大正・昭和生まれの刀剣・歴史小説家
山田風太郎
大正・昭和生まれの刀剣・歴史小説家
山田風太郎

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忍法帖シリーズを生みだした山田風太郎(やまだふうたろう)。多種多様な忍法を描き続ける中で山田は、日本刀(刀剣)は柳生十兵衛を通して描きました。

忍法帖シリーズ第1作は徳川家の跡継ぎ問題

甲賀忍法帖

甲賀忍法帖

山田風太郎は、江戸川乱歩が選考委員を務めた『宝石』賞の短編賞(第1回)に当選し、作家デビューしました。デビューから11年後、独創的な忍法対決を描いた「忍法帖」シリーズが始まります。シリーズ第1作目『甲賀忍法帖』(1958~1959年『面白倶楽部』連載)では、江戸幕府初代将軍・徳川家康による跡継ぎ問題を題材にしました。

家康は、孫の竹千代(のちの家光)と国千代(のちの忠長)の兄弟どちらを3代将軍の座に就かせるべきか悩みます。そこで、側近・南光坊天海の提案を実行。それは、服部半蔵が従える伊賀と甲賀の忍者を竹千代側と国千代側とし、10対10で忍法対決させる代理戦争でした。

会津騒動を題材に

柳生忍法帖

柳生忍法帖

風太郎は、忍法帖シリーズを週刊誌や文芸誌で発表を続ける中、シリーズ初の新聞連載『尼寺五十万石』(1962~1964年『岩手日報』他連載)を執筆します。

会津藩第2代藩主・加藤明成の圧政に対する家臣・堀主水の反乱(会津騒動)と、堀の妻子が鎌倉の尼寺・東慶寺に逃げ込んだできごとを題材にしました。東慶寺は、江戸幕府第2代将軍・徳川秀忠の長女で豊臣秀頼の正室となった千姫(尼名「天樹院」)ゆかりの尼寺です。

尼寺五十万石では、南光坊天海と沢庵宗彭の実在した2人の僧侶が物語の重要な役どころを担うと同時に、徳川将軍家の兵法(剣術)指南役を務める柳生但馬守宗矩の長男・柳生十兵衛三厳が活躍していきます。

十兵衛は、その剣の腕前で、主君の敵を討とうとする堀一族の女性7人に軍学を教えます。当初、十兵衛を登場させる予定はなかったと言う尼寺五十万石は、単行本時『柳生忍法帖』と改題されました。

柳生十兵衛の愛刀・三池典太

十兵衛は女性達の指導を超え、愛刀・三池典太を手に、自身も剣で戦い、ピンチも乗り越えます。三池典太は平安時代に活動した筑後国の刀工です。

ええ、どうせゆかねばならぬ敵の城だ。何事が起ろうと、ただ信ずるは腰間の愛刀三池典太のみ。

「頼んだぞ」

『柳生忍法帖』より

慶安の変を題材に

魔界転生

魔界転生

風太郎は『岩手新聞』の連載に続き、同じく地方新聞の『大阪新聞』で『おぼろ忍法帖』(1964~1965 年『大阪新聞』他連載)を執筆します。島原の乱の生き残りや、兵法学者・由比(由井)正雪、紀州徳川家の祖・徳川頼宣を登場させ、幕府転覆の目論み(慶安の変)を題材にしました。

おぼろ忍法帖は『忍法魔界転生』に改題後、天宮四郎役を沢田研二、柳生十兵衛役を千葉真一が演じた映画化を機に『魔界転生』となりました。

剣豪を転生

『魔界転生』では、江戸時代前期、徳川幕府第3代将軍・徳川家光の時代、幕府転覆を目論む由比正雪が、紀州徳川家の祖・徳川頼宣をけしかけます。正雪は、島原の乱の生き残りでキリシタンの妖術師・森宗意軒を引き入れます。宗意軒はこの世に未練を残した7人の剣豪を妖術で再生させ、頼宣の味方とします(荒木又右衛門・天草四郎・田宮坊太郎・宮本武蔵・宝蔵院胤舜・柳生宗矩・柳生利厳)。

柳生十兵衛VS宮本武蔵

7人の魔剣士のひとりが宮本武蔵です。十兵衛と剣豪達との対決から『魔界転生』を発案したと語る風太郎は、吉川英治の『宮本武蔵』のその後を受けるかたちで、十兵衛と武蔵の船島での対決を描きました。

―何よりも、武蔵に二刀を持たれたら?

武蔵の言葉につきうごかされたように、ツツツと十兵衛は右へ移動した。

間髪を入れず、武蔵が前へすすみ出て来た。

たんに汀を逃げるのみならず、長大な木剣に追われて、十兵衛は思わず砂に円をえがき、あっというまに武蔵とその位置が入れ替わった。

「いま申したように、こうなるに、小次郎はもっと苦労をした」

『魔界転生』より

独創的な忍法対決を描き続けた風太郎は、柳生十兵衛を通して、日本刀(刀剣)による対決も描きました。

著者名:三宅顕人

山田風太郎

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