日本刀鑑賞のポイント
日本刀の姿②
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「茎」(なかご)とは、通常は「柄」(つか)に収められている、日本刀のグリップ部位。茎には、「銘」(めい)という刀工名や制作年などの情報が記されているので、日本刀を鑑賞する上で、とても重要な部分です。室町時代後期になると、この茎の「磨上げ」(すりあげ)が頻繁に行なわれるようになります。その理由はなぜでしょうか。茎には、どんな形状や種類があるのか、詳しくご紹介します。

そもそも茎とは?

茎と上身

茎と上身

「茎」(なかご)とは、日本刀を持つときに、直接触ることを許された部分です。日本刀の刀身は、大きく茎と「上身」(刃部分)に二分できます。茎は「中心」、「柄心」、「忠」と書いて「なかご」と読むことや「こみ」と呼ぶ場合もあるのです。茎の先端を「茎先」(なかごさき)、茎先の尻の面を「茎尻」(なかごじり)と言います。

茎は上身のように刃が付いていないので、直接触っても手が切れる心配はありませんが、そのままではとても握りにくいところ。握りをしっかりするために、柄(つか:取っ手)に収めて使用します。具体的に説明すると、茎を柄に入れたあと、茎の真ん中に開けられた「目釘穴」(めくぎあな)に「目釘」(めくぎ)を通し、固定して使用するのです。

茎は、時代や流派、刀匠の個性や違いが表現される部分だと言われています。それは、刀工が日本刀作りをする際、茎部分が最終工程にあたるため。日本刀全体のバランスを見て、最後に全精力を注ぐのが、茎なのです。

日本刀作りの仕上げは、「茎仕立て」(なかごじたて)と言い、茎が柄から抜けにくくするために、鑢(やすり)をかけてきれいに整え、目釘穴を開け、銘を切って完成させます。

茎・茎尻の形状とは?

茎を鑑賞する際は、「茎の形」、「茎尻の形」をしっかりとらえることが重要です。茎と茎尻は、時代や流派、刀工の個性や違いが顕著に表現される部分だと言われています。

実は、刀工が作品ごとに茎と茎尻の形状を変えるということはありません。そのため、茎と茎尻の形は、本当にその刀工の作品かどうかを見分けるヒントにもなるのです。

茎の形状の種類

「生ぶ」(うぶ:作られたままの姿)の茎を見ると、いくつかの形があることが分かります。茎は長さや形によって、以下の7種類に分類が可能です。この茎の形を見るだけで、ある程度、作刀された時代の判定ができます。

茎の形状

茎の形状

普通形(ふつうがた)
古刀から新刀時代全般。一般的な茎。
雉子股形(きじももがた)
平安時代から鎌倉時代。鳥の股の形に似ていることにちなんだ呼称。
振袖形(ふりそでがた)
鎌倉時代の短刀に多い。和服の振袖を思わせる形の茎。
舟底形(ふなぞこがた)
鎌倉時代、室町時代の相州伝に多い。舟底に似ていることからこの名が付いた。
タナゴ腹形(たなごはらがた)
室町時代の村正とその一門に見られる。魚のタナゴの腹に似た形。
薬研形(やげんがた)
江戸時代初期、繁慶(はんけい)一門のみに見られる。薬種を粉末にする「薬研」(やげん)という道具に似て、ゆるやかな弧を描く物を言う。
御幣形(ごへいがた)
江戸時代初期の伊勢守国輝(いせのかみくにてる)のみに見られる。神社に奉納する御幣(ごへい)に似て、最下部が切れ込んでいるのが特徴。

茎尻の形状の種類

茎尻も、刀工の個性がよく表れる部分。代表的な物は、以下の5種類です。

茎尻の形状

茎尻の形状

栗尻(くりじり)
一般的。丸い栗の実のようなタイプ。
刃上栗尻(はあがりくりじり)
栗尻のように丸みがあり、鎬筋(しのぎすじ)を境にして、棟側よりも刃側の角度が急になるタイプ。
剣形(けんぎょう)
先端が左右対称に尖ったタイプ。
入山形(いりやまがた)
刃側が長く棟側が短く仕立てられ、先端が尖っているタイプ。
切り(きり)
横一文字に切り揃えたようなタイプ。一文字と呼ばれることもある。「切り」は磨上げの日本刀に多く、生ぶにはほとんど見られない。

