本鍔に描かれているのは簾(すだれ)ですが、画題が「源氏物語図」とされていることから「御簾」(みす)と言えます。御簾は宮殿や神殿などに用いる簾のことで、竹ひごを編み、平絹・綾・緞子(どんす)などで縁を取った目の細かい物です。
源氏物語においては、猫が御簾を引き開けて柏木(かしわぎ:公家の男性)が女三宮(おんなさんのみや:光源氏の2番目の正室)の姿を垣間見てしまう「若菜」(わかな)上巻末の場面が有名。柏木は女三宮に思いを募らせ、光源氏の留守のうちに強引に女三宮と契りを交わしてしまいます。
本鍔の作者「間」(はざま)は、伊勢国亀山(現在の三重県亀山)の一派で、作品は居住地から取って「亀山鍔」とも呼ばれます。この一派に特徴的なのは「さはり」(漢字では砂張、佐波里など)という合金を用いた象嵌で意匠を描くことです。さはりは銅と錫を中心に、亜鉛や鉛、銀などをくわえた合金で、灰白色を帯びています。