2000年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

オノ・ナツメ

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【ACCA13区監察課】、【リストランテ・パラディーゾ】などで知られるオノ・ナツメ。外国を舞台にライトなタッチによる独自の画風が特徴のオノは、時代劇も描いています。オノは子供の頃にテレビ時代劇に夢中になりました。そんなオノの刀剣漫画では、刀剣・日本刀に象徴される侍の身分への問いかけが描かれます。

オノ・ナツメ【さらい屋 五葉】に至るまで

オノ・ナツメは、小野夏芽名義での同人活動後、イタリア語で「5番目の部屋」を意味する【LA QUINTA CAMERA(ラ・クインタ・カーメラ)】(2003~2004年〔COMIC SEED!〕連載)でデビューしました。

デビュー作の掲載媒体は、世界初の完全無料WEBコミックが謳われていました。オノ・ナツメのイタリアでの語学留学体験に基づいた同作では、独身中年男性4人が暮らすとあるアパートを舞台に群像劇が描かれました。

その後も外国を舞台に独自設定の作品を発表します。アメリカを舞台にした殺された青年とその親友の同性愛者の小説家の物語【not simple】(2004~2005年〔COMIC SEED!〕連載)。

ローマの小さなリストランテを舞台に従業員がすべて老眼鏡着用の紳士という群像劇【リストランテ・パラディーゾ】(2005~2006年〔マンガ・エロティクス・エフ〕連載)などです。

リストランテ・パラディーゾは連載終了の3年後にテレビアニメ化され、オノ・ナツメの最初の代表作となりました(2009年)。

オノ・ナツメのデビュー時期は、BL(ボーイズラブ)、腐女子、中年男性(オヤジ、カレセン、オジサマ)、メガネ男子などの言葉が漫画好き以外にも広く知られていく時期にあたります。

オノ・ナツメは別名義bassoで、BLに特化した作品も描いています。

オノ・ナツメの刀剣キャラ① 臆病な剣客浪人・秋津政之助

続いてオノ・ナツメは時代劇を描きます。

【さらい屋 五葉(ごよう)】(2006~2010年〔月刊IKKI〕連載)です。物語の舞台をイタリアか江戸時代かと思案した結果、これまで描いていなかった江戸時代を選択したと述べています。

同作は連載終了の年にテレビアニメ化され、オノ・ナツメの名前がさらに広く知られることになります。

主人公は、浪人・秋津政之助(あきつまさのすけ)です。秋津政之助は剣の腕はあるもののあがり症の性格が災いして、その実力を発揮できません。

城代家老の秋津家の分家という身分から江戸務めの仕事に就くことができるも、仕事に馴染めず、その性格を改めようと離藩します。

長屋暮らしの浪人となり、口入屋(仲介・斡旋業者)の紹介で用心棒を始めます。けれどもやはりその頼りなさから長く信頼されません。

ところが、闇夜での人目につかない場所での用心棒では、「前に出たら危ないでござるぞ!」の声とともに見事その剣の腕前で敵を追い払うことができました。

  • 第一話「はじまり」【さらい屋 五葉】より

    第一話「はじまり」【さらい屋 五葉】より

  • 第一話「はじまり」【さらい屋 五葉】より

    第一話「はじまり」【さらい屋 五葉】より

その仕事の依頼主の正体は盗賊集団でした。秋津政之助は、盗賊集団のリーダーの飄々さに惹かれたことと、家督を譲った弟が作った借金の返済が必要だったことから、盗賊集団と行動を共にしていくことになります。

こうした江戸時代のキャラクターとしての用心棒は、黒澤明が西部劇の要素を取り込んだ【用心棒】で登場させ、さいとう・たかをが【無用ノ介】で描くなどし、広まった創作キャラクターです。