鑢目の種類

鑢目

鑢目

茎の仕上げは、鉋(かんな)で整えて、さらに鑢をかけて完了します。茎に鑢(やすり)で仕上げた跡を「鑢目」(やすりめ)と呼びます。

鑢目は、主に10種類。鑢目があることで、ザラザラして滑りにくくなり、柄から茎が抜けるのを防ぐことができます。さらに鑢目は、時代や流派によって顕著に違いが表れる部分。右利きか左利きかなど、刀工個人の癖が出やすい場所であり、時代が経つにつれ、美しく装飾を施されるようになった部分でもあります。

鑑定上でも、刀工個人を特定する重要な決めどころとなるのです。

切鑢(きりやすり)
鑢を横(平行)に掛けた物。
勝手上り鑢(かってあがりやすり)
棟側の鑢目が少し上がった状態の物。
勝手下り鑢(かってさがりやすり)
棟側の鑢目が少し下がった状態の物。
筋違鑢(すじかいやすり)
刃側の鑢目がかなり傾斜良く上がった状態の物。
大筋違鑢(おおすじかいやすり)
筋違鑢の角度が急になった物。
檜垣鑢(ひがきやすり)
檜垣(檜の薄板を編んだような模様)が付いた物。
鷹の羽鑢(たかのはやすり)
鷹の羽のように鋒方向へ山形になっている物。
逆鷹の羽鑢(ぎゃくたかのはやすり)
山形の鑢目が、鷹羽の鑢と逆になった物。
化粧鑢(けしょうやすり)
茎の美観を増すために、複雑に考案された物。新刀、新々刀期に限られる。

磨上げとは?

茎を鑑賞するときに、一番重要なのは、その日本刀が生ぶなのか、「磨上げ」(すりあげ)をされているのかを見極めることです。

磨上げとは、刃長の長い「太刀」(たち)や「大太刀」(おおたち)の茎部分を短く詰めること。これを「磨上げる」、または「区切る」と言います。

磨上げが行なわれたのは、室町時代後期から。その理由は、戦闘様式が徒歩戦・一騎打ちスタイルに再変化し、「打刀」(うちがたな)が主流になったため。打刀は、太刀よりも長さが短く、刃を上向きにして帯刀し、抜刀しやすいのが特徴です。したがって、従来の太刀・大太刀を実戦で使用するために、打刀のようにリサイズすることが頻繁に行なわれました。

ちなみに、なぜ上身部分を短く詰めなかったのかと言うと、「鋒」(きっさき)をカットすると、「帽子」(ぼうし:鋒の刃文)が無くなってしまうからです。帽子は日本刀の華とも言える、刀工の個性が最大限に発揮された美しい部分。帽子はあとから付けることができないので、短く詰めるならば茎部分しかないということです。

茎の種類

茎の種類は、生ぶと磨上げに大別できます。さらに、生ぶは2種類、磨上げは4種類、合計6種類に細分されるのです。

茎の種類

茎の種類

生ぶ茎(うぶなかご)
作られたままの茎。磨上げをしていない物。
区送り(まちおくり)
「刃区」(はまち)と「棟区」(むねまち)の上部を削って、刃長を短くした物。茎は生ぶ扱いになる。
磨上げ茎(すりあげなかご)
日本刀の茎を切って短くすること。銘が残る物。
大磨上げ茎(おおすりあげなかご)
もとの銘が残らないくらい磨上げること。
折り返し茎(おりかえしなかご)
大磨上無銘(おおすりあげむめい)になるのを惜しんで、銘の部分を折り返した物。
額銘茎(がくめいなかご)
銘の部分を切り取って、茎に埋め込んだ物。

銘とは?

銘

銘とは、日本刀を作った刀工が、茎に入れた名前や製造年月日などのこと。太刀は「佩表」(はきおもて)、打刀は「差表」(さしおもて)に入れることが決められています。

銘にはどんな種類があるの?

日本刀に銘を入れることが定められたのは、701年(大宝元年)に制定された「大宝律令」(たいほうりつりょう)によって。日本刀を作った作者は、法によって銘を入れることを義務づけられていました。時代が経つに連れて、刀工の居住地名や俗名など、様々な銘が見られるようになるのです。銘には、主に以下の種類があります。

刀工銘(とうこうめい)
刀工の名前。
居住地銘(きょじゅうちめい)
刀工の居住地。
受領銘(ずりょうめい)
国の長官である「受領」(現在の都道府県知事のような職務)の名前。
注文銘(ちゅうもんめい)
日本刀を注文した人の名前。
所持銘(しょじめい)
日本刀を所持した人の名前。
折返し銘(おりかえしめい)
磨上げをしたときに、銘を切らずに折り返した銘。
短冊銘(たんざくめい)
銘の部分を短冊形に切り取って新しく仕立てた茎に嵌入(かんにゅう:はめ込み)をした物。
裁断銘(さいだんめい)
試し切りの評価。
名物銘(めいぶつめい)
「号」(愛称)。

象嵌銘とは?

