2000年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

たかぎ七彦

文字サイズ

【アンゴルモア 元寇合戦記】で知られるたかぎ七彦(ななひこ)。たかぎ七彦は子供の頃から三国志の世界に夢中になり、大学では史学を専攻し歴史に関心を寄せ続けています。そんなたかぎ七彦の刀剣漫画では、歴史は過去の物ではなく身近な物として取り扱われ、現代の物語として創作されます。

たかぎ七彦と【三国志】ブーム

たかぎ七彦は、小中学生時代に山岡荘八の歴史・時代小説に基づいた横山光輝の【三国志】(1971~1987年)に夢中になり、多大な影響を受けます。

横山光輝の三国志の連載中には、NHK【人形劇 三国志】(1982~1984年)や歴史シミュレーションゲーム【三國志】(第1作1985年)も制作されるほど広がりを見せました。たかぎ七彦も人形劇とゲームにも親しんだと言います。

その人気ぶりはこの時期、本宮ひろ志も三国志に基づく【天地を喰らう】(1983~1984年)や三国志の時代から400年前の中国を舞台にした【赤龍王】(1986~1987年)を描いたことからもうかがい知れます。

高校生の頃にたかぎ七彦は、絵巻「蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)」に興味を持ちます。そして大学では史学科に属し、西洋古代史(メソポタミア史)を専攻しました。

発掘調査のアルバイトをするなか、大学在学中に応募した読み切り【岡っ引き 平次郎 捕物帖】が小学館新人コミック大賞に入選します。岡っ引きとは、町奉行に属する下級役人・同心の私的な配下の町人・目明しの俗称です。「岡」は「かたわら」を意味し、町人ながらも時に十手を使える存在です。

この入選を機にたかぎ七彦は、漫画家の道を選びます。修行時代には、橋口たかし(【焼きたて!!ジャぱん】など)と武村勇治(【マーベラス】など)のアシスタントを務め、遺跡発掘を描いた漫画を含む読み切りを多数発表します(【赤い街】、【平安陰陽寮】、【世界で一つだけの竜宮城】、【最古の遺書】など)。

このアシスタント時代には、三国志の舞台になった中国の雲南省に旅行しています。

たかぎ七彦の刀剣キャラ① 侍に立ち向かう岡っ引き・平次郎

そして、初の連載【なまずランプ 幕末*都市伝説】(2008~2010年〔モーニング〕連載)を発表します。

舞台は江戸時代後期、1859年(安政6年)です。徳川家茂が江戸幕府第14代将軍に就任した翌年にあたります。当時の描写には、江戸時代後期に描かれた風俗書物【守貞謾稿(もりさだまんこう)】がもとにされ、当時のリアリティがもたらされました。

単行本化にあたって帯文には、師匠の橋口たかしの他にかわぐちかいじ(【沈黙の艦隊】【ジパング】など)が推薦文を寄せています。

主人公は町人・平次郎(ひらじろう)です。平次郎は、第1部「天の部」では人殺しの罪を着せられ、罪人となります。けれども獄中で偶然聞いた江戸城の御金蔵(おかねぐら)で密かに起こっていた金庫泥棒の件を知ったことで死罪を免れるチャンスが生じます。

安政2年には実際に浪人と住所不定者の2人組による江戸城の御金蔵破りが起こっており、その参照をうかがわせます。そして平次郎は、身代りに人質となった妹の命と引き換えに3日間限定で犯人を捜すことになります。

岡っ引きとして同心から十手を手渡された平次郎は、手がかりを知る侍に立ち向かう際、十手を握り締めます。そして「侍を相手に何をどこまでやれるかわからねぇが」、「取られたものをこの手で取り返すんだ!!」と決意します。

天の巻「第八歩 名案」【なまずランプ 幕末*都市伝説】より

天の巻「第八歩 名案」
【なまずランプ 幕末*都市伝説】より

たかぎ七彦の刀剣キャラ② 軍艦操練所教授方頭取・勝麟太郎

第2部「地の部」では、黒船来航(1853、1854年)と安政の大地震(1854~1855年)の史実を背景に描かれます。

地震を予知することができると謳う組織・なまづ講が人々の心を捉えていく江戸で、岡っ引きの平次郎もなまづ講に参加します。

怪しい動きのあるなまづ講には、安政6年に初代の軍艦操練所教授方頭取に就任した勝麟太郎(号・海舟)の取り組みが関係していました。

平次郎は謎を探るなかで、ある武家屋敷に侵入します。

そこは勝麟太郎邸で、その庭に勝が引き取った不良品の大砲がありました。たかぎ七彦は侠客ともつき合いがあった勝麟太郎の幕臣らしからぬ人懐っこいキャラクターをこうして表現しました。

