忍者の使った道具

忍び装束

文字サイズ

私達が漫画やアニメで目にする忍者は、全身黒ずくめの格好で闇に紛れて活躍するイメージが強いのではないでしょうか。では、実際に忍者の着用していた衣類には、どのような秘密が隠されていたのか、忍者が任務時に身に付けていたと言われる衣装「忍び装束」(しのびしょうぞく)についてご紹介します。

忍者が任務時に着ていた服(忍び装束)

忍び装束を使用する一番の目的は、動きやすく目立たないことです。

忍び装束のベースとなったのは、農民が田畑で農耕作業をするとき着用していた短めの上着と袴からなる「野良着」(のらぎ)でした。普通の野良着に対して、忍び装束は動きやすさや機能性を高めるために様々な工夫がされていたのです。

まず上着は、装備品を多く身に付け、素早く取り出すためにポケットが多く取り付けられていました。また、素早く変装するために、裏地に異なる柄の生地を用いてリバーシブルに使用。手には金属の手甲(てっこう)を装備し攻撃から身を守っていました。

下半身は脛(すね)の部分に袴の上から「脚絆」(きゃはん)と呼ばれる衣類を巻いていたようです。脚絆を装備することで、脛を守るだけでなく足袋の中に草木や砂利などの異物が入り込むことを防いでいました。足袋の底に真綿を詰め込むことで足音が出にくいように工夫。草履の裏に滑り止めを付けることで俊敏に動けるようにしていました。

顔だけでなく身分までも隠した忍び頭巾

忍者の格好として黒ずくめの衣装以外の大きな特徴は、頭巾によって目以外の頭部をすべて隠している点です。

この頭部を覆う「忍び頭巾」(しのびずきん)には頭部の保護以外にも大きな意味があります。忍者が活躍した江戸時代は、身分や職業ごとに細かく髪型が決まっていました。

男性の場合は「月代」(さかやき:髷を結うために髪を剃った部分)があるため髪型の変装は難しく、頭部を見られることは身分と職業がばれてしまうことになります。

そのため、隠密行動が基本の忍者にとって顔を見られるのと同じくらい、頭部を見られることは避けなければなりません。そのため顔だけでなく頭部までを隠すことのできる忍び頭巾を着用していました。

忍者の下着

忍者が下着に対して求めたのは、①「動きやすいこと」、②「引っかからないこと」、③「かさばらないこと」の3つの条件。

褌

江戸時代は褌(ふんどし)が男性用下着として使用されていました。

一般的に市民が使っていたのは「六尺褌」(ろくしゃくふんどし)と呼ばれる物でしたが、長さが約228cmもあり、かさばってしまうため忍者用の下着としては向いていません。

当時使用されていた褌には他にも「越中褌」(えっちゅうふんどし)と「畚褌」(もっこふんどし)がありました。越中褌は六尺褌に比べて、簡易的な下着のため長さは100cmほどとコンパクト。

しかし、巻き方が簡略化され臀部の布が垂れ下げられた状態であったため、障害物などに引っかかる可能性があり忍者の下着としては不向きです。

畚褌

畚褌

畚褌はコンパクトで、臀部の布もかさばらない形状の非常に有効な下着でしたが、主に歌舞伎の女形が着用していた物で一般的ではなく、下着が見えた際に特殊であることがばれて怪しまれる危険性がありました。

一般的に手に入る下着で条件を満たせなかった忍者は、武士が甲冑を装備する際に着用していた結褌帯によく似た専用の下着を使用していました。長さ自体は越中褌より少し長めですが、通常は片側に付いている止め紐を生地の両側に装着した特殊な形状の褌です。

忍者の使用した褌

忍者の使用した褌

着用方法は、片方の紐を首に掛けて胸元から生地をたらし、股を通しもう片方の紐を腰で結びます。前掛けと褌が一体化したような形の下着として使用していました。

また普段は片方の紐を取り外し、普通の越中褌として使用することで、宿に泊まった際などに怪しまれることを避けたと言われています。

服を変えて、職を変えた変装

忍者は服装を変えて様々な職業に変装して任務にあたります。変装する姿として好ましい7種類の職種を「七方出」(しちほうで)と呼びました。

七方出は、「虚無僧」(こむそう)、「出家」(僧)、「山伏」(やまぶし)、「商人」、「放下師」(ほうかし:曲芸や手品を披露する芸人)、「猿楽師」(さるがくし)、「常の形」(つねのかた:一般市民)からなります。

虚無僧は頭部を「深編笠」(ふかあみがさ)で隠して袈裟と呼ばれる服をまとい、尺八を吹きながら全国を行脚した僧のことで、小刀の帯刀が許されており、団体で行脚をしていました。

そのため、全国どこにいても怪しまれることなく、顔を隠していても違和感がないため、暗殺や情報収集に適し、チームで動くこともでき変装対象としてメリットがとても多かったと言われています。また虚無僧は、有髪が許される僧であったことから、変装時に髪を剃り落す必要がなく、変装が容易であったことも好まれた理由のひとつです。

出家は僧への変装を表しています。忍者の活躍した江戸時代、寺は日常的に老若男女が集まる場所であったため情報の宝庫でした。

その他、寺には各家の累代の記録が記述された過去帳が保管されていました。僧に変装していれば寺への潜入が容易になり、寺に集まる情報を簡単に手に入れることができます。

山伏は山中で修業をする僧の一種です。山岳信仰(さんがくしんこう:山を崇拝の対象とする信仰)の布教目的で全国を旅することが許されており、山や森を歩いていても違和感がなく怪しまれずに行動することができました。

