日本庭園の基礎知識

日本庭園の構成要素「植栽」
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日本庭園の構成要素「植栽」 日本庭園の構成要素「植栽」
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「植栽」(しょくさい)は、日本庭園を構成する要素のひとつで、樹木、草花、苔などの植物を配置・管理することを指します。庭園に季節の植物を取り入れることで、四季の美しさを表現。また、配置する植物の高さや色彩にこだわれば、視覚的に奥行きを感じさせることができます。「日本庭園の構成要素『植栽』」では、日本庭園における植栽の役割はもちろん、代表的な植栽、配置方法などについて、詳しく解説しましょう。

日本庭園における「植栽」の役割

日本庭園における植栽

日本庭園における植栽

日本庭園における植栽は、庭全体の景観を形づくる重要な要素です。植物の選定・配置によって、四季の移ろいを表現したり、空間に奥行きやリズムを生み出したり、多くの役割を担っています。

庭園の背景や奥行きを作る

植栽は、樹木の高さが約3m以上になる「高木」(こうぼく)、約1~3mの「中木」(ちゅうぼく)、約1m未満の「低木」(ていぼく)を段階的に配置すると、遠近感や立体感を演出することができます。これにより、庭に奥行きや広がりを感じさせる効果が生まれるのです。また、「借景」(しゃっけい:敷地外にある山や海などの自然風景を庭園の一部として取り入れる手法)を活用することで、庭の植栽と周囲の自然をつなげ、一体感のある風景を作り出すことができます。

四季の変化を楽しむ

日本庭園の植栽は、四季の移ろいを映し出す役割があります。季節ごとに異なる植物を取り入れることで、庭に豊かな趣が生まれるのです。例えば、春には桜や梅が咲き、華やかな雰囲気を演出。夏には、青々とした竹が涼しげな印象を与えます。秋になると、紅葉やススキが色づき、深まる季節感を表現。さらに冬には、松やツバキのような常緑樹(じょうりょくじゅ:年間を通して葉の色が変わらず、落葉しない植物)が、雪景色との美しいコントラストを生み出します。このように、四季折々の植物を通じて変化する景観は、日本庭園ならではの魅力であり、庭園を訪れる人々に癒しを与えてくれるのです。

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日本庭園で使われる代表的な植栽

日本庭園では、四季を彩り、空間に趣を与えるために様々な植物が用いられます。なかでも、庭の雰囲気を大きく左右するのが、植栽の選定です。日本庭園でよく用いられる代表的な植栽をご紹介しましょう。

高木

高木 松

高木 松

高木は、植栽時に高さ約3m以上になる樹木で、太い幹から枝が伸びているのが特徴です。高さがあるため、庭のシンボルツリーとして使用され、空間に迫力や広がりを与えます。日本庭園でよく選ばれる高木は、以下の通りです。

  • 松:長寿や不老不死の象徴とされ、縁起のいい樹木として日本庭園には欠かせない
  • モミジ(カエデ):秋になると葉が赤や黄に色付き、鮮やかな季節感を演出
  • 桜:春の訪れを象徴する花木で、日本文化に根差した存在
  • クスノキ:大きな庭園向きの常緑樹で、夏でも鮮やかな緑を保つ

中木・低木

中木・低木 ツツジ

中木・低木 ツツジ

中木・低木は、高木に比べて樹木の高さが低く、庭のアクセントとして、空間に彩りを加える重要な役割を果たします。中木は高さ約1~3mの樹木で、庭の立体感を調整したり、生け垣のように視線を遮ったりすることが可能。一方、低木は約1m未満の小ぶりな植物で、石組や飛石の周りを引き立てたり、地面とのつながりを自然に見せたり、細部の演出に欠かせません。日本庭園でよく選ばれる中木・低木は、以下の通りです。

