戦後生まれの刀剣小説家

東郷隆

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『戦国名刀伝』『本朝甲冑奇談』など独自の視点で歴史・時代小説を書く東郷隆(とうごうりゅう)。その物語は、海音寺潮五郎の母校でもある國學院大學に学んだ経歴と武器マニアである卓越した知見に支えられています。「鎧や城と同様、刀は嘘をつかない」を信念とし、膨大な古文書を紐解きながら武具から歴史を見つめ直す視点が貫かれています。

武器マニアから吉川英治文学新人賞受賞へ

東郷隆は國學院大學経済学部に学びます。卒業後、同大學文学部の博物館学助手として働きながら模型サークル活動を行ないます。戦車に関する記事の執筆をきっかけにエアガン雑誌『コンバットマガジン』の編集者に。その後、軍事ノンフィクションで作家デビューしました(1982年)。

そして、映画『007』シリーズをパロディとした小説『定吉七番』シリーズ(1985年~)を発表します。同シリーズは家庭用ゲームにもなりました(1988年)。

大砲松

大砲松

以後、人気の戦車T-55を主人公に書いた『ヘルガ』シリーズ(1988~1990年)、短編3作を収録した幻想歴史小説集『人造記』(1990年)。自身初の長編伝奇時代小説『打てや叩けや 源平物怪合戦』(1991年『週刊新潮』連載)を経て、反新政府集団・彰義隊に入隊し、大砲掛となる町人を主人公とした歴史・時代小説『大砲松』(1992~1993年『小説現代』連載)で第15回吉川英治文学新人賞を受賞しました(1993年)。

歴史・時代小説の執筆は、当時の同ジャンルでの考証を軽んじた風潮に対し、博物館学を学んだ経験からきちんと時代考証を踏まえたものをという考えがあったと言います。

家庭用ゲーム『信長の野望』を背景にした織田信長ブームを後押し

架空戦記 信長 覇王の海

架空戦記 信長
覇王の海

東郷隆は吉川英治文学新人賞受賞以前、織田信長を中心とした人気の歴史シミュレーションゲーム『信長の野望』シリーズのメディアミックスにもかかわります。

『信長の野望 覇王の海上要塞』(1991年:文庫化の際『架空戦記 信長 覇王の海』改題)と『信長の野望 覇王激闘 謙信の挑戦』(1992年:文庫化の際『続・架空戦記 信長 覇王暗殺』改題)を執筆しました。

遡れば織田信長の記述は、織田信長・羽柴(豊臣)秀吉が生きた戦国時代に来日したイエズス会宣教師ルイス・フロイスが記した『日本史』、織田信長・羽柴(豊臣)秀吉の家臣だった太田牛一が江戸時代初期に記した『信長公記(しんちょうこうき)』に基づきます。

20世紀に入り、満州事変以降、戦国武将が見直され、織田信長に関する小説も増加します。第2回直木三十五賞受賞者・鷲尾雨工は映画『織田信長』(1940年)の原作と全12巻の『歴史小説 安土桃山 織田信長』(1941年)を発表。坂口安吾は鉄砲を導入した織田信長を称賛した短編「鉄砲」(1944年)を発表しました。

戦後は、坂口安吾が未完となった『織田信長』(1952年)を書き先鞭を着けました。

晩年を迎えていた坂口安吾は、戦中戦後のこの時期、中編「黒田如水」(1944年:単行本時『二流の人』改題)、評伝『家康』(1947年)、斎藤道三の一代記を書いた短編「梟雄」(1948年)、短編「小西行長」(1952年)、豊臣秀吉の最期の回想を書いた短編「狂人遺書」(1955年)などを書き、戦国時代に取り組んでいました。同時期には、大佛次郎も初の歌舞伎脚本となる『若き日の信長』(1952年)を上演し、のちに同作は映画化(1959年)・テレビドラマ化(1961年)されます。

以後、山岡荘八の長編『織田信長』(1955~1960年)、のちに『炎の柱 織田信長』と改題された大佛次郎『炎の柱』(1962年)、新田次郎の短編「梅雨将軍信長」(1964年)、司馬遼太郎『国盗り物語』(1966年)、南条範夫による書き下ろし『織田信長』(1969年)などが続き、織田信長のイメージが決定されました。吉川英治『新書太閤記』原作による第3作目NHK大河ドラマ『太閤記』(1965年)、司馬遼太郎原作による第11作目NHK大河ドラマ『国盗り物語』(1973年)も後押ししました。

