2000年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

奈須きのこ

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「Fate」シリーズで知られる奈須きのこ(なすきのこ)。奈須きのこは刀剣を手にする主要人物を多く書きます。それら登場人物たちは奈須作品のなかで連鎖し、時間を重ねることで魔術を超える神秘性を放っていきます。奈須きのこの書く世界設定では、文明が発達すれば再現できる魔術に対して、魔術では到達できない神秘が魔法とされ、その魔法が目指されます。

奈須きのこの初期刀剣作品(メディアミックス)

奈須きのこは大学生・大学院生時代に、小説【魔法使いの夜】(1996年)、同人Web小説【空(から)の境界 式】(1998年)などを書き、TYPE-MOON名義で同人活動を開始します(1999年)。TYPE-MOON名義初のビジュアルノベルゲーム【月姫】をコミックマーケットで発表し、大きな注目を集めました(2000年)。

このノベルゲームでは、高校生の少年・遠野志貴(とおのしき)が街で起こった無差別殺人事件の真相を探ります。吸血鬼の存在が明らかになるなかで、主人公の少年は自身の不思議な力(直死の魔眼:モノが死に至る状況が線・点の形となって見える)の秘密を知り、子供の頃から持ち続けていたナイフで過去に立ち向かっていきます。

同作は、同人作品にもかかわらず大きな売上を記録し、様々に展開されます(【月姫PLUS-DISC】、【歌月十夜】、同人ゲームサークル・渡辺製作所との【MELTY BLOOD】、【月箱】、渡辺製作所との【MELTY BLOOD Re・ACT】)。ゲーム発売から3年後には漫画化もなされました(佐々木少年作画【真月譚 月姫】2003~2010年〔月刊コミック電撃大王〕連載)。

その後、同人名義TYPE-MOONはノーツとして会社組織化され、奈須きのことTYPE-MOONによる初の商業作品、ビジュアルノベルゲーム【Fate/stay night】を発表します(2004年)。魔術師見習いの少年が、聖杯戦争に巻き込まれる物語です。

同作は2年後にテレビアニメ化と同時に漫画化もされました(2006~2012年〔月刊少年エース〕連載)。原作TYPE-MOON、キャラクターデザイン武内崇のイラストをもとに、西脇だっとが作画を手がけました。

  • 奈須きのこ 「キャラクターデザイン 武内崇」ゲーム版【Fate/stay night】初回版より

    「キャラクターデザイン 武内崇」ゲーム版【Fate/stay night】初回版より

  •  作画 西脇だっと」漫画版【Fate/stay night】1巻より

    「作画 西脇だっと」漫画版
    【Fate/stay night】1巻より

奈須きのこの刀剣キャラ① 愛刀は西洋剣/宝具は約束された勝利の剣(エクスカリバー)・セイバー

Fate/stay nightで描かれる聖杯戦争(第5次)では、マスターと呼ばれる魔術師7名が戦います。マスターは、サーヴァントと呼ばれる神話などに登場する英雄の魂(英霊)に選ばれた7名です。聖杯を最後に手にしたマスターと英霊は共に、あらゆる願いを叶えることができます。

サーヴァントは、セイバー(剣使い)、アーチャー(弓使い)、バーサーカー(狂戦士)、ランサー(槍使い)、ライダー(騎乗兵)、キャスター(魔法使い)、アサシン(暗殺者)達です。主人公で正義の味方を夢見る魔術師見習いの主人公・衛宮士郎(えみやしろう)は、セイバーと運命をともにします。

サーヴァントにはそれぞれ召喚以前の真名(しんめい)があります。真名は知られると攻略方法も判明するため、マスターにのみしか明かされない物語設定です。またサーヴァント達はそれぞれ真名を象徴する得意武器を持ち、戦いにおける奥の手となるその武器は宝具(ほうぐ)と称されます。

