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アーカイブ ※この記事は2022年4月15日に発行されたものです。

ツタンカーメン王の墓から発見された鉄剣について、低温鍛造で造られたこと、エジプト国外から持ち込まれた可能性があることを紹介しています。

千葉工業大学地球学研究センターおよび惑星探査研究センター所長の松井孝典氏率いる研究チームが、エジプト考古学博物館において、ポータブル蛍光X線分析装置を用いてツタンカーメンの鉄剣の非破壊・非接触での化学分析を行った結果、鉄剣が低温鍛造により製造されたこと、エジプト国外から持ち込まれた可能性があることを明らかにした。

古代オリエント世界で栄えたヒッタイト帝国(紀元前1200~1400年)は、鉄の製造技術を独占することで軍事的優勢を得たとされている。それ以前には、世界にはまだ鉄の製造技術はなかったと考えられている一方で、エジプトのツタンカーメン王(紀元前1361~1352年)の墓から、鉄剣が発見されたことは大きな謎であった。この謎を解き明かすため、2020年2月9日と10日に松井所長の率いる研究チームがエジプト考古学博物館を訪れ、ツタンカーメンの棺から発見された鉄製の短剣の現地調査を行った。

この鉄剣は紀元前14世紀に製作されたものであるが、棺の中で保管されていたため非常に保存状態が良く、錆などの劣化の影響が小さい。紀元前14世紀のエジプトには製鉄技術は存在しなかったため、当時の人々は宇宙から飛来した鉄隕石を加工し、鉄剣を製造したと考えられていた。2016年にイタリアの研究チームが鉄剣の調査を行い、鉄・ニッケル・コバルト濃度の測定から、鉄剣の材料が鉄隕石であることを確認したが、鉄隕石からの鉄剣の製造方法については明らかにされていなかった。

〈製造方法の根拠〉

  • 1925年の発掘当時と比べ、錆や腐食がほとんど進んでいない。
  • 元素分析の結果、10-12wt%のニッケルが含まれる。
  • 所々黒い斑点状に見られるものは、隕石の包有物である硫化鉄である。
  • ニッケルの二次元元素分布は、ウィドマンシュテッテン構造を示している。
  • ニッケル量、硫化鉄包有物およびウィドマンシュテッテン構造から、オクタヘドライトという種類の隕石が鉄剣の原材料である。
  • ウィドマンシュテッテン構造および硫化鉄包有物が保存されていることは、低温鍛造により製造されたことを示す。

〈起源推定の根拠〉

  • 金の柄に少量含まれるカルシウムは、装飾物を接着する漆喰に由来すると考えられる。
  • エジプトでの漆喰の利用は、ツタンカーメン王の時代の1000年以上後から始まったとされる。
  • ヒッタイト帝国(現トルコ付近)の隣国であるミタンニからツタンカーメンの祖父であるアメンホテップⅢ世に鉄剣が送られたと記す古文書(アマルナレター)が存在する。
  • 金の柄の組成は、ツタンカーメンの鉄剣がミタンニから持ち込まれた可能性を示唆する。

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