現代のしきたり・風習

賜剣の儀と守り刀の風習

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皇室では、子どもが生まれると天皇陛下から「守り刀」が贈られる皇室行事があります。その行事は「賜剣の儀」(しけんのぎ)と呼ばれ、贈られる刀剣を制作することは刀匠にとっても名誉なことです。守り刀の風習を中心に、源義経の守り刀の言い伝えもご紹介します。

皇族はすべての方が刀剣をお持ちになる

守り刀

守り刀

皇族に子どもが生まれると、天皇陛下から健やかな成長を願って、「守り刀」が贈られます。これは「賜剣の儀」(しけんのぎ)と言われる皇室行事で、通常は誕生した当日あるいは翌日に行なわれる行事です。

皇室では子どもが誕生すると多くの儀式が続きますが、賜剣の儀は誕生後に最初に実施される儀式。皇室の一員として皇統譜(こうとうふ:天皇及び皇族の身分に関する事項を記載する帳簿)に名が記載される「命名の儀」よりも早く、重要な行事と位置付けられています。

賜剣の儀で贈られる守り刀は、人間国宝無鑑査刀匠など名だたる刀匠が制作に当たることが多く、刀匠にとっても名誉なことです。作られた刀身白鞘に入れ、赤い錦の布で包んで御紋がついた桐箱に収め、それを天皇の勅使が代行して新宮(生まれた子ども)の枕元に置くことが慣例となっています。

生まれた子どもが女の子の場合は、守り刀と一緒に袴も贈られ、この袴は数えで5歳のときに行なわれる「着袴の儀」(ちゃっこのぎ)で使用されます。なお皇族は、すべての方が男女ともご自身の守り刀を所持されています。

皇室は古くから刀剣と深いかかわりがあり、皇太子が皇位を継承して新しく天皇になる場合は「剣璽等承継の儀」(けんじとうしょうけいのぎ)が行なわれ、剣璽(けんじ:宝剣と神璽)・御璽(ぎょじ:天皇の御印)・国璽(こくじ:大日本国璽と刻された国印)が継承され、宝物のなかに剣があることが示されています。

また、皇室の所有物とされる「御物」(ぎょぶつ)には、多くの日本刀が含まれていることから、皇室が日本の刀剣を重んじる精神が窺えます。

皇室・公家に関連する刀剣の歴史などをご紹介します。

武家の時代から伝わる守り刀

守り刀と花嫁

守り刀と花嫁

武家社会は男性優位の世界で、女性は弱い者とされてきました。武家で子女が生まれた際に、魔除け、邪気払い、様々な病気などから身を守るためのお守りとして短刀を与えていました。これを守り刀と言います。

また、娘を嫁に出す際に、新しい人生の門出として、花嫁を様々な災難から守るためのお守りとして短刀を持たせたこともありました。

これら守り刀は通常、5~6寸(約15~18cm)の短い物で、女性の帯から少し出る程度の長さです。戦国時代に主君が死んだあとに、正室である女性が自害する場合も、親から贈られた守り刀を使用したようです。

時代が明治になると廃刀令が施行され、刀剣類の所持は規制されました。現在は銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)による規制があるため、守り刀の風習は次第に風化していったようです。

刀剣に関する基礎知識をご紹介します。

死者を弔う守り刀

守り刀は子女のお守りの他にも、人が亡くなった場合に、亡くなった方の胸元や枕元に置いたりもします。これは戦などで武士が亡くなったときに、胸元に刀を置いていた名残で、死者の穢れを、生者に移さないという意味があります。

昔は遺体を自宅などで安置して葬儀をすることが一般的でした。守り刀の置き方は、まず北枕で寝かし、持ち手を亡くなった方の頭側、刃先を足元に向くように置きます。短刀がない場合は、鎌や包丁、はさみなど日常に使っていた刃物が代用されることもありました。

現在ではこうした風習はほとんど見られなくなりましたが、遺族の希望によっては、葬儀社が模造品や葬儀専用の刃物を用意して、守り刀の風習をそのまま行なうこともあります。

