2000年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

虚淵玄

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テレビアニメ【魔法少女まどか☆マギカ】の脚本で知られる虚淵玄(うろぶちげん)。ゲームの世界からそのキャリアを始めた虚淵玄の作品は、漫画化もなされています。そんな虚淵玄の刀剣漫画では、自身を覚醒させると同時に自身を戒めるものとして刀剣が描かれます。

虚淵玄とメディアミックス(ゲーム・漫画・アニメ・小説)

虚淵玄は、推理小説家の祖父、俳優・劇作家の父の元で育ち、子供の頃から小説家を夢見ます。大学生時代には、年齢制限のある青年向けパソコンゲームで当時興隆していたノベルゲームに感銘を受けます。ノベルゲームとは、グラフィック以上に文字が主体のジャンルです。

大学卒業後は、パソコン用ゲームソフト会社に就職。アドベンチャーゲーム(ADV)【Phantom PHANTOM OF INFERNO】(2000年、ニトロプラス)の開発に参画し、企画・シナリオ・監督の3役でデビューします。所属会社の意向を受けたガンアクション満載の作品でした。

暗殺者となった少年を主人公とするこのハードボイルドノベルゲームは、所属会社の第1作目でもありました。同ゲームは発表5年目にオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)化(2004年)、発表10年目の年には【Phantom Requiem for the Phantom】として漫画化・テレビアニメ化がなされました(2009年)。

続いて虚淵玄は、所属会社2作目のノベルゲームともなったバイオレンスアクションアドベンチャーゲーム(ADV)【吸血殲鬼(きゅうけつせんき)ヴェドゴニア】(2001年、ニトロプラス)の企画・監督・脚本を担当します。

同作でもメディアミックスが行なわれ、ゲーム発売と同時に漫画化されます(2001~2002年〔月刊コミックドラゴン〕連載)。イラストレーターの中央東口(ちゅうおうひがしぐち:ニトロプラス*当時)による同ゲームのキャラクターデザインをもとに、作画を坂田徹也が手がけました。

4名の女性との物語・4つのゴールが用意されたゲーム版は、漫画版ではひとつの物語に統合。連載が進むにつれてオリジナルキャラクターも登場するなど、ゲーム版とは違う独自の物語が展開されました。

  • 「キャラクターデザイン 中央東口」ゲーム版【吸血殲鬼ヴェドゴニア】ソフ倫版より

    「キャラクターデザイン 中央東口」ゲーム版
    【吸血殲鬼ヴェドゴニア】ソフ倫版より

  • 「作画 坂田徹也」漫画版【吸血殲鬼ヴェドゴニア】1巻より

    「作画 坂田徹也」漫画版
    【吸血殲鬼ヴェドゴニア】1巻より

また、漫画版全2巻発売の翌年には、元ゲームクリエイター種子島貴(たねがしまたかし)による小説版も出版されました(2003年)。

虚淵玄の刀剣キャラ① ナイフによる自刃行為で変身・ヴェドゴニア

吸血殲鬼ヴェドゴニアの主人公は、高校生の少年・伊藤惣太(いとうそうた)です。

伊藤惣太は、不思議な美しい女性(リァノーン)に噛まれたことで吸血鬼となってしまいます。けれども自身の血を吸った吸血鬼を滅ぼすことで人間に戻れると知り、吸血鬼ハンターと共闘していくことになります。敵は、不老不死の吸血鬼の力を悪用しようとする秘密結社イノヴェルチです。

伊藤惣太は吸血鬼のなかでも、生まれ持っての半人半吸血鬼(ダンピール)に対し、死後に吸血鬼化する半吸血鬼=ヴェドゴニアです。吸血鬼に血を吸われた際、吸血鬼ハンターに助けられ一命を取り留めたことでヴェドゴニアとなりました。こうして半吸血鬼として血を欲することになるも、人間に危害を加えないようイノヴェルチが開発した人工吸血鬼を倒すことで血を求めていくことになります。

そんな伊藤惣太は、生命に危機が及ぶ3分の1の血液を失うと覚醒し、ヴェドゴニアに変身可能です。そこで敵に立ち向かう際、自身の命を削るのと引き換えにヴェドゴニアの力を得るべく、ナイフで自ら体を傷付け変身します。