  • 地の巻「第十講 瓦解」【なまずランプ 幕末*都市伝説】より

    地の巻「第十講 瓦解」
    【なまずランプ 幕末*都市伝説】より

  • 地の巻「第十一講 真意」【なまずランプ 幕末*都市伝説】より

    地の巻「第十一講 真意」
    【なまずランプ 幕末*都市伝説】より

勝麟太郎(海舟)のイメージは、第12作目のNHK大河ドラマ(1974年)の原作にもなった子母澤寛の長編歴史・時代小説【勝海舟】によって広まっています。

岡っ引き漫画の系譜

なまずランプ 幕末*都市伝説は、捕物帳物の系譜です。

岡本綺堂がアーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズから着想した時代小説【半七捕物帳】に始まるこのジャンルは、佐々木味津三【右門捕物帖】、野村胡堂【銭形平次捕物控】、横溝正史【人形佐七捕物帳】、城昌幸【若さま侍捕物手帖】などの時代小説の登場によって戦前に確立されます。

これらは戦後になり、テレビ時代劇化され、さらに広がりをみせていきます。学生運動華やかなりし頃には捕物帳物は悪漢小説とも結びつき、柴田錬三郎【柴錬捕物帖 岡っ引どぶ】や池波正太郎【鬼平犯科帳】なども書かれました。

こうした時期に漫画では戦後、石ノ森章太郎【縄と石捕物控】【佐武と市捕物控】、永井豪【目明しポリ吉】、ジョージ秋山【ぼんくら同心】【岡っ引ひぐらし】【暮れ六つ同心】などが描かれていきます。

これらの漫画では主に岡っ引きが活躍します。

江戸時代の警察的な役割を担う町奉行や、町奉行と同様の役割を放火犯や盗賊・賭博に特化して担う火付盗賊改方は、与力を配下とします。その与力は下級役人・同心を配下とします。同心は私的に助手として岡っ引き(御用聞き、目明しの俗称)を使いました。

町人でありながらも捕物にも携わる岡っ引きは、自由に描きやすい創作に向いた存在です。

なまずランプ 幕末*都市伝説もこうした時代小説や漫画の系譜にあります。

たかぎ七彦の刀剣キャラ③ 義経流の継承者・朽井迅三郎

なまずランプ 幕末*都市伝説は、第3部「人の部」が掲載誌の都合でお蔵入りになります。それをきっかけに幕末を封印したたかぎ七彦は、【アンゴルモア 元寇合戦記】(2013年〔サムライエース〕連載、2014年~〔ComicWalker〕連載中)を描きます。

誰も描いていないジャンルをとの思いから元寇を選んだと述べています。蒙古襲来絵詞の漫画化を経て描いた仮案を、歴史に特化した雑誌に持ち込んだことで掲載へと至りました。当初は【元寇7DAYS】と題されています。

同作では、鎌倉時代に石清水八幡宮の僧によって記されたとされる寺社縁起【八幡愚童訓(はちまんぐどうくん)】をもとに、2回起こった元寇(蒙古襲来)のうち、1度目の文永の役(1274年)が取り上げられます。

主人公は、鎌倉幕府の御家人(*武士の敬称)・朽井迅三郎(くちいじんさぶろう)です。八幡愚童訓に戦死者として記されていた流人・口井藤三の名から創作されました。

朽井迅三郎は、北条一族の内紛(二月騒動)によって罪人として対馬へ送られます。蒙古の襲来を機に集権化が図られ、北条時宗が鎌倉幕府第8代執権に就任にあたって起きた反対派への粛清の史実をもとに、たかぎ七彦は罪人たちが元寇との戦いのために対馬へ流刑されたとしました。

予期せぬ運命となった朽井迅三郎は、物語のテーマのひとつ「一所懸命(いっしょけんめい)」に生き抜こうとします。

そんな朽井迅三郎は、源義経の系譜とされる義経流(ぎけいりゅう)という剣技を用います。わずかな記述をもとにふくらませた義経流についてたかぎ七彦は、のちの陰流へ通じていくとします。そして、「戦場の刀術に鍔ぜり合いはない」、「ただひたすらに振る」、「太刀は棒の如く使うのである」と記しました。