安土桃山時代になると、「本阿弥光悦」(ほんあみこうえつ)が豊臣秀吉の命によって、日本刀鑑定の極め所となり、日本刀の価値を記載した「折紙」(おりがみ)の発行を許可されました。

現代でも「折紙付きの~」と言うと、信用性が高いことを意味しますが、本阿弥家の鑑定はまさにそれ。その職務は、本阿弥家に代々引き継がれ、本阿弥家が鑑定をした証として、茎に銘文(磨上げ銘、極め銘、鑑刀者の氏名花押)が嵌入されました。これを「象嵌銘」(ぞうがんめい)と言い、次の4種類に分類できます。

金象嵌銘(きんぞうがんめい)
銘を象って金を嵌めて入れた物。大磨上げ、無銘の日本刀に限る。
銀象嵌銘(ぎんぞうがんめい)
銘を象って銀を嵌めて入れた物。大磨上げ、無銘の日本刀に限る。
朱銘(しゅめい)
銘を朱漆で入れた物。生ぶ、無銘の日本刀に限る。
金粉銘(きんぷんめい)
金粉を交ぜた漆で銘を入れた物。生ぶ、磨上げを問わない。

どうして無銘の日本刀があるの?

大宝律令という法律によって、銘を入れることが決められたはずの日本刀ですが、銘が入れられていない無銘の物も存在します。それは、以下の5種類です。

  1. 制作時には銘が入っていたが、磨上げをしたときに銘が切断されてしまった日本刀。
  2. 神社や仏閣に奉納する日本刀には、銘を入れない習わしがある「奉納無銘」という日本刀。
  3. 身分の高い人に献上する際には、銘を入れるのは失礼にあたるので入れない「献上無銘」という日本刀。
  4. 日本刀を新規に注文する場合、3振作った中から1振選び、残りの2振は銘を入れない「影打無銘」という日本刀。
  5. 大量生産品の日本刀。

銘がある物の方が価値が高いと思われがちですが、このような理由で無銘の日本刀があり、無銘の中でも国宝「無銘一文字」(山鳥毛一文字)や国宝「石田正宗」のように、価値の高い物が数多く存在します。

銘を見てみよう

銘を切る

銘を切る

日本刀に銘を入れることを、正式には「銘を切る」と言います。

「タガネ」という棒状の工具を「槌」(つち)で叩くことによって、鉄の表面に切り込みを入れていきます。なぜ「彫る」ではないかと言うと、彫ると鉄クズを出してしまい、体積が変わってしまうから。鉄クズを出さず、体積を変えない方法が、銘を「切る」なのです。

このような理由で、刀工が名前を切ることはとても難しいとされています。銘だけを見ていると、お世辞にも銘が美文字という人は多くありませんが、「少しヘタ」または「ヘタうま」と言える味がある人など、とても個性的です。

一風変わった銘としては、「一」の文字だけを切った日本刀があります。これは、備前国の刀工一派、「一文字派」に共通する銘です。

姫鶴一文字(ひめつるいちもんじ)
「福岡一文字」作の「姫鶴一文字」(ひめつるいちもんじ)は、上杉家伝来の重要文化財です。一だけなら、文字の上手・下手が分からなくて合理的。
「志津三郎兼氏」(しづさぶろうかねうじ)の銘
美濃国志津系の祖「志津三郎兼氏」(しづさぶろうかねうじ)の銘。「兼氏」の「兼」の文字が「魚」にしか見えないと言われ、とてもユニークです。
刀 金象嵌 貞宗 本阿[花押]
(かたなきんぞうがんさだむねほんあ[かおう])
刀工に比べると、刀剣鑑定家・本阿弥家の歴代当主は、銘を切るのがとても上手。「本阿弥光温」(ほんあみこうおん)により、貞宗と定められた尾張徳川家に伝来する「刀 金象嵌 貞宗 本阿[花押]」。

特に、「本阿弥光徳」(ほんあみこうとく)による金象嵌は「光徳象嵌」と呼ばれ、在銘品以上の価値を付ける場合もあると言われています。

これから日本刀を鑑賞するときは、銘の文字に注目すれば、いろいろなことが分かります。文字が左に寄っている人、右に寄っている人、大きい人、下過ぎる人など様々。文字から刀工の人柄や性格を想像してみるのも、面白いかもしれません。

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