その後は歴史シミュレーションゲーム『信長の野望』シリーズ(1983年~)の爆発的な人気と、山岡荘八原作による横山光輝の漫画版『織田信長』(1985年)で、再び織田信長が脚光を浴びることになります。それらゲームと漫画の人気直後にスタートした新聞連載、津本陽が織田信長の生涯を記した歴史・時代小説『下天は夢か』(1989年)もベストセラーになりました。

また、織田信長生誕450年を記念して、織田信長サミットが始まったのもこの時期です(1984年~)。第1回は滋賀県近江八幡市(当時・安土町)で開催されました。

戦国時代の名刀にまつわる物語集

戦国名刀伝

戦国名刀伝

以後も、源平争乱時を背景に脇役を書いた短編集『終りみだれぬ』(1994年)、赤穂事件や新徴組などからさらに脇役を書いた歴史異聞短編集『南天』(1995年)、人と鉄砲を書いた連作短編集『本朝銃士伝』(1996年:文庫化の際『銃士伝』改題)などの歴史・時代小説が続きます。

そして、短編集『にっかり 名刀奇談』(1996年)を発表します(1994~1996年『小説歴史街道』『小説新潮』不定期掲載)。文庫化の際『戦国名刀伝』と改題された同作には、「にっかり」「すえひろがり」「竹俣」「かたくり」「このてがしわ」「伊達脛巾」「石州大太刀」「まつがおか」の8つの短編が収録されました。

「にっかり」は、刀剣鑑定を担う本阿弥家が編纂した『享保名物帳』のうち豊臣家の不思議な刀剣名(骨喰・一期一振・鐺通・登り竜・義元左文字・にっかり青江)からにっかり青江の逸話。

「すえひろがり」は、備前福岡城の城主・浦上則宗と浦上則国に仕えた鍛冶師で武人でもあった長船勝光と長船宗光の逸話と、刀工・備前長船祐定の生涯。

「竹俣」は、刀剣収集家だった上杉謙信が備前長船兼光を好んだとされる史実を導入に、上杉謙信の後継者・上杉景勝の時代に豊臣秀吉に召し上げられることになる竹俣兼光の逸話。

「かたくり」は、上杉景勝の手から竹俣兼光が豊臣秀吉に召し上げられるきっかけとなった竹俣兼光偽造事件(主犯は京の刀工・越中守正俊とも言われる)の逸話。

「このてがしわ」は、足利家・織田信長・豊臣秀吉・徳川家康と渡り歩いた文人武将・細川幽斎(塚原卜伝に教えを受けた剣客であり、『古今和歌集』の解釈を教える「古今伝授」の継承者でもあった)の生涯と愛刀・手掻包永(児手柏:室町幕府第12代将軍・足利義晴から拝領)の逸話。

「伊達脛巾」は、豊臣秀吉と伊達政宗の応酬を軸に、豊臣秀吉が所望した鷹への返礼としての太刀・鎺(はばき)国行の逸話を、伊達政宗の愛刀・備前景秀(くろんぼ切景秀)や伊達政宗が気軽に部下に報奨として与えた備前長船兼光(芦名兼光)の史実にもふれながら。

「石州大太刀」は、大山祇神社愛媛県)に納められている千手院長吉・伝豊後友行・石州住人和貞などの大太刀のうち、尼子氏家臣・山中鹿介幸盛(鹿之介)が奉納したとされる石州住人和貞(石州大太刀)と、山中鹿之介の織田信長ゆかりの荒見国行の逸話。

「まつがおか」は、豊臣秀吉の勇将・賤ヶ岳の七本槍の1人として名を成す加藤嘉明の生涯を、備前長船長義を手にした幼馴染の影武者とからめた逸話として。

いずれのエピソードも膨大な古文書に基づき記されました。

足利尊氏と備前長船派

『戦国名刀伝』では備前長船派が何度も登場します。

東郷隆は、備前長船派の祖とされる備前長船光忠とその孫・備前長船兼光と足利尊氏との関係にふれ、その背景をこう記しました。

備前の国は平安の時代から刀剣の産地として栄えてきた。同国の吉井川上流で採取される良質な砂鉄、木炭が川を下って岩戸・和気・吉井・吉岡・長船・福岡の辺に陸揚げされ、ここで製品となる。
中でも長船は鎌倉の半ば、豪壮な作風で知られる光忠が登場して以来大いに作刀技術が進み、質・量ともに他を圧倒した。そして、南北朝の頃には、長船物が備前刀の代名詞になり、「備前国長船住人某」と銘の入った刀剣を所持することが武士の自慢ともなった。
正平五年(一三五〇)足利尊氏は、九州で勃発した反乱を鎮圧するため西下し、十一月から翌年初めまで備前福岡の城に滞在した。この間のことである。尊氏は近隣に住む長船派の正系兼光を呼んで作刀を命じている。