  • 第二話【アンゴルモア 元寇合戦記】より

    第二話
    【アンゴルモア 元寇合戦記】より

  • 第二話【アンゴルモア 元寇合戦記】より

    第二話
    【アンゴルモア 元寇合戦記】より

たかぎ七彦の刀剣キャラ④ 三条小鍛冶宗近の持ち主・安徳天皇

アンゴルモア 元寇合戦記では、壇ノ浦の戦いで源義経ら源氏方に追い込まれて数え8歳で海に身を投げた安徳天皇が生きていたとされます。たかぎ七彦は西日本を中心に今も残る歴史ロマンを採用しました。

対馬で元寇と戦う朽井迅三郎の前に現れた安徳天皇は、迅三郎が腰に差していた腰刀を、三条小鍛冶宗近(さんじょうこかじむねちか)の今剣(いまつるぎ)と見抜きます。今剣については中世に記された軍記物語【義経記(ぎけいき)】に、源義経の自刃した物として記されています。

たかぎ七彦はこの今剣を安徳天皇の守り刀だったとし、壇ノ浦の戦い時に源義経に手渡したとしました。

  •  第十六話【アンゴルモア 元寇合戦記】より

     第十六話
    【アンゴルモア 元寇合戦記】より

  •  第十六話【アンゴルモア 元寇合戦記】より

    第十六話
    【アンゴルモア 元寇合戦記】より

さらに安徳天皇は、輝日姫(てるひひめ)の曽祖父としました。創作された輝日姫は、朽井迅三郎と対馬で行動を共にする弓を得意とするヒロインで、八幡愚童訓に記される対馬の地頭代・宗助国(そうすけくに)に育てられたともします。

たかぎ七彦の刀剣キャラ⑤ 愛刀は直刀・長嶺判官

対馬内では、大宰府(大和朝廷の出先機関)と宗助国に長年したがわなかった長嶺判官(ながみねはんがん)が活躍します。

対馬への侵攻(刀伊の入寇)に立ち向かった対馬国判官・長嶺諸近(ながみねもろちか)に基づき、創作されました。

長嶺判官は、九州の守備兵・防人の末裔で、刀伊祓(といばらい)という一族を率い、対馬に今も遺構が残る金田城(かなたのき)を拠点としたと、たかぎ七彦はします。そしてやがて朽井迅三郎の仲間となります。

長嶺判官は、剣を得意とします。たかぎ七彦はその刀剣を朽井迅三郎が手にした湾刀に対して、直刀として描きました。直刀は平安時代以前が主流で、湾刀の登場以降廃れます。

第二十三話【アンゴルモア 元寇合戦記】より

第二十三話
【アンゴルモア 元寇合戦記】より

たかぎ七彦の刀剣キャラ⑥ 愛刀は中国刀・謎の両蔵

蒙古軍は、蒙古人、高麗人、女真人、漢人などの複合軍でした。アンゴルモア 元寇合戦記では、一枚岩ではない蒙古人と高麗人とのいがみ合いも描かれます。

蒙古軍のなかに、倭人との子・両蔵(りょうぞう)が創作されます。謎の覆面男として登場し、義経流を知る謎の剣客です。たかぎ七彦はその刀剣を中国の湾刀・呉鉤(ごこう)に近い物として描きました。

  •  第二十八話【アンゴルモア 元寇合戦記】より

     第二十八話
    【アンゴルモア 元寇合戦記】より

  •  第二十八話【アンゴルモア 元寇合戦記】より

    第二十八話
    【アンゴルモア 元寇合戦記】より

その後のたかぎ七彦の刀剣漫画

アンゴルモア 元寇合戦記は単行本化の際、幸村誠(【ヴィンランド・サガ】など)、安彦良和(【ナムジ】、【神武】、【機動戦士ガンダム THE ORIGIN】、【ヤマトタケル】など)、冲方丁(【天地明察】、【光圀伝】など)が推薦帯文を寄せました(2015年)。

単行本化が始まったこの時期以降、たかぎ七彦の活動は広がりを見せます。

馬が登場する歴史漫画を取り上げた展覧会『歴史コミックと馬』(馬の博物館)では、小島剛夕、横山光輝、さいとう・たかを平田弘史らとともにその絵が展示されます(2015年)。「このマンガがすごい! 2016<オトコ編>」では14位となり(2016年)、小説化とアニメ化のメディアミックスがなされました(2018年)。