  • ツバキ:冬から早春にかけて花が咲き、寒い季節の庭に彩りを添える花木
  • サツキ、ツツジ:春から初夏にかけて鮮やかな花を咲かせ、庭に華やかさを与える
  • アジサイ:梅雨に咲く代表的な花で、土の性質によって花色が変わる

地被植物

地被植物 苔

地被植物 苔

「地被植物」(ちひしょくぶつ)は、地面を覆うように生える植物の総称です。草丈が低く、地面を覆うことから「グラウンドカバー」とも呼ばれ、土壌の乾燥を防ぐだけではなく、土の流出や雑草の抑制にも役立ちます。

日本庭園でよく活用される地被植物は以下の通りです。

  • 苔(コケ):枯山水や和風庭園に欠かせない存在で、静けさと趣を演出
  • シダ:半日陰の庭に適し、みずみずしい緑のアクセントとなる

日本庭園の植栽の配置とデザイン

日本庭園における植栽は、単に植物を配置するだけではなく、石組や景観全体との調和を意識したデザインが重要です。代表的な植栽の配置方法とデザインについてご紹介しましょう。

「三尊石組」と植栽のバランス

建仁寺の三尊石組と植栽

建仁寺の三尊石組と植栽

「三尊石組」(さんぞんいわぐみ/さんぞんいしぐみ)は、仏教における「三尊仏」(さんぞんぶつ)を模した石組です。中央には、本尊に見立てた「中尊石」(ちゅうぞんせき)を据え、その両脇に「脇侍石」(きょうじせき)を配しています。三尊石の周囲に低木や地被植物を組み合わせて植えることで、石と植栽が自然に調和し、落ち着いた一体感をもたらすのです。

遠近感を意識した配置

遠近感を意識した配置

遠近感を意識した配置

遠近感を意識して植栽を配置することは、空間に奥行きを感じさせるために重要な役割を果たします。例えば、庭の手前に背の高い樹木や大型の植物を配置し、奥へ行くほど背丈の小さな植物を置くことで、「近くの物は大きく、遠くの物は小さく見える」という遠近感を生み出し、空間に広がりを見せることができるのです。

また、植栽の色を工夫して配置すれば、色彩による遠近感を演出できます。例えば、庭の手前には、オレンジ、赤、黄など暖色系の植物を、庭の奥には、青、紫、緑などの寒色系の植物を配置すると、「明るい色は近くに、暗い色は遠くに感じられる」という視覚効果が働き、空間に自然な奥行きが生まれ、実際よりも広く感じさせることが可能となるのです。

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日本庭園とは

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日本庭園の構成要素「石」

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「石」は、日本庭園における構成要素のひとつです。その配置や形状に深い意味を持ち、自然の風景、仏教的な思想を象徴するだけではなく、庭の美しさや静けさを高める重要な役割を担っています。また、石は、精神的な安らぎや思索を促す物としても機能。日本庭園を鑑賞する人々に深い感動を与えています。「日本庭園の構成要素『石』」では、石の役割や種類、基本的な配置パターンを解説しましょう。

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「石灯篭」は石で作られた灯篭で、日本庭園を構成する重要な要素として用いられています。「灯」(ひ)の「篭」(かご)という言葉が語源で、かつては、夜間に灯火を灯すための道具でした。時代の流れにより、石灯篭は、単に照明器具だけではなく、日本庭園の景観を引き立てる装飾的な存在としても重視されるように。「日本庭園の構成要素『石灯篭』」では、日本庭園における石灯篭の役割や代表的な種類をご紹介しましょう。

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「橋」は、池や小川を渡るための移動手段としてだけではなく、庭園の景観を構成する重要な要素です。庭園内に橋を設けることで、風景に変化が生まれ、訪れる人に季節の移ろいや自然との調和を感じさせることができます。「日本庭園の構成要素『橋』」では、日本庭園における橋の役割や種類、橋のある代表的な日本庭園をご紹介しましょう。

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日本庭園の構成と配置

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