宝具の力は、真名開放で発揮されます。

西洋中世物語でよく知られる真名を持つセイバーは、「貴女の宝具に私も宝具で応えましょう!!」、「私はこの一閃で進むべき道を切り開く!」、「ゆくぞッ!!!」、「約束された(エクス)―――」、「勝利の剣(カリバー)!!!」と叫び、その宝具を主人公の前で初めて披露しました。

真名開放以前では、薄く描かれていた剣身にも力が宿ります。

  •  「noble fantazm」【Fate/stay night】より

    「noble fantazm」
    【Fate/stay night】より

  • 「noble fantazm」【Fate/stay night】より

    「noble fantazm」
    【Fate/stay night】より

奈須きのこの刀剣キャラ② アサシン・佐々木小次郎

7名のサーヴァントには、剣使いのセイバー以外にもその真名の特徴を離れ、刀剣を用いる者もいます。弓使いのアーチャーは双刀を、狂戦士のバーサーカーは石の剣を用います。

なかでも暗殺者のアサシンは、佐々木小次郎の姿をしています。そして、吉川英治【宮本武蔵】や村上元三【佐々木小次郎】の時代小説でよく知られることになった秘剣・燕返しを宝具代わりに披露します。

  •  「sword&magic(Ⅱ)」<br>【Fate/stay night】より

    「sword&magic(Ⅱ)」
    【Fate/stay night】より

  • 「sword&magic(Ⅱ)」【Fate/stay night】より

    「sword&magic(Ⅱ)」
    【Fate/stay night】より

その剣技は柳門寺の山門のみで使うことができます。佐々木小次郎のマスターの謎にかかわるその剣技は、次のように解説されました。

「超高速の刃が空間を裂き次元を歪めたのだろう」、「その結果新たな刃がこの世界に像を結んだのだ」、「そしてその虚像は現実にして幻にあらず」、「存在し得ぬものを存在せしめる二重像の幻影」。

「sword&magic(Ⅲ)」【Fate/stay night】より

「sword&magic(Ⅲ)」【Fate/stay night】より

奈須きのこはこうした特徴あるサーヴァントを召喚して戦わせる着想について、山田風太郎【魔界転生】へのオマージュと明言しています。また、アニメ監督・幾原邦彦(【美少女戦士セーラームーン】シリーズ、【少女革命ウテナ】など)からの影響も明かしています。

つながる【月姫】と【空の境界】

奈須きのこの書くノベルゲームは、世界設定がつながっています。

のちに伝奇ビジュアルノベルゲーム化される魔法使いの夜(1996年、2012年ゲーム化)は、世界に5人とされる魔法使いのうちの1人、蒼崎青子(あおざきあおこ)の修業時代が書かれます。

のちに商業出版化される同人小説・空の境界 式(1998年、2004年商業出版化)では、蒼崎青子の姉、魔術師の蒼崎橙子(あおざきとうこ)が登場します。蒼崎橙子は日常生活においては人形師の仕事に従事し、主人公の普通の少年・黒桐幹也(こくとうみきや)の上司となります。奈須きのこの書く世界設定では、魔術師が目指す最終目的が魔法・魔法使いです。魔法は、文明が発達すれば再現できるようになった魔術に対して、魔術では到達できない神秘とされます。

それらの世界観を継承する、TYPE-MOON名義による最初のビジュアルノベルゲームの月姫(2000年)では、主人公の少年・遠野志貴に影響を与える女性として、蒼崎橙子が登場しています。また、不思議な力(直死の魔眼)を有する遠野志貴と同様の力は、空の境界 式のもう1人の主人公、両儀式(りょうぎしき)も有しています。

そして、月姫に続いたビジュアルノベルゲームFate/stay night(2004年)でも、蒼崎橙子の存在がほのめかされています。

奈須きのこの刀剣キャラ③ 日本刀で本領発揮・両儀式

同人Web小説として当初発表された空の境界 式(1998年)は、月姫以上にメディアミックスがなされます(虚淵玄の対談もブックレットに収録したドラマCD、商業出版、劇場用アニメ、同人による新シリーズなど)。

