武士の魂と称された日本刀は、人の一生よりもはるか長い時間にわたり存在し続けてきました。死にいたらしめる恐ろしさがありながら、その美しさに魅了される人は多く、漫画などのフィクションでも重要な位置づけを持って登場しています。ときには命を与えられ、妖力を秘めるその姿は、単なる道具ではない特別な存在となって強烈な印象を残しているのです。漫画に登場する日本刀についてご紹介します。
日本の剣や日本刀が登場する作品をいくつかご紹介します。
「鬼滅の刃」(きめつのやいば)は、2016年に「週刊少年ジャンプ」で連載が始まりました。
大正時代の日本を舞台に、鬼と「鬼殺隊」(きさつたい)との闘いの様子を描く物語は、主人公「竈門炭治郎」(かまどたんじろう)が、鬼になってしまった妹「竈門禰豆子」(かまどねずこ)を人間に戻すことと、鬼に殺されてしまった家族の仇を討つため、鬼狩りの道へと進むことを決意するところから始まります。
日輪刀(鬼滅の刃)
穏やかな性格で、それまで戦った経験のなかった竈門炭治郎が鬼殺隊に入隊し、鬼の首領「鬼舞辻無惨」(きぶつじむざん)との対決を目指して奮闘。心が折れそうになりながらも戦い続ける竈門炭治郎の姿が読者の心を打つ伝奇ロマンです。
「日輪刀」(にちりんとう)は、鬼を倒すことのできる唯一の武器で、鬼殺隊の隊員が携帯。太陽に一番近い「陽光山」で採取される「猩々緋砂鉄」(しょうじょうひさてつ)と「猩々緋鉱石」(しょうじょうひこうせき)を原材料としています。
刀鍛冶の里の刀匠によって制作される日本刀は、鬼殺隊の隊員ごとに担当する刀匠が決まっており、竈門炭治郎を担当するのが「鋼鐵塚蛍」(はがねづかほたる)です。
日輪刀の最大の特徴は、持ち手によって色が変わること。その色によって、持ち手に適した呼吸法が変わってくるのです。
「銀魂」は2004年に週刊少年ジャンプで連載が始まった、SF系の時代劇漫画です。江戸時代が舞台となっていますが、近未来的・現代的な要素が満載で独特な世界観を創出しています。
ストーリーは、「天人」(あまんと)と呼ばれる宇宙人に支配される世界の中で生きる万事屋(何でも屋)の「坂田銀時」(さかたぎんとき)とその仲間達が、数々の事件に巻き込まれるといったものです。基本的には日常を描きつつ、戦闘シーンがたびたび登場します。
「妖刀紅桜」(ようとうべにざくら)は、坂田銀時と対峙する「岡田似蔵」(おかだにぞう)が持つ日本刀で、この刀が登場するのは長編の中でも特に人気の高いエピソードです。元々は、江戸随一の刀匠「村田仁鉄」(むらたじんてつ)が作り上げた稀代の名刀でしたが、様々な経緯を経て破壊兵器となりました。
さらには盲目の剣豪・岡田似蔵の肉体と融合することで、戦艦をも切り捨てるほどの威力を持つようになります。最終的には、坂田銀時の手によって破壊されますが、その迫力には多くのファンが惹き付けられました。
岡田似蔵のモデルとなったのは、幕末に実在した土佐藩士の「岡田以蔵」(おかだいぞう)です。別名「人斬り以蔵」と呼ばれ、恐れられた剣豪でした。一方、妖刀紅桜のモデルは、同じく妖刀と呼ばれた「村正」。こちらは、室町時代から江戸初期にかけて現在の三重県・桑名の刀工集団によって制作された日本刀で、徳川家に不幸をもたらしたことから、妖刀と呼ばれ、忌避されるようになったと言われています。
老若男女を問わず熱烈なファンを持つ「ワンピース」は、1997年から週刊少年ジャンプで連載が続いています。ゴムゴムの実を食べてゴム人間となった少年「モンキー・D・ルフィ」は、海賊王を夢見ながら仲間達と共に「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」を探す海の旅路へ。
夢とロマン、そして仲間達との熱い友情が物語のテーマです。
感動を呼ぶエピソードや壮大な世界観はもちろん、あちらこちらに散りばめられたギャグが、読者の心をつかんで離しません。
