武士の風習と日本文化のルーツ
江戸時代における武士の仕事
武士の風習と日本文化のルーツ
江戸時代における武士の仕事

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武士の仕事と聞いて何を思い浮かべますか?日本刀(刀剣)を振るう武士は、合戦の主役と呼べる存在でした。しかし、江戸時代になり合戦がなくなったとき、武士はどのような仕事をしていたのでしょうか。また、仕事は忙しかったのでしょうか?江戸時代の武士の仕事について解説します。

老中の登城

老中は幕閣(幕府の最高首脳部)のトップの役職であり、譜代大名(関ヶ原の戦い以前から徳川氏に臣従した者)が務める権威ある役職でした。老中は朝四ツ(10時くらい)までに登城、下城は昼八ツ(14時くらい)。この老中の出勤・退出がすべての基準になっていました。

城下にもこの習慣は適用されていて、寺子屋の子どもでさえも朝四ツ上がりの昼八ツ下がりと言って、同じ時間帯で行動をしていました。老中の登城の際に城内で太鼓を打つことから、市中にもその習慣が広まったと考えられています。

幕府役人の登城

江戸城

江戸城

江戸城は明け六ツ(6時くらい)に開門し、暮れ六ツ(18時くらい)に閉門しました。

勤務時間はまた別で、役職ごとに一定していませんが、大体は老中と同じ朝四ツ上がりの昼八ツ下がりが基本でした。当番と非番があるので、数番に分けて執務をします。

宿直当番の場合は、昼七ツ(16時くらい)から明け六ツ(6時くらい)が勤務時間となっていました。

儀式のときは登城

格式を重んじる武士にとって儀式も大切な仕事です。年中行事という年間を通してするべき行事が決まっており、上司への挨拶や行事は多数。行事ごとに登城して儀式を仰々しく、滞りなく済ませることが重要視されていました。大名が登城するのは、年頭・五節句(※)・月の決まった日となっています。

※五節句とは1月7日の人日(じんじつ)の節句、3月3日の桃の節句、5月5日の端午の節句、7月7日の七夕、9月9日の重陽の節句であるこの5つの節句のこと。

武士の階級における貧富の差

江戸時代、江戸には多くの武士が住んでいました。大きく分けると、幕閣の要職に就く大名と将軍直属の幕臣の2つに分けられます。幕臣の種類は、旗本(将軍に謁見できるお目見え以上)と御家人(将軍に謁見できないお目見え以下)の2種類で、同じ幕臣でも大きな差がありました。幕臣の数としては、旗本が約5,200人、御家人が約17,000人であったと言われています。

旗本は1万石以下200石以上の幕臣であり、1,200石以上を大身旗本(たいしんはたもと)と言いました。旗本のなかにも階級があり、奉行や番頭(ばんがしら)などの管理職に就ける上級の旗本と、組頭・与力といった中間管理職的な役職に就く下級旗本などに分けられていました。

要職としては、5,000石相当の御側衆・御留守居・大御番頭や、4,000石相当の御書院番頭・御小姓番頭。3,000石相当の大目付・町奉行・御勘定奉行や、2,000石相当の御旗奉行・御作事奉行・御普請奉行などになります。

要職ごとに石高が決められていましたが、享保の改革の一環として、例えば2,000石の者が4,000石の要職に任命されると2,000石を足してもらえる「足高の制」が制定されました。有能な者を抜擢するための制度として活用されましたが、役の任期が切れるとまたもとの石高に戻ります。

御家人はお目見え以下ということで、旗本からは格下の差別的な扱いを受けることも多く、組士や同心といった平社員のような職務でした。それでも、職があるだけまだ良い方です。本来は職業軍人である幕臣達は、戦がない限りすることがありません。平和な時代の幕臣達の数は、幕府の職業数よりはるかに多く、小普請組(こぶしんぐみ)という、非役の職に編入されていた武士も多くいました。