浄土真宗のように守り刀を使用しない宗派もあります。浄土真宗では、人は亡くなってすぐ浄土に往生し、仏になるという「往生即成仏」(おうじょうそくじょうぶつ)の教えから、守り刀は使わないとされています。

守り刀を購入するときは登録証が重要

日本人は古くから刀剣には神が宿ったり、悪霊を退散させたりすると神格化してきました。邪気や災厄を払い、健康や運を呼び込みたいという思いから、刀がお守りになったようです。そうした日本古来の風習や刀剣にこだわっている人も数多くいるため、守り刀に憧れを持っている人も少なくありません。

守り刀が欲しい人は、自由に購入したり所有したりすることができます。守り刀の制作をしたい場合は刀剣店に相談することが確実です。作る短刀の大きさからなどいろいろアドバイスをしてくれます。新たに作るとなると30~50万円で、有名な刀匠ともなると価格は一気に跳ね上がります。また家紋を入れたり、布袋を豪華にしたりするとさらに価格は変わってきます。製作期間は1年くらいかかるのでお祝いごとなどの場合は、早めに依頼することが大切です。

銃砲刀剣類登録証

銃砲刀剣類登録証

刀工によって作られた日本刀には必ず「銃砲刀剣類登録証」が付いてきます。日本刀は銃と違って刀その物に登録証が付いているため、誰が所有しても良いことになります。日本刀を入手した日から20日以内に「所有者変更届出書」に必要事項を記入し、「銃砲刀剣類登録証」のコピーを添付して各都道府県教育委員会に届け出ます。

なお、本物の守り刀は高価だからと言って模造刀を購入する場合は、登録証は付いていません。

銃砲刀剣類登録証を提出 都道府県教育委員会一覧銃砲刀剣類登録証を提出 都道府県教育委員会一覧
刀剣類の購入や譲渡・相続の際には、名義変更届を教育委員会に提出します。お住まいの地域からお探し下さい。
全国の刀剣商(刀剣買取・販売店)リンク 全国刀剣商業協同組合加盟店全国の刀剣商(刀剣買取・販売店)リンク 全国刀剣商業協同組合加盟店
日本全国の刀剣商(刀剣買取・販売店)リンクを一覧でご覧頂けます。

名刀と言われた源義経の守り刀

源義経

源義経

守り刀として有名な物に源義経が所用したとされる「今剣」(いまつるぎ)があります。

源義経は平家討伐で名高い武将です。その源義経がまだ幼名の牛若丸だった頃、鞍馬寺に預けられ、3年間ほど過ごしました。子どもの頃から非凡な才能を持っており、周囲からは「この子は立派な僧侶になる」と期待されていました。

しかし牛若丸は、自分が源氏の血筋を引いていることを知ると、平氏を討ち破ることへの願望が強くなり、僧侶ではなく武士として生きることを誓います。そして寺のみんなの引き留めを拒み、寺を出ることを決意しました。

牛若丸が旅立つ日、寺の別当(寺務を統括する長官に相当する僧職)であった蓮忍(れんにん)が、1振の短刀を牛若丸に渡しました。この短刀は、平安時代に名匠と呼ばれた三条小鍛冶宗近(さんじょうこかじむねちか)の作で、宗近自身が鞍馬寺に奉納した物でした。

蓮忍はその短刀に今剣と命名し、牛若丸に授けたと言われています。蓮忍は牛若丸の優れた才能や有望な前途を思い、寺に伝わる名刀に源義経の身の安全を託したのでしょう。牛若丸は源義経となったあとも、この今剣を常に鎧の下に忍ばせ、肌身離さず携えていたそうです。

鞍馬寺を出た源義経は、武芸の鍛錬に励み、兄の源頼朝とともに平家討伐に立ち上がり、次々と功績を挙げました。そして壇ノ浦の合戦で勝利し、見事平家を討ち破ることに成功しました。

しかしこれを機に源頼朝との関係は悪化。源義経は源頼朝から迫害を受け、最終的に奥州平泉で自刃するという最期を遂げたのでした。その自刃の際に使われた刀が、蓮忍から授けられた今剣だったと言われています。今剣はその後どうなったか今でも所在は不明です。

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