戦後昭和生まれの刀剣・歴史映画監督(時代劇映画監督)

石井岳龍

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【五条霊戦記 GOJOE】で初の時代劇映画に挑んだ石井岳龍(いしいがくりゅう)。パンク・ロックに大いに影響を受けた前衛的と評される監督作品を発表し続けています。その破壊的な世界観から静けさに耳を傾けることを主題とした音楽ジャンルのひとつ、アンビエント(環境的)になぞらえた内的世界へと関心を移すなかで発表したのが自身初の時代劇映画でした。その後2作目の時代劇映画は、パンク・ロッカーが書いた小説の映画化でした。石井岳龍監督作品では時代劇であっても常に音楽的アプローチが試みられています。

パンク・ロックと共に

Blu-ray【爆裂都市 BURST CITY】より

Blu-ray【爆裂都市 BURST CITY】より

石井岳龍は福岡県福岡市で生まれ育ちます。

高校生のときにバンド活動を始め、パンク・ロックという言葉が流行する以前、同様のサウンドを作っていたと言います。

日本大学芸術学部・映画学科への入学を機に上京します。石井聰互(いしいそうご)名義時代、在学中に監督した【高校大パニック】(8mm)が評判を呼び、商業映画としてリメイクされました。

続いて、第2回自主製作映画展1978(現・ぴあフィルムフェスティバル)に応募した監督作【突撃!!博多愚連隊】(8mm)が一般公募部門に入選し、さらにその名が広く知られていきます。同賞にはこの年、森田芳光、長崎俊一も入選しています。

22歳の年、大学の卒業制作としてSFバイオレンスアクション【狂い咲きサンダーロード】(16mm)を発表します。学生による自主制作にもかかわらず全国で配給される話題作となりました(1980年〔東映セントラルフィルム〕配給。配給時35mmにブロー・アップ)。同作は、老舗の映画専門誌からのその年のベスト9位に選ばれた他、第2回ヨコハマ映画祭・自主製作賞など多数の映画賞を受けました。

その後、大友克洋の短編漫画を原作(*事後承諾)とする短編【SHUFFLE】(16mm:1981年)や、故郷・九州出身のロッカー達が多数出演した近未来SFアクション【爆裂都市 BURST CITY】(原作・戸井十月:1982年〔東映セントラルフィルム〕配給)を発表します。

それらの高い評価から、長谷川和彦(第1回ヨコハマ映画祭・作品賞【太陽を盗んだ男】他)が立ち上げた映画監督主導の制作会社に参加するに至り、【逆噴射家族】(原案・小林よしのり:1984年〔ATG〕配給)を監督しました。同作はイタリアの第8回サルソ映画祭でグランプリを受賞しました。

またこの時期、自身もバンド経験を有する石井岳龍は、パンク・バンドなどのミュージックビデオ、ミュージックドキュメンタリーも多数制作しています(アナーキー、ザ・スターリン、ザ・ルースターズ、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンなど)。

仙頭武則プロデュース時代

VHS【TOKYO BLOOD】より

VHS【TOKYO BLOOD】より

平成時代初頭、日本初の民間衛星放送局が開局します。石井岳龍は開局時期の企画、J・MOVIE・WARSに参加します(仙頭武則プロデュース:1991~1993年)。

中原俊の先行作を経て、5人の監督が毎月1本の短編を発表する企画でした(1話10分の計4話形式)。シリーズ全体の監修を担当した石井岳龍は第1回として【TOKYO BLOOD】(1993年〔日本衛星放送〕配給)を監督しました(以後、長崎俊一・崔洋一・榎戸耕史・山川直人)。

その後は当時の東京におけるトレンディドラマブームの時流に対して模索するなかでパンク的表現への関心が薄れていったと言います。ロンドンに1年遊学し、内的世界へ関心が移っていきます。その世界観を、イギリスの音楽家ブライアン・イーノが提唱した静けさに耳を傾けることを主題とした音楽ジャンルのひとつ、アンビエント(環境的)に石井岳龍はなぞらえました。

帰国後、10年ぶりとなった劇場長編映画で精神分析を題材にした監督作【エンジェルダスト】(1994年〔ユーロスペース〕配給)がバーミンガム映画祭でグランプリを受賞します(脚本はブリキの自発団の生田萬)。夢野久作の2作の短編を原作に映画化した監督・脚本作【ユメノ銀河】(1997年〔ケイエスエス〕配給)はオスロ映画祭でグランプリを受賞し、その名が世界的にも知られていきます。