  • 「第六章」【吸血殲鬼ヴェドゴニア】より

    「第六章」【吸血殲鬼ヴェドゴニア】より

  • 「第六章」【吸血殲鬼ヴェドゴニア】より

    「第六章」【吸血殲鬼ヴェドゴニア】より

同作について虚淵玄は、石ノ森章太郎原作「仮面ライダー」シリーズの影響を明かしています。

同族争いの他に、伊藤惣太はヴェドゴニアへの変身によって生身の体が破壊されないよう、吸血鬼ハンターが開発した身体拘束着で過ごします。愛車のスズキのKATANAで鍛えた腕前で、ヴェドゴニアとなって改造バイク(デスモドゥス)にも乗ります。

また、格闘経験のない伊藤惣太は、吸血鬼ハンターから借り受けた様々な武器をもちいる不完全なヒーローでもあります。なかでも独自の銃剣付ハンドガン、レイジングブル・マキシカスタムを多用します。

虚淵玄の刀剣キャラ② 愛刀は二又の大剣・苦悩する騎士ギーラッハ

秘密結社イノヴェルチは、ゲーム版ではヴァンパイア三銃士と呼ばれる3人の吸血鬼が中心です。騎士ギーラッハ(吸血鬼年齢600歳)、薬師ウォルフガング・フォン・ナハツェーラー(吸血鬼年齢300歳)、ロックスターのジグムント・ウピエル(吸血鬼年齢30歳)です。

漫画版では原作者名義を遠慮したと虚淵玄が記すほど三銃士に変更がなされ、ナハツェーラーを筆頭にその下にギーラッハ、さらにその下にヴァンパイア三銃士が独自に設定されました(ウピエル、グランドー、コルデワ)。

なかでもギーラッハは、鎧を身にまとい、騎士道精神を有します。定番の美しい姫を護り仕える騎士像です。そんなギーラッハは自身の過ちに苦悩しながら、姫(リァノーン:吸血鬼年齢2,000歳のロードヴァンパイア)を守るため二又の大剣を手にヴェドゴニアと対立することになります。

  • 「第十二章」【吸血殲鬼ヴェドゴニア】より

    「第十二章」
    【吸血殲鬼ヴェドゴニア】より

  • 「第十二章」【吸血殲鬼ヴェドゴニア】より

    「第十二章」
    【吸血殲鬼ヴェドゴニア】より

鎧武者をモチーフにした「仮面ライダー」シリーズに参加

その後、虚淵玄は所属会社のパソコンゲームのシナリオ(【鬼哭街 The Cyber Slayer】、【沙耶の唄】、【続・殺戮のジャンゴ 地獄の賞金首】)を手がけながら、活動の場を広げていきます。自社出版小説【白貌の伝道師】(2004年)を経て、奈須きのこがシナリオを手がけた人気メディアミックスシリーズ「Fate」の同人小説【Fate/Zero】(2006~2007年)も執筆しました。

テレビアニメでは、変身主人公が独自の刀剣を武器とするメディアミックス作【ブラスレイター】(2008年)のシリーズ構成を経て、岩上敦宏(アニプレックス)の依頼でアニメ監督・新房昭之(【ネギま!?】、【ひだまりスケッチ】、【化物語】など)との【魔法少女まどか☆マギカ】(2011年)のシリーズ構成・脚本や、メディアミックス化された【PSYCHO-PASS サイコパス】(2012年)のメインライターを務めました。

そして、第15回文化庁メディア芸術祭・アニメーション部門大賞を受賞した魔法少女まどか☆マギカの高い評価によって、当時シリーズ最新作の【仮面ライダー鎧武/ガイム】(2013~2014年)の脚本を依頼されます。鎧武者の仮面ライダーというコンセプトを受け、特撮テレビドラマを執筆しました。

台湾テレビ人形劇とのメディアミックス

その後も多くのテレビアニメ(【翠星のガルガンティア】など)や、アニメ映画(【楽園追放 Expelled from Paradise】など)のシリーズ構成や脚本を手がけます。

そして虚淵玄は、テレビ人形劇【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀(とうりけんゆうき)】の原案・脚本・総監修をします。

台湾に仕事で訪れた際、台湾のテレビ人形劇・霹靂布袋劇(ピリプータイシー)に魅せられ、日台合同で映像制作へ至りました。同作では、無双の力を持つ武器群のなかの魔剣・天刑劍(てんぎょうけん)の争奪が描かれます。古くは林不忘の時代小説【丹下左膳】などに遡れる名剣争奪の物語です。

Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀もメディアミックスがなされます。テレビ人形劇の<天刑劍>編と言えるシーズン1放送と同時期に、佐久間結衣の作画による漫画版の連載も始まりました(2016~2017年〔モーニング〕連載)。

  • 「キャラクターデザイン 三杜シノヴ(ニトロプラス)」Blu-ray【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀2】1より

    「キャラクターデザイン
    三杜シノヴ(ニトロプラス)」
    Blu-ray【Thunderbolt Fantasy
    東離劍遊紀2】1より

  • 「キャラクターデザイン 源覚(ニトロプラス)」 Blu-ray【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】2より

    「キャラクターデザイン
    源覚(ニトロプラス)」
    Blu-ray【Thunderbolt Fantasy
    東離劍遊紀】2より

  • 「作画 佐久間結衣」漫画版【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】1巻より

    「作画 佐久間結衣」
    漫画版【Thunderbolt Fantasy
    東離劍遊紀】1巻より

  • 「作画 佐久間結衣」漫画版【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】3巻より

    「作画 佐久間結衣」
    漫画版【Thunderbolt Fantasy
    東離劍遊紀】3巻より

全4巻の漫画版最終巻発売の年には、外伝を描いた小説版も出版されました(2017年)。

虚淵玄の刀剣キャラ③ 愛刀は煙管・凜雪鴉

Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀の主人公は、謎の遊び人風情の凜雪鴉(リンセツア)と謎の旅人の殤不患(ショウフカン)の2人です。

凜雪鴉はある日、天刑劍を含む武器群・神誨魔械(しんかいまかい)の守護者、護印師(ごいんし)・丹翡(タンヒ)が襲われる場面に出くわします。以後、ヒロインの丹翡と行動をともにしていく凜雪鴉は、普段は長い煙管を手に口八丁の行動を取ります。けれども「なぜ その腕前を持っていながら」、「貴様は盗賊に身をやつす…!?」と言われるほどの剣術の腕前を隠しています。

その理由は物語の後半、煙管を術で刀剣に変化させたときに明かされます。

  • 「第30話」【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】より

    「第30話」
    【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】より

  • 「第30話」【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】より

    「第30話」
    【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】より

それまでの口八丁とは打って変わって真剣勝負の場となったとき、「これでも真面目に剣を極めようと思った日もあったが」、「剣には飽きたからだよ」、「剣の道が辿り着くのは山の頂きではなく 無辺の海原のようなもの」、「極めるほどに果てが見えなくなる ついに嫌気がさして 気付いたのだ」、「我が魂の愉悦は偽りと欺きの中にあるとね」と凜雪鴉の胸の内が記されました。

虚淵玄の刀剣キャラ④ 愛刀は刃なし・殤不患

丹翡のことは凜雪鴉と共に殤不患(ショウフカン)が手助けします。

殤不患はある程度の剣の強さを誇るものの、「奴が亡者どもにつけた刀傷明らかに鋭さが足りぬ」、「勁力(けいりょく)の達人ではあるが一流ではない」、「なんのつもりか剣士を装っている」と仲間からは揶揄されます。けれどもその理由は物語の後半、明かされます。

「刃たり得るのは鋼だけ」、「とでも思っていたか?」、「十分に練った気を込めればな」、「刃なんてものは必要ねぇのさ」とその気功術が明らかになります。

そして、「どこまで技を極めようとな」、「剣を振るうのが軽々しくなっちゃいけねぇよ」、「ま 常に自分を戒めるのも面倒だしな」、「いっそ刃のついた剣なんて持たねぇ方がいいだろ」と殤不患の考えが語られました。

  • 「第29話」
【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】より

    「第29話」
    【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】より

  • 「第29話」【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】より

    「第29話」
    【Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀】より

虚淵玄の刀剣漫画に見る刀剣観

虚淵玄は近年では、仮面ライダーシリーズよりもさらに長く愛されている人気作品にもかかわります。映画「ゴジラ」シリーズの最新作となる長編アニメ映画の原案・シリーズ構成も手がけています(2017~2018年)。

テレビアニメ、アニメ映画の成果で高い評価を受ける虚淵玄。その刀剣漫画では、刀剣は力を誇示するものではなく、自身を覚醒させると同時に自身を戒めるものとしてあります。

著者名:三宅顕人

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