歌舞伎の名場面・見どころ

歌舞伎【南総里見八犬伝】

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「南総里見八犬伝」(なんそうさとみはっけんでん)とは、曲亭馬琴が原作の大長編小説です。仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の8つの徳の玉を持つ八犬士を中心に、安房の里見家の興亡を描いた物語で、ヒーロー物の原点のような構成になっています。
歌舞伎による南総里見八犬伝の見どころは、なんと言っても「立回り」。歌舞伎で言う「立回り」とは、ひとりの人物に対して大勢で取り掛かる戦闘シーンのことです。南総里見八犬伝の立回りでは、芳流閣と呼ばれる建物の屋根で八犬士の2人が争います。舞台上の屋根が後ろへどんでん返しになる、激しい演出は必見です。
そんな南総里見八犬伝の物語のあらすじや、歌舞伎での見どころをご覧下さい。

勧善懲悪をテーマに繰り広げられるヒーロー物の原点

作者 曲亭馬琴(きょくていばきん)の伝記小説を劇化。
初演 1834年(天保5年)10月

南総里見八犬伝は、98巻106冊にもおよぶ曲亭馬琴の長編大作が原作。仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌(てい)の8つの徳の玉を持つ八犬士を中心に、安房(あわ=千葉県)の里見家の興亡を描いた伝記小説です。最初の劇化後、無数の八犬伝物が生まれました。

現在上演されている物は、1947年に渥美清太郎によってそれらを集大成した台本がもとになっていて、通称「八犬伝」と呼ばれます。

現代の戦隊モノのルーツ?

南総里見八犬は、「俺が食い止めるから先に行け!」というような場面や、捕らわれた仲間を救う場面、戦ったライバルが仲間になる展開など、まさに現在の戦隊モノで描かれるパターンが随所に散りばめられています。

また、8人のヒーローが揃うことにより、戦いの情勢を一挙に逆転するところなども同じで、非常に分かりやすい勧善懲悪ものとして大いに楽しめます。

南総里見八犬伝のあらすじ

南総里見八犬伝

南総里見八犬伝

南総里見八犬伝の物語の大まかな流れをご紹介します。

安房国の里見家が滅亡したとき、富山の庵室に逃れていた伏姫(ふせひめ)は、八房(やつぶさ)と言う神犬と契りを結び妊娠するも、鉄砲に撃たれ亡くなります。すると体内から8つの玉が飛び散ります。

そこから犬江親兵衛(いぬえしんべえ=「仁」)、犬川荘助(いぬかわそうすけ=義)、犬村大角(いぬむらだいかく=礼)、犬坂毛野(いぬさかけの=智)、犬山道節(いぬやまどうせつ=忠)、犬飼現八(いぬかいげんぱち=信)、犬塚信乃(いぬづかしの=孝)、犬田小文吾(いぬたこぶんご=悌)という、8つの玉をそれぞれ持つ八犬士が誕生します。散り散りになって誕生した彼らが、玉が引き合うように次々と出会い、里見家再興のために活躍するという物語です。

信乃と現八が互いの縁を知る前に、宝剣「村雨丸」(むらさめまる)をめぐり、芳流閣(ほうりゅうかく)で立廻りを演じる場面、大屋根でのスペクタクルな演出が大きな見どころです。

南総里見八犬伝の見どころ

現在の戦隊モノの原点とも思える南総里見八犬伝は、芳流閣(ほうりゅうかく)での立廻り、大屋根の上でのスペクタクル、からみ(主役の強さを強調したり、その動きを引き立たせる役柄)の捕り手を使っての幕外の引き込みなど、立廻りの見どころが随所にあります。

村雨丸をめぐる争いの舞台演出

八犬士は、それぞれの魂とも言える玉が飛び散った関東八州の各地で生まれます。その一人、犬塚信乃(いぬづかしの)は、1441年の結城合戦で敗れた鎌倉公方の近習であった父から公方家の宝剣「村雨丸」(むらさめまる)を託されて落ち延びた、犬塚番作(いぬづかばんさく)の子として生まれます。

犬塚村の代官は番作の姉の夫・蟇六(ひきろく)で、大塚家の家督を奪った人物。蟇六夫婦は番作の隠し持つ村雨丸を奪おうと画策し、信乃の飼い犬・与四郎が悪さをしたと言いがかりを付けます。番作は、娘(実は息子)の信乃を救うために自害。女として育てられていた信乃は男に戻り、村雨丸を奪い返すために蟇六の家へ入り込み、蟇六の養女・浜路(はまじ)と恋仲になるのです。しかし欲張りの蟇六夫婦は、村雨丸を引出物にして、金のある者に娘をやろうとします。

村雨丸を持って家を出た浜路は、彼女にかねてから心を寄せていた網干左母次郎(あぼしさもじろう)に言い寄られましたが、これを拒否したために殺されます。そこへやってきたのが八犬士の一人、犬山道節(いぬやまどうせつ)。

のちに八犬士の統領格となりますが、実は浜路の実の兄で、村雨丸を奪って去ります。道節は、「火遁の術」(かとんのじゅつ)という忍術を使います。迫力満点の爆発音や光とともに紙吹雪が客席まで飛び散ったり、舞台を揺るがすような大火炎の中から道節が登場したりといった演出が行なわれ、南総里見八犬伝の呼び物のひとつとなっています。

また、彼が「花道」(はなみち:舞台の下手にある通路)で行なう、からみの捕り手を使っての「幕外の引っ込み」(まくそとのひっこみ:幕が引かれたあとに役者が花道に残って演技をしつつ引っ込んでいく余韻を残した幕切れ)は、美酒に酔うような歌舞伎の錦絵だと評されています。

犬塚信乃と犬飼源八が大立廻りを演じる「芳流閣屋上の場」

芳流閣の屋根の上での立廻り

芳流閣の屋根の上での立廻り

里見家の仇敵・馬加大記(まくわりだいき)の館へ入り込んだ信乃は、村雨丸がすり替えられていたことをきっかけに、互いに八犬士の仲間であることを知らないまま犬飼現八(いぬかいげんばち)と争うことに。

ここでの見どころは、何といっても芳流閣の屋根の上で激しい立廻り。この舞台上の屋根が二人を乗せたまま後ろへとどんでん返しとなるところも見ごたえたっぷりです。

そして、激しく大立廻りをした挙句、二人そろって下の行徳川に落ち、これまた八犬士の一人である犬田小文吾(いぬたこぶんご)に助けられます。

その後、紆余曲折を経て、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌(てい)の玉を持つ8人の八犬士がズラリと並ぶ場面は、ヒーロー揃い踏みの豪華さです。

歌舞伎【南総里見八犬伝】

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