歌舞伎の名場面・見どころ

白浪五人男(青砥稿花紅彩画)

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立廻りが見どころのひとつになっている歌舞伎演目の中から、「白浪五人男」(しらなみごにんおとこ)―本外題「青砥稿花紅彩画」(あおとぞうしはなのにしきえ)の題材となった出来事と物語の概要、さらに立廻りの見どころについてご紹介します。

盗賊を主人公にした白浪物の代表作

作者 河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
初演 1862年(文久2年)3月

白浪五人男は、本外題を青砥稿花紅彩画と言い、全3幕9場です。「浜松屋」と「稲瀬川勢揃い」の2場のみの上演時の外題は、「弁天娘女男白浪」(べんてんむすめめおのしらなみ)となり、通称「弁天小僧」(べんてんこぞう)と呼ばれます。

歌舞伎の「世話物」(せわもの)の大人気作で、その中でも盗賊を主人公にした「白浪物」(しらなみもの)と呼ばれるジャンルの代表作です。

映画化や大衆演劇での上演もたびたび行なわれており、弁天小僧菊之助(べんてんきぞうきくすけ)が啖呵(たんか)を切る「知らざぁ言って聞かせやしょう」の名セリフは、歌舞伎に馴染みがなくても一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

白浪物とは?

歌舞伎において、盗賊を主人公とした出し物を総称して白浪物と呼ぶのは、中国の後漢末期に白波(浪)谷を隠れ家にしていた「白波賊」(はくはぞく)と呼ばれた盗賊達の故事が由来ですが、歌舞伎の白浪物は同じ悪党でも、人間的な魅力を放つ人物が登場する演目です。

幕末の講釈師・二代目松林伯円(しょうりんはくえん)が「鼠小僧」などこの種の講談を得意とし、これを歌舞伎に取り込んだのが、幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎狂言作者の河竹黙阿弥です。

黙阿弥は、世話物の特徴である江戸の庶民生活をリアルに描きつつ、七五調の名せりふや清元(きよもと)と呼ばれる粋で軽妙な音楽を効果的に織り込んだ優れた作品を数多く書きました。白浪五人男はそのひとつです。

白浪五人男にはモデルがいる?

白波五人男とは、その名の通り悪党だけど何となく憎めない5人の盗賊達の物語。「日本駄右衛門」(にっぽんだえもん)をリーダーに、「南郷力丸」(なんごうりきまる)、「赤星十三郎」(あかぼしじゅうざぶろう)、「忠信利平」(ただのぶりへい)、「弁天小僧菊之助」の5人が主人公で、彼らにはそれぞれモデルがいます。

白波五人男

白波五人男

日本駄右衛門
江戸中期の延享年間(1744~1748)に実在した尾張出身の盗賊・日本左衛門(にっぽんざえもん=本名・浜島庄兵衛)がモデル。人殺しをしないことを信条にしていた盗賊で、「盗みはすれど非道はせず」という白波五人男の日本駄右衛門のキャラクターはそこから作られました。
南郷力丸
日本左衛門(日本駄右衛門のモデル)の手下で、実在した盗賊・南宮行力丸(なんぐうこうりきまる)がモデル。
赤星十三郎
実在した江戸初期の鳥取藩の元武士で、美少年の辻斬強盗・平井権八(ひらいごんぱち)がモデル。権八は、歌舞伎演目の通称「鈴ヶ森」(すずがもり)―本外題「浮世柄比翼稲妻」(うきよづかひよくのいなずま)にも白井権八として登場します。
忠信利平
日本左衛門の手下で実在した忠信利兵衛をモデルに、歌舞伎演目「義経千本桜」(よしつねせんぼんざくら)に登場する源義経の忠実な家臣・佐藤忠信の要素が加えられた人物です。
弁天小僧菊之助
弁天小僧だけは、作者の黙阿弥が作り出したオリジナル。黙阿弥が両国橋で目撃した美青年の話を浮世絵師の三代目歌川豊国(うたがわとよくに)が耳にし、それを描いた豊国の錦絵から黙阿弥がイメージを膨らませ劇化したという説もあります。

また、浜松屋、稲瀬川勢揃いの前後を含めた白浪五人男としての通し狂言(全編あるいはそれに近い場割りでの上演)では、白浪五人男の追手のトップ・青砥藤綱(あおとふじつな)という人物にスポットを当てた話も登場します。

彼にもモデルがおり、公正な裁き役として伝わる鎌倉時代の人物で、その名前をそのまま役名としても使用しています。白浪五人男の正式なタイトル青砥稿花紅彩画は、彼にちなんでいるのです。

動く錦絵と評される立ち廻り

さて盗賊達とくれば、捕り手(とりて=罪人を捕まえる役人)達との日本刀と捕り物道具での立廻りがもちろんあります。その際に、白浪五人男がひとりずつ七五調でリズミカルに行なう「名乗り」(これまでにどんな人生を歩んできたかを簡単に紹介すること)が大きな見どころで、この5人の名乗りと捕り手達との立廻りシーンは、「動く錦絵」と評される程美しい様式美を堪能できる場面。

個性ある五人の男達による悪の華の競演

白浪五人男は、個性ある5人の盗賊一味による悪の華の競演を堪能できる歌舞伎です。

この物語が生まれた江戸時代、呉服店で強請(ゆすり)を働いたり、お金や物品を巡って刀で斬り合いをしたりというのは一般庶民の暮らしの中で普通にあったことで、白浪五人男は、当時の現代劇と言える「世話物」の一作品です。