オノ・ナツメの刀剣キャラ② 元剣客の遊び人風情の町人・弥一

秋津政之助に声をかけたのは、遊び人風情の町人・弥一(やいち)です。

普段は深川の女郎宿の居候兼用心棒で、その正体は盗賊集団・五葉のリーダーです。五葉は難癖のある家の者だけを誘拐し、身柄の交換に大金をせしめます。

弥一の他のメンバーは、居酒屋の主人の梅造、岡場所の女郎あがりのおたけ、飾り職人の松吉。そこに協力者として御隠居が加わります。

男性は皆、元盗賊だった過去を持っています。こうした市井の人が裏稼業として闇の集団で働く設定は、池波正太郎【仕掛人・藤枝梅安】原作に始まる「必殺」シリーズなどのテレビ時代劇からの影響が顕著です。

弥一は、秋津政之助以上の過去を背負っていました。

秋津政之助との会話では「俺はふらりふらりと行きたいだけだ。」と言います。けれども五葉以前の若き頃、本名(三枝誠之進)で残虐な盗賊集団・白楽(ばくろ)に属し、下っ端にもかかわらずお頭に気に入られ刀剣・日本刀の所持を認められていました。

その確かな剣の腕前で仲間を斬ることにも躊躇しない性格だったことから、霧中の誠とも呼ばれていました。

オノ・ナツメは、黒を基調とした秋津政之助に対し、霧中の誠とも呼ばれていた弥一(三枝誠之進)を白を基調に描き、2人を対比させます。

  • 第二話「理由」【さらい屋 五葉】より

    第二話「理由」
    【さらい屋 五葉】より

  • 第四十二話「逼迫(七)」【さらい屋 五葉】より

    第四十二話「逼迫(七)」
    【さらい屋 五葉】より

さらに弥一(誠之進)は白楽以前には、子のできなかった旗本夫婦の養子だった過去を持っています。旗本に実子ができたことで捨てられ、白楽にさらわれることになりました。

オノ・ナツメとテレビ時代劇

その後もオノ・ナツメは外国を舞台にした作品(【GENTE~リストランテの人々~】、【COPPERS】など)を中心に描くなかで、活躍の場を広げていきます。

和田竜の第29回城戸賞を受賞した脚本【忍ぶの城】(2003年)を小説化した【のぼうの城】のカバー装画を担当(2007年)。続く和田竜の【小太郎の左腕】のカバー装画も手がけました(2009年)。

そして、オノ・ナツメは再び時代劇も発表します。【つらつらわらじ 備前熊田家参勤絵巻】(2009~2013年〔モーニング・ツー〕〔月刊モーニングtwo〕連載)です。

江戸時代後期、江戸幕府第11代将軍・徳川家斉の時代、岡山藩の架空の藩主・熊田治隆(くまだはるたか)の参勤交代を描きます。老中・松平定信の命を受けた隠密・倉知九太郎との奇妙な道中劇が繰り広げられます。

熊田治隆のモデルは、松平定信の倹約令(寛政の改革)に逆らった岡山藩池田家第5代藩主・池田治政。倉知九太郎のモデルは、小十人格御庭番・倉地久太郎です。

参勤交代についてはこの時期、浅田次郎が時代小説【一路】(2010~2012年〔中央公論〕連載)を発表。土橋章宏が脚本【超高速!参勤交代】(2011年)で第37回城戸賞を受賞しています。超高速!参勤交代は小説化(2013年)、佐々木蔵之介主演で映画化(2014年)されています。

オノ・ナツメは時代劇について、子供の頃に再放送されていたテレビ時代劇からの大きな影響を明かしています。

【鬼平犯科帳】、「必殺」シリーズ、【剣客商売】の池波正太郎関連作品。【水戸黄門】、【大岡越前】、【大江戸捜査網】、【三匹が斬る!】。他にNHK【人形劇 三国志】も挙げています。

なかでもオノ・ナツメは漫画家となってから時代劇専門チャンネル(1998年開局)で見た【大岡越前】の一挙放送で再び時代劇熱が呼び覚まされたと言います(2014年)。