「すえひろがり」『にっかり 名刀奇談』より

戦国時代の時代考証に取り組む絵解き集

絵解き 戦国武士の合戦心得

絵解き 戦国武士の合戦心得

東郷隆はあまり注目されることのない脇役とも言える存在を取り上げることで、より生き生きとした歴史を変わらず書き続けています。

豊臣秀吉に仕えたのち茶人となった金森宗和(かなもりそうわ)を主人公にした短編集『洛中の露 金森宗和覚え書』(1992~1997年『小説新潮』不定期掲載)。政治とは無縁ながら幕末を生きた人々を書いた8作の短編集『幕末袖がらみ』(1998年)。真田十勇士のなかでも脇役・怪力僧の三好清海入道を主人公とした『おれは清海入道』(1996~2000年『小説すばる』連載。文庫化の際 『おれは清海入道 集結!真田十勇士』改題)。などが続きます。

脇役への視線は微細へのこだわりにも通じ、イラストと併せた時代考証にも取り組むことになります。

光栄(現・コーエーテクモゲームス)の投稿雑誌掲載原稿に基づく『歴史図解 戦国合戦マニュアル』(2001年:文庫化の際『絵解き 戦国武士の合戦心得』改題)、文庫書き下ろし『絵解き 雑兵足軽たちの戦い』(2007年)、『ビジュアル合戦雑学入門 甲冑と戦国の攻城兵器』(2014年~『月刊アーマーモデリング』連載中)を発表しました。戦争イラストを得意とした小松崎茂の最後の内弟子・上田信がイラストを担当しています。

戦国時代の女性の物語集

戦国姫武者列伝 黒髪の太刀

戦国姫武者列伝 黒髪の太刀

脇役への目配せは女性にも及び、短編集『女甲冑録』(2006年)も発表します(1999~2002年『オール讀物』不定期掲載に書き下ろし)。文庫化の際、『戦国姫武者列伝 黒髪の太刀』と改題されました。

「黒髪の太刀」では、宇喜多直家と小早川隆景らに攻略された三村元親(備中松山城城主)の妹で上野隆徳(常山城城主)の妻・鶴姫。「天寇」では、木曾義仲の愛妾・巴御前。「朱の面頬」では、今川義元の遠縁の娘で飯尾連竜(のちに徳川家康に浜松城と改称される引馬城の城主)の妻・田鶴姫。「忍城の美女」では、石田三成が指揮した忍城の戦いを耐え抜いた成田氏長(忍城城主)の娘・甲斐姫。「青黛」では、豊臣家家臣・富田信高(安濃津城城主)の妻・ゆきの方(宇喜多忠家の娘)。「つる姫奮戦」では、大祝安用(大山祇神社大祝職)の娘で大三島水軍を先導したと伝承される鶴姫。

それぞれ歴史に名を残す女性達を主人公にして書きました。

新田次郎文学賞受賞・近代小型銃の物語

狙うて候 銃豪 村田経芳の生涯

狙うて候 銃豪 村田経芳の生涯

そして、『狙うて候 銃豪 村田経芳の生涯』(1995年、2002~2003年『週刊小説』『月刊ジェイ・ノベル』連載)で、第23回新田次郎文学賞を受賞しました(2003年)。

同作では、薩摩藩第11代藩主・島津斉彬に取り立てられた藩士で、日本初の近代小型銃を開発した村田経芳(むらたつねよし)の生涯を記しました。

舟橋聖一文学賞受賞・甲冑を巡る物語集

新田次郎文学賞受賞の9年後、東郷隆は第6回舟橋聖一文学賞も受賞します(2012年)。

本朝甲冑奇談

本朝甲冑奇談

受賞作は短編集『本朝甲冑奇談』(2012年)です(2005~2010年『オール讀物』不定期掲載に書き下ろし)。「しぼ革」「モクソカンの首」「角栄螺」「小猿主水」「甲試し」「金時よろい」の6編が収録されました。

