歌舞伎の名場面・見どころ
助六
歌舞伎の名場面・見どころ
助六

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歌舞伎演目の中から、江戸で話題の色男が、行方不明の源氏の宝刀「友切丸」(ともきりまる)を探すために活躍する「助六」(すけろく)の物語の概要と、宝刀のありかを突き止めるために起こす行動の見どころをご紹介します。

喧嘩っ早いが江戸一番の男伊達・助六、探すは源氏の宝刀友切丸

作者 不詳
初演 1713年(正徳3年)4月
「花館愛護桜」(はなのやかたあいごのさくら)で二代目市川團十郎が助六を演じたのが原型とされる

「助六」は、本外題を「助六由縁江戸桜」(すけろくゆえんのえどざくら)と言い、市川團十郎家のお家芸とされる歌舞伎十八番のうちのひとつです。

吉原の花魁「揚巻」(あげまき)の情夫・花川戸助六(はなかわどすけろく)は、なぜか道行く男達に手当たり次第喧嘩をふっかけます。それは、わざと相手が日本刀(刀剣)を抜くように仕向けて、源氏の宝刀「友切丸」を見付けるため。この助六、実は…。

江戸っ子の心を鷲掴みにした大人気演目

「1日に1000両の金が落ちる」と言われるほど賑わった、江戸最大の歓楽街・吉原遊郭。その大店「三浦屋」の店先を舞台にした一幕劇(ひとまくげき:場面が転換しない一場物)です。ならば短いお芝居かと思いきや、この一場だけでたっぷり2時間。それでも観客を全く飽きさせず、大人気作として度々上演されてきたところに、この演目の面白さが端的に表れています。

吉原の風俗習慣、花魁の生活、客と情夫とのやりとり、侠客(きょうかく)あるいは男伊達(おとこだて)と呼ばれる任侠に生きる男達の生態や喧嘩沙汰の様子などを描き、エンターテインメント性抜群です。

江戸町民代表が武士代表をやっつける痛快劇

助六

助六

あらすじはとてもシンプルです。侠客の助六は、喧嘩にめっぽう強い青年。その恋人は三浦屋の花魁揚巻で、傾城(けいせい)という花魁の最高位にいる女性。この揚巻にのぼせているのが、吉原で豪遊する老人・髭の意休(ひげのいきゅう)。

この意休、揚巻を口説きに口説きますが、全く揚巻はなびきません。その悔しさから、恋人である助六のことを疎ましく思い、2人の間に割って入る意休。そうしたやり取りの中で、意休が行方不明の源氏の宝剣友切丸を所持していることに気付く助六。

実はこの助六、宝刀友切丸の探索と父の敵討ちのため、侠客に身をやつしていた源氏の武士・曾我野五郎時致(そがのごろうときむね)だったのです。喧嘩っ早いのは、わざと相手に日本刀(刀剣)を抜かせ、宝刀友切丸の行方を探るため。意休が宝刀友切丸を持っているようだと知った助六は、何とか意休に日本刀(刀剣)を抜かせて、それが本当に宝刀友切丸なのかを確認しようとしますが、なかなか思い通りにいきません。

一方意休も、どうやら助六の正体を見抜いたよう。わざと源氏への反逆を勧めて、揺さぶりをかけてきます。そしてついに、意休の正体が伊賀の平内左衛門という武士で、平家の武将・平知盛の乳兄弟であることを知る助六。意休は、源氏打倒のために宝刀友切丸を盗んだのです。

最後は、ある意味お決まりの展開。助六は意休を日本刀(刀剣)で斬り、宝刀友切丸を奪い返します。粋でいい男の助六、その正体は武士ではあるものの、観客からすると江戸町民の代表です。一方の意休は、高圧的で何事も金ずく力ずくで押し切ろうとする悪役色の強い武士代表。町民が武士をやっつける痛快劇に、江戸の観客は大喝采を送ったと言います。当時の様子を思い浮かべながらの観劇も、また楽しい物でしょう。