小普請組は10組ほどあり、それぞれに小普請支配が1名いて、月に3回の面会日に無役の小普請組の者達が就職活動をします。小普請支配に就職をあっせんして貰えれば、御番入りがかなって無事就職と言うことになります。

武士の経済状況

武士の職務

武士の職務

幕臣には知行と言う代々の決まった俸禄(大名に仕えた者が受ける給与)があり、石高で示されます。この知行は江戸幕府始まって以来、変わることがほとんどありませんでした。

戦がない限り、報償としての知行は増えません。知行は増えませんが、職務によっては相応の手当てがもらえる一方で、無役でいることはかなり苦しい経済状態になります。上級の役職に就けば、職務手当や付届けなどの副収入で経済的に潤いましたが、一部の武士だけです。

無役の職務として小普請組があります。小普請組には無役の下級旗本などが組み込まれていました。本来は、屋根瓦や石垣などの補修工事をする役職ですが、実際にはそのような仕事は行なわないため、役がない=無役と言われるのです。そのうえ、無役であるにもかかわらず補修工事での労役をさせない代わりに、小普請金と言う割り当てが強制されていました。無役の上に割り当て金を出させる制度まであったのです。

戦のない平穏な江戸時代が長くなるにつれ武士の活躍の場はなくなりました。褒美としての俸禄アップは望めない時代が続いたのです。その上、貨幣経済の発展により、江戸時代初期の頃とは比べ物にならないくらい国全体の生活の質が上がっていきます。武士にとって江戸時代初期に設定された俸禄では足りなくなっていったのです。御家人や石高の低い旗本は大変苦しい生活を強いられていました。それでも武士であることはやめられません。

そのため、旗本や御家人になりたい裕福な町人や百姓が、大金を持って養子に入り、養子として武家を相続し、もとの武士の家族は家を明け渡すと言う武士株売買も行なわれていました。武士達は、苦しい生活を強いられているものの、武士であることは、町人や百姓にとってあこがれのステータスだったのです。

武士の仕事内容

武士の仕事は、現代のように時間に追われ、夜遅くまで残業するといった忙しさはありません。仕事の量に対して、武士の数が多すぎたのがその理由と言われています。江戸城の警備と雑務を担っていた番方の御家人は、仕事を1日したら2日休み、というサイクルでした。

その他にも月1回や週1回の職務もあり、平素の武士はかなりの余暇がありました。上級の武士達は、余暇に学問、武芸の鍛錬、趣味の時間にあてていましたが、下級旗本や御家人のほとんどは、その余暇に内職をして生活費を稼いでいました。

手習いの内職

手習いの内職

では、どのような内職を行なっていたのでしょうか。それはあくまでも金儲けではなく、他家に行儀作法を教えに行ったり、代書をしたりと、武士の面目も立てながらの内職でした。

また、屋敷の一部を町方の者に貸すことで、賃料を副収入として得ている御家人も数多くいたのです。

時代劇で傘張りをしている武士を見かけますが、提灯張りも内職として行なわれていました。売るために花や植木を育て、虫や小鳥も内職のために飼われています。

江戸時代までは転職が普通だった武士の文化

忠義を第一とする武士であっても、最初から最後までひとりの主君には仕えていません。戦国時代では、二君以上に仕えた武将は数多くいました。戦乱の時代までは、主君の敗戦や、主家の滅亡などによって浪人しても、能力ある家臣を探していた戦国大名への再就職はある程度容易であったという時代背景があります。大坂夏の陣で豊臣家が滅亡したことにより、大量の浪人が発生し、仕官かなわぬ武士が多くでました。大名も家臣を増やしたところで、戦をする時代ではなくなっていたからです。

それでも、江戸時代を通して、有能な武士を再雇用する大名もおり、岡山藩主池田光政に仕えた熊沢蕃山(くまざわばんざん)、5代将軍徳川綱吉に仕えた木下順庵、6代将軍徳川家宣に仕えた新井白石らは、転職し出世を叶えた類まれなる才能と運の持ち主だったのでしょう。

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