オノ・ナツメの刀剣キャラ③ 手技の盗賊・弁蔵

そして、時代劇漫画【ふたがしら】(2011~2016年〔月刊IKKI〕〔ヒバナ〕連載)を発表します。さらい屋 五葉に登場する御隠居の若き頃が描かれます。

同作は連載中に掲載誌が廃刊となるも、その後、新創刊雑誌で連載が再開されます。東村アキコが上杉謙信女性説に基づいて描く【雪花の虎(ゆきばなのとら)】と並んで掲載されます。

連載終了の年には、WOWOWのドラマWとしてテレビドラマ化され、松山ケンイチと早乙女太一が主演。脚本は、劇団☆新感線の座付作家・中島かずきが担当しました。

ふたがしらの主人公は、弁蔵(べんぞう)と宗次(そうじ)です。2人は「でっけえことをやらねえと」を合言葉にしています。当初のイメージはヤンキー漫画的な成り上がりものでした。2人は跡目争いから盗賊集団を飛び出し、江戸を離れ、大坂を目指します。

2人はスリと金庫破りの巧みな腕と知恵を持ち、人を殺さないきれいな仕事で知られる関東の盗賊・赤目一味に属しました。

「第一話」【ふたがしら】より

「第一話」【ふたがしら】より

弁蔵の方は手先は器用なものの、盗み先を油断させるためにわざと捕まるなど体を張るタイプです。そんな弁蔵は、かつて百姓仕事が嫌で足軽として士官していた経験を持っています。

「第三話」【ふたがしら】より

「第三話」【ふたがしら】より

オノ・ナツメの刀剣キャラ④ 知略の盗賊・宗次

弁蔵に対して美形の宗次は、その色気で女性をたぶらかすようなタイプです。捕らえられた弁蔵を牢屋から出すため、女中を言葉巧みに誘惑します。

「第一話」【ふたがしら】より

「第一話」【ふたがしら】より

侍の姿をする機会では、足軽出身の弁蔵ではなく、宗次の方が侍です。

ひょんなかたちで関所越えをする際、宗次が模造刀を腰に差した侍に、弁蔵が武士に仕える武家奉公人・中間(ちゅうげん)にそれぞれ身を包むことになります。

「第七話」【ふたがしら】より

「第七話」【ふたがしら】より

さらい屋 五葉に登場する御隠居の若き頃が、この宗次です。

オノ・ナツメの刀剣キャラ⑤ 刃物を武器とする甚三郎

弁蔵と宗次の赤目一味からの離脱は、遺言書が原因でした。頭目は亡くなる直前に弁蔵と宗次の手を取って跡目を託したものの、遺言書には頭目の弟分だった甚三郎(じんざぶろう)が後継ぎと記されていました。

表の顔は髪結いの甚三郎は、刃物を武器に盗賊を働きます。弁蔵と宗次のようなスリと金庫破りの巧みな腕と知恵とは違います。

  • 「第五話」【ふたがしら】より

    「第五話」【ふたがしら】より

  • 「第十話」【ふたがしら】より

    「第十話」【ふたがしら】より

その後のオノ・ナツメの刀剣漫画

ふたがしらの連載中にオノ・ナツメは同人誌として、さらいや 五葉の外伝【萩の野の(はぎのやの)】を発表しています。

秋津政之助が子供たちに剣術を教えていた萩生田道場の主人を主人公に、つらつらわらじ 備前熊田家参勤絵巻の面々も登場します(2012年)。

また、さらい屋 五葉の名脇役を取り上げた【子連れ同心】(2013~2014年〔WEBイキパラCOMIC〕連載)も描くなど、さらいや 五葉の世界に愛着を持ちました。

その後は再び外国をイメージさせる物や現代を舞台にしていきます(【ACCA13区監察課】、【レディ&オールドマン】、【ハヴ・ア・グレイト・サンデー】、【BADON】など)。

オノ・ナツメは、さらいや 五葉では侍であることに悩む秋津政之助と旗本に捨てられた弥一(三枝誠之進)を描き、ふたがしらでは手技と知略の弁蔵と宗次に対して刃物使いの甚三郎を敵としました。

こうしてオノ・ナツメは刀剣・日本刀に象徴される侍の身分への問いかけを描きました。

著者名:三宅顕人

オノ・ナツメ

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