そして、星海社WEBサイトのオープンに伴い、商業出版小説版と同じ表題【空の境界 the Garden of sinners】(2010年~〔最前線〕連載中)として漫画化されました。商業出版小説版での武内崇のイラストをもとに、漫画版では天空すふぃあが作画を手がけました。

  • 「キャラクターデザイン 武内崇」商業出版小説版【空の境界】下巻より

    「キャラクターデザイン 武内崇」
    商業出版小説版【空の境界】下巻より

  •  「作画 天空すふぃあ」漫画版【空の境界】3巻より

    「作画 天空すふぃあ」
    漫画版【空の境界】3巻より

主人公の両儀式は、体は女性でありながら男性人格・両儀識(りょうぎしき)と一体化しています。着物を好み、ナイフを手に敵と戦います。両儀式はカタチのない概念さえも殺してしまう究極の虚無とされ、カラの器として式は「 」とも作中で表記されます。

<矛盾螺旋>編では、蒼崎橙子と同じイギリスの魔術協会で学んだ同窓、荒耶宗蓮(あらやそうれん)が登場します。台密の僧から魔術師となり200年生きている荒耶宗蓮は、真の叡智を求めるべくすべての始まりである「根源」に至ろうと「虚無」の式との一体化を図ります。

両儀式はこの時、日本刀・九字兼定(くじかねさだ)を手に荒耶宗蓮と戦うことになります。

臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前の9文字が記されるこの九字兼定について蒼崎橙子は、「あいにくと私の結界では 五百年クラスの名刀には太刀打ちできない」、「そんなものをここでさらしてみろ」、「下の階のモノが溢れ出すぞ」、「いいか式 歴史を積み重ねた武器はそれだけで魔術に対抗する神秘になるんだ」と魔術を超えるその力を解説しました。

  •  「5/矛盾螺旋」【空の境界】より

    「5/矛盾螺旋」【空の境界】より

  • 「5/矛盾螺旋」【空の境界】より

    「5/矛盾螺旋」【空の境界】より

両儀式のような着物姿に日本刀を手にする女性主人公は、古くは歌舞伎や講談、大正期には女剣劇に遡れ、戦後は女性侠客を主人公にした映画、漫画では小池一夫原作【修羅雪姫】、家庭用ゲームでは広井王子原作【さくら大戦】などに見出せます。

その後の奈須きのこの刀剣作品

その後も奈須きのこは、魔術の登場しない伝奇小説【DDD】(2004年~〔ファウスト〕不定期連載他休載中)や朗読小説【月の珊瑚】(2010年〔坂本真綾の満月朗読館〕発表)を発表するなかで、空の境界、「Fate」シリーズの多彩な展開を行なっていきます。

また近年、TYPE-MOON原作名義の漫画連載【コハエース】シリーズ(2011年~〔コンプティーク〕連載中)のなかで描かれた幾人かの歴史上の人物は、スマートフォン専用ゲーム【Fate/Grand Order】(2015年)のサーヴァントとして登場しました。セイバー(沖田総司)、アーチャー(織田信長)、アサシン(岡田以蔵)、ライダー(坂本龍馬)などが活躍します。同作は、日本ゲーム大賞 2018優秀作品賞などを受賞しました。

奈須きのこは空の境界のなかで、「歴史を積み重ねた武器はそれだけで魔術に対抗する神秘になるんだ」と記しました。刀剣を含む武器を手にする様々なシリーズで活躍する奈須きのこの登場人物は、その誕生から20年を過ぎようとしています。文明が発達すれば再現できるようになる魔術に対して、奈須きのこの登場人物たちはより高度なゲームにはなるものの神秘性を放ち、魔術では到達できない物とされる魔法に近づいています。

著者名:三宅顕人

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