日本刀鑑賞のポイント
日本刀の地鉄
日本刀鑑賞のポイント
日本刀の地鉄

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「地鉄」(じがね)の美しさに気付くことは、日本刀(刀剣)を鑑賞する上で、とても重要なポイントです。地鉄とは、「折り返し鍛錬」によって生じた、「鍛え肌」(きたえはだ)・「地肌」(じはだ)の模様のこと。「姿」(すがた)や「刃文」(はもん)とともに、その日本刀(刀剣)が作られた時代や流派を見分ける決め手となり、刀工の個性を楽しむことができる見どころです。ここでは、日本刀(刀剣)の地鉄の見方について、詳しくご紹介しましょう。

そもそも地鉄とは?

地鉄

地鉄

地鉄とは、鍛え肌の模様のこと。鍛え肌は地肌とも呼ばれます。

地鉄の模様は、原材料である砂鉄から作られた「玉鋼」(たまはがね)を、折り返し鍛錬することによって現れる物。

現れる場所は、日本刀(刀剣)の棟側で、鎬(しのぎ)と刃先、横手に囲まれた区際(まちぎわ)までの長方形の部分(焼きが入っていない黒色に見える部分)です。日本刀(刀剣)を手に取って、光に反射させることによって、ようやく確認することができます。

地鉄をよく鑑賞することで、複雑な工程を経て鍛錬された鉄の色や模様の違い、日本刀(刀剣)が作られた地域や刀工の個性を楽しむことができるのです。

地鉄の種類を見てみよう!

砂鉄を集めて作られる玉鋼から折り返し鍛錬された地鉄は、決して均質な物にはなりません。その日本刀(刀剣)が作られた時代や地域、刀工の個性を見分ける、大切な手掛かりとなるのです。

地鉄の種類

地鉄の種類は、「板目肌」(いためはだ)・「杢目肌」(もくめはだ)・「柾目肌」(まさめはだ)・「綾杉肌」(あやすぎはだ)・「無地肌」(むじはだ)の大きく5つ。さらに細かく分けると、その数は約20種類以上と言われています。一様な肌目となることはほとんどなく、板目に柾目が交じるなど、複合で現れることが多いようです。以下は、代表的な7種類です。

板目肌(いためはだ)
木材の板のような模様。板目が細かく詰んだ物を「小板目肌」、板目が大きな肌模様となった物を「大板目肌」と言い、小板目肌の方が良い地鉄とされています。大板目肌は「相州伝」(そうしゅうでん)に多く、小板目肌は「山城伝」(やましろでん)・「備前伝」(びぜんでん)に多い。

柾目肌(まさめはだ)
木を縦に切ったように、真っ直ぐな模様。「大和伝」(やまとでん)に多い。純粋な柾目だけの物は少なく、ほぼ板目流れ、または柾目の一部に板目が交じります。

杢目肌(もくめはだ)
樹木の年輪のような模様。多くは板目肌と杢目肌の複合で、「小杢目肌」は山城伝の粟田口派(あわたぐちは)の刀工や、相州伝開祖の新藤五国光(しんとうごくにみつ)など最高級の鉄を使用した少数の刀工のみに見られます。杢目肌には映りが出やすく備前伝にも多い。

綾杉肌(あやすぎはだ)
波のうねりのような模様。出羽国(でわのくに)の月山鍛冶(がっさんかじ)や奥州鍛冶が得意としたことから、「月山肌」(がっさんはだ)とも言います。

無地肌(むじはだ)
鍛え目が分からないほど、よく詰まれた物。「鏡肌」とも呼ばれます。新々刀期に多い。
梨子地肌(なしじはだ)
細かく力強い「地沸」(じにえ)が均等に付き、まるで果物の梨の断面のように潤って見える美しい模様。山城伝に多い。

平地板目で鎬地柾目肌(ひらじいためでしのぎじまさめはだ)
文字通り、平地が板目で鎬地が柾目。「美濃伝」(みのでん)に多い。
地鉄の種類

地鉄の種類

複数の素材を組み合わせる造込みという技法

日本刀(刀剣)の材料は、玉鋼と呼ばれる物で、部分によって炭素の量が違います。炭素量の少ない部分はやわらかく、多い部分は硬い。硬さに応じて選別するところから日本刀(刀剣)作りはスタートするのですが、素材を分けるのにも理由があります。

