忍者の使った術

防諜術

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忍者の主な任務は「諜報」であり、その任務を果たすため忍者独自の情報収集技術が発展していきました。一方で、その諜報技術が発展していく過程で、情報を守る「防諜」の技術も多く確立していったのです。そんな防諜にかかわる忍術をご紹介します。

忍者の用いた防諜の忍術

防諜の目的は、「正しい情報を敵に与えない」ことです。

敵に正しい情報が届いてしまうことで、味方の弱点を見抜かれ、そこを攻められる危険が生じてしまいます。それを防ぐために、「正しい情報を与えない」防諜が必要となるのです。

正しい情報を与えないためには、主に2つの考え方があります。

ひとつは「情報を守る」こと。情報が漏洩していなければ、敵に弱点を突かれることもありません。そしてもうひとつは「偽の情報を与える」ことです。あえて正しくない情報(偽の情報)を流して敵を欺き、味方に有利な状況をつくり出して戦を優位に進めるのです。

謀略としても使われる手法ですが、広い意味で防諜と言えるでしょう。

情報を守るための忍術

立ちすぐり・居すぐり

「立ちすぐり・居すぐり」(たちすぐり・いすぐり)は、味方の中に紛れ込んだ敵の忍者を見つけ出すための忍術です。

事前に決めていた合言葉を発した直後に一斉に立ち上がったり座ったりして、合言葉を知らずにもぐり込んでいた敵忍者をあぶり出すために使用されました。

座っているときに合言葉で立ち上がるのが立ちすぐり(すぐり=選ぶ)、立っている状態から座る物を居すぐり(居=座る)と呼びます。

当時の戦では、普段農民として暮らしていて戦のために呼ばれた兵士も多く、指揮を執る武将も兵士ひとりひとりの顔を覚えてはいませんでした。

そのため、敵の忍者が味方の兵士の中に紛れ込み、砦・城の構造や兵の配置、武器や火薬・食糧の備蓄量、兵の士気など陣地の様子を調査することがありました。

これらの情報が敵に知られてしまえば、設備や兵力の手薄な部分を攻められたり、「兵糧攻め」で食糧の残量が少ない状態で持久戦に持ち込まれたりします。

兵士の士気が低い場合、劣勢になるとすぐに兵士が逃亡・投降してしまうため、それを狙って総攻撃を仕掛けられるなど、自軍に不利な展開に持ち込まれてしまいうこともあったのです。

そういった情報漏洩を防ぐため、忍者は兵士達を使って敵の忍者を見つけ出す「立ちすぐり・居すぐり」を行ないました。

北条家に仕えた忍者集団・風魔一族(ふうまいちぞく)が、黄瀬川の戦いで「武田勝頼」(たけだかつより)と争ったとき「立ちすぐり・居すぐり」が使われたと北条家の逸話を集めた書物「北条五代記」に記されています。

「北条五代記」によれば、風魔一族・5代目頭領「風魔小太郎」(ふうまこたろう)をはじめとした忍者が、川の対岸に陣取って北条軍と睨み合っていた武田軍を狙って毎日のように夜襲をかけていたところ、武田軍の兵士が数人、風魔一族の集団に紛れ込み反撃の機会を窺おうとしたことがありました。ですが風魔一族は小太郎の合言葉で「立ちすぐり・居すぐり」を行ない、紛れ込んだ武田軍兵士を見破って斬り殺したとされます。

忍者文字

忍びいろは

忍びいろは

「忍者文字」(にんじゃもじ)とは、かつて忍者が使用していた「忍者にしか伝わらない暗号文字」です。他流派の忍者に見破られないよう、流派ごとに独自の忍者文字が存在したと言われています。江戸時代に書かれた忍術の秘伝書「万川集海」(まんせんしゅうかい)では、漢字の「へん」と「つくり」を組み合わせた「忍びいろは」が掲載されています。

へん・つくりが7種ずつ存在し、その組み合わせでできる49種類の文字と「いろは歌」の順番をもとに割り当てられた文字を読むことで文章になる暗号でした。

忍びいろは以外にも、日本に漢字が渡来する以前に使われていたと言われる「神代文字」(じんだいもじ)を模した忍者文字も存在しました。

伊賀国(現在の三重県西部)のあった伊賀市は現在でも、忍者文字を広めるべく城や博物館、店舗など市内いたるところに忍者文字のパネルを掲げて観光客へ忍者文字の存在をアピールしています。

