古事記、日本書紀ほか

天之瓊矛(あめのぬぼこ)

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日本では古来より、自国を「神の国」や「神国」と表現することがありました。これは「天皇は神である」「天皇が治める国は、神の国である」と言う思想に基づくもので、その由来となるのが「日本神話」と呼ばれる古代史です。現在では、当時の宗教観や倫理観、編纂時の思惑が反映された空想の物語とされていますが、第二次世界大戦が終結するころまで、日本神話の世界はすべて史実とされていました。

イザナギノカミ、イザナミノカミとは

日本神話は、一般的に「古事記」の上巻、「日本書紀」の1~2巻に記された神の世の物語と神武天皇(じんむてんのう)の即位までの物語のことを指します。「神国」と言う表現が初めて出てくるのも日本書紀です。

神功皇后(じんぐうこうごう)が新羅(しらぎ・しんら/朝鮮半島南東部)を攻めた「三韓征伐」(さんかんせいばつ)の際、新羅の王が皇后の軍勢を見て「あれは神国の強者だ」と抵抗せず降伏したと言う記述があります。

古事記や日本書紀には日本建国の経緯が物語として語られていますが、そのなかで天皇家の祖とされる「アマテラスオオミカミ」(天照大御神)と繋がる神々こそが、日本列島を生み出したとされる「イザナギノカミ」(伊邪那岐神)と「イザナミノカミ」(伊邪那美神)です。

国生みとは

古事記のなかでは、世界に天地ができると、アメノミナカヌシノカミ(天之御中主神)をはじめとした神々が誕生します。

このころの地上世界は「次に国稚(わか)く浮きし脂の如くして、海月(クラゲ)なす漂へる時」とあるように、水に浮く脂やクラゲのように漂っている存在でした。

神の中でも最後に登場した「神世七代」(かみのよななよ)と呼ばれる男神・イザナギノカミと女神・イザナミノカミは、他の神々から地上世界を造り固めるよう命じられます。そうして始まったのが「国生み」です。

2柱(神の数え方は柱)が天と地上の間にかかっている天の浮き橋(あまのうきはし)に立ち、神々から授かった美しい矛(ほこ)で混沌とした地上世界をころころとかき回し引き上げると、矛の先から滴り落ちた物が固まり、淤能碁呂島(おのごろじま)となりました。

島に降り立った2柱はそこで結婚し、大八島(おおやしま)、現在の淡路島・四国・隠岐・九州・壱岐対馬佐渡島・本州を、順に生んでいったと伝えられています。

美しい石に飾られた神の矛

天之瓊矛

天之瓊矛

「天之瓊矛」(あめのぬぼこ)とは、この国生みの神話で使われた矛のことです。

天之瓊矛は日本書紀での呼び方で、古事記では「天沼矛」(あめのぬほこ)と言われています。矛とは、長いの先に両刃の剣を付けた物です。

日本書紀には「瓊」(たま)は「玉」の意味であると記されているので、天之瓊矛とは「玉で飾られた矛」。実在する物ではありませんが、国生みの場面を描いた絵画などで、その空想の姿を見ることができます。

アマテラスオオミカミに続く物語

古事記によると、国生みを終えたあとには「神生み」の物語が続きます。神生みで2柱が生み出した神は、この世の様々な物を神格化した物でした。

「イハツチビコノカミ」(石土毘古神)は石や土の神、「アメノフキオノカミ」(天之吹男神)は屋根葺の神、「ワタツミノカミ」(綿津見神)は海の神など、自然や暮らしの森羅万象にかかわる35柱の神々です。

しかし、火の神である「ヒノカグツチノカミ」(火之迦具土神)を生んだとき、イザナミノカミはその火に焼かれて死んでしまいます。嘆き悲しんだイザナギノカミは、生まれたヒノカグツチノカミを殺して、黄泉の国へ行ってしまったイザナミノカミを連れ戻そうと試みました。

あとを追ったときには、すでにイザナミノカミは黄泉の国の住人となってしまっていたのです。しかし「帰れるように黄泉の国の神と相談するので、待っていて下さい」と言って、御殿から出てこないイザナミノカミを待ちきれず、イザナギノカミは部屋のなかに入っていきます。

すると、そこにいたのは腐りかけて変わり果てた姿のイザナミノカミでした。驚き恐れたイザナギノカミは、慌てて逃げ帰り、醜い姿を見られて怒ったイザナミノカミは追っ手をかけて、自分自身もあとを追いかけます。

イザナギノカミはようやく黄泉の国の入り口にある黄泉比良坂(よもつひらさか)にたどり着くと、1,000人でようやく動かせるほどの大岩・千引岩(ちびきのいわ)で入り口をふさいで離縁を告げました。

イザナミノカミは岩のむこうから、「そのようなことをされるなら、私はあなたがつくる人間を毎日1,000人殺します」と言いました。イザナギノカミは「それなら、私は1日に1,500人の子どもをつくろう」と返し、2柱は決別したのです。

黄泉の国から帰ったイザナギノカミは「なんと穢らわしい国へ行ってしまったのか」と、禊(みそぎ)を行なうことにしました。

持っていた杖、身に付けていた帯や衣、腕輪などを外して投げ捨てるたびに様々な神が生まれ、12柱の神となりました。すべてを取り払い、禊をはじめると、そこからも神が生まれます。

そして、最後に顔をすすいだときに、左目からアマテラスオオミカミ、右目から「ツクヨミノミコト」(月読命)、鼻から「タケハヤスサノオノミコト」(建速須佐之男命)が生まれました。これが「三貴子」(みはしらのうずのみこ)と呼ばれる3柱です。

