忍者の使った術

諜報術

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忍者の任務の大部分は、館や城などの敵地に潜入しての諜報活動(ちょうほうかつどう)です。忍者は、任務遂行のための諜報活動に役立つ潜入や、身を隠す様々な術や忍具を使いこなしていました。忍者の諜報術では、忍者の活動を支えた諜報にかかわる術や忍具についてご紹介します。

諜報活動は潜入から始まる

諜報活動の多くは敵地への潜入から始まります。もちろん正面から堂々と敵地に入ることはできないため、敵に気付かれないように建物ならば入り口以外の場所から忍び込んでいました。

壁や木などの高所からの潜入に「登器」(とうき)、水路からの潜入に「水器」(すいき)と呼ばれる忍具を使用していましたが、忍具に頼ることなく潜入するために「虎之爪」(とらのつめ)と呼ばれる修業を積んでいたと言われています。

虎之爪は、器に砂や砂利を入れ、そこに指先を突き刺し、指を強靭に鍛える修業です。その他にも、指先を使った逆立ちや指で木にぶら下がる修業も行ない指先の力を鍛え上げていました。これらの修業により忍者は、指だけで米俵(約60kg)を持ち上げることができたと言われています。また、鍛え上げた指だけで壁や塀などを登るために、忍者は指先で支え切れる60kg以内に体重を抑えていたとも言われ手いるのです。

潜入には、相手の隙を突くタイミングを選ぶことも重要。忍術書には「必ず入るべき夜」として忍び込むのに適したタイミングが教示されていました。

「祝言の明け夜」、「病後の夜」、「隣家に事件があった翌日の夜」、「普請労役(公共事業として市民が建築や土木事業に従事すること)のあとの夜」、「悲嘆後の2~3日のあとの夜」、「風雨の夜」、「家内や近所で騒動のあった夜」の7つが潜入に適しているとされ、冠婚葬祭後の夜や、火事など騒動の翌日の夜は気を張った状態の反動から、安堵で眠りが深くなりがちであるため、狙い時だと記されています。

あらゆる気配を消す術

密かに敵陣に潜入して諜報活動を行なう忍者にとって気配を敵に悟られ、姿が見付かることは即任務が失敗してしまうばかりか、自らの命の危険に直結してしまいます。そのため、忍者は常に他人に気付かれないように心がけていました。忍者の在り方について「音もなく匂いもなく、智名も勇名もなし」という言葉が残されています。

これは、物音を立てることや自らの匂いに気を付けることはもちろん、名を挙げて有名になったり、目立つことすらも戒める必要があったりするということです。気配を消す術としては、足音を無くす「無足忍」(むそくにん)、呼吸音を無くす「無息忍」(むそくにん)、臭いを無くす「無臭忍」(むしゅうにん)があります。これらをまとめて「三無忍」(さんむにん)と呼ばれていました。

無足忍には、「抜き足」、「浮き足」、「深草兔歩」(しんそうとほ)の走法があります。抜き足は地面から足を離す際にそっと静かに引き抜くように持ち上げ、着地の際は小指からゆっくりと着地をする走法。通常に移動するよりも足音を消して移動することができました。

抜き足よりも、さらに足音を立てずに慎重に移動する必要があった際に使われたのが浮き足です。浮き足では足裏全体を地面に付けることなく、つま先だけでゆっくりと移動します。つま先だけで体を支える強い筋力を必要としますが、落ち葉が落ちている場所など音を発生させずに移動するのが困難な場所を歩くときに用いられていました。

深草兔歩は最も注意を払って移動する際に使用。まず体をかがませてなるべく低い体勢を保ちます。そして足の下に自分の手をかませることで音を殺して移動しました。室内で寝ている人の横を移動しなければならないときなどに用いられたと言われています。

整息法

整息法

無息忍は、「整息法」という修業によって身に付けました。お香を焚き、気体を充満させた室内で線香の煙のように細く長い息を吸い、鼻からゆっくりと細く吐き出す呼吸法を訓練します。

熟練者は体を動かした直後の息が上がった状態でも、呼吸音を出さなかったと言われています。無臭忍に関しては、体臭や口臭を抑えるために忍者は普段の食生活から気を使っていました。

ニンニクや玉ねぎなどの匂いの強い物はもちろん、刺激物などの汗をかきやすい物も避けていたと言われています。

食事だけでなく、甲賀の忍者に至っては口臭を防ぐ秘薬を常備していました。潜入時は、歯磨きや水分補給が満足にできない状態になることもありました。そんなときは口内で舌を運動させて唾液の分泌を促し口臭を抑えていたとも言われています。

情報を聞き逃さないための諜報術

潜入後は、いかに多くの情報を収集するかが求められます。そのためには話し声や物音を聞き洩らさない聴音術が必要でした。聴力を鍛えるために行なっていた修業が「小音聞き」(さおときき)です。小音聞きでは砥石や板の上に針を落として、その音を聞き取ります。

最初は近距離で行ない、音を聞き取ることができれば徐々に距離を伸ばしていきました。熟練者は、遠く離れた場所に落ちる複数本の針の音を聞き分け、本数を当てることができたと言われています。

聴力の強化以外には、「忍び竹」や「忍び筒」と呼ばれた竹で作られた短い筒状の盗聴用の忍具を用いることもありました。天井や床板に当てて耳を澄ませることで建物の中の会話や物音を聞いていたと言われています。

また、金属で作られ収縮を可能にして持ち運びやすくした忍び筒を「聞き筒」と呼んでいました。

敵から身を隠す陰法

万全の準備をして敵地に潜入したとしても敵に発見されることもあります。

敵に見付かった際、忍者は逃走しながら身を隠してやり過ごす必要があり、身の隠し方を陰法と呼び習得していました。代表的な陰法としては「観音隠れ」(かんのんがくれ)、「鶉隠れ」(うずらがくれ)があります。

観音隠れは壁や木などの物陰に身を潜めて立ち、顔を袖で隠して観音像のように動かずにやり過ごす術。シンプルな術ですが、現代のように街灯などのない暗がりでは、顔の肌色を袖で覆うだけで影と見分けは付かなくなり十分に効果的でした。

鶉隠れは、身を潜める場所が近くにない際に、敵に対して臀部を向けてできるだけ小さく丸まるという陰法。こちらも当時の暗さにおいては十分に闇に身を潜めることができ、下手に動くよりもやり過ごす可能性は高かったようです。

どちらも大変簡易的な身の隠し方ですが、陰法の極意は「楊枝隠れ」(ようじがくれ)であると言われ、修業を積んだ忍者にかかれば爪楊枝1本でも相手の目をそらすことができ、十分に隠れることが可能であったと伝えられています。

また、「伊賀忍者は石になる」と言われており、恐怖心や緊張を滅却してまるで石のように気配を消す強靭な精神力が合わさり、「まさかこんな近くに」という敵の心理を逆手に取ったシンプルかつ大胆な隠れ方を実践することで陰法は成り立っていました。

常日頃から厳しい修業により五感を鍛え上げ、諜報に必要な超人的な身体能力を身に付けてきた忍者。しかし、録音器具などがない戦国時代、諜報活動により情報を得るためには人々のできるだけ近くに姿を潜め会話や物音を少しでも多く聞く必要があり、何よりもターゲットに接近することが求められてきました。

どのような状態でも精神を落ち着け、重要な情報を得るために大胆不敵に相手に近付く不動の精神力こそが、実は優れた忍者になるためには一番重要だったのかもしれません。

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