への提携の更新がある。その更新により、例えばアメリカなど日本との航空便の本数が多い国宛てであれば問題ないが、そうでない場合、以前は輸出できた国なのに今ではできない、またその逆の現象が発生するのである。

二つ目は、提携している航空会社が、刀剣を貨物として受け入れるかどうか。ANAやJALは当然問題ないが、刀剣を貨物として受け入れしている会社は少ない。
五年以上前に筆者が日本郵便に電話で確認した際には、ANA、JALのほかに五、六社程度であるという話であった。

三つ目は、直行便であるかどうか。経由便だと、残念ながら受付できないとのことである。

この三つ全てをクリアして、ようやくEMSで刀剣の輸出ができるのである。
EMSは基本的に重量計算のため、箱の大きさの割に軽い刀剣の送料は、例えばアメリカに刀一振を送っても一万円前後である。

なお、大前提として宛先の国が刀剣の輸入を許可しているかどうかも問題である。中国(香港を除く)・ロシアなどの共産圏の国は、武器になり得るものを国民に持たせたくない傾向にあるため、刀剣はおろか、模造刀でさえ輸入禁止である。

刀剣輸出の予定があり、EMSが使えるかどうかを確認したい場合は、国際郵便局に電話して、近日中にどの国に何を送るかを伝えれば、その日のうちに可能かどうかの回答がもらえる。

配送の丁寧なFedEx

EMSでは飛ばないとなると、多少値段は高くなるが前記三社のいずれかを選ばざるを得なくなる。F社・D社・U社それぞれに独自のルートと運送機があり、いわゆるドアツードアのサービスで、集荷から宛先に届くまでを一括して管理している。

送り主が法人か個人事業主かで対応が変わる場合がある。法人だと各営業所が付き、綿密な相談ができるが、個人事業主の場合には一般的なコールセンターでしか対応してもらえないケースが多いようだ。

配送料に関しては、出荷量に応じて割引率が決まる。数か月に一件程度ではさほどの割引は得られないであろうが、一月に数件あれば50%以上は割引される印象を受ける。70~80%までいけばEMSに近い金額になるようだ。

F社は配送の丁寧さから特に人気があり、日本で言えばヤマト運輸的ポジションである。対応している国・地域もEMSより広く、これまで頻繁に利用していたのだが、テロの影響により、貨物としての刀剣の取り扱いを中止してしまった。これには多くの業者が頭を抱えた。

インボイスの輸出品目詳細に、刀剣ではなく美術品であるとかの内容にすることによって、何とか送る(当然、輸出鑑査証明書の処理はする)という苦しい回避策を講じていた業者もあったと思うが、決して安全と言える方ではなく、しばらくは暗中模索が続いた。

F社が刀剣貨物の取り扱い中止になってからはD社を何度か利用していたが、F社の後に続く形となり、同じく利用回数が減っていった。

ある時、鎧の注文があり、一般的な鎧櫃の大きさであれば何とか送れるのだが、横長の鎧櫃に駕籠付き、さらには屋根・天秤棒付きと大変立派な造りであったため、大きさの都合で航空便では受け付けてもらえなかった。致し方なく費用対効果が高かったD社の船便を利用した。何とか届いたものの、残念ながら脚部に一部ダメージを負ってしまった。船便は航空便に比べて安全性に欠けると思っていた方が賢明である。なお、船便は荷物紛失率も航空便に比べ高いので、よほどのことでない限りお勧めはできかねる。

DHLの場合

二〇二〇年初頭、新型コロナウイルスの影響が流通業界に出始めた。頼みの綱であるEMSがアメリカ宛ての輸出を、四月二十日から一斉に休止したのである。これは刀剣に限らず、EMSの一切のサービス休止であった。

アメリカ行きの旅客機の本数が極端に減ったためである。アメリカは日本からの刀剣輸出国第一位と言っても過言ではないと思うが、これでいよいよアメリカ宛ての輸出は八方塞がりとなってしまったのである。

同年六月ごろ、顧客の要望でアメリカ宛てに早急に発送したい物件があった、あまり利用のなかったD社を利用することになった。
インボイスにはもちろん刀剣と明記して集荷を頼んだ所、わずか三日で届いてしまった。筆者の知らない間に刀剣の取り扱いが解禁されたのかと喜び、その三日後、同じ宛先に別の刀剣を発送した。

