乗物の基礎知識

輿

文字サイズ

「日本書紀」などの文献に記された奈良時代から、江戸時代までの日本における「乗物」について、種類ごとにご紹介。時代の移り変わりや人々の暮らし、思想までを垣間見ることができる乗物には、どのような種類があるのでしょうか。 さらに、主として上流階級の人々の乗物であった「輿」(こし)について、そのタイプや装飾が持つ意味などを詳しく解説します。

輿の使い方

乗物には、様々なタイプがありますが、大きく分類すると4種類。

2本の棒の上に人が乗る屋形(やかた:人が乗る場所)がある「輿」(こし)と、1本の棒の下に屋形がある「乗物」(のりもの)と「駕籠」(かご)、また車輪の付いた屋形を動物が牽く「牛車」(ぎっしゃ/ぎゅうしゃ)の4つです。

駕籠と乗物の違いは、いまだはっきり分かっていませんが、使用者の身分が高く豪華な物を乗物、使用者の身分が低く質素な物が駕籠と考えられています。さらに、乗物の中でも身分の高い女性が乗る物を「女乗物」(おんなのりもの)と呼びました。

種類 形状
輿 2本の棒の上に屋形がある 輿
乗物 乗物
(男性)
1本の棒の下に屋形がある 豪華
(使用者の身分が高い)
輿
女乗物
(女性)
駕籠 質素
(使用者の身分が低い)
輿
牛車 車輪がついた屋形を動物が牽く 輿
女乗物写真集女乗物写真集
東建コーポレーション所蔵の「黒漆塗葵紋津山散蒔絵女乗物(津山松平家伝来)」を写真集でご覧頂けます。
文化財(美術品)の修復 女乗物文化財(美術品)の修復 女乗物
文化財(美術品)の保存として、女乗物「黒漆塗葵紋津山散蒔絵女乗物」の修復作業を解説と写真でご紹介します。

輿とは

輿とは、人の力で人や荷物を運ぶ「乗物の総称」を指しますが、主に2本の棒(轅:ながえ)の上に、人を乗せる屋形がある物を輿と言います。

輿の担ぎ方によっても呼び方が変わり、肩で担ぐ輿を「輦」(れん)と言い、腰のあたりで担ぐ輿は「腰輿」(ようよ)または「手輿」(たごし)です。

また、その輦を担ぐ者を「駕輿丁」(かよちょう)と言い、腰輿を運ぶ者を「力者」(ろくしゃ)、または「輿舁」(こしかき)と呼びます。

輿の種類と特徴

輿は、使用者の身分や格式によって、使用できる種類も異なりました。ここでは、輿の主な種類と特徴を紹介します。

名称(※格式順) 使用者 特徴 時代
鳳輦
(ほうれん)
天皇、皇后、斎宮 屋形の頂上に、金銅製の「鳳凰」の飾りを乗せている 古代~
明治初期
葱花輦
(そうかれん)
天皇、皇后、斎宮 屋形の頂上に、「葱花」(そうか:ねぎの花)の萌芽の宝珠を乗せている 古代~
明治初期
腰輿 四方輿
(しほうこし)
上皇、摂関、大臣以下の公卿や僧綱など 四方に簾がかかっている 鎌倉中期
網代輿
(あじろごし)
公家、親王、摂関、清華 屋形に模様が描かれている 平安後期
塗輿
(ぬりごし)
皇室、将軍、大名、門跡、公方、公家、上層の武家 屋形の表面を漆塗りにして、色を付けずに仕上げている 天正~
江戸時代
板輿
(いたごし)
天皇、公卿、大臣以下の公卿、僧綱など 漆塗りせず、屋根と左右両側を白木板で張り、前後に簾を掛けている 室町~
幕末
張輿
(はりごし)
将軍、大御所(将軍婦人)、女房、管領、評定衆、公家など 屋形と左右の両側を備後畳表で張り、割竹の押縁で押さえている 室町
小輿
(こごし)
斎王など 屋根がなく台座だけの輿で、四方に朱塗りの欄干を巡らしている
「輦」(れん)または「輦輿」(れんよ)
肩の上で担ぐ輿のことを総称して輦と言い、別名・輦輿とも言います。