五色米

五色米

五色米

「五色米」(ごしきまい)とは、5色に染められた米を使って仲間にだけ伝わる連絡を残す伝達方法です。赤・青・黄・紫・黒の米の組合せで文字を表していました。

また、五色米は屋外の目立たない場所に置かれることが多かったため、米を染めるのには野生動物に食べられないようにする意味もあったと言われています。

偽の情報を流すための忍術

蛍火の術

「蛍火の術」(ほたるびのじゅつ)とは、敵に「身内の将兵が裏切りの準備をしている」と思わせるような偽の内容の書かれた手紙を持たせた忍者を敵陣や敵の領地に向かわせて、わざと敵に捕えられるよう仕向けます。

そこで敵が手紙を読んで、「身内に謀反を企てている人間がいる」と仲間割れや疑心暗鬼に陥らせることで、敵の戦力を削いで勝利しやすくすることを目的とした術です。

また、この場合捕えられる忍者は殺されてしまう可能性が高く、生きて情報を持ち帰る「生間」に対し、死を覚悟して任務にあたる「死間」と呼ばれます。

実際に、安芸国(あきのくに:現在の広島県西部)の戦国大名「毛利元就」(もうりもとなり)が、出雲国(現在の島根県東部)の戦国大名「尼子晴久」(あまごはるひさ)に蛍火の術を仕掛けたとも言われています。

当時、尼子家最大の武力勢力「新宮党」(しんぐうとう)を束ねていた「尼子国久」(あまごくにひさ)を陥れるため、毛利元就が偽の手紙を持たせた男の死体を尼子晴久の居城の前に放置。

「毛利元就が尼子国久に尼子晴久の暗殺を仕向ける」内容が書かれた偽の手紙を読んだ尼子晴久は、尼子国久に謀反の意図があるとして誅殺し、尼子国久の配下だった新宮党も解体してしまいます。尼子家は毛利家の謀略によって最大の戦力だった新宮党を失い、そのまま毛利家に滅ぼされてしまいました。

天唾の術

「天唾の術」(てんだのじゅつ)とは、味方の中に紛れ込んだ敵の忍者に偽の情報を知らせ、その情報を信じた敵を陥れる忍術です。

敵忍者の存在に気付かないふりをしながら戦の準備を行ない、攻撃目標などの偽った作戦を敵忍者に聞かせ、偽の作戦を敵陣に伝えさせます。

その情報をもとに防御を固めた敵に対して、別の場所を攻撃することで大きな損害を出させることができるのです。作戦を聞いて「裏をかいた」と思っている敵の「裏の裏をかく」ことで優位に立つ術です。

「天唾」とは「天(真上)に向かって唾を吐くこと」で、自分の吐いた唾が自分にかかって被害が及ぶことから、敵が送り込んだ忍者によって敵が被害を受ける様を表しています。

袋翻しの術

「袋翻しの術」(ふくろがえしのじゅつ)とは、前もって味方の忍者を敵陣に送り込んで仲間だと思わせておき、味方の攻撃など重要な局面で味方に呼応して敵を裏切り攻め落とす忍術です。

裏切る効果を大きくするため、忍者は送り込まれてから裏切るまでは敵の信頼を深めることが重要。そのため味方との戦闘などでも、事前に打ち合わせて用意した囮の小屋などに放火することで功績を挙げ、敵の信用を得ていました。

忍者を送り込む際には、敵に「あの城の忍者だ」と本当の身分が知られると裏切る計画が露呈してしまうため、「伊賀国の者です」などと方便を使うように、と万川集海にも記されています。

山彦の術

「山彦の術」(やまびこのじゅつ)は、袋翻しの術と同様に、前もって味方の忍者を敵陣に送り込み、重要な局面で裏切って味方に有利な状況をつくる忍術です。

2つの忍術の相違点は、身分を偽って敵に取り入る袋翻しの術に対し、山彦の術では味方を裏切る(ように見せかける)ことで敵陣に取り入る部分です。

まず、忍者が任務に失敗するなどで仕えていた主君の怒りを買って城を追放される、といった演技から始まります。追放された忍者は味方を裏切って敵陣に取り入り、味方の(教えても問題ない)情報を教えたり、袋翻しの術と同様に味方との戦闘で功績を挙げたりと、忠節を尽くして信頼を得ます。そして局面が来たところで味方に呼応し、戦局を有利にするための術です。

偽の情報を流すための忍術は紹介したもの以外にも存在しますが、どれも自陣か敵陣に潜む忍者を利用したものです。それはつまり、戦国時代にはどこの城にも当たり前のように敵の忍者が紛れ込んでいたことを意味しています。

つまりは戦国大名が食うか食われるかの戦国時代を勝ち抜くためには、一刻も早く敵の忍者を把握して防諜に努めることが不可欠。伊賀忍者甲賀忍者を多く抱えた徳川家康が天下統一を果たしたのも、陰ながら働いた忍者の功績のおかげとも言われます。

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