その晩、D社から電話があった。刀剣は取り扱いできないので、荷物を返却すると言う。三日前は一体なぜ送れたのかと聞いたところ、集荷したドライバーが知識不足で、取り扱いが禁止されていることに気づかなかった。今回は、営業所から空港の倉庫に荷物を移動させる前に事態が発覚したのだという。

担当者が言うには、刀剣のような特殊な品物の場合、D社に限らず、こうした行き違いはしばしば発生するとのことである。

中国経由が不可のUPS

この年の夏ごろ、業者間でU社が使えるという話が上がった。筆者はそれまでU社の利用はなかったので、アメリカ宛ての刀剣輸出に利用可能かどうか調べた。

公式ウェブサイトには輸出規制品目の中に刀剣が含まれていたが、特殊契約を結ぶことにより、これを取り扱い可能とする文言が明記されていた。

早速コールセンターに電話すると、たまたま応対したオペレーターが悪かったのか、刀剣は扱えないだの、そんなことを書いてあるウェブページはないだの、滅茶苦茶だった。

あらためて営業所に電話すると、先ほどのオペレーターの言い分とは全く異なり、ウェブページに書いてある通りで、アメリカ宛てに刀剣の輸出は可能だが、特殊契約が必要とのことだった。

ここで要求されたのが、過去に輸出したサンプル二、三件である。具体的には、①インボイス、②輸出した登録証、③輸出鑑査証明書、である。

また、この特殊契約は送り先の国ごとに別途契約が必要になるため、アメリカ以外にも希望があれば先に知らせてほしいという。輸出の予定があったカナダ・ドイツ・スイス・シンガポール・オーストリアも併せて申請した。

担当者の話では、U社のアメリカ本社へ掛け合い、これが可能かどうか決定されるまでに早くて二週間、遅いと三カ月かかる時もあるとのことだったが、三週間かからないうちに返事がもらえた。結果はアメリカとカナダのみが可能だという。

二国以外はなぜダメなのかと聞くと、中国が原因だった。U社の飛行機便は、日本から西に飛ぶ便は全て中国を経由するので、一時的とはいえ刀剣の受け入れが許可されないとのことだった。その後、特殊契約用の契約書が用意され、サインをし、程なくして出荷可能な状態となった。

刀剣の輸出状況は流動的

出荷の際には、U社公式ウェブ上から送り先の住所やインボイスの入力をし、プリンターで印刷したラベルなどを発送物に貼り付ける。この際注意したいのがオプション設定と保険である。昨今では国内でも置き配(荷物を届ける際に、ポストに入らないものであってもドアホンで呼び出しせずに玄関に荷物を置いて配送完了とする)が普及してきたが、アメリカではごく一般的であり、オプションとして対面配達、受取人署名を選択しておかないと、いくら高額商品、ワレモノ貨物でも無惨に置き配されてしまうので要注意である。

保険は、他社に比べると非常に割高である。インボイスの表記額を上限に、任意の金額の補償額を設定できるが、保険料率は約一.一八%である。十万円の商品であれば千円強だが、百万円を超える保険だけで一万円以上かかるということである。なお、一つの荷物に対して、最高設定額は約五百万円までである。

これは後から知ったことだが、この特殊契約は法人専用である。筆者同様にアメリカ宛てで困っていた同業M氏にU社の詳細を伝えたが、特殊契約をしようとしたら個人事業主だったために断られたという。

これで過日のコールセンターでの一悶着も納得である。送り主が個人扱いになると営業所が付かないため、特殊契約も結べないという仕組みである。

この事実を知り、もしかするとF社でも法人契約して営業所が付けば刀剣輸出可能では?と考え、久々にF社に問い合わせをしたが、社内で情報が統一されていないようで、後日はっきりと決まり次第あらためてお知らせしたい。

この三月時点で、いまだにアメリカ宛てEMS再開の目処は立っていない。これからも刀剣に関する輸出案件は変更が予想されるので、情報の共有ができればと思う。有益な情報があれば、本紙編集委員会までぜひご一報頂きたい。なお、本年一月一日からEMSのラベル作成は手書き禁止となったので、その点も留意されたい。

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