この間、太平洋戦争末期の夜間戦闘機・月光によるB-29への迎撃を描いた読み切り【スクランブル】(2015年〔ヤングマガジン〕掲載)やエッセイ漫画の読み切り【戦争遺跡探訪記】(2015年〔漫画で読む「戦争という時代」掲載〕)も発表しました。

そして、幕府の命を受けて試し斬り(公儀御様御用:こうぎおためしごよう)を代々行なう山田浅右衛門を描いた読み切りの超短編のギャグ漫画【あさえもん】(2016年〔ヤングアニマル〕掲載)も描きます。

歴史・時代小説では綱淵謙錠(つなぶちけんじょう)の第67回直木三十五賞受賞作【斬】で、その後に漫画では小池一夫が【首斬り朝】として取り上げ、近年では高瀬理恵が【首斬り門人帳】で取り上げた系譜です。

他にも第6回『武者絵』展へ出品(2017年)、角川まんが学習シリーズ「まんが人物伝」の豊臣秀吉の表紙絵(2017年)などを発表しています。

たかぎ七彦は、「鎌倉時代の土器とかも、地面を掘るとたった50cm下から出てきたりする。その考古学的な部分で感じる歴史と現代の近さと言うか、リアリティを意識して描いています。」とインタビューで語ります。歴史をあくまで現代の感覚から身近な存在として見出すこと。それがたかぎ七彦の刀剣世界です。

たかぎ七彦は現在、アンゴルモア 元寇合戦記の<博多編>を描いています(2019年~〔ComicWalker〕連載中)。

著者名:三宅顕人

たかぎ七彦

たかぎ七彦をSNSでシェアする

「2000年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者」の記事を読む


中丸洋介

中丸洋介
【我間乱〜GAMARAN〜】で知られる中丸洋介(なかまるようすけ)。同シリーズでは定番の歴史・時代小説の要素が巧みに取り入れられています。少年主人公の物語から女性も登場する物語へと変化するも、変わらず「強さ」が目指されます。

中丸洋介

崗田屋愉一

崗田屋愉一
【ひらひら国芳一門浮世譚】など江戸時代を舞台にした作風で知られる崗田屋愉一(おかだやゆいち)。崗田屋愉一は同人活動時代から歴史・時代小説に基づく刀剣漫画を描いています。BL(ボーイズラブ)に集中的に取り組んだのちには、歴史・時代小説の古典の漫画化も託されています。

崗田屋愉一

唐々煙

唐々煙
【曇天に笑う】シリーズで知られる唐々煙(からからけむり)。滋賀県で育ち、大阪の劇団・劇団☆新感線の時代劇のコミカライズでデビューしました。以来、主に関西にゆかりある刀剣漫画を描いています。そんな唐々煙の刀剣漫画では刀剣は、時代を超えて異形の力を抑える物としてあります。

唐々煙

オノ・ナツメ

オノ・ナツメ
【ACCA13区監察課】、【リストランテ・パラディーゾ】などで知られるオノ・ナツメ。外国を舞台にライトなタッチによる独自の画風が特徴のオノは、時代劇も描いています。オノは子供の頃にテレビ時代劇に夢中になりました。そんなオノの刀剣漫画では、日本刀に象徴される侍の身分への問いかけが描かれます。

オノ・ナツメ

宮下英樹

宮下英樹
「センゴク」シリーズを描き続ける宮下英樹(みやしたひでき)。戦国時代を描き15年以上に及ぶシリーズ連載では、宮下英樹の実感に基づく疑問の解消や世の中が動いていく仕組みにこだわって描かれています。そんな宮下英樹の刀剣漫画では、武器としての日本刀に象徴されるような戦国武将像とはまったく違った視点で描かれています。

宮下英樹

虚淵玄

虚淵玄
テレビアニメ【魔法少女まどか☆マギカ】の脚本で知られる虚淵玄(うろぶちげん)。ゲームの世界からそのキャリアを始めた虚淵玄の作品は、漫画化もなされています。そんな虚淵玄の刀剣漫画では、自身を覚醒させると同時に自身を戒めるものとして刀剣が描かれます。

虚淵玄

奈須きのこ

奈須きのこ
「Fate」シリーズで知られる奈須きのこ(なすきのこ)。奈須きのこは刀剣を手にする主要人物を多く書きます。それら登場人物たちは奈須作品のなかで連鎖し、時間を重ねることで魔術を超える神秘性を放っていきます。奈須きのこの書く世界設定では、文明が発達すれば再現できる魔術に対して、魔術では到達できない神秘が魔法とされ、その魔法が目指されます。

奈須きのこ

注目ワード
注目ワード