そのうち、晴れの行事に使用される輦を「鳳輦」(ほうれん)、簡易な行事や外出時に使用される輦を「葱花輦」(そうかれん)と呼び、これらの乗物は天皇や皇后、斎宮のみ使用が許されていました。

「鳳輦」(ほうれん)
鳳輦

鳳輦

天皇の輿として、古代から明治初期頃まで使用され、主に天皇の即位や「大嘗会」(だいじょうえ)の御襖、「節会」や「御禊」(ごけい)、「朝勤行幸」などの晴れの儀式に用いられていた輿。

使用者は、天皇、皇后、斎宮に限られており、この鳳輦の形は現代の「神輿」(みこし)へと受け継がれました。

屋形や装飾は、天皇乗輿を象徴する最高の格式を表す物となっており、屋形の頂上に金銅製の鳳凰の飾りを乗せているところから鳳輦と言います。

「葱花輦/葱華輦」(そうかれん)
葱花輦

葱花輦

鳳輦と同様、葱花輦も天皇、皇后、斎宮に使用が限られており、主に天皇が儀式以外で外出をする際や、諸社寺行幸(春日大社[奈良県奈良市]・日吉大社[滋賀県大津市]の2社を除く)などに用いられました。

屋形の頂上には、葱花の萌芽をかたどった宝珠が乗せられていることから葱花輦と呼ばれています。

この時代、葱花は長い間花が散らず、その様が旺盛なことから、「邪気を払うめでたい花」と考えられ、縁起の良い飾りとして輦にも用いられました。

「腰輿」(ようよ)または「手輿」(たごし)
前後2人で、腰のあたりの高さまで手で持ち上げて運ぶ輿を総称して腰輿(ようよ)と言います。

主に天皇が宮中内の御方違行幸などに使用された他、内裏(だいり)炎上や地震の災害など、非常の場合の天皇乗用具としても使用。そののち、上皇、王臣、高僧なども使用するようになり、身分などによってつくりや装飾などが分けられ、様々なタイプの輿が登場しました。

「四方輿」(しほうこし)
四方輿

四方輿

杉・檜・竹などの細い薄板を、互いに編んだ網代を張り、四方に簾(すだれ)がかかっていることから四方輿と言われるようになったと伝えられていますが、名称の由来については諸説あり、「屋根の四隅に両眉という山形があるから」、「四方から乗り降りができるから」などとも言われています。

四方輿は、主に鎌倉中期頃から使われるようになり、上皇、摂政、大臣以下の公卿や僧綱(そうごう)などが、遠方に赴く場合に用いられました。

そのなかでも、僧侶の四方輿は、棟を高くして屋根を反らした「雨眉形」(あままゆがた)となっており、庶民が使用する四方輿は、棟を山形にした「庵形」(いおりがた)となっています。

「網代輿」(あじろごし)
網代輿

網代輿

青竹を薄く削って編んだ編代の屋形で、黒塗りの押縁(おしぶち:材料の端部がずれたり、はねたりしないように押さえる細長い部材)で留め、この上に色を塗って模様を描いた輿。

高級感のある輿で、平安後期より公家が牛車の代用として使用した他、武家の晴れの機会などに使用されました。

もともと腰のあたりで持つ腰輿タイプでしたが、室町時代以後は轅を長くして肩に担いだとも言われています。その後、親王、摂関、清華家でも網代輿を常用するようになりました。