「しぼ革」では、織田信長が上杉謙信との交際のために送るしぼ革(牛や馬の革に漆をかけて細かい皺を作った物)の鎧・甲冑(鎧兜)。「モクソカンの首」では、宇喜多直家・宇喜多秀家の家臣・岡本権之丞が出征した朝鮮攻めで手にする洋式兜。「角栄螺」では、蒲生氏郷から報奨として角栄螺の兜を受け取る岡左内の生涯。「小猿主水」では、仙石権兵衛に仕えた谷津主水の猿面甲冑。「甲試し」では、加賀で甲冑師となりその後は彦根で刀工となった長曽禰入道興里の生涯。「金時よろい」では、井伊の赤備えで知られる井伊直政ゆかりの甲冑の幕末における終焉(芸州口の戦い)。それらの題材を膨大な古文書に基づき記しました。

甲冑集団春田派を記す

『本朝甲冑奇談』では、室町時代末期から大和国(奈良)を拠点とした甲冑師集団の春田派について度々ふれています。

東郷隆は春田派の甲冑の特徴を次のように記しました。

信長はしゃがみ込んで、その出来具合を子細に点検した。
兜は奈良甲冑師春田派が得意とする阿古陀形(前後が大きくふくらんだ甜瓜型の鉢)。錣は笠。錣胴は盛上小札を整然と合わせ、通常の例より僅かに腰すぼまり。草摺は八間で端の撓が強い。籠手は手甲が鯰頭。膝を覆う宝幢佩楯。大立挙の臑当てには、ふくらはぎを守るためのよぼろ鉄まで付属している。全体は目のさめるような赤糸で威され、端正だが古風な雰囲気だった。

「しぼ革」『本朝甲冑奇談』より
*錣は原文では革へんに毎

人気漫画『センゴク』の原作協力も

作家デビュー時期から、家庭用ゲームなど若者文化との接点の近かった東郷隆は、戦国時代を舞台にした青年漫画の原作協力も行ないます。仙石権兵衛秀久を主人公とした宮下英樹の漫画『センゴク』です。

センゴク兄弟

センゴク兄弟

同漫画が人気となるなかで東郷隆は、主人公とその兄の若き頃を『センゴク兄弟』(2009年)として書き下ろしました。続いて兄・仙石新八郎久勝を主人公とした『センゴク剣法』(2013年)も書き、漫画化もされました(作画・細川忠孝)。

漫画『センゴク』連載中に宮下英樹は、今川治部大輔(じぶだゆう)義元を主人公とした『センゴク外伝 桶狭間戦記』を描いています。外伝では、織田信長の祖父・織田弾正忠(だんじょうのちゅう)信貞とその子・織田弾正忠信秀を商才に長けた戦国武将とし、米よりも銭を重んじたと強調されます。

東郷隆は同漫画と同様の視点で、織田信秀の前半生を『青銭大名』(2011年『朝日新聞』連載)として書きました。その際、織田信秀と織田信長、のちには徳川家康に仕えたとされる軍配者・意足法師(伊束法師)を主人公にしたのも東郷隆らしさです。

真田一族にも独自の視点で挑む

真説 真田名刀伝

真説 真田名刀伝

東郷隆は、岡本綺堂長谷川伸子母澤寛山手樹一郎海音寺潮五郎柴田錬三郎池波正太郎などの古典とされる歴史・時代小説家が生み出した手法にも挑みます(『御町見役うずら伝右衛門』シリーズ、『いだてん剣法 渡世人瀬越しの半六』、『とげ抜き万吉捕物控』シリーズ、『御用盗銀次郎』シリーズ、『九重の雲 闘将桐野利秋』、『悪いやつら 謀将・宇喜多直家』、『我餓狼と化す』など)。

並行してこれまで同様に無名の人々も描きます(『初陣物語』『忍者物語』など)。

NHKスペシャルドラマやNHK大河ドラマの放送時期に合わせた同時代の話題性ある題材にも取り組みます(『魁偉なり 広瀬武夫伝』『真説 真田名刀伝』など)。第55作目NHK大河ドラマ『真田丸』の時期には、『真説 真田名刀伝』(2016年)を書き下ろしました。同作では、真田3代の親族・海野氏にゆかりの深い名刀・茶臼割りを軸に物語が紡ぎ出されました。

英雄よりも脇役を取り上げ、そして何より武具を好む東郷隆。「鎧や城と同様、刀は嘘をつかない」と述べた信念によって、刀剣・日本刀が書かれ続けています。

著者名:三宅顕人

東郷隆

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