そして自身初の時代劇映画【五条霊戦記 GOJOE】(2000年〔東宝〕配給)を発表します。J・MOVIE・WARSのつながりから生まれた仙頭武則(WOWOW子会社サンセントシネマワークス)がプロデュースを務めました。

石井岳龍初の時代劇映画は武蔵坊弁慶と遮那王(源義経)

DVD【五条霊戦記 GOJOE】より

DVD【五条霊戦記 GOJOE】より

五条霊戦記 GOJOEは平安時代末期、武蔵坊弁慶と遮那王(のちの源義経)の京都の五条大橋での出会いが題材です。鎌倉時代以降に創作された武蔵坊弁慶の弟子入りの物語ではなく、鬼に取り憑かれた2人の物語として独自に創作しました。

共同脚本には、かつてアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのミュージックドキュメンタリーで共同脚本を手がけていた中島吾郎が名前を連ねます。撮影場所には、白神山地青森県秋田県)、歴史公園えさし藤原の郷岩手県奥州市)などが使用されています。

五条大橋に出没する平家武者の暗殺者・五条の鬼に対し、平忠則(岸辺一徳)は手を焼いています。そこで朱雀法眼(國村隼)は術を使い不動明王の命として、かつて鬼の子と恐れられた比叡山延暦寺の行者・武蔵坊弁慶(隆大介)に五条の鬼退治を仕向けます。

五条の鬼の正体は遮那王(浅野忠信)でした。平安時代の墓所であった京都の東・鳥辺野の奥にあるとする逢魔の森を居としています。遮那王は奥州藤原氏のもとへ下る前の腕試しとして平家武者を殺めていました。けれども武蔵坊弁慶と出会ったことで本分を忘れ、武蔵坊弁慶との勝負に取り憑かれていきます。

やがて武蔵坊弁慶は、平家に仕向けられた源氏滅亡の代理戦争と気付き真剣勝負を望まなくなります。そこで遮那王は武蔵坊弁慶の師匠・阿闍梨(勅使河原三郎)を斬り、戦意に火を付けるという残忍な行動に出ました。

石井岳龍は五条霊戦記 GOJOEについて、当時の大ヒットしていたハリウッド映画【マトリックス】をどう乗り越えるかが課題でもあったと明かしています。

鬼切丸を研ぐ元・刀鍛冶

五条霊戦記 GOJOEでは刀鍛冶が登場します。

争いの終わった直後の荒廃した場所で刀剣収集にいそしむ元・刀鍛冶の鉄吉(永瀬正敏)です。

武蔵坊弁慶(隆大介)は比叡山を降りる際、宝刀・鬼切丸を盗み出していました。その鬼切丸の研ぎを鉄吉に委ねます。

鉄吉は、五条の鬼(遮那王:浅野忠信)が平家の武者狩りの際に手に入れていた千本のを武蔵坊弁慶が入手することを交換条件に引き受けます。

武蔵坊弁慶
「鉄吉とやら、お前、刀鍛冶だったそうだな」

鉄吉
「大しただ。どこで手に入れたんだ。確かに、これなら鬼でも切れそうだ。これ、研ぎ代は高いぜ」

映画【五条霊戦記 GOJOE】より

戯曲・小説の話題作を原作に

小説【パンク侍、斬られて候】より

小説【パンク侍、斬られて候】より

石井岳龍は、特撮アクションの短編【ELECTRIC DRAGON 80000V】(2001年〔タキ・コーポレーション〕配給)を監督後に仙頭武則と離れると、製作委員会方式やデジタル機材の進歩など、映画業界の状況に試行錯誤を始めます。

ちょうど監督生活30周年の年には大学教授に就任し、デジタル技術の習得、初期作を作品集としてまとめるなどを行い、これまでの石井聡互名義から石井岳龍へと改名しました(2010年)。

以後、戯曲・文芸原作が増えていきます。

五条霊戦記 GOJOE以来12年ぶりとなる劇場長編映画【生きてるものはいないのか】(2012年〔ファントム・フィルム〕配給)では、戯曲家・前田司郎の第52回岸田國士戯曲賞の受賞作を映像化しました。

劇作家じんのひろあきから提案されたボリス・ヴィアンの小説【うたかたの日々】を彷彿とさせる【シャニダールの花】(2013年〔ファントム・フィルム〕配給)を7年がかりで完成させます。

映画プロデューサーから提案された詩人・室生犀星(むろうさいせい)の幻想小説【蜜のあわれ】を映画化しました(2016年〔ファントム・フィルム〕配給)。

この時期には、安部公房の小説【箱男 BOXMAN】の台本の執筆も行っています(未映画化)。

またこの間、町田康の小説【パンク、斬られて候】(2004年刊)の映画化の企画を温めます。町田康はパンク・バンドINUを率いて町田町蔵を名乗っていた時代、石井岳龍の初期作となる爆裂都市 BURST CITYに出演していました。

