「石」は、日本庭園における構成要素のひとつです。その配置や形状に深い意味を持ち、自然の風景、仏教的な思想を象徴するだけではなく、庭の美しさや静けさを高める重要な役割を担っています。また、石は、精神的な安らぎや思索を促す物としても機能。日本庭園を鑑賞する人々に深い感動を与えています。「日本庭園の構成要素『石』」では、石の役割や種類、基本的な配置パターンを解説しましょう。
興臨院 方丈前庭
日本庭園における石は、単なる装飾ではなく、自然の景観や思想・信仰を象徴する重要な役割を持っています。石を組み合わせて、「山」、「滝」、「島」などを表現したり、神聖な場所や仏教的な世界観を示したり、庭全体に深い意味をもたらしているのです。
なかでも、日本庭園の代表的な様式「枯山水」(かれさんすい)は、水を使わずに石や砂利で自然風景を表現。大きな立石は山を、平たい石は湖や流れを、砂利は水面を象徴し、綿密な配置によって、自然との調和と精神的な安らぎを生み出します。
石の種類と特徴
石は日本庭園の景観を作る重要な素材です。種類や形によって庭園の雰囲気が大きく変わります。以下、庭園に使われる代表的な石の種類と特徴をご紹介しましょう。
「自然石」(しぜんせき/じねんせき)は、人の手を加えず、自然の風化や形状をそのまま活かした石のことです。形や大きさは様々で、主に「景石」(けいせき)や「役石」(やくいし:庭園の要所に特別な機能を持たせて配置する石のこと)として使用。人工的に加工された石とは異なり、角が丸くなっていたり、表面に独特の色合いがあったり、自然本来の質感が庭園に趣深い景観をもたらします。
「景石」は、庭園内の主要となる場所に置く鑑賞用の石のこと。庭の景観の中心や見どころを形作る役割を担います。景石は、主に天然の岩石が用いられ、山や滝、島などの自然を象徴するように配置。視線を引き付ける存在として、庭全体の構成に調和をもたらします。
「飛石」(とびいし)は、日本庭園や露地などで歩行用に配置された石のこと。園路として用いられ、石と石の間を少し開けて並べることで、庭園内の動線や風景に変化をもたらします。飛石は、主に自然石の「平石」(ひらいし:表面が平らな石のこと)を使用。なお、形を整えた物は「敷石」(しきいし)と言い、飛石とは区別されます。
「沓脱石」(くぬぎいし/くつぬぎいし)は、玄関や縁側の前に置かれた石のこと。履物を脱ぐための足場、または庭へ出入りするための踏み台に使用されます。沓脱石は、建物の内と外の境界線を示す役割があり、「穢れを家の中に持ち込まない」という日本の伝統的な精神を反映。なお、沓脱石には、平らでバランスの良い石をひとつ据えるのが一般的で、実用性と美観の両方が重視されています。
手水鉢
「手水鉢」(ちょうずばち)は、手を洗うための水を溜めておく鉢のことです。手水鉢の周囲には、手水を使う際に乗る「前石」(まえいし)、手水鉢の右側には、湯桶を置くための「湯桶石」(ゆとうせき/ゆおけいし)、手水鉢の左側には、手燭を置くための「手燭石」(てしょくいし)などが配置されています。
手を洗うときに低く身をかがめることから、手水鉢を含む一帯を「蹲踞」(つくばい)と呼ぶことも。茶庭においては、客人が心を清めるための重要な空間となっています。
日本庭園では、様々な石の配置が庭全体の印象を大きく左右します。石は、自然の風景や思想を象徴するように計算し配置されており、配置方法にもいくつかの種類が存在。基本的な石の配置パターンを見ていきましょう。
建仁寺 三尊石組
「三尊石組」(さんぞんいわぐみ/さんぞんいしぐみ)は、仏教の「三尊仏」(さんぞんぶつ)に見立てた石組のことです。中央に本尊に見立てた「中尊石」(ちゅうぞんせき)、その左右には、「脇侍石」(きょうじせき)を配しています。
中尊石は釈迦如来などに相当するため、もっとも目立つ大きな石を選び、菩薩に相当する脇侍石は、中尊石を引き立てるように小さな石が選ばれるのが、三尊石組の基本です。
東福寺 蓬莱石組
「蓬莱石組」(ほうらいいわぐみ)は、中国の道教における「蓬莱神仙思想」(不老不死の術を会得し、人類の理想である永遠の命を得ようとする思想)に基づいて築かれた石組のこと。不老不死の仙人が住むとされる「蓬莱山」(ほうらいさん)を巨石で表現しています。
さらに巨石の周囲には、長寿の象徴である亀や鶴に見立てた石を配置。これにより、庭全体を理想郷として構成しているのです。
西芳寺 枯滝石組
「滝石組」(たきいわぐみ)は、滝を表現するために石を組み上げた石組のこと。滝石組には、実際に水を落とす滝と、水を使わずに石の配置だけで滝を表現する「枯滝石組」があります。滝石組は、滝の流れ落ちる部分に据える「不動石」(ふどういし:立石、守護石とも呼ばれる)、滝つぼに据えられ、落ちてくる水を受け止める「水受石」(みずうけいし)などの役石で構成。また、こうした石組に象徴的な意味を重ねる例もあります。
例えば、中国の故事「登竜門」にちなんだ「龍門瀑」(りゅうもんばく)という様式では、滝の下に「鯉魚石」(りぎょせき)を配し、鯉が3段の巨大な滝を登りきって龍になる様子を表現。これは出世や成長の象徴として用いられ、日本庭園にテーマ性を加える工夫と言えます。