やわらかい素材は、のちに日本刀(刀剣)の芯になる部分。「心鉄」(しんがね)に用いられます。やわらかいことで衝撃を吸収する役割を果たし、折れにくくなるのです。

一方、硬い素材は「皮鉄」(かわがね)と呼ばれます。日本刀(刀剣)は心鉄を皮鉄で外側から包んで鍛造します。異なる硬さの2つを組み合わせるこの「造込み」という技法によって、「折れず・曲がらず・よく切れる」日本刀(刀剣)が実現しました。日本刀(刀剣)はただの武器ではなく、「柔軟」で「強靱」という2つの面を合わせ持つ不思議な武器なのです。

なお、心鉄と皮鉄の組み合わせを基本として、ここに棟側や刃側にも炭素量の異なる素材を足す方法などがあり、それらも含めてすべて造込みと呼ばれています。

強さと美しさを作り出す折り返し鍛錬

折り返し鍛錬

折り返し鍛錬

日本刀(刀剣)の強靱さは、単に硬い鉄でできていることだけでは語れません。「折り返し鍛錬」(鉄を熱して打ち延ばし、折り返して2枚に重ね、さらに打ち延ばす)を何度も繰り返すことによって、幾重にも重なる層になり、それが日本刀(刀剣)の強さになっているのです。

例えば、皮鉄に15回ほど折り返し鍛錬を施すと、約33,000枚の層となります。しかし、回数が多ければ多いほど強くなる訳でもありません。

また、日本刀(刀剣)に木目模様ができるのも、この折り返し鍛錬による物です。折り返し方や回数によって現れる模様も変化します。刀匠はでき上がりを想定しながら作業を進めますが、日本刀(刀剣)として仕上がった際に最も適した炭素量になるよう、経験から得た感覚で回数を決めるため、回数は一定ではありません。

地中を見てみよう!

地中

地中

「地中」(じちゅう)とは、折り返し鍛錬や焼き入れにより、地鉄部分に現れた模様のこと。

焼き入れをする際、刀身と刃部を分ける目的から、刀身全体に「焼刃土」(やきばつち)を厚く塗り、刃部には薄く塗って変化を持たせる、「土置き」を行ないます。この焼刃土の厚さや量、素材にひそむ微妙な組成の偏りにより、地鉄に模様が現われると考えられています。

地鉄に刃文のような地中が入ることで、深みのある美しさを作り出すことができます。地鉄に自然な形で見栄えのする変化を付けることは、大変難しい技術です。

地中の種類

地中の種類は、以下の6種類です。

地景(ちけい)
焼き入れの際、物理的変化によって地中に現れる筋状の働き。刃中に現れる金筋、稲妻と同じ。

地沸(じにえ)
目に見える鉄粒子のこと。刃文に現れる物を「刃沸」(はにえ)、地鉄に現れる物を地沸と呼びますが、同質の物。

映り(うつり)
光を反射させて観察すると、淡く白い影のように見える物。

沸こぼれ(にえこぼれ)
沸が刃線を越えて、飛焼状あるいは湯走状に地中にまで及び、まだらになった物。
地斑(じふ)
強弱のある地沸がからみあって、複雑なまだら模様になった物。

湯走り(ゆばしり)
刃縁から沸や匂が地中に流れ込むように連なり、激しく流動的な模様になった物。

鉄と対話する刀匠達

現代の刀匠が再現した古刀時代の乱れ映り
乱れ映り

乱れ映り

刀身に現れるのは、木目模様だけではありません。作刀の工程の中で、様々な働きが現れ、働きが多い日本刀(刀剣)ほど鋼がよく精錬され、刀匠の技量の高さを示していると言います。

例えば「乱れ映り」。鎌倉時代の古刀によく見られ、江戸時代以降は姿を消していましたが、現代の刀匠・河内國平氏が再現し、刀剣界に衝撃を与えました。これによって、映りの解明に向けて大きく前進したと言われています。

地鉄には日本刀ならではの魅力が
複数の素材を組み合わせたり、鉄を何度も折り畳んで鍛えたりする鍛造法は、世界の中でも日本刀(刀剣)だけです。したがって、刀身に肌目があるのも、働きがあるのも日本刀(刀剣)だけの特徴。鉄は、少しの条件の違いで変化する難しい素材です。

そのため刀匠達は、その鉄の性質、その時々の状況に応じて、鉄の状態を感じ取る鋭い感性が求められ、1振の日本刀(刀剣)を作るにも、気の遠くなるような手間がかかっていることが分かります。単に戦争の道具ではなく、美術品という言葉だけでもくくれない日本刀(刀剣)。その美しい地鉄から、刀匠達が込めた魂に思いを馳せてみるのも良いのではないでしょうか。

日本刀の地鉄

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