「和道一文字」(わどういちもんじ)は、海賊「麦わらの一味」のメンバーである「ロロノア・ゾロ」が持つ刀です。ロロノア・ゾロは・ルフィにとってはじめての仲間であり、固い信頼で結ばれています。和道一文字の刃文は「直刃」、「拵」(こしらえ)は白塗鞘太刀拵という、堂々とした日本刀で、もとはゾロと切磋琢磨し合っていた剣術道場の娘「くいな」が所有していました。
世界一の剣豪を目指す約束をしていたくいなが事故で亡くなったため、ゾロが譲り受けた1振です。世界一の剣豪「鷹の眼」ジュラキュール・ミホークとの闘いで、ゾロの持つ3振の日本刀のうち2振が破壊されましたが、和道一文字だけが折られることなく残りました。
以来、ゾロの愛刀として麦わらの一味に高い戦闘力を与えています。
刀剣が登場する作品の漫画家・漫画原作者をご紹介します。
「るろけん」の愛称で親しまれる「るろうに剣心」は、幕末から明治という激動の時代を舞台とした、天才的な剣の腕を持つ剣客「緋村剣心」(ひむらけんしん)の活躍を描いた漫画です。
1994~1999年まで週刊少年ジャンプに連載され、爆発的な人気を呼びました。幕末に「人斬り抜刀斎」として、多くの敵を斬り殺し、恐れられた剣客が過去を封印。「不殺」の誓いを胸にしながらも、数々の戦いに臨みます。剣心がいくら振り払っても、抜刀斎の過去はいつまでも追いかけてくるのです。
「逆刃刀」(さかばとう)は「不殺」の象徴とも言える日本刀で、刀の峰と刃が逆に付いており、殺傷能力が抑えられているという設定。 人斬りの過去を捨て、流浪人(るろうに)となった剣心に、希代の刀匠「新井赤空」(あらいしゃっくう)から譲り受けました。
最初の逆刃刀は、「瀬田宗次郎」との闘いの際に破壊されます。しかし、赤空が残した「逆刃刀・真打」が京都の白山神社に御神刀として奉られており、それを手にした剣心は宿敵「志々雄真実」(ししおまこと)を迎え撃ったのです。
過去、千葉県内の旧家において、逆刃刀に類似した「小刀」(全長約28cm、刃長約22cm)が発見され、話題になったことがありましたが、日本刀の製法に則っていないとして、教育委員会によって美術刀申請は却下されました。
このように、半ば「都市伝説」的な存在となっていた逆刃刀ですが、これを実際に制作した現代の名工が現れました。それが「無鑑査」の「尾川兼國」(おがわかねくに)刀匠。現代刀の最高峰である無鑑査刀匠の手によって、フィクションの世界でのみ存在していた1振は、現実の世界で再現されたのです。
尾川兼國刀匠が制作した逆刃刀
「ルパン三世」は1967年8月、「漫画アクション」の創刊と共に誕生しました。かの有名な怪盗ルパンの孫と、その仲間達が世界のお宝を盗み出すという痛快ストーリーです。
半世紀の間にアニメや映画などが幾度となく制作され、熱狂的なファンに支持されています。「斬鉄剣」(ざんてつけん)は、ルパンの仲間である13代目「石川五ェ門」が所有する日本刀で、この世に切れない物はないというほどの優れた切れ味を持つ刀という設定です。
無敵の斬鉄剣ですが、たったひとつ「こんにゃく」だけには弱いという弱点があり、そこが魅力のひとつとなっています。ビルや戦車まで真っ二つにしたあとで、石川五ェ門がつぶやく「またつまらぬ物を斬ってしまった」というセリフも印象的です。
クールなキャラの石川五ェ門と、その愛刀・斬鉄剣の人気は高く、「アニメに登場する刀と言えば?」というアンケート調査では堂々の1位に輝きました。斬鉄剣は実際に存在しており、非常に強度の高い日本刀を示す名称となっています。
刀剣が登場する作品の漫画家・漫画原作者をご紹介します。
「八雲立つ」は月刊少女漫画雑誌「LaLa」に、1992~2002年まで連載されました。刀鍛冶を祖先に持つ大学生「七地健生」(ななちたけお)が、巫子の家系である「布椎闇己」(ふづちくらき)と共に、出雲の不浄な存在に立ち向かうべく、全国に散らばった神剣を探すという物語。