また、山伏は法螺貝(ほらがい)を使用して遠方の仲間と連絡を取っていました。法螺貝を常に携帯しており、変装時に法螺貝を利用して仲間の忍者と連絡がしやすかったことも変装に好まれた要因だと言われています。

商人は菓子や薬、呉服などを大きな荷物にまとめて、いろいろな土地を回っていました。外部の人間として地域の住民と接しても怪しまれることがなく、「和やかに、何も知らないふりをして聞き出す」ことが可能だと文献に残されています。さらに大名と取引している店で働くことができれば、より重要度の高い情報を手に入れることも可能です。

放下師は曲芸、手品、唄などを披露して民衆を集め、駄賃を稼いで生活をしていた芸人。江戸時代の頃には個人の活動だけでなく、興行も企画されるようになっており、舞台仕掛けの大がかりな芸なども行なっていました。

舞台小屋には、町中から老若男女多くの見物客が集まるため情報を仕入れやすく、旅をしながら全国を巡る職業柄、怪しまれることなく自由に諸国を行き来することができます。

猿楽師は放下師と同様に多くの人の前で芸を行なう職業。能楽の原型となった日本の古典芸能を演じます。猿楽師は依頼を受けて、個人宅で公演を行なうこともあり、ターゲットの自宅に直接潜入することもできました。

常の形は町人や武士など、どこの町にいても不思議ではない人々。土地に長く暮らしながら住民達と親しくなっていきコツコツと情報を収集しました。

準備に費やす時間などが少なく最も容易な変装でしたが、七方出の中で唯一自由に国を行き来することが難しいという制約がありました。

忍者は任務のために、身に付ける衣服にも多くの機能性を求めました。より動きやすく、より多機能にというこだわりは身に付ける下着にまで及びます。姿を変え情報を集める際や、敵陣に潜入する変装の際にも、その職業ごとの衣服を用意していました。任務のために七方出をはじめとした多くの職業に姿を変えていたため、一般市民に比べて忍者の箪笥(たんす)の中には、実は多くの服が入っていたのかもしれません。

忍び装束

忍び装束をSNSでシェアする

「忍者の使った道具」の記事を読む


手裏剣

手裏剣
手裏剣は、忍者の用いる「忍具」のなかで、最も有名な物のひとつです。忍具のなかで、真っ先に手裏剣を連想する人も多いのではないでしょうか。時代劇など創作のなかではたびたび、両手を身体の前で水平に構えて擦るように手裏剣を連射する忍者の姿が描かれます。しかし実はあの打ち方(手裏剣は投げるではなく打つと表現する)は、創作が発祥で広まった誤った描写だということをご存知でしょうか?知っているようで意外と知らない手裏剣について、ご紹介していきます。

手裏剣

火器

火器
現代では、ワンタッチで着火できるコンロや、ポケットに収まるライターなど、便利に使える「火」。しかし当然ながら、忍者の活躍した戦国時代・江戸時代には、現代のように便利ではありませんでした。そのため忍者は様々な工夫をこらして、当時外国から伝来したばかりの火薬や火縄銃など最新兵器の扱いを学んだり、煙を風に負けないよう垂直に立ち昇らせる技術を確立したりすることで、忍者自身の活躍の幅を広げていきました。武器から逃走補助の忍具、伝達用の合図まで、忍者の隠密活動に重宝された火を使った「忍具」についてご紹介します。

火器

忍者刀

忍者刀
忍者の活躍した戦国時代、主に使用されていた武器は日本刀です。忍者も例外ではなく、任務中は日本刀を帯刀していました。忍者は隠密行動を生業としていたため、帯刀していた日本刀は特別な形状の「忍者刀」と呼ばれる物であったと言われています。しかし一方で、通常とは違う形状の日本刀を持ち歩けば周りに忍者という事が筒抜けになってしまうため、特殊な形状の忍者刀は存在せず、忍者も一般的な日本刀を使用していたという説もあります。忍者の道具(忍者刀)では、忍者刀に込められた工夫と、その用途についてご紹介します。

忍者刀

登器・水器・開器

登器・水器・開器
忍者は多様な忍具を駆使しながら敵陣に侵入して任務を遂行してきました。誰にも気付かれることなく家屋や城内に忍び込むために考え抜かれ、様々な機能を持った忍具の数々。忍者の活動を支えた様々な知恵や工夫の詰まった忍具をご紹介します。

登器・水器・開器

忍者の7つ道具

忍者の7つ道具
漫画や映画など現代の創作物のなかで、忍者は高い塀を軽々と跳び越えたり、木々の枝の上を飛び移って移動したりしています。そんな、ことさらに忍者の身軽さが強調されるシーンをみなさんも見たことがあるのではないでしょうか。実際には創作物のように助走もなしに何mも跳び上がることはできませんが、城や砦などに忍び込むことも多く、熟練者であれば1日に50里(約200km)を駆け抜けたと言われる忍者にとって、少しでも持ち物を減らし身軽になることは非常に重要。そのため経験則から「最低限持っていくべき忍具」が7種類挙げられるようになり、江戸時代に書かれた忍術書「正忍記」でもご紹介されています。そんな「忍者の7つ道具」についてご紹介します。

忍者の7つ道具

連絡道具・攻撃道具・逃走道具・携帯食

連絡道具・攻撃道具・逃走道具・携帯食
忍者は実に多様な忍具を駆使して、忍者は任務にあたっていたのです。取り上げてきた有名な忍具以外にも知恵と工夫の詰まった忍具がたくさんあります。忍者が使用したまだ紹介していない忍具についてご紹介します。

連絡道具・攻撃道具・逃走道具・携帯食