歌舞伎の立廻り
歌舞伎のとんぼとは?
歌舞伎の立廻り
歌舞伎のとんぼとは?

文字サイズ

歌舞伎の立廻り(たちまわり)のひとつの型である「とんぼ」(トンボとも表記)について、ご紹介しましょう。

立廻りの中に散る美しい花びら

とんぼは、軍兵(ぐんぴょう)や捕り手などに扮した役者が主役に日本刀で斬られたり、投げ飛ばされたりしたときに見せる宙返りのことです。

「とんぼを切る」や「とんぼを返る」と表現され、とんぼの鮮やかさは、花が散り際に見せる美しさを彷彿とさせることから、「立廻りの中に散る美しい花びら」とも評されます。

主役を引き立てるとんぼ

とんぼは、自由自在な飛び方を見せる昆虫の「蜻蛉」(とんぼ)が、急に後ろに身を翻すことから生まれた言葉ですが、歌舞伎では漢字で「筋斗」と表記。主役に日本刀で斬り倒される様子などをアクロバティックな回転で表現する物で、大きくは宙返りだけでなく、バク転や側転などもとんぼの中に含まれます。

歌舞伎と類似性を持つと言われる中国の伝統文化「京劇」でもとんぼが行なわれますが、歌舞伎のとんぼは、あくまで主役の演技を引き立てるために、主役に日本刀などで斬って払われるときなどに行なわれる物で、舞台上で主役がとんぼを切ることはなく、これが大きく異なる点です。

とんぼの種類

とんぼには様々な種類があります。

用語 意味
返り立ち くるりと返ってポンと立つ
居所返り その場で返る
返り越し 他の人や物を飛び越しながらの宙返り
返り落ち 高いところから宙返りをしながら落下
三徳(さんとく) くるりと返って両手と片足で体を支える
平馬返り
(へいまがえり)
座ったまま回転する

驚きあり、息をのむ瞬間ありのとんぼの応用型

 平馬返り

平馬返り

とんぼの演出には、非常に大掛かりなものや特殊なものもあり、屋根の上や土手の上といった高いところから宙返りしながら落下し、着地(返り落ち)する場面などはまさに見ごたえたっぷりで、観客から驚きの拍手が起こります。

また「床几」(しょうぎ:肘掛けのない椅子)の上など、非常に狭い場所で行なわれるとんぼでは、技の素晴らしさに見惚れることもしばしば。

一方、じっくりと見せる場面のとんぼもぜひ堪能してほしいもののひとつ。例えば、座ったまま回転する平馬返り。演目「源平布引滝~義賢最後・実盛物語」(げんぺいぬのびきのたき~よしたかさいご・さねもりものがたり)の瀬尾十郎の落入り(歌舞伎で臨終から絶命に至る演技)の場面で、彼が壮絶な最期のときに見せる平馬返りは、観る者の心を打ちます。

歌舞伎役者の研修生たちが学ぶとんぼ

歌舞伎を初めて観た人の多くは、歌舞伎役者が行なう様々なとんぼに驚きを隠せません。集団で次々ととんぼを返る様子にはときに目を丸くし、「あれを行なっているのも歌舞伎役者?」と疑問に思うこともあると言います。もちろん、皆、歌舞伎役者です。とんぼは、歌舞伎役者の研修生達が学ぶカリキュラムにも重要な実技として含まれています。

では、彼らはどういった場所でとんぼを練習しているのでしょうか。

歌舞伎座にあるとんぼ道場

とんぼ道場

とんぼ道場

とんぼをはじめとする立廻りを練習する場所が、「とんぼ道場」です。

東京の国立劇場には、野外にとんぼ練習用の砂場があります。現在の歌舞伎座には、屋内に常設のとんぼ道場が設置されており、雨天関係なくいつでもとんぼの稽古ができるのです。砂場はもちろん、高いところからのとんぼの練習用に階段状になった物も置かれています。

とんぼ道場は、主に舞台上での激しい立廻りを務める若手役者の稽古場として使われますが、歌舞伎役者が体力を付けたいときや体幹を鍛える場所としても活用されており、主役を張る役者が訪れることもあるようです。

返り初めを行なうとんぼ道場開き

歌舞伎の年中行事のひとつとして、毎年の年始に行なわれる「返り初め」をご存知でしょうか。

これはとんぼ道場で、その年初めてのとんぼの稽古前に、一年の安全を祈願して行なわれ「とんぼ道場開き」とも言われています。立廻りの中でも、特にアクロバティックな動きを必要とするとんぼで怪我をすることのないよう、歌舞伎役者や歌舞伎座、俳優協会の関係者が出席し、祝詞(のりと)でとんぼ道場を祓い清めるのです。そのあと、若手役者らによる返り初めが威勢よく行なわれます。

歌舞伎座ギャラリーでは立廻り体験企画も

歌舞伎座にあるとんぼ道場は、歌舞伎座の楽屋の3階に設けられており、残念ながら一般の立ち入りはできません。しかし、歌舞伎座タワー4・5階は歌舞伎座ギャラリー回廊として一般に開放されています。「体験空間・歌舞伎にタッチ-知る・みる・ふれる・やってみる-」というキャッチフレーズの体験型施設。歌舞伎で登場する馬や演目「鈴ヶ森」(すずがもり)の駕籠に乗ってみたり、実際の舞台で使われている道具に触ったり、音を出したりすることができます。

そして、歌舞伎座ギャラリーでは「ギャラリーレクチャー」という企画を実施しており、ゲストを招いてのトークイベント「歌舞伎夜話」(かぶきやわ)や、舞台を支えるスタッフが「今月の舞台」をテーマに語るトークイベントなどを開催。また、不定期ですが現役の立師による立廻りの伝授もあり、模造刀を使っての立廻りの基本動作などを学んだあとは、歌舞伎座ギャラリーの舞台上でその成果を披露する体験も行なわれています。

歌舞伎のとんぼとは?

歌舞伎のとんぼとは?をSNSでシェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加

「歌舞伎の立廻り」の記事を読む


日本刀が登場する演目は?

日本刀が登場する演目は?
「歌舞伎」(かぶき)とは、江戸時代の庶民文化をもとに成立した、約400年もの歴史がある日本固有の演劇のこと。歌舞伎で日本刀を扱うシーンを見たいなら、日本刀で斬り合う「立廻り」(たちまわり)の場面がある「時代物」(じだいもの)や「所作事」(しょさごと)の演目がおすすめです。演目による分類や歌舞伎舞踊についてなど、詳しくご紹介します。

日本刀が登場する演目は?

歌舞伎を演出しているのは?

歌舞伎を演出しているのは?
江戸時代、爆発的な人気を誇った歌舞伎。人気のあまりに、風紀を乱すとして「女歌舞伎」、「若衆歌舞伎」が取り締まられ、女優や若衆(美少年)の出演が禁止となりました。そのため、野郎歌舞伎(野郎頭にした成人男性)での興行だけが許され「女形」(おやま:女性に扮する男性)が登場することになります。そんな一風変わった歌舞伎を演出する、演出家の仕事や演出方法についてご紹介します。

歌舞伎を演出しているのは?

歌舞伎の名題下・時代物・ニューウェイブ

歌舞伎の名題下・時代物・ニューウェイブ
歌舞伎において、日本刀での斬り合いなどの立廻りで主役を引き立てる重要な役回りを演じる「名題下」(なだいした)と呼ばれる役者と、時代物、歌舞伎のニューウェイブについて、ご紹介します。

歌舞伎の名題下・時代物・ニューウェイブ

注目ワード

ページトップへ戻る