「塗輿」(ぬりごし)
塗輿

塗輿

屋形の表面を漆塗りにして、色を付けずに仕上げた輿。

もともと木地に「春慶塗」(しゅんけいぬり)と言われる透明度の高い「透漆」(すきうるし)を塗り上げていましたが、江戸時代になると、「弁柄」(べんがら:酸化鉄のこと)など加えて溜塗(ためぬり)にしたり、黄色にする輿もみられました。

また、公家の輿には「庇」(ひさし)が付いた物、武家と僧侶の輿は、庇がない物を使用し、身分によって区別したのです。

塗輿は主に、天正時代頃から、皇室での内々の使用や将軍、大名、門跡、公方など、略儀用の乗物として広く用いられ、江戸時代になると大名や公家、武家の晴れの日に使用されるようになったと言われています。

「板輿」(いたごし)
板輿

板輿

漆塗りなどはせず、屋根と左右両側を白木板で張り、前後に簾(すだれ)を掛けた軽装の輿。

板輿のなかには、山坂や難所を登る際、屋形を外して、台座だけにして通行できる輿もあったとされています。

室町時代には、上皇や公卿、大臣以下の公卿や僧綱(そうごう:僧尼を管理する僧の官職)などが、旅をする際などに使用し、江戸時代になると、武士の参内などにも用いられました。幕末には、天皇も内々の行事などに使用したと言われています。

「張輿」(はりごし)
張輿

張輿

屋形と左右の両側を備後畳表で張り、割竹の押縁で押さえた略式の輿。

室町時代には、将軍、大御所(将軍夫人)、女房、管領、評定衆、公家など、幅広く使用されていました。

「吉記」や「太平記」などの文献から、罪人の公家を護送する際にも使用されたと記されています。

「小輿」(こごし)
小輿

小輿

屋根がなく台座だけの輿で、四方に朱塗りの欄干を巡らした物。

屋根がないため、運行する際は、従者が竿を釣って歩きました。

また、斎王が入京して難波に向かう際、法華八講会の講読師などが乗用したと言われています。

「塵取輿」(ちりとりごし)
小輿をさらに簡素にした輿で、屋形がなく、台座に長柄を付けただけの簡易な輿。簡素なだけに機能性は高く、主に、病人や捕人を乗せたり、武士が狩場や戦場で用いたりしました。

輿

輿をSNSでシェアする

「乗物の基礎知識」の記事を読む


乗物の歴史と女乗物

乗物の歴史と女乗物
日本の乗物は、奈良時代の「輿」(こし)から始まり、平安時代には貴族社会による「牛車」(ぎっしゃ/ぎゅうしゃ)を中心とした車文化が発達しました。 鎌倉時代から戦国時代にかけては、武家社会による輿や「騎馬」文化が主流となり、江戸時代に入ると「駕籠」(かご)文化へと移行。上級階級しか乗れなかった乗物が、庶民層まで幅広く使用されるようになりました。 ここでは、時代と共に変化してきた「日本の乗物」について、その歴史と特徴と共に、大名家の婚礼調度である「女乗物」(おんなのりもの)についてご紹介します。

乗物の歴史と女乗物

乗物と駕籠

乗物と駕籠
時代劇などで最も良く目にする乗物(のりもの)と言えば「駕籠」(かご)と、高級な駕籠である「乗物」ではないでしょうか。その種類は、利用する人の身分によって厳格に定められており、また目的や利用方法によっても呼び方が変わりました。乗物と駕籠の違いについて、そして種類ごとの特徴などを詳しく解説していきます。

乗物と駕籠

車/牛車

車/牛車
「乗物」(のりもの)には、人が担ぐ、または腰の高さに手で提げるタイプの他に、車輪が付いて動物が牽くタイプがあります。これらは主に上流階級の者が使用し、風雅な装飾が施されていました。「車」または「牛車」(ぎっしゃ/ぎゅうしゃ)と呼ばれるこれらの乗物には、どのような種類があり、どんな目的で用いられたのでしょうか。

車/牛車

注目ワード
注目ワード