明治30~40年代生まれの刀剣小説家

山本周五郎

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『樅ノ木は残った』でその名を残す山本周五郎(やまもとしゅうごろう)。歴史の敗者を描くことに終生こだわった周五郎は、日本刀を通して正しさを追求し続けました。

歴史の敗者を描く

栄花物語

栄花物語

山本周五郎は直木三十五賞の受賞を辞退するなど、市井の人であることに終生こだわった作家でした。そんな周五郎は史実をもとにした長編小説で、歴史の敗者や悪人とされていた人物を主に取り上げます。

江戸幕府老中・田沼意次を描いた『栄花物語』(1953年『週刊読売』連載)、軍学者・由井正雪を描いた『正雪記』(1953~1957年『労働文化』連載)、伊達家重臣・原田甲斐宗輔を描いた『樅ノ木は残った』(1954~1956年『日本経済新聞』連載)など、同時期に続けて執筆しました。作品を通じて周五郎は、歴史上の人物のそれまでの評価を変えていきます。

伊達家の宝刀・基近と包永、新藤五国光

樅ノ木は残った

樅ノ木は残った

『樅ノ木は残った』は、毎日出版文化賞を受賞(※辞退)するなど、周五郎の代表作となりました。のちに平幹二朗主演でNHK大河ドラマの第8作目としても放送されます(1970年)。

江戸時代前期、仙台藩3代目藩主・伊達綱宗の放蕩に対する幕府の強制隠居(伊達騒動)を題材としています。小説では、亀千代(のち綱村)がわずか2歳で4代目の家督を継いだ時、11歳となった元服の年に、基近、包永(通称・天蓋平三郎)、新藤五国光の刀が登場します。

十二月二十五日、――伊達藩では亀千代の家督の札として、基近の太刀、綿五百杷、銀五百枚を将軍家に献上した。

『樅ノ木は残った』より

「献上の品は包永、馬代黄金五十枚、棉二百杷、そして拝領したのは新藤五国光であった」

『樅ノ木は残った』より

文武両道の剣客・伊東七十郎重孝

『樅ノ木は残った』では、主人公の原田甲斐宗輔と対立する立場にある伊東七十郎重孝も詳細に描かれます。伊達政宗に仕えた一族の末裔で文武両道だった七十郎は、浪人達から喧嘩を売られた際、侍の道、剣術を語りました。

「侍というものは、三つの場合しか刀を抜かぬものだ」と七十郎が云った。「主君の辱しめられたとき、誅奸のとき、おのれの武名の立たぬとき、――こんなくだらぬ喧嘩に刀を抜くほど、おれは腰ぬけではない」

『樅ノ木は残った』より

「五郎太と涼軒」と七十郎が云った、「二人ともえものを選び直せ、五太郎の刀は長すぎるし、涼軒の槍は重すぎる、涼軒の槍はばかげているし、五郎太の朱鞘の大刀は滑稽だ、そんなこけおどしな道具はよして、自分の身に相応したものを使え、――それから、後学のために名を聞かせてやる、おれは北村の伊東七十郎という者だ」

『樅ノ木は残った』より

剣客浪人・平手造酒(造喜)の青春物語

花も刀も

花も刀も

周五郎の中編『花も刀も』(1955年 『税のしらべ』連載)では、講談・浪曲『天保水滸伝』などで描かれる謎の多い江戸時代後期の剣客浪人・平手幹太郎(造喜)を主人公としました。

幹太郎(造喜)は、父の夢と貧しい家族を支えるために剣士として身を立てようと、仙台藩を出て江戸で修業を積みます。けれども、信念を周囲に理解されず、報われない日々を過ごします。

それでも自分の道を信じ、北辰一刀流の千葉周作の道場を訪れたことで師範となるも、道場破りとしてその名を轟かせていた剣客・大石進の相手をした際、千葉から流儀に反したとして疎んじられてしまいます。

自分は自分の道をゆこう。千葉周作には彼の道があるし、自分には自分の道がある。刀法で身を立てる以上、すぐれた技法をくふうして「勝つ」ことが大事だ。「技」とは奇巧ではなく、敵を討つための正確な太刀さばきをいうのだ。

――勝つことは正しい。

正しいことが邪道である筈はない。

深喜はそう信じた。そして、周作にはもちろん、誰にも知れないように、ひそかに必勝の技のくふうを続けた。

『花も刀も』より

賞の受賞を固辞し、市井の人として一貫して歴史の敗者を描き続けた周五郎は、日本刀を通しても、信念を貫くことを描きました。

著者名:三宅顕人

山本周五郎

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