この企画は15年の時を経て映画化されることになります。

石井岳龍版【パンク侍、斬られて候】

DVD【パンク侍、斬られて候】より

DVD【パンク侍、斬られて候】より

原作と同名の映画版【パンク侍、斬られて候】(2018年〔東映〕配給)は、脚本を宮藤官九郎(大人計画)が担当します。製作を動画配信事業者のdTVが単独で行い、当初配信だけの予定が全国の映画館で上映されることになった異例の試みでもありました。

撮影は鳥居本八幡宮(京都市)、東映太秦映画村(京都市)、日本民家集落博物館豊中市)などで行われています。

物語は、江戸時代の東北のとある小藩が舞台です。主人公は超人的剣客を自負する浪人・掛十之進(かけじゅうのしん:綾野剛)です。掛十之進は茶屋の前で物乞いする父娘の父をいきなり斬ります。藩の治安を脅かしかけない新興宗教・腹ふり党の一員と決め付けたゆえで、そのじつ仕官の口欲しさから手柄を立てるためでした。

この掛十之進の行動は、黒和藩藩主・黒和直仁(東出昌大)のもとで長年続いていた、筆頭家老・内藤帯刀(豊川悦司)と次席家老・大浦主膳(國村隼)の権力争いに利用されます。内藤帯刀はすでに取りつぶされていた腹ふり党を掛十之進に命じてでっちあげ、元・腹ふり党の幹部・茶山半郎(浅野忠信)が探し出されました。

パンク×時代劇

作中、内藤帯刀(豊川悦司)派の掛十之進(綾野剛)は、大浦主膳(國村隼)の刺客・真鍋五千郎(村上淳)に命を狙われます。幼馴染と判明する2人ですが、久々の再会は特異な剣技による争いでした。

原作の言葉だけの表現を石井岳龍は、宮藤官九郎の脚本に基づきダイナミックに描きました。

真鍋五千郎
「秘技、草履返し」

と、掛十之進の草履を手にかけ、放り投げる。
宙に一回転して倒れる掛十之進。
すぐに起き上がる掛十之進。攻めてくる真鍋五千郎を手にした刀で突く。
刀は木に突き刺さる。
剣技をよけていた真鍋五千郎。同時に、

真鍋五千郎
「受付嬢すっぴんあぐら」

と、短刀で掛十之進の顔を横一文字に斬っていた。
しかし、その短刀を掛十之進は口で受け止めていた。

掛十之進
「助六ちゃぶ台返し」

と、真鍋五千郎の膝をかかえ持ち、放り投げる。
刀を手放した二人。
倒れた真鍋五千郎に攻め寄る掛十之進。
しかし、その掛十之進を真鍋五千郎はロメロ・スペシャル。

真鍋五千郎
「怪奇、人間炬燵」

掛十之進
「コノヤロー、テメー」

と、ロメロ・スペシャルで三回転。

ナレーション
「研ぎ澄まされた技と技。精神と精神のぶつかり合いだった」

掛十之進、着物をたくしあげ、ふんどしの上から真鍋五千郎の顔に座る。

掛十之進
「睾丸、稲荷返し」

真鍋五千郎
「カンチョー」

掛十之進
「アー、カンチョーとはな」

痛みから逃げる掛十之進。
追う真鍋五千郎、掛十之進の顔に股間から覆いかぶさる。

真鍋五千郎
「睾丸稲荷返し返し」

互いに股間に顔をうずめるかたちとなり、真鍋五千郎の顔を股で挟む掛十之進。

掛十之進
「睾丸稲荷返し返し返し」

映画【パンク侍、斬られて候】より

鉄吉から大臼延珍へ

パンク侍、斬られて候では、五条霊戦記 GOJOEで元・刀鍛冶の鉄吉を演じていた永瀬正敏も重要な役どころとして登場します。黒澤明【影武者】のオマージュである赤の甲冑に身を包んだ人の言葉を理解する猿・大臼延珍(でうすのぶうず)役です。

大臼延珍は、腹ふり党と争うことになった黒和藩に自身の部下・猿達をある想いを胸に秘めて提供するも、挫折します。

大臼延珍は刀を放り投げる。
あごひもをほどき、赤いを脱ぎ棄て放り投げる。

大臼延珍
「大臼は放棄した。彼は猿として支配層に入ることで、今ある現実を破壊し、新たな世界を築こうとした。しかしそんなものはまぁたいていの革命と同じく別に目新しいことではなかった。つまり彼は敗北したのだ。志半ばにして。そして突然しゃべるをやめ、猿のように吠えた。(叫ぶ)」