イザナギノカミは「私はたくさんの子を生んだが、その果てに貴い子を得ることができた」と言い、アマテラスオオミカミには高天原(たかまのはら)、すなわち昼の世界を、ツクヨミノミコトには夜之食国(よるのおすくに)、すなわち夜の世界を、タケハヤスサノオノミコトには海原を治めるようと命じたのです。

たくさんの神々を生み出したイザナギノカミ、イザナミノカミの物語。その最後に、現在の天皇家の祖とされる神(皇祖神)であるアマテラスオオミカミは生まれたのです。

ゆかりの地

イザナギノカミ、イザナミノカミの神話の舞台とされる地は、全国各所にあります。

絵島(えじま)

絵島

絵島

所在地:兵庫県淡路市

岩屋漁港にある絵島、別名「おのころ島」。

国生みの際に、天之瓊矛の先から滴ってできた淤能碁呂島だと伝えられる地は諸説あります。

絵島もそのうちのひとつとされており、兵庫県の指定文化財です。

上立神岩(かみたてがみいわ)

上立神岩

上立神岩

所在地:兵庫県南あわじ市

淡路島の南4.6kmに位置する、沼島(ぬしま)を代表する景勝地。

海にそびえ立つ高さ約30mの岩は、イザナギノカミとイザナミノカミが結婚する際にその周りを回ったと言う「天御柱」(あまのみはしら)だと言われているのです。

また、沼島自体が、国生みの最初の島である淤能碁呂島であると言う説もあります。

黄泉比良坂(よもつひらさか)

黄泉比良坂

黄泉比良坂

所在地:島根県松江市

黄泉比良坂は、生者の住む現世と死者の住む他界との境目にあるとされる坂、あるいは境界場所とされているのです。

イザナギノカミとイザナミノカミが別れた場所でもあるこの地には、黄泉比良坂の伝承が残っています。

みそぎ池

みそぎ池

みそぎ池

所在地:宮崎県宮崎市

阿波技原森林公園 市民の森内にある、湧き水をたたえる池。イザナミノカミが黄泉の国の穢れを払うために禊を行なった池と伝えられています。

日本列島の誕生と言う壮大な物語、そして現在の天皇家に結びつく神々ともつながっていた天之瓊矛。国生みを始まりに、日本神話の世界はさらなる広がりを見せていきます。

天之瓊矛(あめのぬぼこ)

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天之尾羽張(あめのおはばり)

天之尾羽張(あめのおはばり)
世界に天地が生まれることで始まる「日本神話」。これらは「古事記」の上巻、「日本書紀」の1~2巻に記された神々の物語と神武天皇(じんむてんのう)の即位までの物語です。神話の冒頭、日本列島と神々の誕生にまつわるストーリーの中で登場する神剣「天之尾羽張」(あめのおはばり)についてご紹介します。

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草薙剣(くさなぎのつるぎ)

草薙剣(くさなぎのつるぎ)
「草薙剣」(くさなぎのつるぎ)は、日本で最も有名な剣と言っても過言ではありません。別名「天叢雲剣」(あめのむらくものつるぎ)とも言います。日本神話に登場する伝説の神剣であり、正当な皇位の証として古代より歴代天皇に継承されている「三種の神器」のひとつです。「古事記」と「日本書紀」ではその三種の神器である「八咫鏡」(やたのかがみ)、「八尺瓊勾玉」(やさかにのまがたま)、そして草薙剣の三種の宝物、それぞれの起源が記されています。八咫鏡と八尺瓊勾玉は「アマテラスオオミカミ」(天照大御神)が天岩戸に隠れてしまう物語に登場し、草薙剣はアマテラスオオミカミの弟である「タケハヤスサノオノミコト」(建速須佐之男命)が「八岐大蛇」(ヤマタノオロチ)を退治する物語に登場します。

草薙剣(くさなぎのつるぎ)

十拳剣(とつかのつるぎ)

十拳剣(とつかのつるぎ)
日本列島の創世から神武天皇(じんむてんのう)の即位までの時代が描かれている「日本神話」。「古事記」、「日本書紀」に記される日本神話のなかに、繰り返し登場する剣が「十拳剣」(とつかのつるぎ)です。「十握剣」、「十掬剣」、「十束剣」などと表記されることもあり、話によってその持ち主も変わる霊剣。一体どのような物なのでしょうか。

十拳剣(とつかのつるぎ)

神度剣(かむどのつるぎ)

神度剣(かむどのつるぎ)
「日本神話」のなかで、現在の天皇制につながる重要な話として「国譲り」(くにゆずり)があります。天皇家の祖とされる「アマテラスオオミカミ」(天照大神)が、その子である「アメノオシホミミノミコト」(天忍穂耳命)に、葦原中国(あしはらのなかつくに)を治めさせるまでにはいくつものストーリーがあり、「神度剣」(かむどのつるぎ)はその過程で登場します。

神度剣(かむどのつるぎ)

布都御魂(ふつのみたま)

布都御魂(ふつのみたま)
日本の古代神話には、様々な神剣が登場します。なかでも特に重要な物に「神代三剣」(かみよさんけん)と呼ばれる3種の剣があります。三種の神器のひとつにも数えられる「草薙剣」(くさなぎのつるぎ)、「タケハヤスサノオノミコト」(建速須佐之男命)の大蛇退治で使われた「十拳剣」(とつかのつるぎ)、そして「布都御魂」(ふつのみたま)。いずれも「古事記」や「日本書紀」に神々が使ったとされる伝説が記され、長い歴史を経て現在まで受け継がれている物です。

布都御魂(ふつのみたま)

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