ただ、「江戸の町での盗賊の大活躍劇」というのは、風紀上上演が許されなかったため、舞台設定は鎌倉時代になっています。とはいえ、作者の河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)は随所に江戸風俗を盛り込んでおり、江戸の風情を楽しむことができるのもこの作品の魅力。

また、黙阿弥は主人公5人の盗賊の姿や扮装などを、浮世絵師・三代目歌川豊国の錦絵からインスピレーションを受けて描いていることから、歌舞伎の立廻りの中でも形や色彩の美しさが際立つ作品となっています。

物語の伏線となる「浜松屋の場」

弁天小僧菊之助

弁天小僧菊之助

白浪五人男は全3幕9場のうち、白浪五人男のひとり・弁天小僧菊之助(べんてんこぞうきくのすけ)が活躍する「浜松屋」と、五人男が勢揃いする「稲瀬川勢揃い」の2場のみの場合は、「弁天娘女男白浪」(べんてんむすめめおのしらなみ)という演目で上演されます。

「五人の男盗賊の話なのに、なぜ弁天娘?なぜ女の文字が?」と疑問が浮かぶかもしれませんね。

実は弁天小僧菊之助は、美少年であることを武器に娘に変装して悪事を働くのです。ある意味、女形が存在する歌舞伎ならではの設定で、その場面が浜松屋の場です。

鎌倉の呉服店浜松屋に、お供の若党を連れて買い物に来た美しい武家娘が万引きの疑いをかけられ、番頭達によって額に傷まで負わされてしまいます。

しかし娘は万引きなどしておらず、疑いが晴れると「婚礼前のお嬢様に傷が付き、責任を取って切腹する。皆も道連れだ」などと若党が騒ぎ、すったもんだの末に100両の示談金がわたされることに。

しかし、そこに「待った」をかける人物が。店の奥に居合わせた玉島逸当(たましまいっとう)と言う黒頭巾姿の武士で、「二の腕にちらりと見えたるは桜の彫り物~。娘と言うも、まさしくおーとーこー!」と、二の腕の刺青で武家娘を男と見破るのです。そう、武家娘は白浪五人男のひとり・弁天小僧菊之助で、若党は同じく一味の南郷力丸(なんごうりきまる)。万引きに見せかけたのも2人の作戦。

そして、正体を見破られた弁天が開き直って放つのが、「知らざぁ言って聞かせやしょう。浜の真砂と五右衛門が歌に残せし盗人の種は尽きねぇ七里ヶ浜…」で始まる名セリフです。逸当がこのような悪党は許しておけないと日本刀で斬ろうとするところを、騒ぎを大きくしたくない浜松屋が止め、弁天と南郷は傷の薬代として20両をもらい帰ります。

後半の「五人勢揃い」の立廻りを楽しむために

ここまでなら、「よくぞ正体見破った!一件落着」として終わるところですが、実はこの逸当こそ、白浪五人男のリーダー・日本駄右衛門(にっぽんだえもん)。昼間の出来事はすべて、逸当に扮した駄右衛門が浜松屋の信用を得て宿泊し、夜に残りの4人(南郷力丸・赤星十三郎・忠信利平・弁天小僧菊之助)が店に押し入る手引きをするための芝居だったのです。

この「実は」は、上演されることがあまりない「蔵前の場」で分かります。さらにあることをきっかけに、弁天小僧は幼少時に人ごみの中ではぐれ見つからなかった浜松屋の主人の実の息子で、浜松屋がその子の代わりに養子に迎えた跡取りが何と、駄右衛門が理由あって捨てた子だったことも判明するのです。

何ともややこしい話ですが、これが分かったことにより、結局白浪五人男達は何も盗まず、再会を喜び合ことに。しかしそれもつかの間、捕り手達が盗賊を捕まえにやってきます。捕り手が迫る中、駄右衛門達は浜松屋であつらえた晴れ着を着て稲瀬川へ落ち延びて行くのです。

錦絵のような様式美が魅力の立廻りを楽しむ「稲瀬川勢揃いの場」

稲瀬川での大立廻り

稲瀬川での大立廻り

いろいろな悪事がばれ、稲瀬川で捕り手に取り囲まれる白浪五人男達。ここで披露されるのが、5人全員がひとりひとり、自分の因果と世のしがらみを七五調のリズムで華麗に語る「名乗り」です。例えば、日本駄右衛門。

「問われて名乗るもおこがましいが、生まれは遠州浜松在、十四のときから親に離れ、身の生業も白浪の、沖を越えたる夜働き、盗みはすれど非道はせず、人に情けを掛川の金谷をかけて宿々で、義賊と噂高札に、廻る配符のたらい越し、危ねぇその身の境涯も、最早四十に人間の、定めは僅か五十年、六十余州に隠れのねぇ、賊徒の首領日本駄衛門」

それぞれの語り口や見得、そしてそのあとに繰り広げられる大立廻りにも役柄の個性が存分に表れており、刀の振り下ろし方ひとつにもそれは見て取れます。「動く錦絵」と評される、白浪五人男と捕り手達との美しい立廻りの様式美をたっぷり堪能しましょう。

白浪五人男(青砥稿花紅彩画)

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