映画【パンク侍、斬られて候】より

パンク・ロックの黎明期から表現活動を行ってきた石井岳龍。内的世界(アンビエントと呼称)へ近付いたその最初期を五条霊戦記 GOJOEで表現し、現在最新の長編映画パンク侍、斬られて候は原点回帰とも言える前衛的な内容となりました。石井岳龍監督作品では時代劇であっても、常に音楽的アプローチが試みられています。

著者名:三宅顕人

石井岳龍

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原田眞人

原田眞人
【関ヶ原】など司馬遼太郎作品の映画化に近年取り組む原田眞人(はらだまさと)。学生時代に山手樹一郎や五味康祐、司馬遼太郎の時代小説に大いに親しみ、映画監督デビュー直後には司馬遼太郎に映画化の打診をし、断られたエピソードもあります。司馬遼太郎作品への想いは特に強く、映画監督デビューから40年以上の時を経て司馬遼太郎作品の映画化を実現させました。

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滝田洋二郎

滝田洋二郎
【陰陽師】の監督以降、【壬生義士伝】【天地明察】など時代劇映画を多数手がけるようになった滝田洋二郎(たきたようじろう)。時代劇映画への関与はテレビ局主導の映画製作がちょうど華やかになっていく時期でした。そんな滝田洋二郎は時代劇映画ではベストセラーに寄る大作を委ねられ、原作を脚色するうえで主に斬り合いや切腹を美徳とする武士の姿が強調されます。

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森田芳光

森田芳光
【椿三十郎】のリメイクで初めて時代劇映画に挑んだ森田芳光(もりたよしみつ)。自主制作映画・映画祭の興隆期に監督デビュー後、人気映画監督として長らく活動を続けるなかで晩年の取り組みが時代劇映画でした。晩年であっても、黒澤明リバイバルや時代劇映画ブームのなかで監督作を手がけ、常に日本映画の先導的な役割を果たし続けました。その森田芳光の時代劇映画では、刀を抜かない心得が描かれます。

森田芳光

中野裕之

中野裕之
SF時代劇映画【SF サムライ・フィクション】で劇場用映画監督デビューした中野裕之(なかのひろゆき)。映像監督としてミュージックビデオの黎明期から活躍し、映画監督として手がける長編映画の多くが時代劇です。ピースを自身の主題と語るその映像作品のなかでも時代劇映画では剣の腕前と平和の世が常に対立化され、観客に問いが投げかけられます。

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田中光敏

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【火天の城】で自身初の時代劇映画を手がけた田中光敏(たなかみつとし)。続く【利休にたずねよ】でも時代劇映画を手がけました。それらは共に山本兼一の時代小説が原作です。武士よりも技術者・職人に関心を寄せ続けた山本兼一の想いを反映し、田中光敏も技術者・職人の矜持を武士以上に色濃く描きました。

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犬童一心

犬童一心
【のぼうの城】で自身初の時代劇映画を監督した犬童一心(いぬどういっしん)。続けて【引っ越し大名!】も手がけました。それらは現在人気の時代小説家・和田竜と土橋章宏作品が原作です。両映画では槍術・剣術と知略との組み合わせが重要な要素となっています。

犬童一心

三池崇史

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約50年前の名作時代劇映画【十三人の刺客】と【切腹】のリメイクを託された三池崇史(みいけたかし)。両作では江戸時代に形成された「忠孝一致」を重んじる武士道の否定が描かれます。その後も同じく「忠孝一致」の否定を主題とする人気漫画【無限の住人】の映画化も託されます。三池崇史はそれらの時代劇を手がけるにあたり、万民、家族愛などを強調し、さらに現代の感覚で武士道を描きます。

三池崇史

篠原哲雄

篠原哲雄
【山桜】、【花戦さ】など自然にちなんだ時代劇映画を監督する篠原哲雄(しのはらてつお)。藤沢周平の時代小説映像化ブームのなかで時代劇映画を手がけることになりました。その自然にちなんだ題材は、自然の力によって武士の力に立ち向かおうとする意志が描かれます。

篠原哲雄

本木克英

本木克英
【超高速!参勤交代】シリーズで近年の時代劇映画ブームを後押した本木克英(もときかつひで)。大手の映画・配給会社出身という恵まれた経歴によって巨匠達の技芸を受け継いでいます。また配給会社出身の経験からその監督作では女性の観客を大きく意識した時代劇映画が目指されています。

本木克英