「古事記」などに伝承される古代の逸話をもとに、スケールの大きな世界が展開していきます。
「神剣・水蛇」は、祖父の形見として七地健生自身が携えていましたが、普通の日本刀に見えていた1振が、主人公の危機に直面すると外側が割れ、なかから神剣として出現。物語序盤のクライマックスシーンでは、禁域に結界を張るための重要な役割を果たし、神剣としての威力を示します。
七地健生は、自分の中に流れる出雲の鍛冶師としての血脈を次第に意識しながら、不思議な体験を重ね、運命の渦へと引き込まれることとなりますが、「神剣・水蛇」がそれを守り続けます。
「BLEACH」は2001〜2016年、週刊少年ジャンプに連載されました。高校生の「黒崎一護」(くろさきいちご)が死神のルキアと出会い、現世を荒らす悪霊から家族を救ってもらった経緯から、死神の力を借りて死神業を代行することとなります。
悪霊との闘いなど様々な事件に巻き込まれ、物語が展開していくうちに、代役ではなく自らの意志による戦いへと変化していくのです。
斬月(BLEACH)
「斬月」(ざんげつ)は、黒崎一護が修行によって死神化したことで手にした「斬魄刀」(ざんばくとう)で、「鍔」(つば)がない刀身のみの形をしています。
斬月は、男性の姿で具象化し、斬魄刀の中でも非常に珍しい常時解放型ということが特徴です。卍解(ばんかい)の修行により刀そのものの攻撃力や耐久力が強力になり、能力が解放されると、漆黒の刀へと変わります。
死神の持つ刀は、刀剣自体の力がパワーアップしていくという斬新さが物語に魅力を与えているのです。
刀剣が登場する作品の漫画家・漫画原作者をご紹介します。
「鬼切丸」は、1992~2001年まで「少年サンデー超増刊」に連載されました。少年の姿をした鬼は、名前がなく、鬼の特徴でもある角もありません。
もっとも、同族である鬼を殺すことのできる鬼切丸と言う「太刀」を持っています。少年は、他の鬼達とは違い、鬼の屍(しかばね)から出た純血種という設定。
人に寄生し、悪事をなす鬼をすべて倒すことで人間になれると信じ、神器鬼切丸によって鬼を倒し続けているという物語です。太刀鬼切丸は、少年(鬼)にとっては角に相当する部分であり、一心同体。そして倒すべき鬼のもとに導かれた少年が斬った鬼は、塵と化します。
人間と変わらない外見でありながら、鬼を上回る身体能力を持ち、鬼と戦う少年の武器となるのが特殊な能力を秘めた鬼切丸。太刀鬼切丸は、別名を「髭切」(ひげきり)と言い、これは「渡辺綱」(わたなべのつな)が「酒吞童子」を倒したと伝えられる刀です。
刀剣が登場する作品の漫画家・漫画原作者をご紹介します。
「犬夜叉」(いぬやしゃ)は、1996~2008年に「週刊少年サンデー」で連載され、累計発行部数が4,000万部を超える超人気漫画です。
普通の生活を送っていた女子中学生「かごめ」が戦国時代にタイムスリップし、どのような願いでも叶えるという「四魂の玉」をめぐる戦いに巻き込まれるという物語。主人公の犬夜叉は妖怪と人間とのハーフで、かごめや仲間と共に、砕け散った四魂の玉を集める旅をしていきます。
「鉄砕牙」(てっさいが)は、犬夜叉が持つ武器。犬夜叉の父の牙を鍛えた日本刀です。「1振で100の妖怪を蹴散らす」という威力がありますが、人間への慈しみの心がなければ、ただの錆刀のまま。しかし、ひとたび犬夜叉が武器とするときには、鍔が白毛の大剣へと変化します。
衝撃波「風の傷」や「爆流破」を放ち、斬った相手の妖気を吸収し能力として加えることも可能です。妖怪であった父親の牙から作られた妖刀であるため、結界を張ったり進むべき方向へ導いたりと不思議な力が宿っています。
刀剣が登場する作品の漫画家・漫画原作者をご紹介します。