助六が喧嘩を仕掛けるのは、宝刀友切丸を探すため

江戸最大の歓楽街・吉原の大店三浦屋の店先で繰り広げられる様々な人間模様も、大きな魅力のひとつである演目助六。しかし、この物語の核となるのは、父の仇討ちと略奪され行方不明の源氏の宝刀友切丸を探すために侠客(きょうかく)に身をやつした助六が、吉原を歩き回っては誰彼となく喧嘩をふっかけ、何としても宝刀を見付け出そうとする執念です。

ようやく突き止めた宝刀友切丸の現在の持ち主は、恋人である花魁・揚巻に入れ上げている老人・髭の意休。まさしくそれが宝刀友切丸かどうかを確かめるために、助六が取った行動とは?

江戸の人間模様も楽しもう

宝刀友切丸のありかに迫る場面に入る前に、この演目のもうひとつの大きな見どころ、個性的なキャラクターをご紹介しましょう。

助六には、歌舞伎の基本的な顔ぶれが揃っています。まず、主人公の助六が荒事(あらごと)と和事(わごと)兼用の「立役」(たちやく)で、揚巻は「立女形」(たておやま)と呼ばれる女形のトップが演じる大役です。意休は「敵役」。揚巻の妹分の傾城・白玉が「二枚目の女形」、助六の母・満江(まんこう)が「老女」、助六の兄・白酒売りの十郎が「二枚目」。さらに、意休の手下のかんぺら門兵衛(もんべえ)が「端敵」(はがたき:端の敵役)、その門兵衛の奴(やっこ)の朝顔仙平(あさがおせんべえ)は「三枚目」。

人物の見た目で端的に役柄が分かると同時に、こうした個性的なキャラクターを配することで、様々な人間模様が渦巻く百万都市・江戸の様子がよく分かる演目になっています。

母の紙衣が宝刀友切丸を導く

助六が宝刀友切丸を確認する場面

助六が宝刀友切丸を確認する場面

宝刀友切丸を所持しているのは意休だと推測した助六は、意休がその日本刀(刀剣)を抜く機会を狙います。それは意外にもひょんなきっかけでやってきます。

助六の喧嘩っ早さを心配した母・満江と兄の十郎は、揚巻のところへ相談に来ます。ちょうどそのとき、助六も吉原におり、助六は母と兄に喧嘩の理由を初めて語るのです。

その理由を聞き納得した母ですが、激しい喧嘩だけはやめさせたい親心から、助六に「紙衣」(かみこ:紙で作った着物)を着せます。母と兄が帰ったあと、そのまま揚巻のところにいた助六は、揚巻に会いに来た意休と鉢合わせしそうになり、揚巻の機転で長椅子の下に隠れるものの、見つかってしまいます。

「腰抜けめ!」と助六を罵り、叩く意休。母の紙衣を大切に思う助六は、じっと我慢し、喧嘩をふっかけようとしません。それにしびれを切らした意休は、とうとう日本刀(刀剣)を抜き、怒り収まらずに香炉を切ります。その日本刀(刀剣)を見た助六は、「これはまさしく!」と声を上げ、その日本刀(刀剣)が宝刀友切丸であることを確信するのです。

最後に宝刀友切丸と助六を結び付けたのは、母の子を思う深い愛。助六は、親子愛にもほろりとする、まさに全編見ごたえたっぷりの演目です。

「助六寿司」はこの演目が由来

最後に、話の本筋からは逸れますが、興味深い話をもうひとつ。助六と聞くと、助六寿司を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

実は、助六寿司の命名は、この演目が由来だと言われています。助六の恋人・揚巻の「揚」を油揚げの「いなり寿司」、「巻」を海苔で巻いた「巻き寿司」になぞらえ、この2つを詰め合わせた物を助六寿司と呼ぶようになったのです。

または、助六が紫のハチマキを頭に巻いていることから、助六を「巻き寿司」、揚巻を「いなり寿司」と見立て、2人を寿司で添い遂げさせたのだという説もあります。

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